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無能勇者の烙印  作者: 汐倉ナツキ
第二章

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実技試験①


 現在スマルドは屈強な六人の男に見張られたまま荷馬車に監禁されていた。

 圧が変わっただけで、状況は真昼達がいた時とほぼ何も変わっていない。


「ねぇ〜え? 逃がす気が無いのは分かったからさぁ……暇だし、せめて話し相手くらいはしてほしいんだけど……」


 荒縄で手も足も拘束されてるスマルドは暇つぶしさえ出来無い。

 魔導具を収納したマジックカードは三枚とも全て奪われたままで文字通りお手上げ状態なのだ。

 だからと見張りの男達に何度も呼び掛けてはいるものの、彼らは表情すら変わらない。


「はは〜ん。無理だよねぇ〜……はは、は……」


 なんせ、この六人は全員マヒル・シオクラに神の贈物(ギフト)を掛けられた意思無き奴隷だ。

 肉で人の形を作っただけのただの人形と化した彼らに何を呼び掛けようと無駄。


 スマルドは諦めてなんで捕まったのかを思い返した。




 ───勇者が召喚された!


 カルメロルツに来たのはそんな噂が訊こえてきたからだ。

 公的には一〇〇年は行われなかった勇者召喚の儀。

 それが自分が生きている間に行われたと訊いてはいても立ってもいられないのがスマルドという男であった。


『んふふふふふふ……会えれば十畳。あわよくば皮脂とか血液提供してくれたらなぁ……一番は研究に付き合ってくれる事なんだけど……』


 勇者の二人は召喚されてから数日しか城を離れてない。

 スマルドがカルメロルツにいると知られると無理矢理捕らえられて終身雇用させられる。

 これはスマルドだからでは無く、優秀な人材がカルメロルツ王国内を彷徨いてると王国側に捕えられるという前例がありまくるのだ。

 だから城にいる二人にはコンタクトを取れない。


『試しの森に痕跡が残ってたなんてね』


 情報を収集しながらもう一人の勇者の痕跡を追っていたら、滲んでほとんど消えかけている血痕を発見した。

 魔物と人間の血だ。

 血液サンプルを採り、解析しようとしたが薄過ぎて解析不能。

 空振りに終わった。


『もし生き残ったなら、カルディッシュを目指すかな? 痕跡は消されてるけど、三人の人間がここに来ている。勇者の血液が付着した日に僅かに残ってる痕跡もその日を境に完全に無くなっている。カルメロルツの騎士達も来てたらしいけど、この人達の反応が一番弱いなぁ』


 そんな事まで分かるなんて、僕の造った魔導具って本当に便利!

 ルンルン気分で内乱終了してしばらく経ったあとのカルディッシュに到着して、痕跡を探してたら皆が噂してるのを耳にした。


 ───我々の神が永らく続いたカルメロルツの支配を終わらせる。


 何を馬鹿な事をと思ったが、情報を集めていく度に噂が現実味を帯びていくのを感じた。

 突如現れた天候を支配する神。

 下す神託は人々を幸福へと向かわせ、瞬く間に信者を増やしたのだという。


『これは勇者の力だけじゃないねぇ……マヒル・シオクラ、早く会いたいなぁ』

『おい、そこの白髪メガネ』


 急に道端で話しかけてきたのは金髪の少女。


『ん〜? 僕の事〜?』

『貴様、神の贈物(ギフト)と関わりがあるな?』

『えっ!?』


 金髪の少女の確信を孕んだ力強い発言にいつもならのらりくらりと躱すスマルドは気圧された。


『やはりそうだったか。貴様から神の贈物(ギフト)所有者との引力を感じたからな。どうやらビンゴだったようだ』

『えっとぉ……』

『うむ。貴様にはその神の贈物(ギフト)所有者を釣り上げる為の餌になってもらうぞ』

『な、なにを言ってるか分かんないなぁ……───ぁああああああああああっ!?』


 シラを切ろうとした途端に足が地面から離れていた。

 内蔵が浮いたような嫌な浮遊感。

 地平線が一望出来る空からの景色。

 そして全身に襲い掛かる凄まじい重力。

 僕は襟首を掴まれて空に運ばれていた。エグい速度で。


『ふわぁーはっはっはっは! ふわぁーはっはっはっは!』


 少女は楽しそうに笑ってるけど、そんな余裕僕には無いぃいいい!?






