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【短編】

サイコキラーとコーンスープ

 

 日曜の朝。



 私は昨夜、かなりの夜更かしをしてしまった。眠ろうと思うのだが、なかなか寝付けなかった為だ。



 そのため、普段よりも大分遅い起床となった。時刻はとっくに午前10時を過ぎている。




 自室を出て、リビングに入ると、すぐに違和感を感じた。



 妻の姿が見当たらないのだ。





 キッチンでは作りかけの朝食と、まだ熱を帯びている調理器具がコンロにかけてあった。


 鍋の中にあるコーンスープは人肌くらいの暖かさを帯びている。




「おーい、雅子ー」



 呼びかけてみるも返事はない。




 家中をくまなく探し回ってみたが、どこにも見当たらない。





(おいおい、どこに行っちまったんだよ)





 家を探し回っている内に雅子の部屋で、妙なものを発見する。


 それは段ボールだった。



 段ボールは巨大で、机の上のスペースをほとんど占拠していた。


 そして珍しいことに色は黒く、繋ぎ目すらも黒のガムテープでみっちりと閉じてあった。




(なんだ、これは)


 私はそれを見て、しばしの間考え込んでいた。




(気になるなぁ、郵送物にしては宛先とかなにも書いてないし)


 そして、それを少しだけ持ちあげてみると、驚くくらいに重たかった。




 私はそこで妙な妄想に駆られてしまう――




*********************************



 昨日の夜の出来事だ。


 久々に妻と二人で映画を観ようということになった。



 私は嫌がったのだが、妻はどうしてもホラー映画がいいと譲らなかったので、渋々それに付き合うことになった(私はアベンジャーズが観たかった)。



 妻の選んだ映画は古い映画であったものの、表現は緻密で恐ろしく、そういうものが苦手な私が思わず目を逸らしてしまう様な映像が度々流れた。



 しかし、私が目を逸らそうとすれば、妻が”だめだよ、ここが面白いのに”とゲラゲラ笑いながら、私の顔を画面に戻そうと躍起になる。


 私が怖がるのを見るのも含めて、妻は楽しんでいるようだった。




 そして、ストーリーも終盤に差し掛かったころ、私が昨夜眠れなくなってしまった原因となるシーンが流れた。



 それは、サイコキラーが、主人公の刑事の妻を殺害して、黒い箱の中にミンチにして詰めるというシーンだった。



 雅子はきゃっきゃっとひどく楽しそうにしていたが、私は血の気が引く思いだった。



(もしも、雅子があんな風になってしまったら……)



 結婚して7年になるが、妻への愛は衰えていない。むしろ、知れば知るほどにこの人と結婚してよかったなと思える。



 そんな妻が殺されてしまったら……しかもあのような残虐な方法で……



 私は、恐ろしい妄想を振り払うようにかぶりを振った――




*********************************




 目の前にある段ボール箱は、その映画の"あのシーン"を彷彿させる。


 黒くて、人が一人入っているような重量感を伴っている。



 そして、膨らみ始めた妄想は、私をどんどんと不安の中に陥れていく。




「雅子ー……」




 小さな声で箱に呼び掛けてみて、私はなんて馬鹿なことをしているんだと自責した。


 これが妻なはずないだろう。どうかしているぞ私は。



 しかし、結婚して初めての事だったのだ、妻の姿を朝に見ない日なんてものは。



 いつもならば、朝食を準備している妻の後ろ姿に、”おはよう”と声を掛けるはずなのに……




(今日は朝居ないだなんて雅子言ってなかったよな……?)



 私は軽いパニックを起こし始めていた。




(いや、何も聞いていないぞ私は。それに、朝食も作りかけのようだったし……突然用事が入ったのか?しかし、日曜の朝に突然入る用事なんて……)



 ぐるぐると回る思考はどんどんと、私を負のループへと陥れていく。




 脳内では昨日の映画で出てきたサイコキラーが、雅子を部屋の隅に追い詰めていく。


 雅子は引きつった表情で叫ぶ。



 ”やめて”と。



 しかし、サイコキラーは気味の悪い笑みを浮かべ―――手に持った鉈を雅子へと振り下ろした――




 私の頬に冷たい水滴が一筋流れた。



 私は、黒い箱に触れた。それは――なんだか暖かい気がした。




 私は遂に結論を出す。


 この箱の中にいるのは妻なのだ―――と









 *********************************




(ふぅ……いきなり町内の溝掃除だなんて……全然聞いてなかったわ)




 いつもなら回覧板が回ってくるのに、今回は隣の斎藤さんが長期旅行に行っていたせいで、回覧板が止まってしまっていたらしい。



 今日の朝になって急に言われたものだから、化粧をする暇もなくて何だかもやもやした気分で溝掃除をすることになった。



(あの人もう起きちゃったかしら?メモくらい残しておけばよかったわ……)



(起きた時に私が居なくて焦ってるんじゃないかしら……あの人、そういう可愛いところあるから)



 私はくすくすと笑う。




 因みに今日は私と夫が付き合い始めた日だった。


 夫は結婚記念日なんかは覚えているだろうけど、今日が何の日かは覚えていないはずだ。




 だから私は、日頃の夫への感謝とサプライズを込めて、夫が欲しがっていた”折り畳み自転車”を買ってあげていた。



 以前夫が欲しがったのを私が駄目だと断ったものだ。



 調べてみるとドイツでしか売っていないものらしく、送料も含めると10万近くもした上に、届くのに1か月以上も待たされた。




(まあ、偶には贅沢させてあげないとね……うふふ)




 それは今、私の部屋に置いてある。


 大きな黒い段ボールで送られてきたのでびっくりしてしまった。




(外国では普通なのかしら?まあ、高級感はあるかしらね)



 ホントはもっとオシャレな箱に入れ替えたかったけど、そんなに大きな箱も用意出来そうになかったので、伝票のシールとかを綺麗に剥がして、そのままプレゼントするつもりだ。




「ただいまー」



 私が家に帰ると、何だか変な声が聞こえる。




「うっうぅぅ……まさこぉぉぉまさこーーー―」




 夫の声だ。しかも私の部屋から。




(ま、まさか……)




 私が急いで部屋に向かうと、夫が段ボール箱に抱き着いて、泣きじゃくっていた。




「いやいやいや、そんなに欲しかったの!?それ!?」




 私は夫が顔面を崩壊させながら、泣きじゃくる姿が可笑しくって、その場で笑い転げてしまった。











サイコキラーとコーンスープ -終-


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