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無能勇者の烙印  作者: 汐倉ナツキ
第二章

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レアーレの願い⑦/三度目の邂逅


「アリス、助かった」

「タイミングバッチリだっただろう! ナイス私!」


 高笑いするアリスに問いかける。


「アリスが逃走を選んだって事は、それほどヤバイ奴らだったって事だよな。やっぱり」

「……うむ。ソラスとスマルドの事は悪かった。いつもと違う重量だと推力がな……」

「ああ、ちょっと勿体無かったが、アリスが無事ならそれでいい」

「マヒル……っ!」


 他人に対する無慈悲な言葉があっても、その後のアリスを労る言葉に上書きされた。

 アリスは二人の事はすっかり忘れて嬉しそうな表情を浮かべた。


「それで、イリオス王国の正規軍とか言ってたが、あいつらは何なんだ」

「……あいつらは獅子人族で構成された部隊だ。獣族の中でもトップクラスの戦闘力を有する獅子人族の群れが相手では流石に正面からやり合おうとすら思えぬ」


 獣族、か。

 カルディッシュで読んだ資料では人間族より肉体は強いが、生まれつき魔力量が著しく低いとかなんとか。

 その中でもヤバイ連中相手によく逃げ切れたな。

 俺もアリスも。


 ちなみに鑑定眼が翻訳してくれたから資料を読めたのだ。

 なんと小難しい学問分野の本も読めた。

 こっちは単純に理解が及ばなかったけど。

 勇者の特性を使えば無理矢理頭に詰め込んで理解する事は出来るが、それはなるべくやりたくない。滅茶苦茶頭痛くなるから。


「ほぼ全員がランクAの上澄み。特にあの二人は今まで視てきたランクSの中でもトップクラスの実力者だった」


 俺が視てきた中ではガルセルドとほぼ同格だった。

 そういえばソルト=マズラクール。

 そう名乗った男とレオーネは雰囲気こそ違ったが、顔の造形がとても似ていた。


 ファミリーネームも似たような感じだったし……親族か?


