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夢オチだったとしても……  作者: いたあめ(しろ)


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11/12

姉たちの推理

「美穂さん? 大丈夫ですか?」

「あれ? ちさ姉、私?」

 なんか、頭がボーっとするけど……

「混乱のせいでしょうか? それとも、無実な人を犯人と断定した罪の意識でしょうか? 意識を失って、壁に頭をぶつけてしまったようです……」

「えっ?」

「本当に大丈夫ですか、美穂さん?」

 とりあえず、頭にたんこぶはなさそうだ……

「うんっ。大丈夫っ」

「それより、ちさ姉、犯人は誰なのっ?」



「それを今から説明します」

 ちさ姉は顔を背けてポツリと悲しそうに一言

「ちょっと待った」

 マドは、ソファからムクリと立ち上がり、

「ななみ、最上に確認してほしいことがある」

 真剣な眼差しで、ななみ先輩を呼びつける。

「わかりましたー。最上―」

 マドは、最上に耳打ちをし始めた。

「悪かった。続けてくれ」

 言いつつ、もう一度ソファで横になる。



「それでは、今回の事件の真相を話します。まず、犯人の名前を言う前に犯人の行ったことの推論から始めようと思います」

 ちさ姉は、静かに語りだした。

「犯人の名前がわかっているということは、やっぱり、内部犯なのですかー?」

「そうです。わたくしの話に矛盾がでてしまうかもしれませんが、どうぞ最後までおつきあいください」

 ちさ姉の声は、いつもと違うシリアスな声だった。



「それでは、始めます。犯人はまず、包丁を素手で取り、外からお風呂場へ向かいました。そして、太司さんの名前を窓の外から呼んだのです」

「ちょっと、待ってよっ。家族全員の指紋がついていたのだから、包丁を素手で取るところまでは納得いくよっ。でも、太司さんを呼ぶことができた人って、アリバイのない人だよねっ? ここにいる人達は全員アリバイがあるよっ」

 この事件、犯人がいるのであれば、アリバイを崩さなければ始まらない。ちさ姉、いくらなんでも、それは矛盾しすぎているよっ。



「わたくしの話はまだ続きがあるのですが?」

 はいっ、ごめんなさい。だから、最初に、矛盾があるかもしれないけど、最後まで付き合えって、忠告したんだよねっ。



「では、続けますね。犯人のお願い通り、太司さんは窓を開けます。そして、太司さんが後ろを向いた瞬間、太司さんを包丁で刺したのです」

 ちさ姉の顔をうつむかせながら、暗い面持ちだ。

「それで、犯人は誰なんじゃい」

 痺れを切らせた裕二さんがせかす。

「単刀直入に申し上げます。犯人はこの中に…………いません!」



「は?」


 本日二度目のエアーフリーズ


「それじゃあ、犯人は、やっぱり、変質者ってことなの?」

 小枝子さんが、少し慌てながら、意気揚々で問い返す。

「いいえ。この中にいない家族がいるじゃないですか」

 ま、まさか……

「そう。犯人は卓君です」

「ちょっと、待ってよっ。卓君はまだ、五歳だったんだよ? ピアノが大好きで――」

 私が言葉を紡ぎだそうとすると、



「美穂さんは、エディプス・コンプレックスという心理用語をご存知ですか?」

 ちさ姉が止める。

「エディプ…何? それっ?」

 買い物とかのカードのこととか……?

「エディプス・コンプレックス。男の子が自分の母親を独り占めしたいと思う時期があるんです。基本的には、父親を遠ざけたりするだけの可愛らしい子どもなりの抵抗なのです。しかしながら、卓君の場合は、おそらく、極度のエディプス・コンプレックスだったことが予想されます」

 つまり、卓君はエディプスなんちゃらっていう、極度の心の病を抱えていたということかっ。



「極度のエディプス・コンプレックスを抱えていた卓君は、先ほどの説明のように、太司さんを包丁で刺した。刺された太司さんは、まさか、卓君に刺されるとは思っていなかった。だから、とっさに『行け』といったのです」

「どういうことっ?」

 なんで、『行け』と太司さんが叫ぶの?


