平穏な入学式
へとへとになって玄関に着いた私は、適当にローファーを脱ぎ捨てた。足が、カイロのように熱く、ずきずきと痛む。
マドを怒る気も失せるほど、心も体も疲弊し、何もやる気がおきない。とりあえず茶の間へと向かう。
茶の間では、制服に着替えたちさ姉とマドが大人の番組、ニュースを視ていた。
「プリントのことは、後で円葉姉様にきつく言っておきます。とりあえず、ニュースを観てください」
ちさ姉は視線をテレビに固定したまま、声だけ私に向けた。その胸元には、きっちりと結ばれた青ネクタイ。
言われるがままに、テレビの字幕を追う。
変質者の仕業か? 男性(32)が風呂場で刺され、意識不明の重体。その息子もショックで記憶喪失に。
「被害者は、伊賀谷市、会社員の三十二歳の奏太司さんです。被害者は4月6日の午後四時頃、入浴中に――」
伊賀谷市って、私たちの住んでるところじゃん。
近所で傷害事件がおこるなんて思わなかった。こんな田舎がテレビの脚光を浴びるなんて……
字幕にある変質者の三文字を見直した刹那、背中がぞくっとした。
「そういえば、ちさ姉、ついさっき、すぐそこのT字路で怪しい人を見かけたよっ」
思考より先に叫んでいた。
「それは、本当ですか?」
「うんっ。花粉症の人かな? って思ったけど、この事件を聞くと、怪しく思えてきたっ」
「服装だけで人を疑うことはよくありません。しかし、実際にご近所で事件は起きています。警戒するにこしたことはないでしょう」
「大丈夫。ちさ姉、私が絶対守るからっ」
「美穂は守られる方だろ」
千里のほうが強いのだからとマドのツッコミ。
話題のちさ姉は、少しでも情報を入手しようとテレビに集中し始めていた。
「それにしても、入浴中に包丁で刺されるとは奇妙な事件だな」
「そうですね。どういう状況だったのでしょうか?」
ニュースの内容が不審な点が多かったらしく、二人とも首を傾げている。
「ニュースもいいけど、ちさ姉、そろそろ登校する時間じゃない?」
テレビの右上には、九時四十分の表示。
「そうですね。美穂さん、ありがとうございます。姉様、参りましょう」
ちさ姉と、マドは、玄関の方に向かっていく。
「美穂さん、変質者のこともあります。鍵だけは忘れずにかけてください。わたくしも念のために、『細雪』を携行します」
ちさ姉、それって、銃刀法違反じゃ……
いやいや、うら若き乙女が、襲われるかもしれないんだ。そんな生半可なことは言ってられないなっ。
正当防衛っていう法律もあるくらいだしっ。
とりあえず、ちさ姉を見送らなくては。
「いってらっしゃいっ」
ちさ姉に向かって言うと、
「じゃーねー」とマドの返事。
鞄を私に見せつけるように、左右にふりながら、ダッシュで階段を下りていく。
キー、そんなに私が鞄を忘れたことが面白かったか?
あっかんべーをしたとたん、ドアの前に残っていたちさ姉がこちらを振り向いて、手を振ってきた。
いや、あの、ちさ姉、これはマドにやったんであって、ちさ姉にしたわけじゃ……
とりあえず、笑顔を作って、手を振りかえす。
なんで私、こんなにタイミング悪いの?
ため息をつきながら、部屋へ戻る。
部屋では、先ほどのニュースの続きをやっていた。
近所の事件、本当に、変質者の仕業なのだろうか? 内部犯という可能性もある。
ワイドショーの情報はあまり信用してはいないが、特にすることもない。仕方なしにテレビへと視線をうつした。
「入浴中、何故、窓は開いていたのか? 神田さん、どう思われます?」
「こんなこと、言ってよいのか分かりませんが、身内の犯行の可能性が高いのではないのでしょうか? 知り合いでもなければ、普通、風呂の窓なんて開けませんよ」
「ありがとうございます。警察は自殺の線も含めて捜査を進める模様です」
……
ニュースは終盤だったっため、たいした情報は得られなかった。この情報だけでの推理は難しいなっ。
変質者かもしれないわけだし。
変質者だったら、こりゃあもうお手上げだ。それならば、ちさ姉の守備範囲だ。
でも、内部犯の可能性なら、私にだって、推理できるかもしれないっ。
一応、私にも、考える力っていうのはあるわけだしっ。
考えなければ、人間失格だって、誰かいってたしっ。『人間は考える葦である』って言葉もあるしっ。意味はよくわかんないけどっ。
はっ。『葦』といえば、足がもう限界っ。ちょっと横になろう。
ごろ寝。春の柔らかい日差しが気持ちいい。
「――今年の桜の開花は、例年より、一週間もはやく――」
ニュースを聞き流ししながら、足の回復につとめる。
もうそろそろ、十一時くらいかな?
