レアーレの願い④/首謀者の過去 後編
目の前の三人は『熱情の晴天』のメンバー。
こんなところで鉢合わせになるとは……。
いや、最初から村の入口に陣取っていたのだろう。
『貴方達、実力があって実績もあるのになんでこんな真似してるの?』
『『遊び風』のマホアか。いやなに、実力と実績は言うまでも無く必要だろう? こんな騒乱の世の中、信用っていうのはいくら重ねてもいい。そして、俺達『熱情の晴天』は全員が根っからのクズだ』
『そうそう。クズが頑張ってこんなに信用を重ねてるんだからボーナスタイムくらい無いとやってられないじゃあないか』
『そうかよ、あんたらはそんな理由でレアーレさんの大切な人の村を……っ』
『お前は『剛剣』のザンボットだな。理由なんてどうでもいいだろう? オレ達が楽しめれば何でもいいじゃあないか』
ザンボットは舌打ちする。
そして息を大きく吸い、鋭い目をすると共に一息で大きく吐き出す。
『クソがぁあああああああ!!』
『うおっ!?』
『っ!』
『危なっ!?』
ザンボットは怒りに任せてアリアーゼとその両親を『熱情の晴天』目掛けて力いっぱい投げ飛ばした。
もちろん紙一重で避けられたが。
あまりにもあんまりな暴投に一瞬何をしたのか理解が及ばなかったマホアだったが、すぐに我に返る。
『な、ななな何してんのよ貴方はぁあああ!?』
『あいつらの言い分に腹が据わりかねてな』
『だからって普通ご遺体を投げる!? それも依頼人の!』
ザンボットとマホアが繰り広げるコントのようなやり取りに『熱情の晴天』の三人はゲラゲラ笑う。
『なんだよあいつら! 面白過ぎるだろ!』
『冒険者よりピエロの方がお似合いじゃあないか!?』
ゲラゲラゲラゲラ! と膝を叩いて笑う『熱情の晴天』を横にザンボットはマホアに小声で伝える。
『マホア、荷馬車に三人の遺体を乗せれた』
『っ!? 貴方、まさか最初からそれが目的で……』
『俺はバカだからよぉ、これ以外のやり方が思い付かねぇんだ。だから後は、レアーレさんを連れて冒険者ギルドに行け』
『……貴方は?』
『誰かが殿をやんねぇと全員やられる。あいつらは何とか俺が食い止めるぜ。『熱情の晴天』の冒険者ランクはオレと同程度……実力は悪くても少し上だ。三対一なのが少しキツイが……』
『貴方……っ、本気、なの?』
『ああ、レアーレさんは良い人だ。そしてそんなレアーレさんの奥さんもきっと良い人だったに違いない。その家族も。ご近所さんも……。レアーレさんみたいに愛の為に実直に頑張れる熱い男は報われるべきだ。こんな人、絶対に幸せにならなきゃあ駄目だろうがよぉ』
マホアはギョッとした。
初めてザンボットの涙を見たからだ。
そして、移動中幸せそうに惚気話を延々と話すレアーレを思い出したマホアもザンボットの意見に『そうね』と同意する。
『ちなみに私の化粧って、レアーレさんのお店で買った物なのよね』
『……そうか』
『あの時のレアーレさんは初対面じゃあ無くても女性に失礼だったわよ。私の顔を見るなりビックリした顔をして店員さんを呼んで』
『まあ、スッピンのがマシな顔してるもんな』
『お黙り。でね、その店員さんが化粧の仕方を丁寧にレクチャーしてくれたんだけど、私ったらセンスが無さ過ぎて教えられた事何も身に付かなかったのよ。でも、レアーレさんは初心者用の使いやすい化粧を勧めてくれたりしたわ。決して笑わなかったの。私はそれが嬉しかった』
『そうか』
『反対に化粧してから冒険者ギルドじゃあバカ笑いされまくってたわね。誰かさんも一緒に』
『……すまん』
『いいわよ。でも、これが最後の会話って訳じゃあ無いでしょ?』
『ああ、俺も死ぬ気はねぇ。技能『身体強化』を限界まで使って……せいぜいしぶとく足掻いてやるさぁ!!』
ザンボットは大剣を右手に『熱情の晴天』の三人に豪快に突っ込んで行った。
マホアもその作られた隙を突いてレアーレを運ぶ───が、その前にザンボットがドサッと音を立てて倒れた。
『…………は?』
信じられない現実に、マホアは言葉が出なかった。
『オレ達の公式で広まってるランクはB。でもなぁ、それはAになったりしたら国からの指名依頼を受けたりしなくちゃあいけなかったりするからランクアップを辞退してる結果なんだよ。これは』
『そう、つまりオレ達をステータスだけでランク付けするならA相当って訳。いくら優秀な技能を持ってようが、ランクBの二つ名持ち程度に負ける訳が無いじゃあないか』
『そんな……『熱情の晴天』がランク詐欺を……』
『おいおいおい、ランク詐欺とか酷い言われようだねぇ。『遊び風』に想像力が足りてないだけだろう?』
『それに、オレ達の事を知った奴らをわざわざ逃がす訳無いから』
