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無能勇者の烙印  作者: 汐倉ナツキ
第二章

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カルディッシュ・カルメロルツ領攻略⑥/もう一人の発現者


 ⎯⎯⎯中央の都。首都アバルカ。

 その中央区域。

 ガラルストス・デタルーに所持させている通信の魔導具が前回とほとんど間隔を空けずに『ザザザ』とノイズを走らせた。


「担当している都と区域を⎯⎯⎯」

『こちら南の都中央区域!』


 また南の代表からか。

 またまた通信兵の言葉を遮ってるけど、一個前の報告にあったイレギュラーについて何か進展があったのか?

 というか数秒前から変な音がするな。

 耳鳴りか……?

 何か風を切るような音が大きくなってきてるが……。


『担当区域に発生したイレギュラーが⎯⎯⎯』


 突然目の前でズドン! という轟音と共に地面が揺れ土煙が舞った。

 えっと、なにこれ……不発弾?


『⎯⎯⎯メシア様の担当区域に高速で向かって……その音、まさかもう!?』

「教主メシアよ。私の後ろへ下がっていて下さい」


 そう言いながら通信の魔導具を停止するガラルストス・デタルーの言う通り後ろに下がった。内心ビビりながら。


 でもマジかー。

 七部隊を一人で壊滅させるような奴が何でこっち来るんだよ。

 話から推測するに南の都庁に雇われたんだろ?

 いや、国全体から反逆者を一掃しろって依頼されたのかもしれないけど……。

 鑑定眼の空間指定で行った認識範囲は中央の都中央区域に固定していたから空からのイレギュラーの闖入にまったく気付かなかった。


「ふわぁーはっはっはっは!」


 衝撃で舞った土煙が散っていき、大笑いしてるイレギュラーの姿が顕になった

 魔鉱石製の胸当てに覆われたデカい胸を張りドヤ顔を披露するのは金髪をポニーテールに纏めた美少女。

 ふりふりと揺れるアホ毛。

 着地の風圧で派手なドレスのスカートの中身が見えそうで見えない惜しい塩梅でたなびいている。

 そんな彼女の青い瞳は無駄にキラキラと煌めいていた。


「貴女の腰に差してる剣の柄頭、イリオスの『竜殺し』ルーベンデルク家の家紋が刻まれてますね。まさか南の都中央区域のイレギュラーというのは……」

「その名は捨てたぁ! ……あれ、二回目?」


 その二回目というのはよく分からないが、ガラルストス・デタルーの言ったこの女の剣の柄頭。

 確かに竜っぽいデザインがある。

 こいつ肉眼であんな小さいのよく見えるな。

 俺は鑑定眼無いと絶対に見えんわ。


 あと、この世界って竜がいるのか。

 魔物関連の資料は読まなかったからな。

 護衛を付けて一度現物を見てみたいね。


「そこの目隠し男よ!」

「……私ですか?」

「そうだ! 赤丸目隠しマンよ!」


 名指しでは無いが名指しで呼ばれてしまった。

 しかしこのイレギュラー、能力値はランクAと変わりないし技能も変わったものは無い。なのにどうやって七部隊も撃破したんだ?

 いや⎯⎯⎯違う!


「ふっふっふ、貴様も気付いたようだな! 私達の運命に!」

「……運命?」

「そうだ! まずは自己紹介だな! 私は流浪の傭兵! アリス・フィア・ルーベンデルク!」


 高らかに名乗る彼女。

 ガラルストス・デタルーにはその名前に覚えがあった。


「ルーベンデルク家のアリス嬢といえば今、世界中の冒険者ギルドに捜索依頼が出されていますね」

「なにぃ!? それではいざという時、冒険者ギルドで小銭すら稼げないではないか!」


 彼女は「ぬぅおぉおおおお!?」と頭を抱えた。

 何だかアホの子っぽいな。この子。


「己ぃ……私の邪魔をするのは父上か? それとも母上か? まさかその両方……ぐぬぬぬぬぅ……っ!」

「それで、貴女は私の首を獲りに来られましたか?」


 話を本題に戻すメシアの言葉に彼女は首を捻った。


「むむ? ああ、そうか。ここの指揮官は貴様だったな。返答としては勿論違う!」

「ではなぜこの地へ来られたのです?」

「貴様と出逢う為に決まっておる! さっきまで私にも分からなかったが、イリオスから真っ直ぐこの国まで飛んで来たのは運命と出逢う為だったのだ!」


 さっきから運命って……一体何の話をしてるんだ?

