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無能勇者の烙印  作者: 汐倉ナツキ
第二章

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実技試験②



 真昼は剣を抜き、切っ先を試験官に向けた。


 それは試験開始の合図がすでに出されているが故の動作。

 隣にいたルーシアは多少持ち直してはいるが、未だにレアーレのオーラに当てられたままなので、先程より動きがぎこちなくなっている。


 真昼としてはルーシアが合格しようが合格しまいが至極どうでもいい事。

 スルーして試験官に意識を向ける。

 癒しだろうが癒しで無かろうが他人を慮る余裕は今の真昼には無い。


「やりやすそうな試験官はバルトロメオにビビって逃げちまったからな。正直、実力がかけ離れてさえ無ければフィジカルタイプを相手すんのが一番楽だし」

「うむ。トリッキータイプとテクニックタイプは小賢しい手ばかり使って来おるからな。奴らマジで油断も隙も無いし……」


 真昼の独り言に離れた場所で待機してるアリスが反応した。

 嫌そうな顔をして愚痴っているが、何か過去に嫌な目にでも遭っていたのだろうか。

 アリスから少しだけ怒気が漏れて隣にいたソラスは青い顔のまま唇をキュッと結び、身体をブルッと震わせた。


 俺の相手をする試験官はアリスとソラスの相手をしていた若い試験官。

 言動から滲み出るものも剣筋も実直で真面目。

 アリスの言ったようなトリッキータイプでは無い。

 小手先のテクニックタイプではあるけど。


 でも、テクニックタイプはその技術に慣れた相手にはほぼ無力。


「試験中の動作が全力で無いにせよ、俺に動きを見せた。なら、やれない事は無い」

「シンソウ……といったか。僕を怒らせて単調な動きを引き出そうとしてるなら無駄だ。その程度の挑発に乗るほど短慮じゃない」

「別に挑発したつもりは無かったんだけど……」

「そうか。なら、ただの自信家か、ただのお調子者か───試してみるかっ!!」


 試験官が右手で木剣を構え、突っ込んで来た。


「俺から見て左から攻撃を仕掛ける───と見せかけて右から攻撃か」

「なに!?」


 両手で握った木剣を斜めに滑らせ試験官の一撃を上へ逸らした。

 攻撃をいなされた試験官は驚愕の顔を晒す。

 俺を雑魚だと侮ってたのか知らないが、つまり一瞬の隙を見せたという事。


「りゃあああ!」

「くっ!?」


 間髪入れず真昼は鳩尾を容赦無く突き刺しにいったが、試験官は慌ててバックステップで回避した。

 遅れてビュオッ! と木剣が風を斬った音が響いた。

 狙いの鋭さに試験官は冷や汗を垂らす。


「まあ、そうだよな。剣道と違って完全に避けないと痛いじゃ済まないもんな……」


 俺は面を狙われたらそれが咄嗟なら首を左右どっちかに曲げて回避とかそういう避け方が癖になっちまってるからなぁ……。

 万が一にも実戦があればそれまでに矯正しないと死ぬか。死ぬな。


「デカい事を言うだけはあるな。初見殺しのフェイントのつもりだったが、よく見破った」

「フェイントは意味のある動作に紛れさせないと意味が無い。今みたいな使い方だと余計な動きをしてる分鈍い。邪念無しの全力で一撃を打たれた方がまだ脅威に感じるね」


 まあ、Cランク相当までレベルが上がってなければ初動の踏み込みさえ目で追えなかっただろうからね。

 元の世界基準だと滅茶苦茶速い。

 けど、この世界基準じゃ雑魚狩り専用の技術だね。

 同格から格上には効かない無用の技だ。


「────っ!?」

「何その顔……?」

「いや、師匠にも同じような事を言われたと、思い出しただけだ」

「じゃあ直せよ」

「それも言われた」


 苦笑いする試験官に「はぁ?」と眉を顰めた真昼はそのまま呆れた顔をする。


「昔、僕の剣は正直過ぎると言われた」


 え、何か知らんけど回想に入ろうとしてる? やめて?


「正直過ぎて剣をどれだけ速く振り下ろそうとも狙いが読まれやすい。僕より能力値が低い後輩にも試合形式で負け越す始末だ。だから───」

「だからフェイントを使って実力を誤魔化したか」

「っ、ああそうだ……能力値だけが上がっても技量が上がる訳じゃない。僕は自分の実力に限界を感じて師匠の元を去った」

「で、冒険者ね」

「そうだ。荒くれ者が集う冒険者なら誰かの技量に劣等感を抱く必要すら無くなると思ってね」

「ふーん」


 長々と訊いてあげたけど、こいつに興味が無い以上何を言われても割とどうでもいい。

 けど、無才が諦めて無駄な事してるのを見せられるのは何かイラつく。


「しっかり見てろよ」

「なっ!?」


 左足で地面を踏み込む。

 間合いを詰め、試験官の正面に飛び込んだ。


「りゃあああ!」

「正面からっ!? くっ、舐められたものだな!」


 木剣を身体の中心、正中線を目掛けて振り下ろす。

 俺の気迫に気圧された試験官は咄嗟に攻撃を弾く。

 しかし弾かれるのは想定済み。

 そのまま流れる木剣の遠心力を利用して右手を斜めに振り下ろし、右の胴を狙う。


「視線でバレバレだ! 見えてい───がはっ!?」


 試験官は左の胴(・・・)に衝撃を受け、二度バウンドしながら吹き飛んで行った。

 俺の目論見通り全力で右の胴を守ってたからね。しょうがないね。

 やったのは種明かしする必要が無いくらい簡単。

 そうだね、ただの視線誘導だね。


 下手な素人が同じような事をしても難無く見破れただろう。

 けど、『心』『技』『体』の熟練度を隈無く向上させた上、赤坂道場の扱きを乗り越えた俺の本気の騙し打ちを瞬時に見分けるのは『心』と『技』が欠けてる試験官にはゼッタイムリムリカタツムリ。