「太司さんが刺された時に、太司さんは、おそらくこう思ったのです。『卓が俺のことを刺すはずがない。きっと、変質者に刺されたに違いない』と。『このままだと、ここにいる卓も変質者に刺されるかもしれない』と」

「だから、大声で逃げろという意味をこめて、『いけ』と叫んだのかっ」

 刺された太司さんが動揺していても不思議ではない。

 もしかしたら、変質者に窓を開けるように脅された可能性が頭によぎったのかもしれない。なるほど、ありえない話ではないなっ。



「ななみさん、確か、包丁には家族全員の指紋がついているのですよね?」

「はいー。そうですよー」

「その中に、卓君の指紋は?」

「家族全員の指紋なのですから、卓君も入っているはずですよー」

 そういえば、ななみ先輩、家族全員の指紋が付いていたと教えてくれていた。

 『容疑者全員の指紋』ではなく、『家族全員の指紋』だと。

「卓君が、大人用の出刃包丁で料理をすることは考えづらいです。どうして、卓君の指紋が包丁に付着していたのでしょうか?」


 ……


 部屋の中が静寂に包まれる。

「違うの。実は、私が犯人なの」

 えっ? ここにきて自白?

「どういうことですか? 小枝子さん?」

 ちさ姉がきょとんとした表情で尋ねる。

「私が卓に夫を刺せと命じたの。詳しいことは、警察で話すの」

「……そうですか。それでは参りましょう」

 ちさ姉の顔からは、悲しみがにじみ出ていた。

 これで、この事件も終焉を迎えるのだねっ。

 ちさ姉が、小枝子さんを連れて警察まで護送しようとした時、



「ちょっと、待った」

 マドがソファから立ち上がり、大声でちさ姉と小枝子さんを止める。

「なんなの?」

「警察へ出頭する前に、質問をさせてください」

 久しぶりに、マドの敬語を聞いた。

「詳しい話は、警察でするの」

「それは、駄目です。捜査を攪乱されたくありません」

「捜査を攪乱? それは、どういうことなの?」

「貴女、卓君をかばってるんじゃないですか? 実は、卓君の単独犯なのに、小枝子さんが犯罪に加担したという嘘をつくことで、卓君の罪を軽くしてもらおうと考えていませんか? そして、その嘘を考える時間が欲しいのではありませんか?」

「そ、そんなことないの」

 小枝子さんの表情が青ざめている。

 表情から察するに、マドの言う通りに思えてきた。




「それでは、今、答えて頂けますね?」

「わかったの」

「あなたは、卓君に何といったのですか? 嘘・偽りなく答えてください」

「私は卓に、夫を刺してくれと頼んだの」

「『頼んだ』とは、いつ、どういった形で頼んだのですか」

 小枝子さんに詳しい話を訊くことで、矛盾をつくつもりなのだろうか、どのように頼んだのかを執拗に詰問する。

「昨日の朝、卓がご飯を食べ終えた時、『卓、お父さんを包丁で刺してくれると、お母さん、喜ぶの』って頼んだの」

「なるほど。それで、今回の事件、何か手伝ったことはありますか?」

「手伝うってどういうことなの?」

「卓君がやったという証拠隠滅を図ったりしませんでしたか?」

「と……特には何もしてない……の」

 小枝子さんの目は泳ぎ、言葉にもつまる。



「本当に何も?」

「強いて言うなら、玄関先に居た卓が、夫の返り血を少し浴びていたから、それをごまかすために、私が風呂場で浴びた返り血を少し服につけた位なの」

 そうですかとマド。口元に手をあてて、部屋の中にいる全員の顔を見回す。

「その時に卓君が犯行を犯したのだと気づいたのですね」

「そうなの」

「それでは、最後の質問です。この家にクーラーは何台ありますか?」


 ……



 本日三度目の雰囲気壊し。

 もしかしたら、私たち姉妹の遺伝なのかもしれない。

「マド姉、なんで、ここにきてクーラー? 空気読みなよっ」

 エアーコンディショナーは、場の空気まで調節してくれるものじゃないんだからっ。

「邪魔するな、美穂。僕は真剣に聞いているんだ。小枝子さん、すぐに答えられないんですか?」

「えっと、確か、三台なの」

 質問の意図がつかめず、不思議そうにしていた小枝子さんだったが、マドにせかされ、慌てて答える。

 マドは、その答えを聞くと、不敵に微笑んだ。

「ありがとうございました。これで、真犯人がわかりました」

 真犯人? それは、小枝子さんで決定でしょ?