「で、今に至ったって訳なんだよね……」


 それに逃げ出そうにも神の贈物(ギフト)所有者が三人になっちゃったし、能力も厄介なのしか無いし、これは完全に詰んでるね……。


 ラベッタ君、早く助けに来てぇ……っ!




 ▽




 実技試験が始まった。

 獲物は訓練用の木製の武具を貸してもらえるみたいだ。

 試験官を倒す目的であれば魔術は好き放題使っていいらしい。

 己の有用さを示せば良いって話だからね。

 魔力無い俺には完全に関係無い話だね。


「シン! 私達の勇姿をしかと見届けたか!?」

「見てたよ。ソラにも見せ場作ってあげててえらかったね」

「うむ!」


 アリスの頭を撫でてあげると犬のようにアホ毛を左右にフリフリして満足そうな顔をした。

 マジでどうなってんだそのアホ毛。

 身体の神秘か。


「ソラも、結構動けたんだな」

「今は亡き兄様の……ご指導のおかげです」

「なるほどね」


 ソラスはともかくアリスの能力値はランクA相当だからな。

 相手がランクBだと苦戦する方が難しいか。

 ともかくこれでアリスとソラスは身分証ゲット確定。


 そうこう言ってる内にレアーレのターンになった。

 レアーレは木剣を借りて試験に臨んでいた。

 流石にDランク最底辺がBランク相手に素手で挑めないか


「おいオッサン! 随分と良い身なりしてるが、冒険者になりに来たって事は失業でもしちまったのかぁ!?」


 レアーレの試験官は荒くれ者って感じのハゲ、強面、筋骨隆々の三拍子が揃ったステレオタイプの冒険者だった。量産型とも言う。

 アリスとソラスの試験官とは大違いだな。

 あっちは実直で真面目な感じだった。


「い、いくら貴方が試験官で強いからって……バルトロメオさんを馬鹿にしないで!」


 そんでもってレアーレのペアの子は完全に自分の世界に入ってるっぽい。

 冒険者になりに試験を受けに来たらイケオジと接点が出来た。

 かなりドストライクで自分好み。

 これを機に二人で依頼を受けたりして親密になって……とか思ってるな。

 今も「きゃっ、言っちゃったっ!」とか言って頬に手を当ててイヤンイヤン身体をくねらせてるし。癖強いな。


「さあ試験開始だ! 女に庇われたオッサンの実力を見せてくれよ!」

「フッ!」


 皮肉と共に放った試験開始の合図と同時にレアーレは木剣を振りかぶり突貫した。

 その切っ先は同じく木剣を握る試験官の右手に迫っている。


「あめぇ!」


 しかしランクの差は伊達では無い。

 隙だらけに見えた姿勢からレアーレの狙いを見抜き、迫り来る木剣を強引に薙ぎ払った。


「なにっ!?」


 木剣はレアーレの手から離れ、離れた後方にカランと音を立てて落ちた。


「…………っ」

「お前は隙を突いたと思ったようだが、それは違う。隙を晒してたのは余裕の表れ。レベルの低い奴相手に本気でやるわきゃねぇだろうがよ!」


 態度悪いな試験官。

 やっぱり冒険者ってこういうのばっかか。肌に合わないね。


「バ、バルトロメオさんを……馬鹿にするなぁ!」


 怒りで顔を赤くしたペアの子は両手を突き出し、詠唱を始めた。


「〝我らが主神に魔力を捧げる。我ら、神々に創造されし者。我ら、常世に到りし者。我らが緑星、我らが青星、我らが聖星に宿る世界の大いなる意思に従い、我らに魔術を行使させ給え〟」


 へー、これが魔術詠唱か。

 初めてちゃんと全部を訊いた気がするよ。

 俺が見てきた奴らの大体が高速詠唱して訊き取れなかったし、中には詠唱破棄する奴だっていたからな。

 多分だけど魔術士の中でも優秀な奴としかブッキングしなかったからかな?


