幕間 カルディッシュ・カルメロルツ領攻略/その騎士は忠義に溺れる
これは、汐倉真昼がカルディッシュ・カルメロルツ領に到着してからの幕間。
これは、カルメロルツに忠義を捧げたとある男の物語である。
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初めましてだね。
僕の名前はバディ・アルベルト。
今は栄えあるカルメロルツの騎士として祖国の占領下にあるカルディッシュ・カルメロルツ領の治安を守っている。
───南の都・中央区域。
その場所こそ僕が担当している区域だ。
南の都はこの地の中でも一、二を争う忙しさを誇る。
北の都と南の都。
本国の真隣である北の都で騒ぎを起こすテロリストの気が知れない。
まあ、それを言うとここは本国の隣国。
だから南の都で騒ぎを起こすのもおかしいんだけど。
そして───突然起きた大規模テロリズム。
これまで起こされた小規模のテロとは比べ物にならない。
五つの都にいるおよそ全てのカルディッシュ人が参加した反逆行為。
突如として、国中から笛の音が鳴った。
そして、それが地獄への呼び声となったのは言うまでも無い。
「バディ、冒険者ギルドへ協力要請に行く。付いてこい」
「分かりました。ミッドマン騎士隊長」
「私共に手伝える事は何もありません。どうかお引き取りを」
民衆を含めた大規模で同時多発した暴動。
あるいは反乱。
あるいは謀反。
それらを鎮圧する助力を乞いに来た僕達に返ってきた返答。
それは僕達が考えすらしなかった拒絶の弁。
「ふざけるなギルドマスター! これはカルメロルツからの正式な要請と言ったはずだ!」
ミッドマン隊長は怒りを顕にした。
「冒険者ギルドと国家は不干渉が不文律。曖昧な取り決め故に冒険者ギルドをいいように使う国家もあります。しかし、南の都支部に所属している冒険者達の大半がカルディッシュとは無縁。彼らが貴方方に協力する道理はありません」
ギルドマスターと呼ばれた細身の男性。
冒険者になり、わずか数年でランクAまで上り詰めた英傑。
若年でギルドマスターに抜擢された才覚。
彼はミッドマン隊長から伝えられた要請を拒否した。
「冒険者達に無くとも、冒険者ギルドにはあるんじゃないのか!?」
「まさかとは思いますが、それは支援の話をしていますか?」
───支援。
冒険者ギルドは各国家が本部と連携し、その国々に配置されている。
世界中のほとんどの国が支援している。
支援が打ち切られれば、ギルドの運営が困難になる。
しかし、困難になるだけでギルドマスターやギルド職員達の手腕さえ確かであれば、支援は必須では無い。
そして第一に各国家が冒険者ギルド本部に拠出し、集まったプール金。
それら積み立てた資金は一年周期で報告される各冒険者ギルドの実績を元に分配される。
だけど、冒険者ギルド本部に国家が二度滞納すると向こう一〇年はその国家に冒険者ギルドを設置出来無い。
「……脅しのつもりですか?」
「それはそちら側の受け取り方の問題だろう。我々としてはどちらでも構わないがね」
「そうですか。では、今一度お伝えします。私共に手伝える事は何もありません。どうかお引き取りを」
「っ!? なぜだ! 貴様にも外の音が聞こえているはずだ! 外様と謳えば自分達には被害が及ばないとでも思っているのか!?」
「すでにこの辺りも戦場になっています。被害を被らないなんて、とてもじゃないですが思えませんね」
「ならばっ!」
ミッドマン隊長は粘った。
しかし、ギルドマスターの意思は固かった。
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「くそっ! 何なんだ、奴らは!」