 何を言っているんだっ?



「真犯人はあなたです。果歩さん」

「えっ?」

 なんでそうなるの?

 自供したのは小枝子さんなのにっ。

 もうわけわかんないっ。

「太司さんを刺したのは、卓君で間違いありません。しかし、もう一つ分からないことが存在しました」

「わからないこと?」

「ええ。それは、共犯者の存在です」



「共犯者?」

「だから、それは、私なの」

「いいえ。小枝子さんでは、ありません」

「どうして?」

「もし、小枝子さんが、共犯なら、何もしていないと答えるのは、不自然です」

 小枝子さんは自白しているのに、不自然って、一体全体、どういうことだ?

「なんでなの?」

「この事件、犯人の卓君には、あるものが足りないのです」

「あるものって?」

「身長ですよ」

「身長?」

 身長? 確か、卓君の身長は、百二十三センチで……あっ。

「そうです。犯行現場のお風呂場は、百五十センチ程度なければ、犯行はできないのです」

「じゃあ、どうやって、卓君は犯行をっ?」

「美穂にななみ、お前たちが捜査していた時に躓いたものがあっただろ?」

「躓いたもの?」

 そんなものあったか?



「ブロックですー」

「そう。あの手のブロックは、エアコンの室外機の両端に置いてあれば、真ん中には要らないものなんだ」

「でも、それだけで、犯行に使ったと決め付けるのは、早計なんじゃないっ? もしかしたら、ただ本当に室外機の台座として、使っていただけかもしれないし」

「いや、おそらく犯行に使ったのだろう。僕はボールペンカメラでしか見てないが、ななみと美穂が簡単に出し入れ可能なブロックが、エアコンの室外機の台座としての役目を果たしているとは到底思えない」

「じゃあ、さっき小枝子さんに訊いた、クーラーの数っていうのは?」

「映像で見たブロックの高さは、一つ、十数センチくらいで、室外機一つにつき、ブロック一つしか入らない。だから、最低三つはあるはずだろうって思ってな」

「その方法なら、小枝子さんでも、裕二でもできるでしょ?」

 果歩さんは、冷静なまま反論する。

「いいえ。二人にはできないんです。そもそも、小枝子さんは怪我をしています。それに確か、裕二さんは、風呂場にずっと居たはずですよね? 小枝子さん?」

「太司さんの止血をしていたの」

 果歩さんは、みるみる青ざめていく。

「止血の後で、ブロックを移動させたのでは?」

「確か、パトカーと救急車はほぼ同時に到着したのですよね? 二人にはブロックを動かす時間がないんですよ」

「わ……私が犯人だというのなら、証拠を出しなさいよっ」

「証拠なら、もうそろそろやってくると思いますよ?」

 マドは、扉を見ながら話しかける。


 バタンッ


 扉は開かれ、最上さんが入ってきた。

「円葉様のおっしゃるとおりでした。全てのエアコンの室外機のファンの下に、台座として使われていないブロックが一つずつありました。それらのブロックから検出された指紋は、果歩さんの指紋しか検出されませんでした」

「血痕のほうは?」

「ごく最近のものが、果歩さんのものだけ、少量検出されています」

 血痕?

「人指し指の怪我は、風呂場のドアを開ける時にできた傷だと聞きましたが、本当にそうなのですか?」

「どういうことっ?」

「プラスチック製の扉を体当たりして、傷ができるのかってこと」

「できたかもしれないじゃないっ」

「最上―、風呂場の扉に血痕はあったのですかー?」

「いいえ。そのようなものは検出されていません」



 昨日の事件現場でのことを思い出す。確かに、ドアの外側には、血痕らしきものは付着してなかった。

「その傷は、ブロックを押し込んだときにできた傷ではないのですか? それとも、他にもありますか? 最近できた傷が?」

「ないです」

 果歩さんは、床にひざまずきながら、放心状態になる。

「事件を整理し直します」

「ある日、果歩さんは、卓くんのエディプス・コンプレックスが、かなり重症であることに気づいた。そこで、卓君を犯人にした犯行を考えた」

 ふむふむ。

「そこで果歩さんは、包丁でお父さんを刺せば、お母さんを独り占めできると卓君に教えたんだ」

 幼い子になんてことを教えるんだっ。

「卓君は犯行に及んだ。風呂場の窓に回り込み、ブロックの上に乗り、お父さんと呼びかける。すると太司さんがお風呂の窓を開けて出てくれたんです。そして太司さんが後ろを振り向いた瞬間に卓君は太司さんを刺しました」