 今思い返せばレオーネは盗賊の音を注意深く聴き取ってた時も頭の上に手をかざしてた。

 そういう方法が聴き取りやすいんだろうと無理矢理納得してたが、耳が頭に付いてたならちゃんと納得が出来る。


 獣族、獅子人族か……尻尾とかあるのかな。

 ちょっとソワソワする。


「むむむ……単体でも私より上なのか」

「んー……俺は能力値と戦闘に使える技能と魔術を加味して何となくでランク付けしてるだけだから、経験とかを込みにするとまた違うんだろうな」

「ちなみに私のランクは?」

「A。神の贈物(ギフト)は除く」

「なぜ除く!?」


 納得いかず思わず叫んだアリスに対して冷静に諭す。


「俺は今ランクCだけど、神の贈物(ギフト)を加味すると条件によってはランクSも倒せちゃうから。改めて考えて神の贈物(ギフト)って無法だなぁ……」

「なるほど。まあ、ギルドからランクを査定される時の評価点は能力値よりかは依頼達成とかの貢献度だしな」


 このままゆったり雑談に花を咲かせていたいが、状況が変わった。


「あいつらが館から完全に離れたのを確認した。戻ってくれ」

「うむ!」




 ▽




「意図を察したっていうより横取りされるくらいなら壊した方がマシって思っただけなんだよね」

「そんな理由で殺されては堪らないな……だが、助かった。私が自害したとて肉体は残る。死体をイリオスに持ち去られて何をされるかなど想像に難くない」


 そう言い頭を押さえるレアーレは『蘇生』で復活した時に着ていた服が使い物にならなくなっていた為、新しい服に着替えていた。

 汚れ一つ無い予備の白スーツだ。ネクタイの柄だけが変わってる。


「貸イチだな」

「……………………私に何を望む?」


 適当言っただけなのに意外だ。

 ふざけるなとでも言われるかと思ったのに、さてはこいつ根が真面目だな? 真昼は訝しんだ。


「俺の仲間になってほしい。お前の能力は使える。カルメロルツを浄化させるのにな」

「仲間か……。条件次第で受け入れるつもりではあるが……カルメロルツの、浄化?」

「ああ、穢れを駆逐する。簡単に言っちゃえば滅ぼすんだよ。あの大国を」

「君の目的は……っ!?」


 真昼の右目から光が消えた。

 その様子を見てレアーレはあまり良い理由では無いのだろうと察した。

 深い切り傷が刻まれた左目を開かないのもカルメロルツが絡んでるのだろう、と。


「安っぽい言い方をすれば復讐。仕返し。報復。雪辱」

「復讐、か……」


 レアーレは目の前の少年が少し自分に似ていると思った。


「それとカルメロルツに縛られたままの仲間を二人取り戻したい。あの二人は───良い人なんだ」

「───っ!?」

「だから、あの二人だけは助けたい。絶対に」


 良い人。その言葉を訊いたレアーレはおよそ一〇年前のあの日を思い返す。

 運命が狂ったあの日の記憶を。

 それは自身よりも他人を優先したお人好しのザンボットとマホアに対して言った己の言葉と完全に一緒だった。


 あの時の自分と完全に重なった。


「少年、私の望む条件はイリオスの滅亡だ」

「さっきもそんな事言ってたな」

「どうしても許せないんだ。在り方、所業、考え方、その全てが」

「ふむ、お互いに国落としの協力を望む、か。お互いからすれば恨みが無いのがミソだな」

「他人事のように悠長な事言ってるけど、イリオスはアリスの故郷でしょ。いいの?」


 顎に手を当てシリアスな顔を作ってるアリスに真昼は突っ込む。


「正直、実家が嫌いなのだ……。イリオスには良い奴もいたがそれはそれ。それに今は、私の運命の方が一番大事だからな! 優先順位は揺らがないぞ!」

「少年は……女誑し、なのか?」

「黙れ酒カス。アリスは最初からこんな距離感だった」


 本当にこの子、最初から好感度高かったんだよね。

 レアーレは「だから、酒カスって何なんだ……侮辱されてるのは分かるが……」とブツブツブー垂れてる。


「そういえばマヒル、こいつは神の贈物(ギフト)所有者か?」

「そだよー」

「やはりか。どうやら予想は的中したようだな」

「いや軽いな! 貴重な人材だぞ私は! 神の贈物(ギフト)は伝説の力だぞ!」


 レアーレが納得のいかない顔で突っ込んでくるが、ぶっちゃけ神の贈物(ギフト)所有者って俺の中の認識じゃそんなレアじゃ無いんだよね。

 少なくとも五人は持ってる人に目星が付いてるし。


 希少なのは分かるけど、自分が持ってるとやっぱし希少感薄れるよね。

 救世主(メシア)でもガチャでどうしても欲しい激レアキャラを当てた途端に自分の中で希少感が薄くなる。


 そんな感覚と一緒かもしれない……一緒だよね?


