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無能勇者の烙印  作者: 汐倉ナツキ
第二章

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ロアルナ独立、水島夏羽①/日常



 ──翌日の朝方。

 出立の準備が整うまでビルポタスの王都を散歩する。

 アリスとソラスを護衛に置いて。


「やっぱりこの旗、見てるだけで落ち着くなぁ……」

「む? この赤の丸が落ち着くのか?」


 ボヤいてると「むむ?」とアリスが首を傾げた。可愛い。


「カルメロルツ的思考回路の奴なら最弱の魔物であるレッドスライムとか無能の烙印を連想するだろうけど、俺は違う」

「ぼく、気になります。にい……マヒル様」


 上目遣いで控えめに聞いてくるソラス。


「にい……え? なんて?」

「ぐぬぬぬぬ、また性懲りも無くぅ……っ!」

「アリスステイ」

「マヒルッ!?」


 まーた面倒モードに入るアリス。

 しかし、理由が知りたいか。

 まあ、いいだろう。知られても毒にもならんしな。


「単純に故郷の国旗と同じだからってだけだよ」

「こ、故郷の? なるほど、そうだったんですか」

「『夜明けの星』は信徒達が勝手に付けた旗の呼び名だけど、太陽って意味では日本の旗とさほど変わりないから」

「ふむ。この単純なデザインがマヒルが住んでた国の国旗だったのか」


 そこら中に掲げられ、はためいている『夜明けの星』を見ながら頻りに頷くアリス。


「日本の国旗は確かに単純だけど……。うーん、だったら次は『旭日旗』でも掲げるか」

「キョクジツ……?」

「いや、あれはあれで結構単純か……んん? 随分と準備が速いな。もう出発できるみたいだ」


 荷馬車に高レベルの信徒達が全力で作業してたのは鑑定眼で視えていたが、さすがに速過ぎてちょっと面食らった。


「マヒルマヒル! キョクジツ旗とはどんな旗なのだ!?」

「はいはい。荷馬車に向かいながら教えるよ」


 結局北のフランクール、東のアカルバーデルクとリスバイルとアレクサンドリア、南のヒナメルツの五カ国解放は後回しになってしまった。

 島国であるヒナメルツは(正攻法では)時間掛かるから後回し。

 アカルバーデルクとフランクールはバカ遠回りしなきゃだからまあいいとして……。

 問題はリスバイルとアレクサンドリアだ。


 諜報に向かわせた信徒からの報告では『特に有用な情報は得られなかった』とあった。

 こんな結果報告を受けるくらいなら初めからネバンネン・ハーデルファイツを向かわせるべきだったか?

 一見ただの従順な属国だが、腹に何を隠してるのか……。

 それとも本当に何も無く、カルディッシュの情報収集力がザル過ぎたのか。

 俺としては後者を推したい。

 理由は……分かるね?(ヒント→面倒)




 ▽




 はい。ロアルナ・カルメロルツ領は本日より独立しました。

 ロアルナ王国民が待ちに待ったロアルナ王国の復活です。

 いやー、高レベルの騎士の中に盲耳の人がいたとは驚きだった。

 騎士にも民衆の中にも今まで耳に障害持ってる奴いなかったからな。

 可能性としては考えた事はあるんだよ?

 ただ、これまで出会わな過ぎたから頭の片隅に追いやられただけで。


「それより大ニュースだぞマヒル!」

「どしたーんアリス」


 現在地はロアルナの王都。その宿屋の一室だ。

 一応アリスの部屋も用意してるはずなんだけど、アリスは一度も用意された自室を使った事はない。

 厳密には最初の一度だけ使ってたのだが「うぉおおお寂しいのだぁーっ!!」って俺の腹に突撃してきた。

 かなり痛かったが可愛いから許す。美少女無罪。

 それ以来アリスはずっと俺の部屋に来て寝食を共にしてる。

 え、毒され過ぎてる? あー、まあ、そうかも。


「ロアルナの通信部にいた騎士からの報告なのだが……」

「通信部?」

「そう! カルメロルツ王国からの通信だ! キリューゼルが自身の騎士団員に暗殺されかかったという話だぞ!」

「暗殺? ………………ああ、サンブルックスのトップに掛けた神の贈物(ギフト)か。テキトーに指示したせいかすっかり忘れてた」


 そのテキトーさで死にかけたキリューゼルは溜まったものでは無いだろうが、俺から言える事は「ザマアミロ」の五文字だけだ。


「でも未然に防がれちゃったかぁ……」

「うむ。自分の騎士、それもAランク相当の身内からの暗殺でもダメだったようだな」

「やっぱりあいつ、自己保身には長けてるようだな」


 正直ガッカリだ。

 ワンチャン意味も無く死んでくれれば腹を抱えて笑ってやれたのに。

 いや、指差して笑ってやった方が屈辱か?


