王都到着と襲撃
サンブルックスの王都は他の王都よりも巨大な防壁で覆われていた。
それ以外は他の国とあまり変わりない。
同種の人が住んでる場所だからかね。
つまらないくらい代わり映えしないね。
もう一個の荷馬車に搭乗してた奴らはすでに情報収集を始めてる。
俺達は人気の無い馬車置き場で休憩中。
基本は行商人について移動する奴が多いみたいで、自分の馬車を持つ者は少ない。
だからこの安くない有料の馬車置き場には俺達の荷馬車を除いても馬車が少ない。
ちなみに魔女っ子ルーシアは残念ながら冒険者になれなかった。
全然動かないまま試験終わっちゃったからね。しょうがないね。
「そもそも冒険者である事が身分を証明する事にどう繋がるのかがよく分からん」
「冒険者ギルドの運営は各国家で支援している。冒険者ギルド自体は国営じゃあ無いが太い繋がりがある」
「ステータスプレートには、ナンバーが振られてます……それで受注した依頼や達成率、受注頻度などを管理してるので……」
「過去を追跡する事も出来るのか。なるほどね」
それは冒険者としてまともに活動してる奴限定だろうと思ったところにソラスがまた追加情報を出した。
「冒険者はノルマがあります……一年に一度は依頼を受けないと冒険者ギルドから、除名処分されます」
「その情報も各国に拡散されてステータスプレートが使い物にならなくなるって事ね」
「……それらは基本情報として受付の子が説明してくれていたが?」
「話長過ぎて半分以上訊いてなかった」
「君は途中からアリスと戯れてたな、そういえば!」
レアーレは額にピキピキと青筋を浮かべる。
「それはそうとあの娘だが、いつまで放置するつもりだ?」
アリスが耳打ちしてきた。
「あー、害は無さそうだから放置してたけど……」
流石に王都まで来ると荷物に紛れて不法入都カマしてるもんな。
「害は無い、という認識は正しい。あの子には魂の穢れというものが皆無だ」
「レアーレは人に対してそういう認識の仕方なんだな」
「魂の穢れとかはどうでもよい。問題はあの娘が作戦の邪魔になるのでは無いかという事だ」
アリスはアリスなりに心配して言ってくれてるようだが、一つ気になる事がある。
「あの子、アリスより一歳歳上だよ」
「なぬっ!!?」
アリスは雷に撃たれたかのようなショックを受けていた。
「あ、あの身長で歳上……だと!?」
「身長の伸びって個体差あるからね。成長期過ぎてるからあの子は一生アリスより身長低い歳上だよ」
「そこまで高くない身長の私より身長が低いあの娘が歳上……」
ちなみにアリスの身長は一五〇センチ。
この世界で見てきた女の身長からすると年齢の割には低い方ではある。
「う、ううう……」
そんなこんな話してたら荷馬車の方から唸り声が訊こえてきた。
「うにゃああああああっ!!」
荷馬車に置いてある荷物の中から猫のような叫び声を上げた、野生のルーシアが現れた。
見るからに凶暴な様子だった為、真昼は即座に頭を掴み荷物の中に押し戻した。
「うにゃあああああ……」
「さあ、あるべきところにお帰り」
「……じゃ、無いです! ナチュラルに戻すの止めて下さい!」
ルーシアがぽこぽこ殴ってきた。
けど筋力が低くて全く痛くない。
俺の耐久がレベルと共に多少上がったってのもある。
「君はマ……シンとペアだった子だな」
マ、シンって機械みたいに言うな酒カス。
「なぜ我々に付き纏ってきたんだ? わざわざ荷物に紛れてまで」
「うっ……そ、それは……」
レアーレの問い掛けにルーシアは目を逸らす。
そして気まずそうに語り出した。
要約すると、親元のようなところから追い出された。
何をするにも冒険者になるのが一番良いと訊いたから冒険者になろうとした。
試験にまで漕ぎ着けたのは良かったが、自分の番になる前にレアーレのオーラに当てられて身体が竦んで動けなくなってしまった。
結果、不合格になって冒険者にはなれなかった。
「だから俺達に付いてきたって事?」
「はい! だからシンさん改めマヒルさんに責任取ってもらおうかと思いまして!」
「………………は?」
いや、偽名を本名に改められた事は特に疑問に思わない。