 俺と出逢う為とか今逢ったばかりの他人に言われても訳が分からない。

 それはメシアとしてか?

 そもそもイリオスって地図上で見た限りだいぶ遠かったはず。だったらそれは無い……とするとアレか?

 いや、だとしてもますます訳が分からない。


「着地の時に訊こえたが貴様、メシアと呼ばれてたな」

「ええ、私はメシア。この世を救う主、人類の解放者、世界救済を望む現人神」

「む、宗教とかいうやつか? すまんが生憎と宗教には疎くてな………それはそうと」

「な、何だこの力は……ぐぉっ!?」


 突然、どこからか重低音が鳴り響きガラルストス・デタルーが地に伏した。

 まるで上から圧力を掛けられたように倒れた彼は「ぐ、ぐぐ……っ」と呻き、上から迫り来る圧力に抵抗するが、それでも力及ばず地面に押し込まれ意識を失った。

 ランクA相当の能力値を有する男を容易に行動不能にする目の前の脅威に真昼は頬から冷や汗を流した。


「ふむ、あとは周りの兵か」

「くっ……待て!」

「む?」


 指揮官の俺を落とさずとも今いる伝令兵を全滅させる気かこの女は!


「アリス・フィア・ルーベンデルク。そこの伝令兵を落とす前に私の質問に答えて頂きたい」

「む。取り敢えず言ってみるがよい」

「貴女の目的は?」

「うーむ……。私は別に答えても構わないが、それだと貴様が困るのではないか?」

「何?」

「その立ち振る舞い、その口調……それは本来の貴様では無いだろう? だから周囲の者の意識を落とそうとしていたのだが……」


 兵を落とそうとしてたのはどうやら俺への配慮のつもりだったらしい。

 というか俺としてはメシアのロールプレイングを上手くやっていたつもりだったのだが、そうか……気付く奴は気付いちゃうのか。

 俺ってば演技下手過ぎ。


 それにこの女に神の贈物(ギフト)を使おうにも口を回す前に潰されて殺されるだろうし。

 理由はどうあれとにかく戦力を削られるのは得策では無い。


「『神の示す道標に追従せよ』」


 幸いにもこの女は中央の都中央区域を荒らしに来た訳では無さそうな様子。

 だからこの前設定したそれっぽい言葉のキーワードを口にし、伝令兵に少しの間だけこの場を離れるよう命じた。


「ほーなるほどなるほど。それがメシアの神の贈物(ギフト)か。他人に作用するのだな。私と同じように凶悪な能力だ……」

「それで、お前の目的は?」

「ふふっ、気安い呼び方が心地好い。さっきも言った通りだ。私は貴様という運命と出逢う為にここに来たのだ」

「お前の言う運命とは何だ」

「む。改めて問われると難しいな……。とも……では無く、なか……でも無く、うーむ……」


 彼女は腕を組み考え込んだ。

 そして数秒後、答えが頭に浮かんだらしくピコーンとアホ毛が上に伸びた。

 どうなってんだそれ。


「閃いたぞ、同類だ!」

「同類?」

「そうだ! 私達は世の理を超越した能力を得た同類なのだ!」

「だからこの出逢いが運命だと?」

「そうだ! これのせいで周りと違う事にちょっと孤独感があってだな……。たった今、自分以外の神の贈物(ギフト)所有者に逢う事が出来てホッとしてさえいる」


 彼女は安心した顔で胸を撫で下ろす。

 心做しかアホ毛が犬のしっぽのように左右にブンブン揺れてる。


「俺が神の贈物(ギフト)を持っているとなぜ分かった」

「それだ! 私も不思議なのだがなぜか強く惹かれたのだ! 詳しくはよく分からないが微かに私と貴様を繋ぐ引力のような物を感じてな!」

「望む物を引き寄せる引力……それもお前の神の贈物(ギフト)の能力なのか」

「おお分かるのか!? 流石だな私の運命よ!」


 わぁーきゃー嬉しそうにはしゃぐ彼女に警戒心と頬が少し緩むが、生憎と今は和んでいる暇は無い。


「お前の運命が俺であると言うのなら、俺の運命もお前という事になるが」

「うむ! そういう事だな!」

「だったら……」

「む? うおっ!?」


 俺は目隠しを外す。

 そして俺は誠実さをアピールする為に直接自分の目と彼女の目を合わせた。

 透き通るような綺麗な青色。

 宝石のような瞳を見つめ改めて口を開く。


「俺の仲間になってほしい」

「メシアの仲間か……宗教とか関係無ければ別によいぞ!」

「本当かっ」

「ただし、条件がある!」

「⎯⎯⎯っ!?」


 そうだよな。

 無条件で相手サイドに与する訳が無いか……。

 ランクS相当の戦力が手に入ると少し気が急いていたな。


「その条件は?」

「メシアが私をアリスと名前で呼ぶ事だ!」

「名前で呼ぶ……それ、だけか?」


 彼女の提示した軽い条件に少し拍子抜けした。


「それがよいのだ! お前って気安く呼ばれるのも悪くは無いのだが、私の運命にはやっぱり名前で呼ばれたいと思った!」


 そうか。それだけの条件で俺の仲間になるのならいくらでも名前で呼んでやる。


「⎯⎯⎯アリス」

「む……ふ、ふふふふ! ふわぁーはっはっはっは! 心地好い、実に心地好いぞ! 流石は私の運命だ!」


 アリスは心底嬉しそうに笑うが、懸念は無いのだろうか。


「これでアリスは体制側から寝返る事になった訳だが、それは構わないのか?」

「よいっ! 流浪の傭兵はしばらく休業する……。そして今の私は⎯⎯⎯メシアの運命! アリス・フィア・ルーベンデルク!」


 自慢気に胸を張りドヤ顔を晒す姿にどう足掻いても和んでしまう……ていうか傭兵って信用が命なんじゃ……?

