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無能勇者の烙印  作者: 汐倉ナツキ
第二章

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カルヴァーナ教徒①


 建物の影からヒュンと風を斬る音と共に細く鋭利な暗具が飛んできた。

 その針先が俺の額を貫く──事は無くどこからか重低音が鳴り響き、針型の暗具は地面の深くに突き刺さった。


「ぐぁあああっ!?」


 建物の影から黒きフードを被った男の死体が表に倒れ込んできた。

 下手人は始末したか。

 アリスの迷いの無い迅速さは時として美徳だが、いささか手が早すぎる。


 それはそうと、まずはこいつらだな。


「どうした、事実を突かれ激昂したか?」


 挑発をするとまた暗具が飛んできた。

 アリスがまた叩き落とすが、姿を現さないという事は警戒されたか?


「蒙昧なる民草を騙し、財を搾り取り、見えぬ鎖で隷属している蛮族風情が。身の程を弁えず聖者の真似事とは、随分と思い上がったものだな」

「───ッ!!」


 明らかにブチ切れてるのに上手い事自制してる。

 最低限損得を計算する程度の知能はあるみたいだ。


「だが警戒し、相手の出方を待つだけの蛮族如きに遅れを取る俺では無い」

「お言葉ですけど、四方八方を囲まれてます。仲間になったという事で、私がやりましょうか? 任せて貰えるなら覚醒し、第二段階に到った私の能力の一端をお見せしますけど」

「あー、それはまたの機会にね。さて、じゃあ俺達から隠れてる者は全員──《俺に従え》!」


 はい。制圧完了。

 鑑定眼で念入りに確認しても抜けてる奴は無し。

 どうやら全員で攻めてきてたみたいだ。


「全員姿を現し、俺に全てを献上しろ」




「「「ルクテ・ムア・カルヴァナ」」」



 襲撃に来たカルヴァーナ教徒は姿を現し、頭を下げ、祈るように両手を顔の前で重ね合わせた。


「全ては御身の御心のままに」


 最後のは集団の中で偉そうな奴が言った。

 どうでもいいから早よ隠してるもん全部吐き出しんさい。


 おお、出るわ出るわ暗具の数々が……というか想定してたより人数少ないな。

 先にカルメロルツを攻めて戦力でも減ったか?

 それとも偵察部隊だけがこの場にいるのか。


「マヒル君!」

「………………はぁい?」


 真昼……君?

 何だか久し振りに君付けで呼ばれた気がする。おかげで変な返事をしてしまった。

 最後にそう呼ばれたのって……いつだっけ。元の世界か?


「マヒル君の神の贈物(ギフト)って精神支配系の能力かしら!」

「何だか惜しい気もするけど、支配分けでカテゴライズするならまあ、そうかもね」

「という事は私の『時空間』、アリスさんの『引力』、レアーレさんの『霊魂』、マヒル君の『自意識』……滅多に見られない激レア能力が四種類も! スマルドさん! これってかなりの幸運では!?」

「んんん〜〜………」


 興奮ながらスマルドの顔を見るラベッタ。

 しかしスマルドは両手両足を縛られ、口を塞がれたまま振り回されていた為、疲弊してそれどころでは無かった。


「そういえば拘束されたままでしたね。忘れてました」

「んんん〜〜〜!」

「早く解放して、ですか。それは私の判断でどうこう出来るものでは無いですので……」


 ラベッタは遠慮がちに伺うように俺を見た。


「いや、解放していい。レアーレの能力ですでにマーキング済みだから、例え運良く逃げ切ったとしても、いつでも俺達の元に呼び戻せる。レアーレ、神の贈物(ギフト)の効果範囲は?」

「効果範囲? 旧ビルポタス王国領土内なら全域に感覚が届いたが……詳しくは今後にでも検証していくつもりだ」

「なるほどね」


 旧ビルポタス王国領土内であれば全域が効果範囲か。

 こいつ、順調に死体増やしてればビルポタスの魔王にでもなれたんじゃないか?

 ゾンビのステータスにまで影響与え始めたらそれこそ無敵になっちまうし。


 イリオスを攻めに行くまでにはレベルをもっと上げとかないと死ぬな。死にたくねー。


「スマルドさん、今から貴方を縛ってる縄を解きますが、決して逃げようとか考えちゃ駄目ですよ? 温厚な私とだけいた時と違って、今はこんなにも素敵な仲間が揃ってるんですから!」

