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無能勇者の烙印  作者: 汐倉ナツキ
第二章

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サンブルックス・カルメロルツ領②/人を支配するにあたって



「な、何よこれ……っ!?」


 強ばりながら息を呑む少女、レンカ・キサラギは恐怖した。

 目の前に連れられたカルメロルツから送られてきた駐屯騎士。

 彼はレアーレと呼ばれた中年の男に命じられるがまま鞘から剣を引き抜き、自らの腹を突き刺した。

 一突き。また一突きと。何度も、何度も、何度も。


「何やってんだよあいつ!? 金髪野郎の言いなりのまま自分の腹斬るなんて正気じゃねぇぞ!?」

「顔色も変わってない! まるで痛みを感じていないみたいだ! これが、あの伝説の……彼の神の贈物(ギフト)の力ってヤツなのか……っ!?」


 三人の顔色はどんどん悪くなる。




「私の神の贈物(ギフト)は死者を自在に操る能力だ」




 お、ボカした。

 まあ、ここで能力の全てを開示するのは馬鹿の所業だし、自明だったか。


「し、死者を操る……だって!?」


 青い顔のモジャ頭が復唱した。


「発動条件は──接触だ」


 ひゅっと息を呑む音が聞こえた。

 冷や汗をダラダラと垂らす三人は各々、先程レアーレに触れられた場所に視線を向けた。


「うわぁあああ!? イヤだぁあああ!? やっぱりオレ様達ゃ殺されちまうんだぁあああ!?」

「そんな……こんなところで……っ、わたしはまだ……何も……っ!?」


 三人は見ていた。

 レアーレが連れてきた駐屯騎士が気絶から目覚めた姿。

 下らない御託をごちゃごちゃと並べ立てた毅然とした姿。

 口数が減り、不自然に動かなくなった姿。

 そして途端に立ち上がり、レアーレに忠誠を誓ったかのように片膝をつきこうべを垂れる姿。

 それから冒頭に繋がる。


「私達は手を取り合う事ができる。そうじゃあないか?」


 しゃがみ込み、三人に顔を寄せるレアーレ。


「ひっ!?」


 レアーレから発せられる不穏な威圧感に涙目で怯むレンカ。


「ぎゃあああああ!?」


 ジョウガと呼ばれたやかましい男が悲鳴をあげた。


「お、オレ様の……う、腕がぁあああ!?」


 反射的にジョウガの腕を見るモジャ頭とレンカ。


「ひ、ひぃっ!?」

「こ、これは!?」


 ジョウガの腕は黒く変色し、肘から先が崩れ落ちていた。

 なぜ腕が崩れ落ちたのか二人には分からない。想像すらつかない。

 でも、一つだけ確信を持って決定付けられる事がある。

 この不可思議な現象を起こしたのは目の前で薄ら笑いを浮かべているレアーレであるという事。


「怯える必要は無い。これはただのデモンストレーションだ。ほら、彼の腕は元通りだろう?」

「嘘……どうして……!?」

「さっき確かに、ジョウガの腕は……っ」


 先程まで黒く変色していたジョウガの腕は綺麗さっぱり元の肌色を取り戻していた。

 そして崩れ落ちた事実など無かったかのように腕はくっ付いていた。

 あまりにも不気味な現象に理解が追いつかない。


「私達は君達三人の協力がほしいだけなのだ」


 三人は嗚咽を噛み殺し、ただひたすらに首を縦に振った。


「私達はとても良き仲になれると確信している。さあ、友達になろう」


 人を支配するにあたって最も効率的なものは──恐怖だ。




 ▽




 こんな回りくどい事しなくても俺の『神の御言(ヒプノシス)』を使えば一発で都合の良い奴隷にできたのに……。

 ストレスばかり与えて支配しても何かの拍子に反逆されるかもしれない。

 でも、俺の神の贈物(ギフト)で支配すればストレスフリーだ。

 余計な手間も掛からず俺達側ハッピー。

 余計なストレス掛からず三人側もハッピー。

 ハピハピライクな関係が築けた……はずだけど、この話はもういいか。


「で、君ら何で俺らを覗き見してた訳?」

「それはもっと早くに聞くべきだったんじゃあないか?」

「うるせぇ酒カス」

「だからっ、酒カスではっ、無いとっ、あれほどっ」


 プンスカしながらブツブツ言ってくるレアーレを無視し、三人の前に立つ。

 すでにアリスの神の贈物(ギフト)による拘束は解除させてるので、三人は地面に座り込んでいる。

 その表情は抵抗が無駄だと理解したらしく諦めの極地に至っていた。


「で?」

「わたし達はレジスタンスで……でも常に資金難だから時折盗賊業をやってて」

「人目に付かないところから街を出ようとしたらって流れね」

「はい……そうです……」


 レンカはグッタリしながら答えた。


「ふーん。レジスタンスかぁ」

「シン、このツテを利用しない手は無いな」


 アリスが俺を見ながら言うが、シン?