「結局、協力要請は跳ね除けられてしまいました、ね!」
「ここのギルドマスターは曲者だが、北の都のギルドマスターは脳筋だと訊く。報酬も色を付けてる現状、拒否する選択を取る事はまず無いだろう!」
「それよりも問題は、南の都に蔓延るテロリストの質、ですね!」
「ああ、腹立たしい事に高レベルで多様な魔術と技能を修めている奴が多い!」
会話しながら攻撃を仕掛けてくる暴徒を鎮圧していく。
カルメロルツの騎士らしく、魔術で。
当たり所が悪かった暴徒は二度と心臓が動かなくなるが自業自得だ。
これは、この植民エリアを護る為の戦いだ。
命が惜しいなら、初めから従服していればいい。
その覚悟が無いのなら、初めから立ち上がるな。
「数週間前に創始されたメシア教。まさかこんなにも勢力を拡大していたとは、な!」
「しかし、行幸ですね! 外様とはいえSランク冒険者に依頼出来たというのは!」
「烏合の衆だった賊共が大規模な組織として連携を高めている。上もなりふり構わなくなってるんだろう! 業腹だがな!」
ミッドマン隊長が束ねる騎士隊は実力と実績がある。
妥協を許さないミッドマン隊長が質の高い鍛錬を毎日実施してるからだ。
「カルディッシュを解放せよ!」
「騎士を討ち取れぇ!」
「カルメロルツに死を!」
だから、相手がBランク相当の手練だとしても遅れは取らない。
高速詠唱し、ミッドマン隊長の無詠唱に追従する。
「『雷撃』!」
「『火炎連弾』!」
ミッドマン隊長の適性魔術は白。
癒しと神聖の白魔術だ。
そして、そんな白魔術だが攻撃に転化すると雷電を操れる。
ミッドマン隊長が繰り出した魔術『雷撃』は直撃すれば使用者の二ランク以下の者ならほとんどが痺れ、行動不能になる魔術だ。
それだけでも十分強力だが、一つ放つだけで付属して周囲にスタン効果を与えるのだから集団の相手からすれば溜まったものでは無いだろう。
しかし、今回の敵は隊長のワンランク下だからスタン効果が発生しようとも如何せん短い。
僕の、バディ・アルベルトの適性魔術は赤。
火と炎を操る赤魔術だ。
僕が繰り出した魔術『火炎連弾』は攻撃力はそこそこ。
だけど、攻撃対象に『延焼』の状態異常を発生させられる。
『延焼』とは書いて文字の通り、攻撃を受け燃えた者が触れる、また近付いた何かに燃え移る効果だ。
ミッドマン隊長が痺れさせ拘束し、僕が燃やしとどめを刺す。
なんて事は無い。いつもの必勝パターンだ。
「ミッドマン隊長! 指定区画の包囲が完了しました!」
「そうか! であればそのまま手筈通りに計画を進めてくれ!」
「分かりました!」
計画の経過を報告しに来た同僚は、そのまま早足で元いた配置に戻った。
「通信がジャミングされて全体の状況が掴みづらいが、テロリスト共に南の都は落とさせん!」
「はい! 愚か者共にカルメロルツの威光を知らしめてやりましょう!」
地響きが起き、僕達の今いる区画を巨大な壁が囲う。
黄の魔術で創り出された土壁。
その中にまんまと誘い込まれたテロリスト、メシア教徒は混乱している。
「あとは、奴らを一網打尽にするだけだ。バディ! 部隊を連れて先行しろ!」
「分かりました!」
僕は計画通りに部隊を引き連れ、テロリスト達に引導を渡しに行く。
「炎で牽制! ジワジワと追い詰めて確実にとどめを刺すんだ!」
熱気が充満していく。
テロリストの押し込まれたところに逃げ場は無く、一面が炎の海と化している。
目の前のテロリストは魔導具を使う集団と武具を使う集団。
魔術を使う様子は見受けられない。
蒸し暑い熱気にやられ、魔導具の大半が使い物にならなくなっているみたいだ。
そして、武具を持つ集団も暑さと熱さを痩せ我慢しているのが見え見え。
やはり魔術士こそ至高。魔術士こそが優れている人種。
───だからこそ!
