イリオスから
「あれー? この二人まだ生きてたんだ。ていうか殺さなかったんだ」
研究所を兼任している活動拠点に戻ると目の前にはレンカとサメジハマの二人が佇んでいた。
レジスタンスとその関係者は全部やっちまえって指示したはずだったと思うんだけど……Why??
「マヒルが気に入ってたようだからな。ゾンビにするのはいつでだってできる。だから気を遣って放置したんだが……余計なお世話だったか?」
「いや、俺の支配下にあるならそのままの方が使い道が多い。死んだ時はそのままゾンビにすれば再利用できるし」
実際問題かなりファインプレーだ。
使える手駒は多いに越した事はないからな。
レンカは今回のでAランクまで上がったし、サメジハマはBランクに近いCランクになったし。
あ、そうだ。
ランクが上がったと言えば、ソラスはどうなったんだっけ?
「すみません……間に合いませんでした……」
悔しそうな、どっちかというと落ち込んだ様子のソラス。
悔しさ四割、落ち込み六割だな。
「いや、でもあと少しだったんでしょ? 次は頑張ってもらうから、そのつもりでね」
「はい……ありがとうございます……」
「はっはー、尾を引いてるなー」
一旦スマルドとラベッタはここでお別れだ。
サンブルックスで開発が完了するまで缶詰。
一応、完成品ができあがってからの指示は出している。
あとはラベッタに鑑定眼を診てもらう時間だけ確保して、終わったらすぐにビルポタス・カルメロルツ領に向かう。
「スマルド」
「はいぃ〜?」
「余計な機能とか俺が不利になる機能を付けたらそれが発覚した時点でお前を殺す。分かってるな?」
「わ、分かってますよぉ〜。ラベッタ君だって見てるし、そんな命知らずな真似しませんよぉ〜」
冷や汗をダラダラと垂らすスマルド。
こいつには釘を刺しておかないと何を仕出かすか分からんからな。
「ルーシアも護衛の為に置いておく」
「じゃあ、これからは私の時間ですねっ!」
目の前にはキラキラした瞳のままズイッと身を乗り出すラベッタ。
「あー、オテヤワラカにね?」
▽
「アーーー……疲れたんだぁ」
俺は椅子に座り、テーブルに倒れ込む。
「やいラベッタ! マヒルをこんなになるまでいじくり振り回しおって……いくら同類であろうと許し難い所業だ!」
「あら、でもさっきのは約束した事ですし。ね、マヒル君」
「そだねー……」
気怠げに返事する。
「あー、とにかく飯を腹に詰め込んだらビルポタス行くぞぅ」
「まだ納得した訳では無いが、うむ!」
レンカに作らせた飯をカツカツ口にかき込む。
最近は何食べても薄味過ぎて食事がつまらない。
ただの栄養補給になってしまっている。だからか若干のストレスを感じている。
やっぱり食は豊かでないとダメだな。
この世界に来てから粉物ばかりだし、いい加減米が食いたい。
鮭おにぎり! カレー! オムライス!
心の中で叫ぶが、どうせ食べる事はできない。
虚しくなるからだだこねるのはやめた。
代わりにアリスを眺める。
やっぱり美人は目の保養になるな。
食のストレスも少しは緩和されてるような気がする。
俺の視線に気が付いたのかアリスがもぐもぐ咀嚼しながらこっちを向き、不思議そうな顔をしてコテンと小首を傾げた。
はい可愛い。優勝です!