「四〇回。お前が詠唱を終えるまでにお前を行動不能に出来た回数だ。支部長にちゃんと見てから評価しろって言われてなきゃお前は速攻不合格だった。運が良かったな」


 長ったるい詠唱は隙を作るから優秀な奴ほど対策してるって事ね。

 俺視点だと優秀じゃない人の方がレアキャラ化してるの凄いな。


「うるさいうるさいうるさい! 食らえ! 『水弾』ッ!」


 青属性の攻撃魔術『水弾』。

 野球ボールほどの水の塊を発生させ、相手にぶつける魔術。


「挙句の果てに繰り出してきたのは初級魔術ときたもんだ。この程度、避けるまでもねぇ」

「っ!? う、嘘っ!?」


 攻撃が直撃した。

 しかし試験官は宣言通り無傷。

 まるでそよ風でも当たったかのような涼しい反応を見せている。

 そしてペアの子は魔力が底に尽きかけて息を切らしながら膝を着いた。

 おいマジか。

 初級魔術一発でダウンとか絶望的に魔術士向いてないだろ。


「お前らは典型的な不合格者だ。女は弱過ぎるし、オッサンは動きは悪くなかったが年齢が良くないな。成長性が見込めねぇ」

「成長性が見込めない、か」

「ああ、楽に仕事にありつけると踏んで冒険者になろうとでもしたんだろうが、諦めて畑でも耕してろ」

「違うな。それは今の私から───最も遠い言葉だ」

「何っ、だ……っ!?」


 オッサンと侮っていた男から溢れ出る不吉を孕む不穏なオーラに試験官は顔を青くして考える前に本能で後退った。

 レアーレは正攻法では目の前の試験官に敵わないと諦めた。


 諦めた要因は能力値に差があり過ぎたのと、露骨に感じ取れる戦闘経験の差だ。

 本当なら使うつもりは無かったのだが、このままでは不合格になりかねなかったから仕方無く使う事にしたのだ。


「───レベル上げを怠ったツケがここに来て回ってきたという訳か」


 レアーレは試験官にゆっくりと歩みを進めていく。


「───反省しなければならないな」


 試験官はレアーレが近付いた歩数分、息を乱しながら必死に後退っている。


「───私の目的を達成する為にも」


 滝のように汗を垂らす試験官の背中が壁に当たり、逃げ場を無くす。


「───私は特殊技能だけで無く、己自身を進化させなければならない」


 レアーレはゆっくりと手を伸ばす。

 徐々に徐々にと迫り来る恐怖に堪らず試験官はついに音を上げた。




「ま、まいったッ! あんたは合格だ!」




 合格を言い渡されたレアーレは試験官に伸ばした手を戻し、微妙な顔をする。


「ひっ、ひぃいいいい!?」


 試験官は手を付き、脇目も振らずにへっぴり腰で逃げ出した。

 あっという間に地下訓練場から姿を消してしまった。

 試験官になるほどの男の面子を潰してしまった事を理解したレアーレは「悪い事したな」と頬をかく。




 レアーレの発した禍々しいオーラは逃げ出した試験官のみならず、この場の全員が恐怖を抱くに至っていた。

 真昼とアリスを除いて。


 例に漏れずソラスも息を切らしていた。

 直で自分に向けられたものでは無いはずなのに身体の震えが止まらない。

 動かない足を必死に叩き、平静を保とうとするが無駄に終わる。


 刻まれた恐怖はすぐに消える事は無い。

 オーラが霧散したあとでも真昼とアリスを除く全員が顔を青くしたまま立ち尽くしていた。


「よし、あとは俺の合格だけだな」


 そんな死屍累々な周囲の様子を気にも留めず、真昼は呑気にレアーレを指差し確認していた。


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