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無能勇者の烙印  作者: 汐倉ナツキ
第二章

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スマルドの助手



 こちらを煽るマヒルと呼ばれた隻眼の少年をまず行動不能にした。

 次にアリスと呼ばれた能天気な金髪の子。

 その次は短く切り揃えた金髪を後ろに流した中年男性。

 その次はルーシアと呼ばれた魔女っ子の女の子。

 最後は、可哀想だけど一〇歳前後くらいの子供を行動不能にした。


 手をグーパー動かした後、全員が地に伏したのを確認した私は、ラベッタ・ナルアは全身に廻らせていた魔力をゆっくりと霧散させる。

 そして疲れた顔で嘆息した。


「スマルドさん、いつも追手から逃げ切れてるからって油断しましたね。これは『黒髑髏の野晒(ノワールスカル)』から何度も逃げ切れたという成功体験が貴方を駄目にしたのかもしれないですね……」

「ん〜〜っ! ん〜〜っ!」

「何を言ってるか分からないですけど、とにかく拘束を外しますから大人しくしてて下さい」

「ん〜〜っ! ん〜〜っ!」


 溜め息を吐きながら拘束を外そうとスマルドに近寄る。

 それにしてもスマルドがうるさいままだ。

 早くしろとでも訴えてるのだろうか。




「───『再生』」


「っ!?」


 反射的にラベッタは飛び退いた。

 声の主は金髪の中年男性。

 目を向けると彼はすでに立ち上がっていた。


「気が付いた時にはすでに倒れていた。本当に驚いたよ。ラベッタ・ナルアといったか……。君の神の贈物(ギフト)の正体は何だろうな。時間支配か空間支配か、はたまた自身を加速させる能力か」

「一体どうやって……私が与えた傷の全てが影も形も無くなってますね……」

「私を警戒するだけ無駄だ。君の能力が何にせよ、君はすでに私の術中に嵌った」

「何を……っ」

「君が何をしようと私の勝利は確定した。君が私に触れた、その時からね」

「く……っ!」


 レアーレから溢れ出す不穏で重苦しいオーラがラベッタを威圧する。

 身体の芯から訴えてくる警鐘と冷や汗が止まらない。

 それでも逃走は選べない。


 なぜなら自分はスマルドの助手なのだ。だから───。


「はいストーップ」

「っ、え……っ?」


 今度はマヒルが起き上がっていた。

 でも、地面に座り込んだままの様子からして戦闘に参戦する意思は見られない。


「………………ふう、マヒル。私を頼らず回復の祝符を使うとは……高級品だろう? それは」

「まーね」

「確かに一度触れれば即死と傀儡化の発動条件が満たされるが……少しは私を信用してくれれば良いものを」

「レアーレに触られるのはちょっと抵抗感があってだね……この件に関してはやっぱり信用とかそういう話とは別の話だと思うよ」


 マヒルは腕を組んで呑気に「うんうん」と頷いた。

 レアーレと呼ばれた男の発言にラベッタは目を見開いた。


「ま、さか……っ!?」

「何ていうか、利口だな。レアーレの発言がブラフである可能性とか考えないのか?」

「貴方が彼に触れられないようにしてるのが、発言の真実味を厚くしてるんです」

「その発言自体がブラフだとは思わないの?」


 マヒルと呼ばれた隻眼の少年は私の行動を抑えたいのだろうか、抑えたく無いのだろうか……。


「疑って掛かって死ぬのはごめんです。私はスマルドさんの助手ではありますが、忠誠とか、そういう面倒な感情は抱いていませんので」

「なるほど? という事は少しでも勝てる可能性があれば突っ込んで来てたんだな」

「……その人、一応は上司ですから」


 アリスがむくりと起き上がった。


「む。話は終わったか?」

「あんまり」

「むむむ、マヒル達があっさりと倒されたから私も便乗してみたのだが、その必要はあまり無かったか?」

「俺はアリスの全力を知らないから何とも言えないなぁ……必要無かったかもしれないし、必要だったかもしれない。神の贈物(ギフト)って使い方次第では相性ゲーみたいなとこもあるからね」