「それにしてもあいつの警戒心が高かったのか、それとも部下が優秀だったのか」


 あるいは、その両方か。

 まあ、死ななかったら死ななかったでいい。

 あいつは曲がりなりにもカルメロルツの王子。

 それも王位継承権第一位。

 だからこそ、使い道はいくらでもある。

 例え、あの人非人が生きてようが死んでいようが。




 ▽




 その日、あたしはいつもの日常を過ごしていた。

 ───公立緑ヶ丘高等学校二年B組。

 いつものように早めに教室に着いたあたしは、自習のかたわらスマホを弄っていた。

 画面にはあいつがいつも口にしてるスマホゲーム『救世主(メシア)』の攻略サイトを表示していた。

 それは今やってるイベントのボスが強過ぎて新キャラを使わないと勝てないって噂だったからだ。

 無課金勢だからガチャ石も無いし手持ちのキャラ達だけで何とかやり繰りする為にカンニングしている。

 べ、別にあいつとの話題作りの為とかそういう訳じゃ……ないんだからねっ!(唐突なツンデレ)


「おはよう上原」

「うん! おはよー汐倉ぁ! 今日も眠そーだね!」

「やっぱ分かる? 徹夜で松尾と素材集めマラソンしてたからバカ眠いんだ」

「まーたそんな事言って、もーっ! 目に悪いし健康にも悪いよ? そんな夜更かしするんだったらゲームは一日一時間に制限しますよ!?」

「突然お母さんみたいな事言うなよ!」


 軽く掛け合いしたその後、汐倉と上原の二人は楽しそうに笑い合った。

 その様子は本当に仲が良くて、あたしなんかが入り込める隙も無くて……。

 あたしはいつも、自然に汐倉と話せる上原を羨む事しかできない。


「水島もおはよう」

「っ!?」


 嫌な思考の渦に入り込んでいたところに、いつの間にか目の前にいた汐倉が挨拶してきた。


「お、おはよ……汐倉」

「いつも早いし真面目だな。朝イチで勉強してるみたいだし」

「ま、まぁね」


 今日は汐倉が挨拶だけじゃなくて話しかけてくれた。

 あたしはにやけ顔を見られたくなくて、とっさに顔を隠す為に俯いた。


「(うわぁ、話しただけで顔逸らされた……アイム・ア・ショーック。水島どんだけ俺の事目の敵にしてんだよ。まあ、苦手な部員とのコミュはこのくらいでいいだろう。よくやった、俺……)おう久利島ー、おはようさん」

「あっ……」


 せっかく汐倉と話せた(?)のに、あたしがモタモタしたせいで違う人のところに行ってしまった。

 汐倉があたしの次に挨拶したのは久利島。久利島七緒。

 同じクラスで、同じ部活動仲間。

 久利島は誰にでも優しく、勘違いした男子は数知れず。

 そして、いつも余裕を感じさせる立ち振る舞いをするが、嫌味が無い性質のおかげか多くの人に好かれている。


「ええ、おはよう汐倉君」


 昨日の夜も布団の中で会話のシュミレーションとかしてたのに何も活かせなかった。

 あたしはいつも家に帰ったら後悔をぶつけるように布団に顔を埋めて発狂する。

 そんな反省会を多分今日もする。するったらする。

 そして弟と妹に『うるさい!』って怒られるんだ。ふ、ふふふ……。


「そういや観たか? 昨日急に出てきた例のアレ」


 ……例のアレ?

 なんだろう。ちょっとだけ気になるからバレない程度に聞き耳を立てる。


「例のアレね? もちろん! その手のアンテナを各方面に張り巡らすこの私が例のアレの情報を取り逃がすなんてヘマをするはずがないわ!」


 ふふんと胸を張る久利島さん。


「さっすが久利島、マニアだねー」

「ふっふっふ、そんなに褒めないでちょうだい。私くらいになると自然と情報が集まってくるのよ。例のアレは特にね!」


 だから例のアレって何よ!

 マニアとかよく分からないし……ずいぶん勿体ぶるわね!?


「ねえねえ、汐倉達さっきから何の話してるのー?」


 上原ぁ……こいつ、何であたしに出来ないことをこんな平然とやってのけるのよ!

 あたしは普通に話しかけるとか……絶対ムリだし!

 話しかけれたとしても恥ずかしくて絶対ぶっきらぼうになっちゃうってのに!


「上原さんも知ってると思うわよ。例のアレ」

「ん、んー? 例のアレ、例のアレ、例のアレ…………あ、もしかしてCMでやってた都市伝説の特番のやつ?」

「ピンポンピンポーン」


 何で分かったの!?


「ふふっ、どうやら貴女も興味アリのようね、上原さん」

「おっ、正解? いえいいえいいえーい! 賞品はなんだ汐倉ぁー!」


 ガバッ。汐倉の背中にのしかかる上原。

 くっ、そんなスキンシップ……羨まし過ぎて思わず血涙が流れてきそう……ぐぬぬぬぬっ。


(うわうわ、まーた水島に睨まれてるよ俺。うるさくし過ぎてる? 勉強の邪魔? いや、だとしても俺だけ睨まれるいわれは無いよね? ね?)


 あたしが気付かない内に、勘違いはどんどん加速していく。



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