「私達も神の贈物(ギフト)所有者だ」

「君もか!?」

「しかし引力が弱いな……やはり相性か?」


 相性が悪いと神の贈物(ギフト)所有者を見付けられないらしい。

 俺の時は遠くから真っ直ぐ飛んできたからなぁ。ビューンって。

 俺との相性は抜群らしいね。なんでだろうね。


「待ち望んでた神の贈物(ギフト)所有者なのに随分と素っ気無い反応だな」

「むー……なんか、惹かれないのだ。これっぽっちも……」

「アプローチすらしてないのに脈絡無くフラれたような気分だ……」

「どんまい」

「喧しい!」


 怒鳴られた。

 まあ、悪いのは揶揄ったこっちだけどやめろ。

 ビックリして萎縮しちゃっただろ。ちょっとだけ。


「そういえば貴様の名を知らぬな。名乗るがよい」

「マイペースなお嬢様だな本当に……」


 溜め息を吐いたレアーレは佇まいを正し、右手を左胸に当てた。


「私はレアーレ・バルトラード。イリオス王国出身で、神の贈物(ギフト)を発現させるまではマイアーズ商会に所属していた」

「マイアーズ……? 六年前くらいに買収された商会の名だな」

「なに!? イリオス王国内でも言わずと知れた巨大な商会を買収だと!?」

「別の国に潜伏してたとはいえ、戦力拡大にかまけて情報収集は怠ってたんだな」

「くっ……言い返す言葉も無い……」


 早くも佇まいを崩したレアーレは顔を歪めた。


「俺は汐倉真昼。カルメロルツに召喚された勇者。でもって王族の卑劣な謀に掛けられた死に損ない。今は正体隠してメシアで通してる」

「少年……君は勇者だったのか!?」

「職業『勇者』なだけだ」

「むむむむ〜〜〜っ」


 なにやらアリスが頬を膨らませて不満そうな顔をしている。

 餌を頬張ったリスみたいで可愛い。


「どうした?」

「どうした? じゃあ、なぁーい! 私だって初対面で教えられてない事をなぜこの男にはすぐに明かしたのだぁー!」

「この男……? 名乗ったよな、私……」

「心の中で折り合いが付いてきたんだよ。それだけ」

「納得…………出来ぃーーん! 私の一番はマヒルだ! だからマヒルの一番も私じゃなきゃあ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だぁーー!」