寝転んだ状態から、上半身だけ体を起こす。
時計へと目を運ぶと、長針と短針が仲良く天上をさしていた。
やっば。もう十二時だ。よしっ、ちさ姉が作ってくれたご飯でも食べますか。
テレビを消してっと、あ、ポチッとなっ。
今度こそ、ご飯に集中だっ。
ここにわがままマドはいないから、ゆっくり・じっくり・まったりとお弁当を堪能できるっ。
今日のおかずは、何かなっ♪
お弁当を包んである紺色のハンカチをはがし、ゆっくりと弁当蓋を開ける。
くーっ、透明じゃない弁当蓋ってこう、興奮させるよねっ。
『中身はまだ見せません』って焦らされているこの感じ、たまりませんなっ。
二重トラップみたいな? 絶対領域みたいな?
さあ、今日のおかず、ご開帳。
おおう、筍の混ぜご飯に、とりそぼろに、グリーンピース。人参が桜型だよっ。
この場面をアニメーションにしたら、お弁当からピカーって光がでてきて、そこから龍が立ち上ってきそうなほど、色合いが豊かで、おいしそうだよっ。
もしここが中国だったら、きっと、ちさ姉は『超特急料理人』だよっ。
いや、『超特急料理人』なんてものじゃないなっ。その上の『新幹線料理人』に違いない。
ん? なにかが違うような気もするけど、気にしないっ。私、O型だしっ。
それよりも、油が酸化しないうちに、はやく食べないと。
「いっただっきまぁ」
もう食べ終わっちゃった。これが、いわゆる、『ぁ』っという間ってやつ?
「ごちそうさま」
黒い壁時計を見遣ると、一時だった。
もうそろそろ行きますかね。
私はしっかりと鞄を持ち、玄関を出て、鍵をかけた。
朝、行き来した道をこの痛い足でもう一度通るのかと思うと少し鬱だ。
でも、行かなきゃだよね。
うんざりしながら、ローファーを履いた。
痛い足を引きずりながら、なんとか学校の玄関へ到着。
学校の近くまで、ランニングシューズで来れば良かった。
本当に、学習能力ないな。私……って、またネガティブ思考。
ちょっとは成長しろっ。私。
靴を内履きに履き替えると、プリントを配っている上級生が5〜6人いた。
その中の一人から、プリントをもらう。
そこには、クラス名簿と教室までの道のり、そして席順が印刷されていた。
渡された紙を凝視する。
あれ? 席順が、出席番号順じゃない。
もう一度、玄関に戻り、今ここに到着したふりをして、さっきとは違う人からプリントを貰う。
手持ちの二枚のプリントには、同じことが書いてあった。どうやら、今回は、プリントを信じても良さそうだ。
はぁー、入学式早々、なんでこんなに警戒してるんだろう?
嘘つきは泥棒の始まりとはよく聞く言葉だが、疑いは『ぎしんあんき』の始まりだな。
確か、『疑う心を暗記してしまっているから、全てを疑ってしまう』……って意味だったよね? 疑う心を忘れて、はやく、いつもの純真無垢な美穂ちゃんに戻らないと。
思いつつ、プリントを頼りに、ダダッ広い廊下を歩きながら、教室へ向かう。
おっ、一年F組。ここだっ。
ここから、新しい学生生活がはじまるのかっ。
自分のクラスの扉の前に立ち、深呼吸をして、ゆつくりとドアを開ける。スライド式の扉で結構重く、なかなか開かない。
もしかして、腕力がないと開かない仕組み? そーゆーのは、少年誌でやってよね。
つっこみをいれながら、腕に力を集中させ、なんとか、扉を開ける。どうやら、たてつけが悪くて開けにくいだけのようだ。
教室に入ってすぐ、大きなクーラーが目に飛び込んできた。
よかったっ。腐った畳に段ボールの机とかじゃなくて。
たてつけの悪さから、劣悪な学習環境かと疑ってしまったっ。
駄目よ、私。アニメの見過ぎっ。今は、現実を見据えなくてはっ。
えっと、私の席はと……
自分の席を探している時に気づく。
あれ? 一人一人、机と椅子の大きさが違うっ。
身長に合わせて、大きさが違うのかなっ?