「皆食べ終わったな。それでは出発するとしようか」
レアーレの号令で各々が荷物を抱えた。
──ガチャガチャ。
不意にアジトの出入口のドアを開けようとする音が室内に響き渡った。
臨戦態勢に入る皆を片手を軽く上げて宥める。
「マヒル、外にいるのは?」
頭と腰を下げ、前傾寄りの姿勢になったレアーレが問いかけてきた。
「そんな警戒しなくても……」
俺はロックを外し、ドアを開けた。
「突然ごめんなさい!! スペランツァを!! スペランツァを助けてください!!」
大声で助けを求める男は、衰弱した女を担いで縋るような顔で懇願してきた。
自ら飛び込んできたレアアイテムに俺は薄ら笑いが堪え切れず、手を翳して口元を隠す。
そしてメシアモードに入り、優しく声を掛ける。
「まずは、落ち着いて下さい。そして、今必要な事だけを教えて下さい」
「は、はい!」
まともに相手をしてくれると顔を明るくする男。
ボロボロの服の間から見える素肌に付いた切り傷。
男は女を守る為に戦ったのか、連れて逃げたのか。話を聞かない限りは想像するしかない。
ただ、切り傷から覗くのはおよそ人の体にはそぐわない代物。
この男、面白い事に機械の体だ。しかも漏電してるのか時折スパークした音が鳴る。
「アリス、彼女をベッドへ」
「う、うむ」
「ラベッタは検診。その後に適切な処置を」
「ええ」
女性陣が突然の指示に従い、男が担いでいた女──スペランツァを別室に運んだ。
「さて、ロボティクス・アルマトゥーラ」
「俺の、名前を……!?」
「《私の指示を聞きなさい》。軍事国家イリオス王国から貴方はなぜ、この大陸へ移動をしたのか答えて下さい」
「え!? 何で、イリオスから来たって……っ!?」
……まさか、効いてないのか?
声は聞こえてるはずだ。なのに神の贈物が発動しない。
「イリオス……だと」
レアーレはますます警戒を解かなくなったし。
鑑定眼で近くに来た時から何となく監視してたけど、イレギュラーが重なり過ぎてる。
これは、色々と検証の必要がありそうだ。
▽
荷馬車に必需品を詰め込んで出発したのは三週間前の事。
俺達はビルポタス・カルメロルツ領に入った。
改めて思ったがこの世界、関所のようなところは国境に設置されてないらしい。
基本デカい街にだけあった。
小さい街とか村は素通りできたし。
カルメロルツだけかな? 俺は他の大陸行ったことないし知らんけど。
「イリオスでは関所が無いところは見張りがその代わりをしているな」
「ほー、カルメロルツより危機管理がなってるね」
「何? 私がいた時はカルメロルツとそんなに変わり無かったと思うが……」
「あれじゃね? レアーレが神の贈物で暴れ過ぎたんじゃね?」
村を襲っていた兵士と捕縛に来た兵士とかを四桁も皆殺しにしたのが広まればそりゃ危機管理意識が芽生えるか。
「それじゃカルディッシュ出身の信徒からの報告も聞いたし、早速国落としと行くか」
今回もレアーレと神の贈物の重ね合わせ作戦だ。
俺がメイン。
レアーレがバックアップ。セカンドプランだ。
ただ、俺が神の贈物を掛けるのは道程にある街と王都だけ。
残りはレアーレが頑張ってくれる。
一応やり方としては信徒が御者する荷馬車にゾンビを乗せれるだけ乗せる。
で、各地にブワァーっと広がるだけ。
……相手側の気持ちになるとかなり悪質だな。
それにしても結構メシア教の黒き聖装束を着てる奴が多い。
良い感じに布教しまくってるね。ナイスナイス。
この世界……というよりこの大陸の人間はどんだけ縋りたがりなんだよ。
何だか闇深くて悲しくなっちゃうね。
あ、それは規模は違えど元の世界も似たようなもんか。いや、余計に悲しいわ。
「これは余計に世界平和を実現しないとダメだねー」
「思ってもない事を言うんじゃあない。信仰心を操りやすいとか、君はそういった事しか思ってないだろう」
「まあね。でも宗教ってただの集金システムでしょ? 全然タカってない俺の宗教はまだまだ健全よ」
「君の世界の宗教がどうなってるかは知らないが、この世界の宗教は表向きカルヴァーナしか存在してないからな」
「創設から長い事時間が経つと大体カルヴァーナみたいになるよ。あれよりはだいぶマイルドになるけど」
「人が集うとどこも腐るという事か」
「メシア教は俺がいる限りは腐らなそうだけど、いなくなって新規が上に登ってきたら間違いなく腐るね」
そいつらには神の贈物掛けてないし。
