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無能勇者の烙印  作者: 汐倉ナツキ
第二章

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屍人の襲来




「きゃああああああああああ!?」




 仲間が仲間に襲われて気が動転した女の信者が叫び声を上げた。


「さっきの! 回復魔術の奴! 速く連れて来い!」

「違えよ! まずあいつどうにかして皆の安全を確保するべきだろ!」

「有り得ねえくらい血が流れてんだよ! だったら刺された奴回収するのを優先するべきだろうが!」


 ぺちゃくちゃ喚くだけで動かない信者達に痺れを切らしたアリスは血濡れのナイフを持った男を蹴り飛ばし、刺された重体の男を回復魔術の使い手のところまで投げ飛ばした。


「な……っ、な、ななな何やっとんのじゃ己はぁ!?」

「貴様らの判断が遅かったから代わりにやってやっただけの事だ」


 アリスは「何だ? 文句か?」と不機嫌を隠そうともせず眉を顰める。

 しかしランクA相当のステータスで蹴られた男は何事も無かったかのように立ち上がる。

 苦悶な表情すらしていない。何処吹く風だ。


「あいつ、目の焦点合ってなくないか?」

「フラフラしてるし……他の三人もそうだ」


 俺は教主キャラ的にマズイので思わず腕組みしたくなったのを抑え、代わりに顎に手を添えて鑑定眼で四人を解析した。

 うーん。死んでるね。間違い無く。


 間違いなくくたばって生命活動は停止してる。

 死にたてだからかまだ腐り始めていない様子。

 だからこいつらを生者と勘違いしたのか。


「落ち着いて下さい」

「しかし!? メシア様!?」

「すでに彼ら四人は何者かに殺害されたようです」

「えっ!?」


 ざわめく信者達。

 その中でも男は一際大きな声を上げた。


「やっぱりあの街で訊いた噂話は本当だったんだ! きっとそうだ!」

「じゃああいつら皆グールにされちまったって事かよ」

「訳が分からない……一体全体どういう状況なんだ……」


 ね。本当にそれだよ。

 皆して不安になってきてるし。


 すでに日が暮れてるって時に急にホラーを展開するのやめてほしい。

 暗くなっても続くなら尚更やめてほしい。切実に。

 暗いところでホラーゲームとかホラー映画みたいな展開されたら恥も外聞も関係無い。わんわん泣いてやるぞ俺は。


 幸い鑑定眼のおかげで不意打ちに驚く事は無くなったけど、怖い思いは出来るだけしたくないのが本音。

 緑ヶ丘とか他校の文化祭クオリティのお化け屋敷ですら無意識に膝ついて低いところをビクビク移動してたからな。


 中学の時もそうだ。

 地元からちょっと離れた規模のデカいお祭りに行った時の事だ。

 罰ゲームでお化け屋敷にぶち込まれた俺はあとから入ってきた小学生の女子に手を引いてもらってゴールまで行き着いたという情けない語り草がある。


 当然その子は別学区の知らない子である。


 何が言いたいのかというと、とにかくそういう事だ。

 人を怖がらせるとか万死に値するよね? とか、まあそんな感じ。


「そういえば、グールは魔大陸発祥の魔物という話もある……分布が魔大陸に集中している理由はギルナクスの魔族が儀式で生み出してるからという説が有力だ」

「じゃあ何か!? ギルナクスの魔族がビルポタスにいるって言うのかよ!」

「だとして何で魔族が植民エリアにいるんだよ……あいつらが用あんのってカルメロルツ本国だろ……?」


 予想外の外敵の可能性に怯える信者が出てきた。

 うーむ。新しい情報がわらわら出てくるな。

 魔王の治める国がギルナクス帝国。で、確かギルナクス帝国は魔大陸全土を指す国名にもなるんだよね。


 その大陸の民衆は魔族と呼ばれる種族が大半で、こいつら人間族と違うのは生まれつき内包する魔力が桁違いに膨大な事……だけだったっけ。

 角生えてるとか耳長いとかもあった気がする。


 そんな奴らが最近ビルポタスでグールを作ってるんじゃね? 俺達の仲間グールにされたんじゃね? って話になってるんだよな今。


「おい、待て!」


 刺した男と他三人が俺達がいる位置とは逆方向に移動を始めた。

 男は追いかけようとしたが、異変に気付き反射的に足を止めた。


「な、なんだよこれ……っ」

「私達の周り、グールだらけですよ!?」

「いつの間に囲まれたんだ!?」


 周囲一面にフラフラと蔓延るグールの集団。

 大量の魔物の登場に戸惑いながらも全員が戦闘態勢に入った。


「各御者は御車台に搭乗し、いつでも発進出来るように! 一人は御者のガードを! その他人員は魔術でグールを牽制して下さい!」