さすがは、進学校。備えている設備が違いますなっ。
でも、それ以外のところでは、あまり目立ったものはないな。
黒板も緑の黒板で一般的だし、教卓も、普通だ。
でも、そのうち、黒板がモニター化して、ノートはパソコンになったりして。
くっ。くだらないことばかり考える、自分の頭が憎いっ。
……って、いい加減、席につかないと挙動不審に見えるよねっ。
えっと……ここだねっ。
ちぇっ。廊下側から二列目の前から二番目かっ。小•中の経験上、『教卓から、半径二百センチメートルは先生の目の届く距離』だと知っているのだよっ。私は。
革製の黒いバッグを木製の机の上に置き、木製の椅子に腰掛け、あたりを見回す。
クラスはしーんとしていて、みんながみんな、静かに行儀よく座っていた。
少なくとも今は、友達を作る時間ではないらしい。
特にすることもないので、玄関でもらった学校の地図を取り出す。
えーと、ちさ姉は二年A組だから――二階の一番奥か。
おおまかな位置を確認しようとすると、
バンッ
と扉が開く音。
その後、腰位まで赤い髪を伸ばした女性が足音を強く立てながら入ってくる。
明らかに、機嫌が悪そうだ。
「あーもー嫌。あの校長、いつかセクハラで訴えてやる」
ぶつくさと独り言。
私たち生徒の視線に気づくと、
「何見てんのよ? 私があんたたちの担任にして、数学教師、数宮よ。一年間、夜・露・死・苦」
目を細め、ガンを飛ばしながら、高圧的な態度で、自己紹介をし始めた。
「私が名乗ってあげたんだから、あんたたちも名乗りなさい。それにしても、名乗りやすい空気にしてあげるなんて、やっぱり私って、良い教師ね」
自画自賛もいいところだっ。本当にここ、進学校なのか?
「あ、それと、私、普通の人に興味なくって、興味ないやつの名前は、覚えられないから。インパクトある自己紹介、夜・露・死・苦。まじめな自己紹介なら、しなくていいから」
自己中すぎる。唯我独尊てやつですか?
「しらふじゃ、そんなことできないって人には、お酒も用意しといたし。私って、準備万端」
高校生に酒を勧めるの? 高校の飲酒事件って、この人が原因なんじゃないか? あきれてものも言えない。
「三十六人も居るんだ、ちゃきちゃき進めるぞ。それでは、お決まりの名簿順で……と言いたいところだが、お前ら、もう成績順に座ってるもんな。それに、名簿順じゃつまんないし」
成績順? 成績順って言った?
どういうこと?
「先生、成績順ってどういうことですか?」
私の左隣の席の女の子が手を挙げて質問する。
「そのまんまの意味だよ。この数宮の一存で、前の席に座ってる奴ほど、頭悪ぃーようにしたんだよ。そっちの方が、管理しやすいから。……ってか、誰だよ? 私の進行を妨げようとする輩は?」
にらみをきかせてくる
この人、本当に教師か?
……って、ちょっと待って? 前に座っている人ほど頭悪いだって?
六×六で窓側から数えると八番目に頭が悪いってこと?
そんなにこのクラス頭が良い人多いの?