 それほどまでにアリスは同類を求めていたという事か。

 俺より遥かに強いけど見たところ歳下っぽいし、アホの子っぽいし……。

 利用するだけって考えは少し罪悪感がある。

 本来そうするべきで無いのは理解しているが……。


「メシアは偶像としての名前だ。俺の名前は真昼、汐倉真昼だ」

「なんと! シオクラ・マヒルか! ファーストネームがマヒルだな!」

「ああ、ラストネームがシオクラ」

「ならば改めて! 今の私は⎯⎯⎯マヒルの運命! アリス・フィア・ルーベンデルク! だぁーっ!」


 アホの子って何でこんな愛らしいんだろう。でも一つだけ修正させてもらおう。


「その口上はやめてほしい。人前ではメシアと呼んでほしいから」

「おお、事情というやつだな! 分かった!」

「ありがとう。アリス」

「うむ! マヒル!」


 満面の笑みを浮かべるアリス。

 めちゃくちゃ素直過ぎないかこの子……と、思わず心配しちゃうレベル。

 不意に通信の魔導具が『ザ、ザザ』とノイズを走らせた。

 それを見たアリスが物珍しそうにちょこんと魔導具の前に立った。


『メシア様! 南の全区域並びに都庁を制圧完了! そちらは大丈夫ですか!?』

「む? この声、さっきの言い値男か?」

『お、お前っ、アリス・フィア・ルーベンデルク!? なぜ通信の魔導具からお前の声が………まさかっ! メシア様ぁああああああああっ!?』

「むむ、存外うるさい男だな。なあマ……メシアよ」


 今、マヒルって言いかけたなこの子。

 まあすぐに言い直せてたからよしとしよう。


「ジム・アグラルカは敬虔な信徒。しかしそれ故に少し行き過ぎるきらいがあるのです」

『あああ神が俺の名前をぉおおおお!?』

「そ、そうか………宗教とは分からないものだな」


 通信の魔導具から出る声に引き攣った顔でドン引きするアリス。

 けど気持ちは分かる。

 これだけしかサンプルが無いなら俺にも宗教は分からん。


『⎯⎯⎯はっ!? メシア様のお声! という事はご無事だったのですね!?』

「落ち着いて下さい。私は無事です。それより先程の報告の内容は?」

『そうなんです! やりましたメシア様! 先程イレギュラーがあり、まあ他の要因でも被害は少なく無いですが南の都は我々メシア教が全て制圧しました! メシア様を心酔する冒険者達だけで無く、南の都は民衆も全力で協力してくれたのでやりきる事が出来ました!』

「そうですか。素晴らしい戦果です。やはり優秀ですね。貴方に中央の全体指揮を任せたのは間違いではありませんでした」

『お褒めの言葉ありがたく頂戴致しますっ! そして、これからも俺は……』

「うるさい」

『なっ!? お前⎯⎯⎯』


 アリスが通信をブッチした。


「確かにうるさかったが、偶像として最低限度のコミュニケーションは取らないとな」

「む、宗教とは大変だな」