 ふむと顎に手を添えた後、アリスは痛みで気絶したソラスとルーシアを乱暴に叩き起した。




 ▼




「最初から私に勝ち目は無かったという事でしょうか……」


 ラベッタは諦めた様子で荷馬車の荷台に腰掛けた。


「いや、一撃で殺されないか割とビビってたよ。俺はね」

「貴方が一番余裕そうでしたけどね」

「ブラフよブラフ。弱気になると相手が付け上がるじゃん」

「魔眼の話は……?」

「それはガチ。ステータスプレートでも見る?」

「……あとで見せて下さい」


 そう言った後、ラベッタは何度目かの溜め息を吐いた。

 真昼は苦労人なのかなと思ったが、だとしてもどうでもいいかと思考の外へ追いやった。


「あ、ちなみにレアーレ。君、いい線いってたよ」

「いい線……? ああ、ラベッタの神の贈物(ギフト)能力の考察の件か」

「マヒル! 正解はなんだったのだ!?」


 アリスがレアーレの前に陣取って割り込んできた。


「簡単に言うと時間支配が正解」

「やはりか……時間が飛んだと思ったんだ。私の勘もまだまだ捨てたものじゃあ無いな」

「いや、別に時間は飛んで無いだろう。結構速く移動してはいたがな」

「なんだと?」


 あー、やっぱアリスには見えてたんだ。

 レベル上げると動体視力も化け物じみた感じになるのかな。


「ラベッタがやったのは神の贈物(ギフト)の付属効果というか、応用だな」

「むむ、時間支配の応用?」


 アリスは可愛らしく小首を傾げた。

 その際アホ毛も似た挙動をするのはマジで何なんだ。


「結論から言うとレアーレの考察した三つのどれかじゃなくて、三つの全てが正解」

「む? ああ、だから時間支配の応用という事か」

「そ。特定の空間内の時間を操る能力の応用で、自分の体感速度と実際に肉体が動かせる速度の上下を操ってたんだよね」


 周りの時間を停めればそんな面倒な使い方しなくて済んだはずなのに、それをしないという事は出来無いという事か?

 それとも、その使用方法はリスキーなのか……。

 どっちだろうね。どっちでもいいけど。


「なるほど、だから一撃で殺されないか心配してたのか。他人の時間も自由に操れるなら胎児以前にも戻せるし、寿命まで細胞の分裂を進める事も可能だろうからね」

「……神の贈物(ギフト)って無法だよね」

「マヒルはそればかりだな……気持ちは分かるが」


 レアーレは溜め息を吐き、ガシガシと頭を搔く。


「ただの『解析眼』なら、神の贈物(ギフト)の存在は見抜けても、その能力までは見抜けない。貴方の魔眼は新種です」

「そうか」

「その、報酬はスマルドさんが言い値でお支払いするので、都合の良い時でいいから研究させてもらえないかしら! 未だ世界に確認されてない魔眼『鑑定眼』。片目を無くしてるのは残念でならないんだけど、とにかくその全てが……私、気になります!」

「……そうか」


 ラベッタ・ナルア。

 まさかこいつ、スマルドと同類か?

 宝物を目の前にした少女のようにキラキラと瞳を輝かせて、穴でも空くのではないかというくらい俺を凝視している。


 少し厳密に言うと俺を実験動物のように見てきてる。

 褐色美人に興味を持たれるのは悪くないが、スマルドと同じ視線を向けられるのは不愉快に変わりない。


「では、貴方の事情を交渉のテーブルに載せましょう!」

「なに……?」


 刺すような鋭い視線を向けられたにも関わらず、ラベッタは輝く表情を変えずズイッと真昼に顔を寄せる。

 具体的に言うと間近で開いた右目をジーッと見ている。


「おい近い」

「あら、ごめんなさい」


 ラベッタは一歩下がり、真昼に向き直った。


「では手短に。スマルドさんは必ず説得します。それに、私を加えれば進捗状況は格段に上がります」

「やってもいないのに、随分と自信満々だな」

「幸運な事にスマルドさんと違い、貴方の望みが私の専門の一つだったので」

「………………」

「だから、スマルドさん共々私を仲間にして下さい!」


 欲望に忠実と言えばいいのか、何と言えばいいのか。

 いずれにせよ戦力にするも良し、俺の最終目標に利用するも良し。

 レアーレの能力で縛った状況下でなら下手な事は出来無いだろうし……。


「マヒル!? まさか断る訳ではあるまいな!?」


 相手が比較的友好的な神の贈物(ギフト)所有者とあって、アリスは問答無用で仲間にしろと強い視線を向けてきた。


「あー……? んー……まあ、そうだな。ラベッタ、オッケーだ。お前を仲間として歓迎しよう」

「ありがとうございます!」

「諸々は落ち着いてからゆっくり擦り合わせるか」

「はい! お願いします!」


 この女、悠長な奴だな。

 だが、本職が研究者であるのなら是非も無いか。


「マヒル」

「ああ、捕捉してる。ついに俺の元まで辿り着いたか───詐欺人共が」


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