冒険者ギルド・サンブルックス領北方支部
はい。目的地に着いたよ。
道中に野盗や盗賊、山賊に襲われて多少のタイムロスが発生するのはもう仕方無いと割り切った。
それでもイラつきはするから神の贈物で支配下に置かせてもらったけどね。
この街はまさに異世界の街って感じ。
レンガブロックに囲まれた観葉植物はあるけど全体的に緑の無い田舎っぽい街。
うん。そんな感じだ。
文句ばっかりに訊こえたかもだが栄えてるし活気もある。明るい雰囲気は好きだ。
ただ、一つだけ気に食わないのはゴロツキがちょくちょく視界の中を彷徨くところかな。
ああいった荒くれ者っていうのは多分冒険者なんだろうけど、怖いからTPOは弁えてほしい。
せめて強面くらい隠せ。
こっちには子供だっているんだぞぅ!?
「マヒル、さっきから浮ついてるが、どうしたのだ?」
「そう見える? 別に普通だけど」
「む。だったらいいのだが……」
どうやら今の俺ははたから見たら浮ついているように見えるらしい。
別にいつも通りだと思うけどな。
「さて、この建物だ。場所によっては筆記試験もあるから、そこら辺も留意しておくんだ。マヒ……シンソウ」
レアーレが呆れたように名前を言い直した。
───シンソウ。
それが俺の偽名だ。
本名もよくない。
メシアは冒険者にならない。
なら、新しい名前が必要という事で偽名を作った。
と言っても音読み訓読みを逆にしたり削ったりしただけの名前なんだけど……うん。分かっていた。俺にはそういうのを考えるセンスは無い。
「俺の事はシンと呼んでくれ」
キリッとした右目で溜め息を吐くレアーレの姿を見る。
今はメシアじゃないから目隠しを外している。
本当なら眼帯があればよかったんだけど、残念ながらこの街には置いて無いらしい。
服装はそこら辺で買ったのを着ている。
擬態は完璧だ。
「スフィアもだ」
「うむ、シン」
彼女はアリ『ス』・『フィア』・ルー『ベ』ン『デル』クから取ってスフィア・ベデル。
俺より人の名前をしてる。
レアーレはセンスがいいなぁ。
反対にアリスを含めてシン呼びには皆微妙な顔をしている。
嘘だろ?
シンソウよりは人っぽい名前だろ?
アリスは人相付きで指名手配されてるから目立つ金髪を帽子で隠したりマスクで鼻と口を隠したりしている。
いや、目元だけでも美人って分かるの本当に凄いな。
「バルトロメオも」
「ああ、シン」
レアーレ・バルトラードから取ってるらしいけど、バルトしか合ってないよね。
ロメオってなんだ?
まあ、偽名だから必ずしも名前から取る必要は無いんだけど。
人相付きで指名手配されてるのはアリスだけで無く、レアーレもだ。
ただレアーレは丸いオシャレサングラスを付けただけの変装をしてる。変装舐めてんのかワレ。
「ソラも」
「はい……シンさん」
ソラス・エス・カルメロルツ君も俺と同じように名前を考えるセンスが無かったらしく、本名から二文字を取ってソラと決めていた。
ソラスがセンス的に一番の仲間だ。
ステータス全部が血液一滴で反映されるウィンドウ開発機と違ってステータスプレートを発行してもらう時は名前と職業は自己申告で受理されるらしい。偽装し放題じゃん。
そう思ったが、ソラスから補足が入った。
有能な人材は自分で顧客を見つけて傭兵したり国にヘッドハンティングされたりするから数打ちゃ当たるの精神で人を集めているかららしい。
例え犯罪歴がある者でも使えるなら何でも使うみたいだ。
正体を誤魔化さず堂々とこられたら流石に捕らえるらしいけど。
別に誰でも冒険者になるのは構わないけど厄介事抱えてる人はバレないようにしてねって事らしい。結局偽装し放題じゃん。
えっと、冒険者ギルドって国が連携してる公的機関なんだよね?
運営費も各国が捻出してるって話だけど……権力が集う場所にはどこにでも何かしら闇があるんだなぁ……暗い話はあんまり好きじゃない。
「あの、シンさん……入らないんですか?」
ソラスが確認してくる。
レアーレとアリスはすでに建物に入ったあとだ。
この建物の前には俺とソラスしかいない。
そういえばさっき筆記試験がある可能性もあるって言ってたような……俺は技能で文字を読めるだけで書けはしない。
もし筆記試験があったら名前すら満足に書けない俺はオワタ。
その時になったら両手をまっすぐ上げて諦めよう。潔く。
「入ろっか……」
「は、はい」
目の前の三階建てのデカい建物。
扉の右隣に設置されてる表札には『サンブルックス北方支部』と記載があった。
▽
「冒険者ギルドに酒場がある……なんで?」
「余裕のあるほとんどのギルド支部の一階は酒場になっていて収入源の一つになっているらしい」
「詳しいな酒カス」
「だっから……私を酒カスと言うのはいい加減やめないか……っ?」
「ふーん。カルディッシュのとこには無かったからなぁ」
額に青筋を立てるレアーレを無視し、辺りを見渡す。
「受付はあそこか」
「うむ。そのようだな」
「素知らぬ顔をしてるが君もだぞ!? アリ……スフィアっ!」
それもうミドルネームまで全部言ってるよね?
ファミリーネーム以外全部コンプリートしちゃってるよね?
誤魔化せてないよね?