王都に来るまで荷馬車の中で皆に何度も本名の方で呼ばれたからな。
俺が疑問に思ったのは後者の発言の方。
「何で俺が責任取らなきゃいけないんだよ。お前が試験落ちたのって酒カスのせいだろ」
「確かに私の責任もあるにはある」
「ほれ本人も認めてる。だから責任は俺じゃなく、レアーレに取ってもらいなさい」
「サラッと私に押し付けるな……」
「で、でも……マヒルさんはあたしのペアだったのに……あたしを放置して試験に挑んでたじゃないですかぁ……」
理由を述べながらルーシアは潤んだ瞳を向けてきた。
見てると庇護欲を掻き立てる魔性の瞳。
「いやまあ確かに放置したけど、試験中にボーッと突っ立ってるのが悪いと思わない? 自分の非は無視して人に責任を押っ被せるのは違うんじゃないの?」
「あ、あうぅぅ……」
「真面目に反論するのか……この子、そろそろ泣くんじゃないか?」
「な、泣きません! あたしの涙は師匠の元で枯れ果てましたからぁ……」
「そ、そうだったのか……」
レアーレが何か地雷踏んだっぽい。
「あたしは冒険者以外の生き方が分からないんです! 試験は一度受けたら別の冒険者ギルド行かないと三ヶ月も再挑戦出来無いですし……お金ももう尽きかけてますし……」
「なるほど、それで無断で無賃乗車してきたという事か」
「はいっ!」
「はいじゃないが?」
この子、ポジティブなのかネガティブなのか分からんな。
これが女の泣き落としってヤツか。
「あたしはマヒルさんがいいんです!」
「ほら、女の子がここまで言ってるんだ。責任を取ってあげるといい」
「黙れ酒カス」
「本当にマヒルさんがいいんです! ……だって、レアーレさんは怖くて無理ですぅ……」
「うっ!?」
無理とまで言われたレアーレの胸にグサッと刃物が突き刺さった音がした。
「魂に穢れが無い子に怖がられるのは純粋に胸が痛むな……」
「ほら、女の子にここまで言われてんだ。素直に謝って責任取ってあげなよ」
「喧しい! この子に対する責任は君だけのものだ! 軽々しく他人に渡そうとするんじゃあない!」
「う、うにゃあぁぁ……」
レアーレの怒鳴り声に怯えたルーシアが縮こまってしまった。
「オッサン……そんな大声上げちゃ怖いって」
「くっ、女子供を怖がらせるのは紳士の所業では無い……」
「俺とアリスもまだ子供ね。配慮してね?」
「喧しい……っ、喜べ、君達は特別だ……っ」
「わー、こんなに嬉しくない特別は初めてかもー」
口をヒクつかせるレアーレに真昼は楽しそうに言葉を飛ばす。
それがレアーレの額に浮かぶ青筋を増やす事となるのだが、真昼は気にしない。
「……む? 私の運命よ。話の途中だが──釣れたぞ」
アリスが北の空に視線を向けた。
言われてから鑑定眼で広範囲に視界を拡大した。
「ああ、捕捉した」
白衣を羽織ったラテン系褐色美女が魔導具を使ってこっちに飛んで来てる。
当然だが飛行速度はアリスより格段に遅い。だから捕捉出来たってのもあるんだけど。
「アリスはスマルドが逃げ出せないように押さえてろ」
言いながらいつでも剣を抜けるようにスタンバイする。
「むむむ? 白髪メガネの魔導具は全て没収したし、手足を縄で縛ってるではないか。これ以上の措置が必要か?」
「あの女の神の贈物はそれほど厄介なんだよ。気を抜いたらスマルドを奪われて、もしかしたら全滅するかも」
「なにぃ!? そんなに強力な能力なのか!?」
「あんな能力もあるのか。というかアリなのか……。やっぱり神の贈物って、無法だよね……」
俺とアリスの表情の変わりようにレアーレとソラスも戦闘態勢に移った。
「ソラスはスマルドの後ろにでも隠れてな」
「で、でも……ぼくだって役に立てます!」
「マヒルの考えがあるのだ。貴様は素直に従うがよい」
アリスの冷たい視線にソラスは不満そうにしながらも折れた。
「分かり、ました……」
「その意気や良し……って言うには相手が悪過ぎるんだ。今回は隠れてろ」
「今回は……はい……」
今回もだろって言いたそうな顔だが、生憎と今お前を無意味に潰されると色々考えてる計画がパーなんだわ。
いや、でも潰されてもレアーレが『蘇生』するからワンチャン戦わせるのもアリか?