さすがは進学校。私より頭の良いひとが二十八人もいる。
「ちなみに、A組が一番頭良くて、F組が一番頭悪いから。そういうシステムだから」
さすがは、進学校。つまり、私はビリから8番目ってことねっ。
自分の立場が知らされたF組は、ピリピリとした空気に包まれる。
気持ちは分かるけどさっ。今の自分たちの立場を知れただけで良しとしようよ。
敵を知り、己を知らば、百戦危うからずってやつだよっ。
みんなもポジティブに物事考えようよっ。
「あれ? お前ら気にしてんの? 悔しかったら、テストで良い点取れば来年、A組にもいけるぜ」
なるほど実力主義ってやつね。
やってやろうじゃないか。私はまだ負け犬ではないのだよっ。
「クラスのレベルなんてのは今はどうでもいいんだ。それより、やるべきは自己紹介だ。私が指名したやつからな。えーっと、今日は4月7日だから。4と7を足して……」
……
………
…………
数学教師、時間かかりすぎなんですけど……
「じゃあ、出席番号十番、金村雪江。しょっぱなだから、インパクト重視でどかんとよろしく」
しかも、計算間違ってるしっ。本当に、数学教師?
「金村雪江だ」
ハスキーボイスが聞こえてくる方を振り返ると、皺だらけのスカート。
マドじゃないよね?
視線を上に移す。
良かったっ。マドじゃないっ。
髪はボブカットっ。女子高生の髪型としては珍しいなっ。
おおっ。眉も太くて濃いっ。手入れしてないのかな? でも、男の子のような顔立ちだから、それはそれで似合ってるなっ。
「えー、普通の自己紹介では印象に残らないらしいので、逆再生をする」
逆再生? なんじゃそりゃ?
「逆再生とは、最近、人気ボーカル『凩』のバラエティー番組でやっているものだ。ビデオに撮って、逆再生させると、意味が通じるっていう芸のことだ。一度やってみる」
最近、受験勉強ばっかりで、テレビはろくにみてなかったから、わからないなっ。
「じゃあ、やる。うさみしあげのうきそろよ、うせでいうやまらなかへあもにさたわ」
なんか、魔法の呪文みたい。魔女裁判中だったら、完璧に魔女決定だなっ。いや、雪江はボーイッシュだから、魔術師ってとこだなっ。
「今は、私の名前は金村雪江です。よろしくお願いします。と逆再生で言った。一年間、よろしく」
「ビデオ撮ってないから、誰も、確かめようがないじゃない。だが、その心意気や良し。気に入った。覚えておくよ。金森雪音」
ゲラゲラ笑いながら、数宮先生。
金村雪江だろっ。さっそく間違ってんじゃん。この人、本当に教師か?
「じゃあ、次。なんとなく渡部……」
ふあー、今日、朝から走ったから、疲れちゃった。
いつのまにか、睡魔に襲われる。
……って、いかん、いかん。
他の人の自己紹介も聞かなくては……
……
「眠ってしまったら、そこで高校生活終了ですよ」
おおっ、二度目の天使降臨?
もしかして、ここ、夢の中?
「もしかしなくても、夢の中だぞ」
ああ、悪魔さんも一緒でしたか。
だめ。起きなきゃ。
「まあまあ。いいだろ? 体はへとへとなんだから」
駄目なのっ。
「まあまあ。いいじゃないですか。体はへとへとなんですから」
ダメ。私は起きるの。
夢で決意を固めた刹那、背中をポンポンと叩かれ、現実に戻る。
「まじめな自己紹介なら、しなくていいとは言ったが、眠りながら、私に自己紹介を押し付けるなんて、いい度胸じゃねえか。小林美穂。髪も茶髪がかってるってことは、初日から喧嘩売ってるとみて、間違いないんだよな? 小林美穂?」
数宮先生の口角は上がっているものの、目は明らかに怒っている。
「えっと、私の名前は……」
何事もなかったかのように、自己紹介をしようとすると、
「おめーの時間、ねーから。何事もなかったかのように自己紹介すんじゃねーよ」
敵意むき出しの制止。
あーもー。何してんの? 私。自己紹介中に眠ってしまってクラスの反感を買うどころか、先生に喧嘩も売るなんて、なんてバカなことをしてしまったんだっ。
サーっと顔から血の気が引いていくのがわかる。
お金もないのに、バブルの地価が一番高いところで土地を買占め、バブルが崩壊した後に土地を転売しちゃった気分だよっ。