「刺された太司さんは、気が動転し、変質者がうろついていると勘違いした。だから、卓君に逃げろという意味も込めて『いけ』と叫んだんだ」


「その後、太司さんの声で駆け付けた三人は、ドアを壊し、果歩さんは、救急車を呼ぶといい、その場をあとにし、電話の子機を使って、電話しながら、外に出ました。電話をかけながら、風呂場にいる二人にばれないように、外にあった室外機の下にブロックをすばやく収納したというわけです。」



「じゃあ、どうして、小枝子さんは嘘の自白をっ?」

「おそらく、卓君の罪を軽くしようとした結果だろ? そうですよね?」

 小枝子さんは、青ざめながら、こくんと頷いた。

「果歩さん。どうしてこんなことを?」

「大切に育てた太司が、悪女と仲良くしているところを見ると、無性に腹がたって」

「悪女……ですか?」

 マドは納得がいっていないのか、聞き返した。

「そうよ。太司と結婚したのに、最近、こそこそしながら裕二とばかり仲良くして、無性に腹がたったんです」



「もしかして、小枝子さんの不幸というのも?」

「最初はただのいたずらだったんです。小枝子さんに痛い目みせてやろうと賞味期限切れの野菜を食べさせたら、お腹を壊してトイレに通いつめて、これは面白いって……」

「じゃあ、私が、食中毒を起こして入院したのは」

「私が、消費期限切れのぶた肉をきちんと火を通さずに食べさせたから」

「じゃあ、私が転んだのは」

「片方の靴だけ、底を削ったから」

「車の事故は」

「リコールで問題になっている車を太司に買わせたんです。あなた達、車に疎いから」

 結構、地味で陰湿ないじめだなっ。

「そ、そんなのって、酷いの」

「そうやって、うさを晴らしていたのですが、ある日気づいてしまったんです」



 一体何に気づいたのだろう?

「小枝子さんが不幸になればなるほど、太司さんが小枝子さんに優しく接していることにですか?」

「そうです」

 太司さんが小枝子さんを愛しているのなら、小枝子さんに悪い出来事があれば優しくするのはあたりまえだ。

「だから、小枝子さんから太司さんに憎悪の対象が変わった?」

 補足するかのように、マドは問いかける。

「どういうことっ? なんで、憎んでいた小枝子さんではなく、愛していた太司さんに行動が向かうのっ?」

 わからないっ。

「人を愛しすぎたゆえに、それは憎悪に変わることがある。まだ子どもの美穂にはわからないかもね」

 むむっ。マドに馬鹿にされた。

「美穂さん、違った考え方もできます。確か、小枝子さんは、専業主婦だったのですよね? 実行犯が卓君だと気づかせることによって、育児を任されていた小枝子さんが、一生苦しむ可能性だってあります」

 なるほどっ。それならわかりやすいっ。

 それを見て、果歩さんは喜ぶということか。なんか、悲しい事件だな。



「おい、ばばあ」

 ふいに裕二さんが怒鳴り出した。

「何よ」

「俺と小枝子さんが仲良くした理由はな、兄貴とばばあの誕生日を祝うためだったんだぞ」

「どういうこと?」

「ばばあの誕生日は明後日で、兄貴の誕生日は来週じゃろがい。盛大に盛り上げてやろうと二人で一ヶ月も前からプランをたてていたんじゃい。もちろん、小枝子さんの提案でな」

「そんな……いちゃいちゃしてたんじゃなかったの?」

 果歩さんは、目に涙を浮かべる。

「今まで、ごめんなさい。小枝子さん。私、人間失格ね」

 言いながら、果歩さんは、私の目の前を通り過ぎ、キッチンへと向かい、棚から何かを取り出した。



 ……

 ……へ? 包丁?

