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夢オチだったとしても……  作者: いたあめ(しろ)


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5/12

閑話~入学式の裏側で~

 ――同時刻――

「円葉先ぱーい。見てくださーい。これ、昨日、先輩の家の近くで起きた事件の資料でーす。先輩、ミステリー大好きですよねー?」

 満遍なく敷かれたマットの上に寝転がりながら、気の抜けた甘ったるい声で、横に細長いフレームの眼鏡をかけた女性は尋ねてきた。



 やはり、持ってきてくれたか。ななみ。だが、何故、部活発表前の薄暗いステージ脇で渡す? タイミングはいつでもあっただろうに。

 次が、僕たち科学部の発表なのに。

 ななみ、もうちょっとTPOをわきまえろよな。多分、今まで、渡すの忘れていたとかそういうことだと思うが。

 とりあえず、資料の入った封筒を受け取る。

 お、重い。これを家まで運んだら、間違いなく筋肉痛だ。



「僕、紙の資料、重いから嫌いだって、何度も言ってるよね? 電子化してROMに焼いてくるとか。なんとかしてきてよー。ななみー」


 わざと聞こえるように、大きなため息をつきながら、端の方にあった跳び箱の上に資料を放置。

「ななみー、円葉先輩がー、紙の資料を嫌うのは知っていましたよー。だけどー、情報は速さも命じゃないですかー? 今朝の調べで判明した、新鮮そのものの情報をフレッシュなままー、お届けしたかったんですー」

 まあ、ななみの言うことも一理ある。


 自主的に情報を提供してくれただけでも、良しとするか。

 ありがとうとは、口が裂けても言わないが、まあ、感謝だな。

「ななみ、そんなことより、例のものは持ってきた?」

「例のものですかー?」

 ななみは、マットから立ち上がり、思い出すように、例のもの、例のものと呟き、二つおさげを束ねているシュシュを両手で弄びながら考える。

「あー、はいー。ななみは、先輩の言った通りのものを持ってきましたー」

 ななみは、へにゃっと敬礼。

「よし。それを僕に渡すんだ」

 軍隊の隊長風に言ってみる。

「はい。先輩のー、退部届け」


 ……

「誰がそんなものを持ってこいといった?」

 僕より、身長と胸が十五センチも大きいからって、図に乗っているのか?

「だってー、先輩がー、退部届け作れってー、言ってたじゃないですかー? 筆跡鑑定士まで呼んでー作ってもらったんですよー?」

 筆跡鑑定士の仕事は筆跡を真似ることを生業にしていないと、執事やメイドは、ななみに教えなかったのだろうか? あいかわらず、会話のない家庭だな。

「僕の退部届けじゃなくて、ななみの退部届けが僕は欲しかったの」

 ため息をつきつつ、ななみにも理解できるように説明。

 すると、ワンテンポ遅れて、



「えー、ななみのですかー? また、筆跡鑑定士さんを呼ばないといけませんねー」

 と返してくる。つっこむところは、そこじゃないだろ。

「あー、でもー、ななみの退部届けなんだからー、ななみが自分で書けば、筆跡鑑定士さんはー、必要ないですー」

 と口にしてから、

「待ってくださーい。ななみー、まだ、部活を止める気はないのですがー」

 泣顔になる。

 そこだよ。つっこむべきところは。

 まあ、ななみの天然ボケぶりは今に始まったことじゃないからな。

「科学部を辞めちゃったらー、ななみー、どこにも居場所がなくなっちゃいますー」

「冗談だよ。冗談」

 ぽろぽろとこぼれ落ちるななみの涙を、ハンカチで拭いてやりながら答える。

「悪い冗談はやめてくださーい。演劇部に居た時には、変な脚本を書いたせいでー、本当に辞めさせられたんですから」

「だから、悪かったって。僕のお家で、近いうちに、美味しいケーキでも食べさせてやるから」

 まあ、僕が作るのではなく、千里がつくるんだが……



「本当ですかー? 先輩の家でー?」

「おそらくね。誘うのは僕ではないと思うが……」

「? ……先輩は時々何を言っているのかわからないですー」

「こっちの話だよ。ほら、ネクタイまがっているぞ」

 ななみの青ネクタイを、直したふりして、会話を仕切りなおす。

「それでは、これより、ブリーフィングを行う。心して聞くように……」

 僕とななみしかいない室内で、何十人もいるかのように振る舞う自分が少し情けなく思えた。


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