イヤらしく笑みを浮かべる『熱情の晴天』の一人がマホアを殴り飛ばし、腕で首を絞めて拘束して強引に紙袋を被せた。
その紙袋はずっぽりと首元まで隠している。
その際、レアーレが地面に落ちたが、辛うじて意識の残ってるザンボットとマホア以外誰も気にも留めていない。
『顔は好みじゃないけど、身体は凄いんだよなぁ。服も露出が凄くて誘ってんだろこれ』
『誰が……貴方なんかに……っ』
『うーん。やっぱりそうだ。どんだけ顔が気に入らなくても今みたいに顔隠しちゃえば割とノイズ無くやれちゃうんだよなぁ』
『はっ!? まさかこんなところで始める気!? 貴方正気!?』
不意に胸を揉まれたマホアは逃れようと身をよじるが、筋力に差があり過ぎて逃れられない。
『くっ、レアーレさん! 逃げて! 貴方だけでも!』
『させないよ。この田舎町に足を踏み入れた者は誰一人として生かすつもりは無いからね』
レアーレは襟首を掴み上げられ、息苦しさから意識が現実に戻ってきた。
『…………お前達は、何度も繰り返すのか』
『何言ってるか分かんねぇな。ところでさぁ、お前も火炙りやってみたい?』
『やるなら一度村に戻らないといけないな』
『これまでも、そしてこれからも……』
『良かった……レアーレさん、意識が戻ったのね』
レアーレの声にマホアはホッとするがその時、ただでさえ布面積の少ない服をバリッと破かれた。
『きゃっ!? 何すんのよ! 変態!』
『変態で結構。じゃあ、早速味見してみるか』
『はあ!? 何言って……馬鹿なの!?』
『女が悲痛な声を上げるのがいいんでしょ? 何言ってんの?』
『イカれてる……いや、やめて……やめて!!』
『あ?』
マホアは紙袋で視界を奪われてる為、何も見えていない。
だから自身を拘束してる男目掛けて魔術を放った。
魔力とセンスさえあれば誰でも使える無属性の魔術───『衝撃波』を。
『痛……ったぁああああ!?』
『ぎゃははは! お前腹抉られてんじゃん!』
『油断大敵ぃ〜』
拘束を逃れたマホアは被せられた紙袋を取り外し、レアーレのもとへ向かおうとしたところ、不意に横腹を蹴り飛ばされた。
『ぐっ!?』
『人の腹抉っといて逃げられるとでも思ってんの? 逃げられる訳ねぇじゃん!』
『がはっ!?』
『オレの受けた痛みはこんなもんじゃあ無いんだぜ! おら!』
『いぎっ!?』
マホアは何度も腹部を蹴り飛ばされた。
『…………………………あ』
そして、その蹴り飛ばされたマホアの腹に浮かび上がった痣を見てレアーレは死んだアリアリーゼの姿がフラッシュバックした。
『ああ、ああああああ!?』
『そいつうるせぇぞ。黙らせろ』
『あいあいっと』
レアーレはマホアと同じように腹を蹴り飛ばされた。
地面を二度バウンドして地に伏せる。
しかし、その程度でレアーレの慟哭は抑えられるものでは無かった。
『うぁあああああああああああああああああ!!!』
レアーレの脳内には幸せだった頃の記憶と死んだアリアリーゼ達の姿が交互にチカチカと点滅するように浮かび上がっている。
二度と逢えない最愛との無慈悲で理不尽な別れ。
己が胸に宿るは絶望。
絶望。
絶望。絶望。絶望。
絶望。絶望。絶望。絶望。
怒りと失意で真っ赤に染まっていた視界も今や真っ黒に染まっている。
視界に映る世界の全てがモノクロに染まっている。
『うるっさいなぁ……』
もう一度蹴りを食らわそうと近寄ろうとした男だったが、後ろから肩を誰かに捕まれた。
誰だと眉を顰める男は振り向こうとしたが、その前に腹を背中から大剣で貫かれた。
『…………あ? なにこれ』
ゲボッと血を吐いた男が首だけ振り向くと、そこには殺したはずの女と初老の男女が三人で大剣を構えていた。
行動不能にされたザンボットの大剣だ。
不可解な現実を見せられたが、じゃあ己の肩を掴んでるのは誰だと自分の肩を見ると手首から先がちぎれた手がグリグリと肩を掴んでいた。
文字通り手だけが別の生き物のように自立しているように見える。
『はぁ!?』
改めて大剣を持つ三人を見ると初老の女だけ片方手が付いて無かった。
『どうなってんだよ! なんだよこりゃあよぉ!』
『ンなこたァ今はどうでもいいだろ! オイ! この大剣返しガ付いてて抜けねぇ! 助けろ!』
『あ、ああ! 言い方が気に入らねぇが、ちょっと待ってろ!』
不自然で不可解な光景に『熱情の晴天』の三人は混乱に陥っている。
『ほら、離れろ!』
アリアリーゼとその両親を蹴飛ばし、肩の手も弾く。
『剣の方は今はどうしようもねぇよ。王国の兵士の中にも白の属性持ちいなかったしなぁ』
『くっそ! しばらクぶっ刺さッたマまカヨ』
『お前に技能に『忍耐向上』があってよかったな。オレだったらショック死してたかも』
『アア……』