 俺の言葉を耳にしたアリスを除く全員が自然と陣形を作り、行動を開始した。

 やべぇなあいつら。

 炎で丸焼きにされて焦げまくっても全然動くじゃん。

 風魔術で腕とか足とか首とかを斬り落とされても全然意に返さないし。


 救世主(ゲーム)だと死霊系は聖属性とか光属性が効いてたけど……この世界の魔術だと珍しいみたいだからこの信者達の中じゃ誰も使えないし。


 そういう浄化系みたいなのは白系統の中でも激レアらしいからなぁ。

 うちにいるのは回復方面にスキルツリーを伸ばした奴だけだし。

 あいつら死んでるから俺の神の贈物(ギフト)は効かねぇし。

 アリスは静観の構えだし。


「魔術は点や線でなく面で行使して下さい!」


「「「はい! メシア様の御心のままに!」」」


 まあ、倒せなくてもやりようはあるんだけどね。

 こいつらを相手取らずに逃げればいいだけなんだから。

 どうやら生前のステータスは熱の無い肉体には持ち越せずにだいぶ劣化してるみたいだし。


 ほら、面にしたら簡単に押し飛ばせた。


「南西方向が最も手薄です! そこを重点的に攻撃して、道が開いたら全員荷馬車に乗り込んで一気に脱出します!」


「「「はい! メシア様の御心のままに!」」」


 俺に付いてきた奴って基本全員がイエスマンなんだよね。

 おかげで楽に統制が取れてるから有り難いんだけど。




 ▼




 それから俺達は死霊の群れから強引に脱出した。

 太陽は隠れ、天然の光源は月に変わった。

 そこかしこから虫の声が聴こえてくる。


 もうすっかり夜だよ。


 事態が発生した場所から遠く離れた開けた場所で荷馬車を停めた。

 周囲に見張りを立ててグールや夜行性の魔物、野盗や盗賊を警戒しつつ荷馬車一台につき一人の代表者を選出させ、六人の会議を開いた。

 ソラスは変わらず荷馬車で留守番。


「やはり、ギルナクスの魔族がグールを発生させてる元凶なんじゃないでしょうか」

「それを言うならカルメロルツが秘密裏にグールの生体実験をしてるだけかもしれないだろう」


 うーん。どちらもありうる。そんだけだ。

 いや普通に分からん。

 全てを見通す現人神ってキャッチフレーズ返上するとメシア辞めなきゃだから答えが分かってないとマズイし。


「メシア様なら何かお分かりになられるのではないですか?」


 おっと矛先が向けられちまった。


「馬鹿! メシア様が何も仰られないという事はどういう事か考えたら分かるだろ!」

「え……。はっ!? そういう事ですか!?」

「ああ、そうだ」


 えっと、どういう事……?

 当人が分かってないのに勝手に話を進めるなよ。


「これは試練だ。メシア様は我々ならば乗り越えられると高みを目指す為の試練に挑む機会を与えて下さったのだ!」

「流石メシア様! 思慮深くおられる!」


 いや違うよ?

 ていうか仲間が四人やられてるのにそんな余裕ある訳無いでしょ。


「よし! では結論に至る為の議題を提供しよう!」

「なんです?」

「それは『殺された四人をどうするか』だ」


 五人が俺を他所に真剣に話し合ってる。

 民主主義的にはちゃんと弔うべきって意見が有力になってる。

 俺としてはすぐにサンブルックスに行きたいところなんだけど、信者達の意を汲む事も必要かと思ってこいつらに同意しといた。


 纏まった結論は取り敢えず第一に四人の死体を取り戻して弔う。

 第二にグール発生の原因究明。

 分からなければしょうがないし、分かったなら原因排除に動く。と、この二本立て。

 ただ、俺から一つだけ釘を刺しといた。


 ───目的外行動の期限は明日いっぱいまで。


 仕方無いね。実感湧かないかもだけど今、戦争中だからね。

 グールに襲撃を受けたのは夕刻、もう夜の帳が降りた。

 視界が悪い夜に行動するのは愚策。


 陽が昇って明るくなってから探索に向かおうと話が纏まった。




「メシア様! 朝食のご用意が出来ました!」


「まさかっ、こいつがグールを作ってた犯人か!?」

「そうなんだな! アリス!」


「ふーん? 召喚された三人の内、二人が男性だったって話だから……君がマヒル・シオクラか。同郷の仲間を性的に襲ったって噂の───ぐえっ!?」

「俺を前にその話題を口にするなら慎重に言葉を選べ」


「ふっ、百人力では無い……千人力だぁ!」

「アリスってほんっとーに可愛いな」

「うえっ!?」


次回、『怪しげな白衣の男』


という予告。

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