 果歩さんは、包丁を鞘から出し、自分ののど元へつきつけ、両手でしっかりと握り直す。

「果歩さん、駄目っ。誰か止めてっ。」

 咄嗟に、声に出すが、果歩さんのまわりには誰もいない。

 私が一番近いっ。私が止めに入るしかないっ。

 間に合わないと分かっていながら、果歩さんを止めようと駆け出す。



 間に合え、間に合え、間に合えっ。念じながら、果歩さんめがけて猛ダッシュ。

「美穂さん。動かないで」

 誰かの叫び声とともに、何かが後ろから、飛んできた。

 え? と思った瞬間、突然、果歩さんの持っていた包丁がパリーンと音をたてながら、粉々に砕け散った。

 冷蔵庫には『細雪』が深くめり込んでいる。

 ちさ姉……か……

 安心したせいか、床にへたれこんでしまった。

 膝に力が入らない。どうやら、腰が抜けたらしいっ。

「包丁は、人を刺すための道具じゃありませんよ」

 包丁を砕くためのものでもないと思うんだけどっ。ちさ姉。



 果歩さんはうなだれながら、

「ごめんなさい、ごめんなさい……」

 ごめんなさいと、力なく何回も呟き続けていた。


 この事件の実行犯は、幼い卓くんだったということもあり、訴訟にするかどうかは、家族会議で決めるということで、私たち三姉妹はななみ先輩のリムジンで小林家まで送ってもらうことになった。

「もし、訴訟になって裁判を起こしたら、一体どういった判決がでるんだろう?」

 車中、ふとした疑問を口に出す。

「さあな。この事件の場合、果歩さんは、間接正犯で実行未遂になるのか? 僕は、裁判まで詳しくないから、分からない。気になるなら、裁判を傍聴すればいいだろ?」

「そっか、傍聴すれば良いのかっ」

「どうやら、わたくしの真意がまだ理解できてないみたいですね?」

 へ?

「わたくしはこの事件に美穂さんを関わらせたくないと感じていました。その気持ちを無視して、傍聴をしようとおっしゃるのですね?」

 ちさ姉、そんなに禍々しいオーラを出さないでっ。

「この事件に関して、たった今、私は身を引いたよ。もちろん、傍聴しには行かないしニュースも見ない。それどころか、新聞で調べすらしないよっ。この事件に関して、見ざる、言わざる、調べざるだよっ」

「それは良かったです」

 私に向いていた、敵意はあっさりとなくなっていた。

「確認ですが、円葉姉様は?」

「解決した事件には興味ない。家に帰ったら、資料は全て捨ててくれ」

 紙くずくらい、自分で捨てろよっ。


「それにしても、今回の事件、いろいろ考えさせられたな」

 マドが影響を受けるなんて珍しいっ。

「例えばっ?」

「そもそもの発端は、サプライズパーティーを計画したのが始まりだろ?」

「そうだねっ」

「でも、サプライズで喜ばせようとした結果、あの事件だ。秘密っていうものは、時として、殺傷事件にまで発展するものなのか?」

「あれ? マド姉、ひょっとして、私たちに何か秘密でもあるの?」

「僕は真面目に考えているんだけど?」

 いつものひょうひょうとしたマドじゃないっ。今は冗談を控えたほうが良さそうだっ。



「うーん。どうなんだろう? 見た目も関係するんじゃないかなっ? 人は見た目で判断しちゃいけないけど、小枝子さん、派手な感じで、いかにも遊んでますって印象だったし」