「んんん〜……ぷはっ、えええ〜〜〜っ!? ラベッタ君、まさか本気で彼らと仲間になったとか言うつもりじゃ……」

「そのまさかです! 興味深い実験体が選り取りみどり……ふふふふふっ!」

「はは〜ん、ああ駄目だ。完全にハイになってるね……」

「効果範囲といえば! マヒル君の『鑑定眼』には『千里眼』の効果も含まれてるって言ってたわよね? その効果範囲って詳しく分かるかしら!」


 グイグイ顔を寄せてくるラベッタにドン引きしながら答える。


「分かるよ。だけど教えるのはまた今度」

「なんでですか!?」

「目の前の奴らの主力部隊があと五分もすれば到着しちゃうからだね」

「精密な予測……現代の魔導具での再現は不可能。まさしくオーパーツともいえる技能ね。ふ、ふふふふふふっ!」


 自分の世界にトリップしたラベッタ。

 彼女を現実に戻すべく「ラベッタ君!」とスマルドは強く肩を揺さぶっている。


「マヒル、まさかとは思ってたがあえて訊くぞ」

「なによ」


 真昼への献上品を見ていたレアーレは声を震わせながら言った後、ゴクンと唾を飲み込んだ。

 そして再び口を開く。


「まさか宗教を創った訳じゃあ無いだろうね……?」

「ん? 言ってなかったっけ?」

「言ってないが!?」

「自己紹介でほら、今はメシアで通してるとか言ったと思うけど」

「メシ、ア……?」

「俺達以外の搭乗者は皆俺を敬ってただろ? メシア様ってさ」

「メシア、様ぁ……?」


 レアーレは「訳が分からない」と顔を顰め、ガシガシ頭を掻く。


「酒カスのレアーレが知らぬのも無理は無い。そこは信用の差というものだ!」

「いや違うね。普通に言い忘れてただけだね」


 真昼とアリスからの扱いを不憫に思ったラベッタは一つ提案した。


「収集した噂話からでよろしければ私から説明出来ますけど。状況も状況ですし、短くでなら」

「本人から訊けばいいだけの話だが、余計な一言を添えられそうだからな……ラベッタ、頼むよ」

「はい」


 返事をし、説明を始めた。


「数ヶ月前のカルディッシュの北の地に天候を操り、民に恵みをもたらした一柱の神が降臨しました」

「神、だと……?」

「その神は全盲にして全てを見通すと云われ、要人から只人まで遺憾無く善事も悪事も見ていると。子を殺し、悪事に手を染めなかった善人を殺し、只人を食い物にしたカルメロルツが起こす惨状に嘆いた神はカルディッシュに知恵を授け、自らを先頭に置き、合わせて三〇の日の内にひと時の平和を実現しました」

「何だそれは……現実の話なのか……?」

「それからカルディッシュは独立を宣言し、メシア教を国教と定めたそうです」


 レアーレがこっち向いた。

 ダブルピースしてあげたら苦い顔してガリガリ頭を搔き始めた。

 これまでの会話に度々出てきた技能『鑑定眼』があればやれない事は無さそうだが、およそ一月で国を落としたと訊くと中々に信じ難いとレアーレは再び俺を見る。


 俺が腕を組んで「寝る間も惜しんで凄い頑張った」と胸を張れば、レアーレは疲れた顔で額に手を当てた。


「神話でも訊いてる気分だったぞ。神を騙るとは……私と出逢う前はそんな事をしていたのか」

「ちなみにだけど厳密に言えば宗教を創ったのは俺じゃなく、勝手に信仰して勝手に俺を祀り上げた自称信者達だから。俺じゃないから」


 そうなるように誘導はした。

 したにはしたけど、最終的な結論は自分達で出してたから。


「それでアルミスのカルヴァーナ教が新興宗教の本丸であるマヒルを狙って来た訳だな」

「アルミスが信仰する神は懐が狭くていけねぇな」

「唯一神を崇める人間は過激で、極端に走り易いからな」

「まあ、これからそいつらを俺の信者にしてカルヴァーナ教を内側から壊させるつもりなんだけどね」

「悪魔か君は」

「本当の悪魔は信者を財運び来する家畜として隷属するアルミスだね」


 あまりの呑気さにレアーレは溜め息を吐いた。


「神を盾に堕落した者共に神の審判を下してやると言ってるんだ。光栄に思いこそ、是非も無いだろう?」

「君、傲慢の化身ってよく言われないか?」

「神、となら言われたな」

「絵に描いたような傲慢さだ」


 苦笑いを残したレアーレは献上品を見に戻った。

 その時、そういえばと思い返した俺は魔女っ子の名を呼んだ。


「ルーシア」

「は、はい……」

「君は知ってはいけない事を知ってしまった」


 ビクッと肩を震わせたルーシアは本能的に感じ取った。

 自分の於ける状況がすこぶる悪い、と。


「だ、誰にも話しません! あたしはずっとマヒルさんの味方です!」

「そうか。じゃあ意思だけは残してあげるよ」

「───え?」




「汐倉真昼が命じる」



あと十二話で第二章終わりです。

第一章から何かと蛇足やら話数やら何やらが多いので全部書ききってから全部書き直します。

思いついては書き殴るスタイルだとヨクナイ。

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