「大変だが、必要な手段だ」


 俺の目的の為にはな。

 目隠しを付け直し、鑑定眼で視界を調整する。


「むむむむ。もう隠してしまうのか?」

「ああ、そろそろ伝令兵が戻ってくる頃だ」

「それにそこで倒れたままの男も目覚める、か」


 他人事のように言ってるがそいつ倒したのお前だぞ。


「マヒルの右目……茶色の入った黒い瞳は綺麗で見ていて飽きなかったというのに」

「それはどうも。俺はアリスの青い瞳の方が綺麗だと思うけどね」

「そ、そうか!? ふふっ……言われ慣れたはずの言葉なのにマヒルに言われるとなぜだかすごく嬉しい!」


 満面の笑みを浮かべるアリス。

 この子、異常と言ってもいい度合いで俺に懐き過ぎじゃないか?

 俺としては好都合だから別にいいのだが、この子の将来が少し不安になる。

 疎遠になって数年振りに会う友達に詐欺られても気付かなそうな危うさがある。

 それはそうと⎯⎯⎯。


「ガラルストス・デタルー。いつまで寝ているつもりですか?」

「むむ……やはり敬語じゃない方が好きだな」


 縦に切り傷が入っている閉じた左目。

 それを目の当たりにしても不用意に何も訊かなかったアリスはやっぱり根っからいい子なのかもしれないな。アホの子だけど。




 ▽




 ⎯⎯⎯中央の都。首都アバルカ。

 その中央区域の中心に建っている官府の一室内に緊急で設置された作戦室。

 慌ただしく入室する者からの報告や次の作戦を三人で怒号を発するように意見し合う部下達の声。

 それらを一望出来る高く目立つ位置に設置された椅子に、汗を滝のように流す内心穏やかでは無い男が座っていた。


 クソッ、各地で反乱が起きてからすでに七時間も経過している!

 なぜ鎮圧出来ていない!?

 この国は我らがカルメロルツに負けて腑抜けていたのでは無かったのか!?

 まんまとジャミングまで掛けられて本国と連絡すら取れなくさせられる始末っ! それに……っ!


「報告! 南の都全区域がテロリストに制圧されました! 味方の死傷者多数! 生存した騎士は残らず捕虜となったとの事です!」

「なんだと!? 南のエリアが丸々奪われたのか!?」

「報告があったSランク冒険者はどうした! やられたのか!?」

「それがどうやら、戦線を放棄したようでして……」

「所詮、冒険者という存在は無法者に過ぎぬという事だ! 外部の人間に頼ったツケが回って来たのだ! 愚かな南めぇっ!」

「それから南の都全区域が制圧されたのは、およそ三、四時間前だったとの事です!」

「何!? なぜ今になって報告した!」

「テロリストによって南の伝令兵が全員捕らえられていたようで、隙を突いて抜け出せた一人が中央に到着したのがつい先程だったとの事で!」

「己、テロリスト共……この卑怯者共がぁ……っ!」


 まずい……非常にまずい!