「……………………あ、そだね」

「君、名前が増え過ぎて自分が呼ばれた事に気付かなかったな?」

「そうだねぇ」

「そこで開き直るのか……」


 溜め息を吐くレアーレ。


「それはともかく、だ。センジ・サメジハマ」

「は、はい!」


 モジャ頭がビクッと肩を跳ねさせながら返事した。


「お前がリーダーだな?」

「そうですけど、何でそれを……?」


 何で名前も……。と呟くモジャ頭にピシャリと言う。


「お前が知る必要は無い」

「は、はい……」


 モジャ頭は力無く肩を落とした。


「そうだな。これからお前らには仲間のもとに戻ってもらう」

「え?」

「い、いいのか!?」


 喜色を浮かべるジョウガと反対にレンカは疑念を抱いた。

 この集団がわたし達をこのまま逃がす訳が無い、と。


「うん。だから、お仲間をレアーレに触ってほしくなかったら頑張ってお仲間を説得して俺達の軍門に下ってもらおうか」


 そして、その疑念は当たっていた。


「そ、そんな……っ」

「僕達に、仲間を売れと……そう言ったのか?」


 三人は目を見張った。

 よほど仲間想いだったらしい。

 途端に反抗的になってしまった。


「で、でもよ……それでオレ様達が助かるなら、あいつらも喜んで協力してく──ぶべっ!?」


 レンカに頬を殴られ、ジョウガは錐揉み状態で三回転しながら吹き飛んだ。


「バカな事言わないでよ! わたし達のミスで皆を巻き込むなんて……そんなのダメに決まってるでしょ!?」

「そうだ! ジョウガ、レンカの言う通りだ! なあ、どうか僕達だけで許してくれないか!? 覗き見したのは僕達だけで、仲間達は関係無いはずだ! この通りだ!」


 モジャ頭が土下座した。

 グリグリと地面に頭を押し付けて。

 俺達に誠意を伝えようと力強く頭を下げた。


「サメジハマさん……っ。わ、わたしからもお願いします!」


 レンカもサメジハマ(モジャ頭)の隣で土下座を始めた。

 ちなみに殴り飛ばされたジョウガは気絶している。


「我々が悪党のような感じになってるが……」

「やってる事は悪党そのものよね」

「黙れラベッタ」

「それで、どうする? シン」


 レアーレは俺に決断を迫る。が、聞かなくても分かってるだろお前。


「まず、君達にも分かりやすく教えるよ」

「「…………」」

「俺達はカルメロルツの敵。で、植民エリアを解放して戦力を増やして本国を滅ぼす。大まかにそういうのを目的にしてる団体な訳」

「「……っ!?」」


 目を見開く二人。


「そう、サンブルックスを実行支配してるカルメロルツにレジスタンスとして反抗してる君達にとっても悪くないはずなんだよ、この話は」

「で、でも……この大陸を全て支配したあの超巨大国を相手に、そんな事……できる訳が無い!」


 当時の戦争を見たのか参加したのか、顔を青くしたサメジハマは吠えた。


「俺は手始めにカルディッシュを解放した」

「カルディッシュ? カルメロルツのすぐ南にある……? デタラメを言うな! そんなの、できる訳が無い!」


 疑いの目で半狂乱気味に声を張り上げるサメジハマ。


「まあ確かに、実際目にしないと信じられないよね〜」

「黙れスマルド」

「ひゃあああ!? ごめんなさいごめんなさい!?」


 視線を向けるとスマルドは両腕で顔を隠しながら慌てて身を捩った。


「むむむむ……こいつらえらく反抗的だが、これからどうするつもりだ?」


 うん。情報を出す順番を間違えた。

 人を使うってのは本当に面倒だな……。


「ねえ、もう神の贈物(ギフト)使ってよろしい?」

「めんどくさがるんじゃあない」

「よろしくない! よろしくない! よろしくなぁあああい! 絶対ダメだぞ! こんなのいざという時ではないからな!!」


 えー、じゃあもうやる事は一つじゃんね。


「こいつら殺して仲間のもとに戻して感染。そっからアウトブレイク・王都させて、最後はパンデミック・サンブルックスで……」

「ファイナルアンサー?」


 確認するレアーレ。


「ファイナルアンサー。もういいや、めんどくせぇ」


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