でも負け方次第では立ち直れなさそうだからなぁ……。
そうなったら頭叩いて治るようなもんでも無いしな。
さっき出した指示通りでいいか。さっき出した指示通りでいいな。
そして僅か数秒後、褐色美女を肉眼で捉えた。
「スマルドさんの救難信号はここですね。という事は、貴方方がスマルドさんを誘拐した犯人、という事でしょうか?」
「そだよー」
「随分と軽いんですね。そんなだからスマルドさんがSOSを発信した魔導具に気付かないんです」
褐色美女は落ち着いた口調のまま厳しい目付きで俺を見てきた。
「えっと、まさか俺らが馬鹿だからお前がここに辿り着けたとか勘違いカマしてる?」
「負け惜しみですか? スマルドさんが逃げ出してないところを見ると、どうやら他の魔導具は全て奪い取ったみたいですが……見逃しがあったからこそ私がここに辿り着けたのでは?」
「違うな。それは間違っている──ラベッタ・ナルア」
「っ!?」
自身の名前を言い当てられた褐色美女のラベッタは目を見開いた。
「(スマルドさんは私の名を決して晒しません。例え拷問に掛けられようと……。となると私の名を知る手段は……)その目は、魔眼ですか?」
「あー、やっぱ分かっちゃう? 困ったなぁ……」
「推測するにあなたの目に宿っているのは『解析眼』、ですね?」
「え? 全然違う」
真昼の軽い返答にラベッタは眉を顰めた。
「現在世界で確認されてる魔眼は遠くを見通す『千里眼』、未来を視る『未来視』、過去を視る『過去視』、耐性が低い者を魅了する『魅了眼』、耐性が低い者を石化する『石化眼』、万物を透かせ視る『透視』、そして万物の理を解析する『解析眼』だけです。だからこそ貴方に当てはまる魔眼は『解析眼』でなければおかしいんですよ」
「へー、ひょっとして俺の事嘘吐き呼ばわりしてる?」
「ひょっとしなくても貴方の事は嘘吐き呼ばわりしてますよ」
ラベッタは訝しげな目で俺を見下してる。
嘘吐きの低脳が変な事言ってんじゃねぇって顔してる。
まだブラフ無しで正直に話してるのに何かムカつく。
「そりゃ見識が浅くて可哀想に。可哀想だからしょうがなく教えてあげるよ。俺の魔眼は『鑑定眼』だ」
「『鑑定眼』……?」
外見と見た感じの冷静さ通り、俺の安い挑発には乗らなかった。
ラベッタはただ、俺の魔眼の名前を復唱しただけに留まった。何かムカつく。
「効果で言うなら『千里眼』、『透視』、『解析眼』の三つの魔眼を使える……他の力を併用すると擬似的な『未来視』と『過去視』の二つの魔眼も使用可能だ」
「デタラメな事を言いますね。そんな魔眼、ある訳が無い」
「否定から入るのは研究者としてナンセンスなんじゃないの? まあ、確かに『鑑定眼』なのに解析以外の事が出来るのはおかしいんじゃね? とは正直俺自身も思ってるけど」
「………………」
呆れたのかラベッタは黙り込んでしまった。
そして反対に声を上げたのは部外者。
「マヒルさん! あの飛んでる綺麗な人を倒せばあたしを仲間にしてくれますか?」
「ルーシアちゃんステイ。今その話してる場合じゃ無いからちょっと黙ってなさい」
「うにぁあ!?」
俺の回答が予想外だったのか猫みたいな声を上げた。
ルーシアはめげずに再び何か俺に提案してこようとしたが、レアーレに促されると顔を青くしながら抵抗する事無く後ろに下がった。
あからさまに怖がられたレアーレはまたもやハートに傷を負った。いやガラス過ぎん?