 この前振りのアリスの駄々だ。

 そこら辺の奴が同じ駄々を捏ねても鬱陶しくてひっぱたきたくなるだけなのに、可愛くて綺麗な顔ってマジで得だな。


「マヒル、君は愛されてるな」

「黙れ酒カス」

「だから酒カスとは何なんだ……言っておくが呑むとしても嗜む程度だぞ、私は……」

「やい酒カス!」

「君もかマイペースなお嬢様……」


 アリスはそのデカイ胸を張ってレアーレに宣言する。


「私はマヒルの運命! アリス・フィア・ルーベンデルク! 『酒カス』のレアーレとやら、貴様には絶対に負けぬ!」

「ルーベンデルクって『竜殺し』の……いや、それよりもなぜ私は敵意を向けられているんだ……」


 レアーレは「勝ち負けってなんだ……?」と困惑してたが、数秒で理解するのを諦めた。


「異名みたいに言われたな」

「喧しい……」

「ともあれ、国落としか。俺の方はレアーレのせいで中断させられた状態なんだよな。仲間もアリスを除いて全員くたばっちまったし」

「それは申し訳無かった……見境が無かったのは自覚している」

「ああ、いいよ四人ぽっち。残りを殺したのはイリオスの兵士だし、俺もお前を殺しちゃって悪かったな」


 反省も後悔もしてない形だけの軽い謝罪だけど、レアーレは許してくれた。

 こいつ本当に心広いな。流石は大人だ。

 俺だったら俺を殺した分お前も死ね案件だけどね。流石は子供だ。心狭いね……とかそういう問題か? よく分かんなくなってきた……。


「うむ! 死闘を演じた漢はその後互いを認め合うと言うがさせるかぁーーっ! 油断も隙も無いな酒カス! マヒルは私の運命だ!」

「ええ……」


 アリスの一人芝居にレアーレがまたもや困惑した。

 この子の奇行は今に始まった事じゃない。

 始まる時は面食らうけど、俺はもう慣れたよ。


「死闘っていうか、ただの蹂躙だった気がするが……私は手も足も出なかった」

「レアーレはレベル上げしろ。本体の基礎スペックを上げないとまた死ぬぞ。ゾンビが人とか魔物倒したら本体に経験値は反映されないのか?」

「反映されない。私の神の贈物(ギフト)はそんな便利な物では無い。しかしレベル上げか……選り好みしてる場合じゃあ無いし、仕方が無いか」

神の贈物(ギフト)は別に無敵の力って訳じゃないからね」

「それを君が言うか……まるで魔王が現れたかと思ったほどのおぞましさ、君の神の贈物(ギフト)は思い出すだけで未だに身が竦む」

「いつもはあんな使い方しないから」

「そ、そうだったのか……」


 真昼はふと思い返し、レアーレに訊く。


「そういえばさっき言ってたアリアリーゼってのは奥さんか?」

「っ、そうだ。アリアリーゼは……私の妻だ」

「さっきの口振りからして一〇年前に……殺されたか?」

「……………………そうだ」


 アリスは「それは流石に無神経だろう」と思った。

 しかし、明らかな地雷をマヒルがこのタイミングで突っ込むならなにかきっと理由があるのだろうと「うむうむ」言って自己完結した。


 レアーレは協力を取り付けた同類に大国に挑むに至った過去を語った。

 子供相手ではある為、一部は少しボカしたが。



「なるほどね。事情は大体分かった」

「ふむ、だから復讐か。やっぱり私の祖国ゴミ過ぎないか?」


 「良い奴もいるんだがなぁ」と呟くアリスにレアーレは怒る事無く肯定する。


「イリオスに良い人がいる事は否定しない。私も私を護衛してくれた冒険者二人のおかげで今があると言っても過言では無いからな」

「それでも譲れないものはある……。で、奥さんはいつ蘇らせるんだ?」

「それを君が言うか……っ。本当なら君に静かになってもらった後にすぐあの村へ向かい『蘇生』を施していた。だが君が私を揺さぶったんじゃあないか」

「精神攻撃って、諸刃の剣だよね……」

「喧しい! なあ、私はどうすればいい!? 『蘇生』したとして『蘇生』されたアリアリーゼは本当にアリアリーゼなのか!? アリアリーゼの形をした別人なんじゃあないか!? 魂は複製されたものになるのか!? あの世から魂を無理矢理呼び起こして平気なのか!?」


 ひははははと引き笑いして取り乱すレアーレ。


「うわー、イッちゃってるなぁ」

「うむ。他人事だな」

「事実、他人事だからね」


 しかし、このままじゃ話が進まない。


「そんな深く考えるな。感じるんだレアーレ!」

「喧しい! 先程から薄っぺらい事ばかり口にして───」

「そもそも神の贈物(ギフト)は発現者の願いの具現だろう? なら、普通に生前の奥さんが戻ってくるんじゃないの?」

「………………」


 黙り込むレアーレ。

 真昼はそんな彼を見てどうしたもんかなぁとアリスを見る。視線に気付いたアリスと目が合った。

 相変わらず青くて綺麗な瞳だなぁと見惚れてたら次第にアリスの顔が赤くなっていった。


「マヒル、そんなに見つめられると、恥ずかしいではないか……」


 顔を背けていやんいやんと可愛らしく照れてる。


「君達、私が真剣に悩んでる隣でイチャつくんじゃあないぞ……」

「別にイチャついて無いだろ」

「うむ! ただのアイコンタクトだ! うむむ、うむ……」

「マヒルはともかく、アリスはそのつもりだったっぽいが……?」


 呆れた顔を向けてくるレアーレに真昼は「心外だ」と抗議する。

 そしたらなぜかアリスにもジト目を向けられてしまった。

 なんだ、いつの間にか随分と仲が良くなったな君達。


「確かに考え過ぎだったかもしれない、か」

「そうだよ! 国を滅ぼすと決めたなら最後まで滅ぼす! 奥さんを生き返らすと決めたなら最後まで生き返らせよう!」

「マヒル、私の運命よ、正直に言うがよい。もはや自分でも何言ってるか分かってない。そうだろう?」

「そうだよ!」


「「ええ……」」


 迷いの無い即答に今度は二人して呆れた顔を向けてくるが仕方無いだろう。

 今日は密度の濃い一日だったんだから、流石にもう集中力切れてるってばよ。


 カルディッシュの山場を越えちゃったからね。緊張の線が切れちゃったね……ちょっとだけ。

 しばらくは職業『勇者』の特性使わないと集中続かないなこれ。


 あーあ、せっかく手に入れた経験値が勿体無い。


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