「『見た目』か……」

 マドは、深く考え込む。

「マド姉も、もうちょっと見た目に気を遣ったら?」

「ふん。人間、見た目より、心が大切なんだ」

「じゃあ、私に意地悪するのやめてよ」

「ほら、それは、僕なりの愛の表現だから」

 マドは真面目な顔をしながら茶化す。

「そんな愛は、お断りっ」

 あっかんべーっだっ。



「美穂、小枝子さんの行動をどう思う?」

 マドはさらに真剣な顔で訊いてくる。

「小枝子さんの行動?」

「小枝子さんは、とっさに嘘をついて、卓君をかばってたろ? そこに何かを感じないか?」

「うーん? どうなんだろう? 今回の嘘は、卓君のためではない気がするなっ。嘘が誰かのためになる時って、かなり稀だと思うしっ」

「嘘は、ほとんどの場合、誰かのためにならない――よく理解しているじゃないですか。美穂さん」

 ちさ姉が割って入ってくる。

「ちさ姉、どうしたの? そんな怖い顔して」

「どうしたもこうしたもありません。美穂さん、わたくしを心配させないために、嘘をついて、犯人探しをしたのでしょう?」

 うっ。私のことを出されるとすごいリアルっ。

「結果的に、わたくしをとても心配させたのですよ」

「ごめんなさい。もうしません」

 ううっ。頼まれたって絶対にするもんかっ。

「ははは。怒られてやんの」

 マドは、いつもと違う乾いた笑いで茶化してくる。

 なんか調子狂うなっ。



「そういう、マドは、小枝子さんの行動をどう思っているの?」

「一見すると、親子愛に見えなくもないが、今回のは違うな」

 マドは断言。

「へー、どういうところが?」

「愛の本質っていうのは、たとえ、その人に嫌われようとも、間違っていることをしていたら間違っていると教えることだと、僕は思う。だから、今回の場合、卓君を嘘でかばうのではなく、卓君がした過ちを償わせることが愛へ繋がると僕は思う」

「なるほど。じゃあ、わたくしの行動は、愛として受け取っていただけるのですね?」

 何いっ? ちさ姉の愛だと? マド、いつの間に? 私も欲しいぞっ。


「包丁が薄皮一枚で飛んでくることが愛? あれはやりすぎだろ」


 前言撤回。ちさ姉のおしおきは、欲しくないや。

「やりすぎかどうかは、ともかく、愛として受け取ってもらえたのなら、十全です」

 さすがは、ちさ姉。一枚上手だっ。

「やりすぎた愛というのは、悪いことなのではないのかな?」

 マドの言うことも一理ある。

「あれくらいしないと、円葉姉様には伝わらないです。それに、まだ、おしおきしたりないですよ」

「いや、もういっぱいもらったから。あとは、美穂の方へ」

 こわばっていた表情がだんだんと崩れ始めるマド。


「もちろん、美穂さんへも、おしおきをいたしますが、わたくしの円葉姉さまへの愛の形はあんなものじゃなくて……」

 あ、今、さらっと、私のおしおきが確定しなおされたっ。


「ほら、愛って、いっぱいあるじゃん。自己愛とか、親子愛とか。与える人もいれば、受け取る人もいるし。今、与える人からの視点で考えてたけど、受け取るほうの問題も絡ませると、もっとややこしくなるだろ? 僕、そういうのは専門外だから。こういったことは、心理学の先生に任せよう」

 さすがは、理系の頭。想定される危険を察知し、話をうやむやにさせ始めたっ。


 それにしても、愛か……

 難しい永遠のテーマだなっ。


「……とまあ、愛へのフリはこれくらいにして、愛すべき妹にいいこと教えてやろう」

 むっ、その笑い方、絶対いぢわるする気だなっ。

 気を引き締めないと。

「そう硬くなるなよ」

「マドが何してくるか分からないじゃない」

「僕は何もしないよ」

「本当に?」

「おいおい、尊敬するマド姉様をしんじられないのかい?」

 いや、尊敬なんかい一ミリもしたことないし。


「僕は、何もしない。ただ――」


「ただ?」

 固唾を飲んで次の言葉を待つ。



「明日、学校で確認テストがある」

 あーーーーーーーーー、忘れてたーーーーーーーっ。


「わたくしのおしおきも、忘れないでください」

 道中で細雪を取り出しながら、ちさ姉が目を怪しく光らせる。


 うわーーーーっ、誰か、たーーーすーーーけーーーてーーーっ。

 なんか、意識が朦朧としてきた。


 To Be countinued to …

 ■■■

 ※この夢オチをご所望の方は、第一部分プロローグ~夢~ へお戻りください。

 分岐点はこれが最後です。最後が、夢オチだったとしても、良い方はこのままお読みください。

 ■■■


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