 ここまでの失態……幸い怪我の功名と言うべきか、テロリスト共のジャミングで本国に知られるのはだいぶ後と見立ててよさそうだ………だが、それまでに南の都を全て取り返せるのか!?


「報告! 西の都全区域がテロリストに制圧されました! 敵指揮官はノーランド・カルディッシュとの事!」

「ノーランド・カルディッシュだと!?」

「あやつ、我々の温情で生かしてやったのを忘れ恩を仇で返すか! 野蛮な猿め!」

「長年経っても大人しく使えるから重用してやったというのに!」

「いやまずは南に続き西まで取られた事について焦点を当てるべきだ!」


 この国の主要都市が五分の二も奪われたのか!?

 それもたった七時間で!?

 何という統制……一体誰がテロリスト共を纏め上げた!?

 まさかノーランド、貴様か!?

 いや違う……っ、ノーランドには厳重な監視を付けていた!

 雁字搦めの奴が自由に動けるはずが無い!


 やはりここ一〇数日で勢力を拡大したメシア教が怪しいか……っ!

 いずれ世界各地に散らばるカルヴァーナ教に潰されるだけの怪しく胡散臭い新興宗教と侮るべきではなかった!


「報告! 東の都、都庁を除く全ての区域が制圧されました! 敵勢力は南からの増援もあり勢いを増しています! 東の都庁が制圧されるのも時間の問題かと!」

「ここ中央の都から増援を出せないのか!?」

「それは無理だ! 三、四時間前に少し押し返せただけでそれ以来はずっとしてやられている! 癇に障る事にな!」

「そこからだ! そこから中央の都全体が劣勢になった! 不自然なほどに敵陣営があまりにも綺麗に統率され過ぎている!」

「原因は恐らく奴だ! 中央区域のどこかに隠れ潜む敵指揮官の───メシアの首を取らなければ!」


 メシア教こそが此度の騒乱の元!

 奴らは言うならば癌だ!

 癌は排除しなければならないな!

 我が仕える主君の、キリューゼル様の為にも!


「報告! 北の都、全区域が制圧されました! 冒険者ギルドの者は我々の要請に応じず反乱分子筆頭であるメシア教に加勢したとの事です!」

「南の都に設置した冒険者ギルドもそうだが、冒険者というのはどいつもこいつも!」

「言っている場合か! 中央を除く主要都市全てが奪われたんだぞ!」


 そして間髪入れずに報告が入った。


「報告! 中央の都……ここ官府を除く全ての区域が制圧されました!」

「な、何だと!? 中央の都、東西南北の全ての区域が制圧された!?」

「全ての都市は落とされた……もはや国内で援軍は望めん。そして未だに通信の魔導具はジャミングを掛けられたまま。本国はおろか隣国の騎士に応援を求めることすら不可能だ!」