「あの、目立ってます……」
レアーレが騒ぐからテーブルで酒盛りしてる冒険者達の注目の的になってしまった。
うーん。この中で常識人なのは俺とソラスだけみたいだな。
「ご新規様ですね? 冒険者ギルド・カルメロルツ・サンブルックス領北方支部へようこそ! 本日はどのようなご要件でいらっしゃいましたか?」
受付には美人の受付嬢が笑顔で応接してくれた。
ていうか正式名称長いな。
「私達は冒険者の登録に来た。今日はまだ受け付けてるかな?」
「はい! ちなみにここ北方支部では実技試験がありますが……」
「問題無い」
「では、こちらの用紙に氏名とご職業を記入してお待ち下さい」
「ああ、手数を掛けるな」
話はレアーレが全部やった。
頼りになるぞ大人。スマルドとは大違いだ。
それにしても氏名とご職業を記入って……改めて訊くと面白いな。偽装し放題じゃん。
早速レアーレとアリスが記入し始めた。
数秒もしない内にアリスの動きが止まった。
どうしたんだろうと覗き込むと職業の欄で止まってたらしい。
「流浪の傭兵……は駄目だが、流浪の傭兵が……いい……ぐぬぬぬぬ……」
アホの子は健在みたいだ。ウケる。
レアーレは記入が終わったらしくソラスにペンを譲ってた。
「アリス、アリス」
「む? マヒル、どうしたのだ?」
「もうシンプルに『剣士』でいいんじゃない?」
「む……仕方無いか。その通りにしよう……」
肩を落としたアリスに本題を話す。
「悪いんだけど、俺の分も書いてくれないかな」
「名前くらい自分で書けば……あー、そういえば異界から来たんだったな。うむ! 任せるがよい!」
「ホントーにありがとうね」
「言うな言うな!」
アリスは「ふわぁーはっはっはっは!」とお馴染みの高笑いを披露してまた俺達は注目を集めた。
代筆はありがとうだけどそれはそうと静かにしてくれ。
目元以外隠してもこれじゃいつバレるか分からんぞ。
▽
あの後、別のギルド員の女性に俺達は地下訓練場という広い空間に案内された。
「実技試験は北方支部に所属しているBランク冒険者との戦闘で合否を決めます! 勝利すれば文句無しで合格、負けても内容が良ければ合格になる場合もありますので、最後まで全力で戦って下さい!」
戦う相手はBランク冒険者ね。
能力値的には俺の方がやや劣ってる。
ただ搦手さえ使われなければやれない事は無い、か。
「私達は突発で登録しに来たのに、随分と試験参加者が多いみたいだが……」
「それな」
レアーレの言う通り俺達除いても参加者は二〇人いる。
ソラスの補足によると一日につき基本は多くて二、三人集まる。
今回のように人数が多い時は別の街から集団で来た時のケースが多いみたいだ。
納得した。
冒険者ギルドは各街にある訳じゃないからね。そりゃそうなるか。
たまたまタイミング的にブッキングしちゃっただけか。
よく見ると俺と歳が近い奴が多いし、サンブルックス北側の民は皆で身分証を求めてやって来た訳だな。
そう考えるとなんだか世知辛い。あー、大人になりたくねぇな。
「そういや二対一で試験官をリンチするのが実技試験内容だったな。時短だかで」
組み合わせは冒険者ギルド側からランダムで決められた。
アリスとソラスはペアになったらしい。
ソラスはちょっと嫌そうな顔してる。
どうやらアリスが苦手らしいな。
レアーレは見知らぬ女とペアになった……っていうかなんか女の方、顔赤くしちゃってレアーレにメロメロじゃない?
おいおいやめとけやめとけ。
レアーレは傍から見るとイケオジだけど妻帯者よ?
確かに商才あって狙い目で寡夫だけど村に残した墓に辿り着いたら奥さん復活するからね?
「……はは」
何言ってるか分かんな過ぎて思わず笑いが込み上げてしまった。
いやー、改めて神の贈物って無法だなぁ。
「貴方がシンソウ、さん……ですか?」
「ん?」
「わわっ!?」
偽名を呼ばれたから振り向くとソラスと同じくらいのチビッ子ガールが腰を抜かして尻もちをついた。
「えー、人の顔見るなり失礼じゃね?」
「す、すみましぇん……左目のところズタズタにされた跡あってビックリしちゃいましたぁ……」
「いや、まあ……初対面の男の顔面に斬り傷があったら流石にビビるか。俺でもビビるな」
「あ……えへへへ」
立ち上がったチビッ子ガールがトテトテと傍に寄ってきた。
何でか知らんが懐かれたらしい。
「そういや俺を探してたって事は、お前がルーシアか」
「はい! あたしがルーシアです! ルーシア・レイン!」
この魔女みたいなヨレヨレしたトンガリ黒帽子を被った黒いマントで身を包んだチビッ子ガールは長らく見なかった黒い髪をしていた。
けど、白雪の妖精のように可愛らしく整った顔立ちのせいで親近感は全く湧かなかった。
そりゃアジア顔じゃないもんね。しょうがないね。
試験を受ける他の奴らに黒髪はいなかった。
だから同じ黒髪の俺に懐いてるって事か? 知らんけど。
まあ、理由なんてどうでもいいか。
ともかくこの子が俺のペアらしい。
「よろしくルーシア」
「はい! シンソウさん!」
可愛らしい笑顔が眩しいしフレッシュだし、この世界来てから初めて本当の意味で癒されたかもしれん。
なんだこの小動物みたいな圧倒的癒しオーラは。
これが同い歳だなんて信じられん。一家に一台欲しい!
捨てたもんじゃないな。
この世界にまだこんな子がいたなんて───なんて可哀想に。