うん。我ながら、例えがわかりにくいっ。
……
私の高校初日は始まったばかりだ。
『さて、最後の小林美穂の自己紹介も終わったところで、次は、入学式だな。会場は体育館だから、移動するぞ』
という数宮先生の誘導で、列になりながらの移動中、後ろから声をかけられた。
「小林さん……だよな?」
声の主は、唯一、自己紹介をまともに聞いた金村さんだった。
「はい。そうです。金村さん。でも、美穂と呼んでください」
ちさ姉の言い方を真似して、とびっきりのスマイルで応える。
「じゃあ、俺のことも、雪江でいいよ」
ハスキーボイスを効かせながら、雪江は続ける。
「美穂、宿題で疲れていたんだろ? かくいう俺も今朝まで終わらなくてさ。寮の中で『宿題が終わらねー』って叫んだら、寮長に怒られちまった」
雪江は少し顔を歪めて話す。
「私は終わってるよっ。一週間位前にっ」
あ、口調がもう素にもどっちゃったっ。ま、いっか。
「へ? 宿題が終わらなかったから、疲れて寝ていたと思ったのだが、違うのか?」
じゃあ、どうして? と雪江は続ける。
「それは、聞かないでっ。これには、ヒマラヤより高く、マリアナ海峡より深い理由が――」
お茶を濁すと、雪江は、怪訝そうな眼差しでこちらを見つめてくる。
そして、何かに思い当たったような顔をして、
「そうか。明後日のために、頑張ってたってわけだ」
自己納得をしたように大きく頷いた。
「ふんにゃ? 雪江、明後日に何かあるのっ?」
「へ? 明後日の課題テストのことだよ。一学期の成績に入るらしいぜ。入学式のプリントに書いてあったが、知らなかったのか?」
か……課題テストぉ?
口を金魚のようにパクパク動かす。もはや、声さえ出ない。
プリントに書いてあっただって?
そんなの、知らないっ。
はっ。プリントの情報操作=マド。という数式が頭の中で成り立ち、合点がいく。また、あのお子様の仕業かっ。
雪江は、私の現状況をどう察したのか、肩をポンポンと二回叩き、
「明日は学校休みだから、今日と明日で頑張れば良いさ」
励ましの言葉をくれた。
入学式なんてものは、名ばかりで、素っ気のないものだった。
その気になれば、二千人くらい入りそうな、だだっ広いだけの体育館で入場行進をして、用意されたパイプ椅子に着席。その後、偉そうな校長が人生について十五分ほど語り、礼をして終わり。
感想を書けと言われたら、作文用紙にでかでかと『退屈』と二文字書いて終わりだな。こりゃ。
あーあー、なんかもっと、荘厳なやつを予想していたんだけどな。
酒樽を割って、赤と白のテープ切って、おめでとう的なやつ。
まあ、高校生だから、お酒が出るわけないけどっ。
視線を移すと、数宮先生が視界に入ってきた。
まあ、自己紹介で、お酒を勧めてくる人もいるけどっ。
私の視線に気づいてか、数宮先生が辺りを見回し始めた。
数宮先生に気づかれないように、入学式のパンフレットを目の前に持ってくる。
怪しまれないように、そのまま、プログラム確認しちゃおっとっ。
えーと、次のプログラムは――
部活動紹介か。
「皆さん、お待ちかねの部活動紹介です。一年生は、椅子を体育館の後ろ側へ向けてください」
ガー
言われた通り、全員、椅子を後ろへ向ける。
「ここからは、司会を教頭先生に変わりまして、生徒会役員庶務の野田が務めます。まずは、運動部からです。バスケットボール部、どうぞ」
バスケットボールやバレーボール、バトミントンにテニスなど、個性豊かな運動部の紹介が終わり、文化部の番になった。
ちさ姉の茶道部は、確か最後から数えて二番目だったはずだ。
美術に書道、合唱に吹奏楽ときて念願の茶道部の出番だ。
「日本の誇る文化とは? ……その答えが今、ここにある。次は、茶道部の皆さんです」
ステージ横にいる司会者が紹介をする。
「茶道部です。茶道とは――」
即興で敷かれた畳の上で部長らしき人が茶道について説明。
ちさ姉が着物姿でお茶を淹れている姿はまるで、百合の花のようだった。
ちさ姉の勇姿を見逃さないように、ただただ、ちさ姉の姿だけを目で追っていた。