「とにかく、俺の目の事は横に置いといて。お前はスマルドを手に入れたい」
「はい。いまさら確認する事でしょうか」
「そして俺はお前を手に入れたい」
「…………………………はい?」
ラベッタは背後に宇宙を背負ってポカーンとした顔を晒す。
だけどすぐに表情を戻し、俺の発言の意図を思案する。
背後から魔女っ子の「あたしはダメなのにその人はイイんですかぁー!?」と抗議する声が訊こえてくるが無視だ。
「(色々と浮かんだけど、今はどんな仮定を考えても無意味。今、私のやるべき事は……)貴方達を倒してスマルドさんを取り戻す一択ね」
「まあ待て、お前が取り戻したがってるスマルドは今、俺の手の中にある。無謀にも飛び込んでくるというのなら──スマルドの命は保証しない」
「……なんですか? スマルドの頭脳を求めて彼を攫ったのでは無いんですか?」
ラベッタは警戒して動かなくなった。
でも、しょうがないでしょ?
スマルドの命の価値は低いんだから。
というよりも、レアーレのせいで命の価値が安くなったと言うべきか……。
「確かに俺は賢者を求めていたが、別にこいつじゃなくてもいいんだ。何より俺達は──」
「何より私達は貴様と出逢えるこの時をずっと待ち望んでいたのだ!」
アリスがしゃしゃり出て来た。
そう、指示通り押さえたスマルドを引き摺りながら。
「そうですか……スマルドさんは私を釣り上げる為の餌、という訳ですか」
「んんんん〜〜〜〜〜っ!?」
ラベッタを視認したスマルドは口枷を着けられたまま叫んだ。
多分「助けて」って言ったと思う。
その様子を見たラベッタは溜め息を吐いた。
あんまり仲間意識無いっぽい反応だ。
「まさにそのとーり! ラベッタとやら、貴様とはレアーレとは比べ物にならぬほど強く惹かれるな!」
「勝手に比較して勝手に落とすんじゃあない」
「ウケる。アリス、餌と一緒にあんま近寄んなよ。十中八九対処出来無くなる」
「ところでなのだが、ラベッタの神の贈物とはなんだ?」
「それは…………どうやら今、披露してくれるみたいだよ」
説明しようとしたところでラベッタは白衣をはためかせ、魔力を全身に廻らせた。
あり? ひょっとして使うのは神の贈物じゃなく魔術か?
ラベッタも分かってやってるな。
この辺りに丁度人がいなくてよかったと見るべきか、悪かったと見るべきか。
「私に戦闘能力は皆無です。ですが、敵を無力化するくらいは訳ありません」
「で? 魔力を全身に回してるけど、魔術でも使うつもりか?」
「いえ、お望み通り、能力をお見せします」
マジか……。レアーレと同じく覚醒してるっぽいからちょっとキツいか。
散々挑発しといてアレだけどヤバいな。
「この使い方はおそらく誤った使用方法。だから魔力で全身を守らないとまともに使えない欠陥」
ああ、使い方がそっちなら対処しようがある。正直言って助かった。
「───『時の刻者』」
ラベッタはこっちが瞬きする間も無く、突然視界から消えた。
次の瞬間──。
「ぐはっ!?」
俺は襲い来る苦痛に耐え切れず地面に倒れた。
こーりゃ敵わねーわ。こいつ速過ぎ……。