まあ、そんなもしもはどうでもいい。
「アリス、ソラス」
「む? いよいよか?」
「ぼくは、いつでも行けます!」
二人が俺の前に集合した。
「じゃあ、行こうか」
二人を連れて王都の大通りに出る。
賑わってるが明るい顔してるのはカルメロルツ人だけで、ビルポタス人はほぼ労働者階級だ。
より騒がしいところを見れば……。
「これは高過ぎじゃねぇか?」
「はっ、はい! 申し訳ありません! お客様にだけお安くしておきます!」
「はは、分かってるじゃねぇか」
「ひっ、ひぃ……毎度ありがとうございます!」
「また来るぜー」
植民エリアじゃどこでもこういう頭の悪い輩はいるんだよね。
俺とアリスは慣れて特に気にしなくなったけど、ソラスの方がピリピリし出した。
正義感が働いてるのか、それともただのエゴか……。
正直どっちでもいいけど、今離れられるとちょっとめんどくさい。
「ソラス」
「っ、でも……。す、すみません……」
「いいよ、止まってくれたしね」
さて、と。
俺は大通りの中心に立つ。
「──『神の示す道標に追従せよ』ッ!!」
俺の声は賑わう大通り中に響き渡った。
瞬間、先程までの賑わいは嘘のように消失した。
まるで人がいなくなったかのように、不気味なほどシンとした静寂が訪れた。
それじゃあ命じよう。
こんなの作戦とも言えないが、作戦開始だ。
「侵略者を引き摺り下ろして──旧王城にメシア教の旗を掲げよッ!!」
静かな空間に俺の声はよく響いた。
少しずつ物音が増えていく。
同時に人が地面を踏みしめてるからか地面が揺れてる。
地鳴りでそこらの窓ガラスがカタカタと音が広がっていく。
ビルポタス人もカルメロルツ人も足並みを揃えてみーんな王城に向かっていった。
「よし、狼煙は上がった。今まで明確に決めちゃいなかったけど、メシア教の本拠地はビルポタスでいいや。カルディッシュはやっぱノーランドが怪しいし……」
「貴様っ! 彼らに一体何をした!?」
怒号と共に赤の魔術『火炎弾』が飛んできた。
ゴォオオオ!
結構デカい火の玉がすごい勢いでソラスに迫ってくる。
「なっ!?」
声を上げた男と俺の直線上にソラスがいたからしょうがないとしても、やっぱり経験が足りてないんだろう。
突然の事でなのか足が竦んでる。
このままだとソラス死ぬな。
うーん。仕方ない。
「よっこいしょ」
グイッ。ソラスを俺の後ろに引っ張った。
瞬間、飛んできた魔術が俺に着弾した。
ドォオオオオオン!
「ま、マヒルさんっ!?」
思わず声を張り上げるソラス。
俺の後ろに移動させた甲斐あってかほぼ被害は受けてない様子。
大声を出せるくらい元気なら大丈夫だな。
爆炎で舞った土煙が晴れた時、ソラスは俺の安全を確認できたのか安堵の息を吐いた。
「む、無傷……だと!? 一体どんな手を……くっ、侵略者だとか引き摺り落とすだとか……貴様テロリストだな!」
突然攻撃を仕掛けてきたのはご存知、カルメロルツの騎士だった。
これは神の贈物の仕掛け漏れだ。
多分レアーレの神の贈物には掛かってると思うけど。
「テロじゃない。革命だね」
まあ、大きな括りで見ると似たようなものか。
「マヒル、どうする?」
「ちょいちょいアリスー、今はメシアね」
ソラスもだけど。
「アリスはソラスと待機。奴はランクA相当だから殺すには惜しい」
「ほぉう? ではそのようにするとするか」
「マヒル……? そういえば、半年ほど前に本国が召喚した勇者の中にそんな名前のがいたと聞いてるが……まさか!?」
「いやまさかじゃないが?」
察しが良過ぎるというか、連想ゲーム好きそうというか。
やっぱり名前晒すとまずいね。すぐバレちゃう。
バレたところでどうって話でも無いけど、予期せぬイレギュラーがバカスカ起きそうだから念の為対策してる。
「やはり貴様! カルメロルツに召喚された勇者だな! いや待て、マヒルの名を持つ者は死んだはずだ! なぜ生きている!?」
「声でかー。オッサン、《声落として》くんね?」
「ああ、分かった」
「おおー、随分と物分りがいい……あれ?」
俺は腕を組み、首を斜めに曲げる。
「………………神の贈物、使ってしまったのではないか?」
「? ……っ!? うおぁ、しまったっ!?」
「ちょっと抜けてるところも可愛いが、こいつはどうするつもりだ?」
「どうしよっかぁ……俺の神の贈物は一つの命につき一度しか命令できないんだよね」