「本国に送った伝令兵はどうした!? リスバイルに送った伝令兵もだ!」

「どうやらテロリスト達は国境付近を沿って等間隔に砦を建て、カルディッシュの出入国を制限しているようでして……」

「捕虜となったか殺されたかのどちらかか。そういえば一、二週間前からリスバイルがカルディッシュの出入国を限定的に厳しくしていたな……っ!」

「それを言うならロアルナとアレクサンドリアもそうだ! なぜ誰も異変に気が付かなかった!?」

「官府は孤立無援か!? 何も出来ずに万事休すなど、許されざる屈辱だ!」

「何という体たらくかッ!!」


 しかしこの癌は癌故に気付いた時にはすでに手遅れな癌だった。

 キリューゼルにカルディッシュの総督を任された文官騎士はテロリストに官府が落とされる事よりも己の失態が本国に知られる事を恐れていた。


 しかし主君自らが仰せつかったご命令を完遂する為、無理を通してでも官府での防衛戦を指示。

 少しでも戦いを長引かせる。

 また、退ける事に成功させればその功績が認められてキリーゼル様の専任騎士になれるかもしれない。


 そんな現実逃避に逃げる総督だったが、うつつを抜かしている暇も与えられず最悪の現実は非情にも己が身に迫っていた。




 ⎯⎯⎯中央の都。首都アバルカ。

 その中央区域にて最後の防衛線を撃破し、官府を目前に隊列を乱さず包囲している黒の集団がいた。

 太陽のような赤い円形を身に宿す彼らは指揮官の言葉を待っている。


「存外呆気無く制圧出来ましたね。全てのエリアを。であるならば、あとは官府本陣を⎯⎯ッ!」

「うむ! 叩くだけだな!」


 メシアの隣に相棒面で陣取る外部の冒険者、アリス・フィア・ルーベンデルクは腰に差した剣を撫でてからメシアに寄りかかった。


「さてメシアよ! 仕上げに入る前にこの者達に向けて何か洒落の効いた事でも言ってやるがよい!」


 アリスの馴れ馴れしい態度に信徒から非難が飛ぶ。


「む、何だ? この程度で騒ぐとは………宗教とは本当に分からないな」


 非難轟々という訳では無いが、疎らに苦情を入れてくる信徒にアリスは眉を八の字にする。

 先程まで元気だったアホ毛も心做しかしなしなと萎れている。


「彼らと同じように私も未だに納得は出来ていません! その女は南の都中央区域で作戦行動していた七部隊を落とし、二部隊を皆殺しにして、あまつさえ私の意識まで刈り取ったのですよ!?」

「貴方も落ち着いて下さい。ガラルストス・デタルー。先程も説明した通り彼女は私の仲間です。過去はどうあれ今は心強い味方なのです」

「し、しかし……っ。彼女は明らかな、不穏分子だと思いますがっ」


 お前がそれを言えた義理か?

 仕えている主君にすら疑われてる分際で口答えするな。

 煩わしい野郎が。


「………くっ!?」


 メシアが真面に取り合う様子すら見せなかった為、反論しても無駄と判断して大人しく引き下がった。

 やっと黙ったか。

 暫定裏切り者風情が一々手間取らせやがって。

 俺は深く息を吐き、隊列に向き直った。


「貴方方もご存知の通り私はこの国の人間ではありません」


 メシアがその場全員に対して口を開いたと同時に信徒は静かになった。


「ですが、そんな私でも一つだけ言える事があります。それは此度の戦いは絶対に勝たねばならないという事」


 メシアこと真昼は咄嗟に振られて洒落の効いた事は言えない。

 でも士気は上げるべきと判断し、さらにはガラルストス・デタルーのせいで多少ヘイトが集まったアリスへの意識を逸らす為に頭を回し口を回す。


「我々の勝利がカルメロルツに支配された他八ヶ国の希望となるが故に」


 大袈裟な身振りを交え、関心を強くさせる。


「そして我らの勝利によりもたらされる希望は伝染し、あの悪辣な大国を討つ大きな希望となります。さあ、我々の手で取り戻しに行くとしましょう───全てを!」


 反乱の徒全員が湧き上がり叫ぶ。

 天に轟くと錯覚するほどの怒号は、官府内の騎士を動揺させる勢いがあった。




 その───少しあと。


「ぐっ!?」


 真昼は官府内の敵作戦室で身体を刺されていた。

 腰から腹を貫く剣に目を見張る。

 貫かれた傷口から温かい液体が、血が流れる。

 明らかな致命傷だ。

 一瞬遅れて事態を認識して瞳孔が開いたアリスは下手人を殺そうと咄嗟に剣を振り上げたが、真昼に手をかざされ動きを制された。


「なぜだ!? この男は貴様を殺そうと卑怯にも後ろから剣で刺したのだぞ!? なぜ裏切り者を殺さぬ! なぜ裏切り者を殺させぬ! なあ! マヒルッ!!」





あと二話ほどでカルディッシュ終わります

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