「緑の風魔術で炎を補強。劣等種の最後は燃やし尽くして焼き殺すに限る!」
テロリストを一網打尽にする計画。
それは予定通りに上手くいった───はずだった。
「っ!? な、なぜ!?」
仲間達の悲痛な叫びが土壁の中に響く。
僕達は土壁の上に待機していた仲間から魔術による攻撃を受けた。
それはあまりにも不意打ちだった。
運良く回避出来たのは僕を除くと数人。
回避出来無かったほとんどが赤の炎魔術でテロリストの動きを封じていた者達だった。
「………………………………はぁ??」
土壁の上に佇んでいる下手人はカルメロルツの鎧を身に纏っている。
彼らは間違いなく味方のはず。
そのはずなのに、そんな彼らから攻撃を受けた。
そしてその中には───。
「ミッドマン……隊長……!?」
先程まで行動を共にしていた上司の姿に僕は困惑を隠せない。
「裏切ったのか……? 祖国を……」
焼け爛れたテロリストと騎士は断末魔と共に絶命した。
その様子をミッドマン隊長は穢らわしいモノを見るような目で見下ろしていた。
そんな姿を呆然と眺めていたら、ミッドマン隊長は僕の存在に気が付いた。
「バディ、生きていたのか」
土壁から降りてきたミッドマン隊長。
彼は僕を見るなり冷たい目でそう言った。
「ミッドマン隊長……なんで、僕達に構わず攻撃を……」
「|全てはメシア様の御心のままに《・・・・・・・・・・・・・・》」
「───え!?」
直接答えをぶつけられ、頭を殴られたような衝撃に襲われる。
カルメロルツの騎士がテロリストに負け気味だったのは察していた。
でも、その原因に身内の、それも上官に裏切り者がいるとは微塵も思わなかった。
「ミッドマン隊長が……まさか、メシア教徒だっただなんて……」
「まさか誰も思うまいよ。騎士隊を率いる者がスパイとはな」
ミッドマン隊長が鼻で笑う。
土壁の上にいた騎士達がミッドマン隊長の元にぞろぞろと集まった。
「世界を救う為に、カルメロルツの侵略からカルディッシュを解放するのだ」
「貴殿も、そう……祖国から我々が救わねばなるまい」
「そういう事だ、バディ。分かってくれるな?」
信じた忠義を裏切られ、心が揺れ動く。
数年前、バラトス殿下に見出され、取り立てて頂いた。
殿下の死後、キリューゼル殿下に拾われ、ミッドマン隊長と共に仕えた日々を想起する。
「信じて……いたのに……っ!」
「全ては偽り。我らの忠義はメシア様と共にある」
「僕は貴方を尊敬していた……っ!」
「バディ、君もいずれ分かる。メシア様の偉大さが」
「───なのにっ!!」
「視野を広くしろ。ずっと言っていた事だろう。だから我々は間違えていたのだ。仕えるべき相手を」
「は……? 間違、え……?」
「キリューゼル殿下は堕落している。それは、殿下がこの世に生まれ落ちた時からそうだった。愚かさも極まって……あろう事か───バラトス殿下を殺したのは奴だ!」
「っ!?」
キリューゼル殿下が、バラトス殿下を殺した……?
「貴様は知らなかっただろう! 我々は知っていた! まるで煮え湯を飲まされている気分だった! 何も知らず行き場が無くなった貴様は取り立てられたと舞い上がっていたようだがな!」
「なっ……嘘だ。だって、そんな事……」
「陛下なら救えたはずなのだ……なのに研究に惚けてバラトス殿下を見殺しにした」
「もう、やめ……」
「バラトス殿下が御存命ならばカルメロルツは今頃善き国と生まれ変わっていた事だろう。バディ、これは弔いなのだ。キリューゼル殿下の騎士団員が治める国にて鎮魂歌を奏で、我らが仕えるべきバラトス殿下を安らかに旅立たせ───」
「もうやめろぉおおおおおおおおッ!!!」
両の手に魔力を練り上げ、赤の炎魔術を繰り出す。
僕の最大火力で、目の前の裏切り者を粛清する。
土壁を破壊しながら舞い上がる炎の渦は全てを飲み込んだ。
そう、自分自身すらも。
忠義という名の炎に溺れ、絶望し、そして絶命した。
「───以上が、報告となります」
「そうですか」
伝令を聞き届けた真昼は溜め息を吐く。
どうやら、南と東の都の特定の場所だけは大打撃を受けたみたいだ。
目先の勝利を焦った馬鹿な信者とバカな騎士が大規模な魔術を使って色々と破壊してしまったらしい。
建物も人もお構い無く……やっぱり獣か。
闘争と破滅。
この世界の人間は輪を掛けて、本能を諌める理性という枷が壊れてしまっているみたいだ。
しかし、仕方の無い事だろう。
これは馬鹿が馬鹿みたいに馬鹿を踊った結果だ。
後先考えず胸に湧き出た衝動をそのままに発散するのは獣の性。
愚かしい事こそが獣の性。
ならば俺は、それをそういうものだと受け入れ、そして軽蔑する。
ただ、敢えて言いたい事は一つ。
───獣は檻にでも繋いでおけ。
いや……ああ、そうか。
この星を檻と見立てれば最初から繋いでいたか。
ただ、俺達が檻に引き摺り込まれただけだった。
それだけの話だったな。
俺はただ、支配下に置いた騎士にカルメロルツを売れと言っただけだ。
それが、何をどうしたら大規模な破壊活動に繋がるのか理解に苦しむ。
やはり俺達の平穏の為にも奴らは鎖で縛らなければならない。
精神から、思考から、信念から。
それら全てを縛り付けるとしよう。
これ以上、あいつらのエゴに巻き込まれないように。