『あん? 急に大人しくなって……どうし───ぎゃああああああ!?』
大剣で貫かれた男は『熱情の晴天』の仲間の一人の首を噛みちぎった。
『……は? お前ら何してんだよ……いや、違うな。そこの雑魚! てめぇオレの仲間になにしやがった!?』
矛先を向けられたレアーレは気にする事無く懐から身分証足るステータスプレートを取り出す。
『………………は、はははははは、ははははははははははっ!』
技能の下に新たに追加されたものを見て、レアーレは笑った。笑うしかなかった。
レアーレ・バルトラード。
ステータスプレートの一番下に記されたものは───伝説の力、神の贈物。
其を───『再生させる神掌』。
この神の贈物は所有者が触れた対象の外傷内傷の全てを治す無法の力。
そして治した対象に魂が抜けていた場合に限り、その対象を操る事が出来る───悪魔のような力である。
けど、それは死者を蘇生させるような都合の良い能力では無かった。
レアーレはそんなニアミスしたような能力に笑う。
バカみたいに笑い続けた。
一人残った『熱情の晴天』の男はレアーレに報復せんと蹴り飛ばした。
しかしレアーレは蹴り飛ばされた先で何事も無かったかのように立ち上がった。
バカみたいに笑い続けながら。
『なんだ……何なんだお前はぁあああ!!』
今一度蹴りを食らわせようとレアーレに迫ろうとした男だったが、足に違和感を感じる。
レアーレに蹴りが当たった箇所だ。
『な、何なんだこれはぁああああ!?』
ズボンを捲り上げると違和感を感じた箇所が壊死していた。
足の壊死を自覚した瞬間、男は力無くドサリと倒れ込んだ。
『は、はははは、ははは! どうやら『治す』では無く『再生する』が正しい認識だったようだ』
『なに、しやがったんだ……てめぇ……っ』
『無様だな蛮族。だが、お前もすぐに仲間のもとへ送ってやる。後で王国の兵士達も送る。最後にはイリオスの王都の人間全ても送る。大勢いる。寂しくなる事は無いだろう。私に感謝して死にたまえ』
『なにしやがったって言ってんだ!』
死にゆく者の剣幕には微塵も感情を揺り動かされ無かったレアーレだったが、『ふむ』と顎に手を当て考える。
『使用する能力を言語化する事でまた一つ理解を深められるかもしれない、か。いいだろう。憎き蛮族に慈悲を与えよう』
『クソ、がァ』
『もはや両足が使い物にならないというのに、呆れた生命力だな』
そうこうしてる間にすでに男の下半身は全て壊死していた。
『なに、君が私に触れた。それで能力の条件が整ったのだよ。たった今、私に宿った神の贈物の発動条件がね』
『神の贈物……だと……!?』
『私の能力は言わば白の属性、回復魔術と酷似している。厳密には似て非なるものだがね。そして、その能力の真骨頂は『再生』させる事にある。だから私の負った傷もこの通り、完治している』
『『再生』程度でオレの足が使い物にならなくなる訳がねぇだろうが!』
『そう思うだろう? だが、それは勘違いだ。PLUS ULTRA。限界を超えた『再生』を施された肉体は『再生』を毒として扱わざるを得ない。プラスの力なのに使い方次第では薬に成り得ないとは、ただ治す能力として考えるならば能力として不完全なものと言わざるを得ないだろう』
男のレアーレを見る目が変わった。
怯えた表情。
今までいたぶっていた相手をまるで化け物でも見るかのような目で見ている。
『しかし、私はこの能力を本来の能力として考えた。するとどうだろう。どうも完全で完璧。素晴らしい力だとは思わないかね?』
『あ、アアア……』
『おや、『再生』が全身に廻り廻って死んでしまったようだ。憎き相手を殺したというのに、心が晴れない。虚しさだけが心に残ってしまった』
レアーレは荷馬車にザンボットとマホアを乗せ、『再生』で身体を癒した。
『貴方達は良い人だ。依頼主でしかない私を最後まで助けようとしてくれた。だから今だけは───おやすみ』
その日、冒険者ギルドに所属する冒険者四名と戦争から帰還中の王国の兵士が行方不明になった。
そして数日後、現場となったクルトシュタット領・カーシャ村に調査兵を派遣。
だが、またしても全員が行方不明になった。
王国側はギルナクスの魔族、または新種の魔物の仕業と推測。
実力を持った兵士の大勢と共に調査兵が再びカーシャ村に降り立った。
その数およそ一六〇〇人。
質を兼ね備えた四桁規模の数を持ってしても、またもや全滅した。
しかし今回は奇跡的に帰還者が現れ、下手人の正体が判明した。
男の名はレアーレ・バルトラード。
イリオス王国内の商会で働く一介の経営者だ。
動機も判明した。
どう考えても王国の兵士が悪いけど外聞が悪い為、無かった事にしてレアーレ・バルトラードの狂気的犯行と印を押した。