 能力値がある程度離れてれば二撃目もゴリ押しで弾けただろうけど、生憎と試験官の能力値は俺よりやや優れてる程度。


 Bランク冒険者になるって相当な努力をしたんだろうが、想定以上に目が弱い。

 目が弱いって事は目に入ってない部分に思考が及ばないって事。

 思考が及ばないって事は……まあいい。

 とにかくその体たらくなら後入りの後輩にも勝てないのは道理だね。


「フェイントってのはこうやるんだよ」

「くっ、庇った場所へ受けた気迫は本物だったはずだ……っ」


 試験官は左の脇腹を押さえながら苦悶の表情を隠す事無くヨロヨロと立ち上がった。


「そりゃ本物って感じるだろうな。全力では無いにしろ本気で右を狙ったんだから」

「ど、どういう事だ……?」

「俺はまだ未熟だからね。勢いと一緒に本気を見せ付けてそこを打つって錯覚させないと騙せないレベルだから稽古が足りてない。俺の先輩なら勢いに任せなくても淡々と騙してくるから目指すべき理想は高い。だから、お互いにまだまだだね」


 試験官がもう少し出来る奴だったらさらに駆け引きを追加してたけど、所詮はそのレベル。時間を掛けるだけ無駄だ。

 本当に小手先のテクニックしか使わなかったしなこいつ。


 そもそも剣筋が正直過ぎるってある意味褒め言葉のはずなのにこいつは何で卑屈になった?


 剣は才が無くとも基礎を鍛えれば誰でもそれなりになれる。

 それなりにすらなれなかったこいつはフェイントとか小手先の技に頼り切って基礎を疎かにしたんだろう。

 大体の事柄に共通する事だけど、急がば回れだ。


 小手先の技だって基礎が儘ならないと真価を発揮しない。

 基礎だ……基礎が全てを凌駕する!

 はるか格上には通じないけど。……現実って残酷だ。


「シンソウ……君は、合格だ」

「どーも」

「………………」


 合格確定したからアリスの元へ向かう。


「───シンソウッ!」


 その途中に後ろにいる試験官から声を掛けられた。

 面倒だなぁと思いながらも律儀に振り向く。


「……なんぞ?」

「師匠の言う通りに鍛錬してれば、僕はもっと強かったと思うか……?」


 たらればに意味は無い。

 そう冷淡に斬り捨てるのは簡単だ。

 だけど、才無き者の葛藤は理解出来るつもりだ。


「今よりはな」


 視線を切る間際のその一言を訊いた試験官は悔しそうな顔から一転。


「そう、か……」


 少し晴れやかな顔になった。




「シン、技能の眼は使わなかったのか?」

「使う訳無いだろ。腕が鈍る」

「片目のハンデをものともせずに勝ったのだな! 流石は私の運命!」


 少し晴れやかになった試験官の顔は一瞬でスンと曇った。




 ▽




「シン! やったぞ! これで全員身分証ゲットだ!」

「ミッショーンコンプリーツ! 今夜はパーチーだ。おめかしして来いよ」

「ふわぁーはっはっはっは! とんでもなく綺麗に着飾ってシンの度肝を抜かせてやるぞ!」

「ただでさえとんでもなく綺麗なのに、そんな事したら一体どうなってしまうんだ……!?」

「私から視線を離せないように文字通り釘付けにしてやる! ふわぁーはっはっはっは! ふわぁーはっはっはっは!」

「いやいや、私達にそんな暇があるのか……?」

「シンさんの目標を……確実にクリアするなら、速い行動が必須だと……思います」


 盛り上がる二人にレアーレが突っ込み、それにソラスが弱々しく追従した。


「え? 君達本気にしたの?」


 真昼は信じられない物を見る目で二人を見た。

 パキッとこの場の空気が凍る。


「ジョークだよ? 小粋ジョーク。パーティーなんてする訳無いでしょ? まったく、スフィアを見習いなさいよ」

「その『ふー、やれやれ分かってないな』みたいな顔と仕草をやめたまえ! なんかムカつくから!」

「あの、スフィアさん……落ち込んでます」

「え?」


 ピキるレアーレをスルーするが、ソラスの言葉は予想外だったので反応する。

 アリスの方を見ると壁に手を付けて項垂れていた。


「今夜はパーチーでは無かったのか……? 私も本気にしてしまったぞ……騙されたのを嘆くべきか、意図を汲み取れなかったのを嘆くべきか……。私はどう受け取ればいい……?」

「oh......取り敢えず受付行って軽い説明受けてステータスプレート貰うか」

「華麗な見て見ぬ振り、私でなければ見逃していたな」

「おいてめえそのネタどこで知った」

「ネ、ネタ……? 何の話だ?」

「あの、早く行きませんか……?」


 男三人はさっさと地下訓練場から出て行ってしまった。


「私は悲しい!」


 一人置いてかれたアリスは「うぉーーーーん!?」と嘆きながら真昼を追い掛けた。



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