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無能勇者の烙印  作者: 汐倉ナツキ
第二章

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カルディッシュ・カルメロルツ領攻略①/救世主の誕生



「おい! お前達!」

「一体何を騒いでいる!」


 牢獄エリアから大きな騒ぎを聞き付けた。

 外側にいた見張りのテロリストが数人、監獄エリアに戻ってきた。


「何だ……この有様は……っ!」

「恨みか? いや、だとしても……」

「……それなら、なぜカルメロルツと無縁の人間も必死の形相で殺しに掛かっている!?」


 牢屋の中で起きた惨状を見たテロリスト達は困惑していた。

 これまで似たような事例すら無かった。

 観光客に国外の冒険者、商人が牢屋の中でカルメロルツの騎士を嬲り殺す。そんな事は。




「反体制派の諸君」




 牢屋の部屋の一つから声が響いてきた。


「何だ! 誰だ!?」

「お前か! こいつらにカルメロルツの騎士を殺すようにけしかけたのは!?」

「どうやって唆したのか知らんが小僧! 貴様、一体何が目的だ!?」


 その牢屋の中にいたカルメロルツの騎士も他の牢屋に収容されていた騎士と同様に死んでいる。

 中にいる商人と観光客は鉄格子の前で何かを探している。

 国外の冒険者は目を閉じ佇んでいる。


 その奥にいる少年は片膝を立て座り壁に寄り掛かっていた。


「《俺を諸君らのリーダーに会わせろ。早急に》」


 少年の声が嫌に頭に響く。

 不思議な感覚が全身を抱擁するように広がる。

 優先順位が強制的に塗り替えられる事に疑問すら浮かばない。

 まるで自分の意思が自分の中から無くなっていくような感覚───。


「分かった。今鍵を開ける」

「開けた後に着いて来い」




 地下牢獄から出た後、別の建物に連れられた。

 外装は綺麗だが内装は古びていてボロい。

 凄いハリボテだな。

 組織として風前の灯って感じか。

 人材は戦力的に良いのが揃ってるのに勿体無い。


「この中に我々のリーダーがいる」


 そう言ったテロリストの一人は扉を開けた。

 執務室みたいな部屋だ。

 テーブルと椅子がある。

 あとは資料のような紙が無造作に積み上げられてる。


「誰だ。この部屋に入る許可は出してないが、どういうつもりだ」


 この部屋に人は一人だけのようだ。

 身長は高く体格が良い屈強な男。ランクはAか。

 あれらを纏めるリーダーなら納得のランクだ。

 ついでに顔がイカつい。かなり強面の男だ。


「……ガキ? おい、なぜ他国のガキをこの建物に入れた」

「我々は案内しただけだ」

「だから誰の指示なんだそれは」


 溜め息を吐く男に名乗り出た。


「俺だよ。サナトス・アペストル」

「ガキ、何で俺の名前を知ってるん───」

「《俺に従え》」

「ああ、分かった」


 良し。この組織のリーダーを手駒に出来た。

 いくらガキ相手だからって危機感が無さ過ぎではなかろうか……。

 いや、神の贈物(ギフト)という前提が無い以上警戒のしようも無いか。


 そしたらまずは情報収集だ。

 俺には圧倒的に知識が欠けている。

 カルディッシュもそうだが、それ以外の植民地に関しても。

 カルメロルツに関する事は出来る限り全て把握しておきたい。


「今から質問する。補足出来る資料と共に俺の問いに答えろ」

「ああ、何でも訊いてくれ」


 そして何より確認するべきは戦力の確認。

 ここカルディッシュにおける敵と味方の戦力。

 カルメロルツに限れば植民地でどの程度暴れれば本国から増援を呼ばれるのか。


 カルメロルツに報いを受けさせ塵も残さない為にまずはカルディッシュ・カルメロルツ領を乗っ取る。

 これが当面の目的。

 その目的が達成され次第、本国に植民地支配されてる国を一つずつ解放していく。

 そして勢いのままカルメロルツに侵攻させる……小国は統合されて名前すら消されてるな。


 植民地化以前、当時の名前で残っている国は九つ。

 それも九つ全ての領土を掛け合わせてようやくカルメロルツの国土に匹敵する。

 カルメロルツ広大過ぎないか。


 流石は世界三大大国の一角。

 だが杜撰だったな。

 本国の戦力は九つの植民地に分散している。

 その上東海岸ではギルナクスからの侵攻を受けている。

 こいつらは無闇に敵を作り過ぎだ。


 植民地を実効支配し続けるには統治者が必要だ。

 だから信頼に置ける王族の騎士が統治者として君臨しているらしい。


 この国は第一王子キリューゼルの騎士が統治している。

 それも文官を多めに配置しているみたいだ。

 この国の反抗心は舐められてるのか武官はほとんど居合わせてないらしい。


 これはチャンスだ。

 この国の首都アバルカに官府が設置されている。

 日本でいう首相官邸のようなものか。

 そこを落とせば一先ずこの国を乗っ取る事が出来る。


 幸いにもなぜかこの大陸は通信技術が未熟のまま。

 連絡手段は基本的に伝令兵などを使うらしくやけに原始的だ。

 おい魔導具はどうした魔導具は。


 あー、どうやら通信の魔導具自体は存在しているらしい。

 けど今のところコストが抑えられず量産化が難しいみたいだ。

 ただ量産化は難しいだけでデカいコストは植民地から搾取して賄ってるらしい。

 うーん、この……。


 一般に普及はしてないけど、レアな魔導具って事で伝手がある事、そして金に糸目を付けなければ手に入る程度の代物って扱いのようだ。


「なるほど、大体分かった」


 結局は植民地支配。

 前時代的な猿の治世じゃこれが限界か。

 少なくともカルディッシュ攻略の目処は立った。

 後は丁寧に仕込みを張り巡らす。

 どれだけ犠牲を出そうともやり切ってみせる。


 その為にもまずは───。


「サナトス・アペストル。今から言う物を用意しろ」




 ▽




 ───国戦歴一三二四年。


 この世界では宗教国家アルミスのカルヴァーナ教だけが宗教として存在していた。

 なぜカルヴァーナ教だけが信仰されてきたのか。

 それはアルミスの過激さが関係している。


 アルミスはカルヴァーナ教の他に宗教が出来る事を認めない。存在を許さない。

 もし新たな宗教団体が出来ようものならアルミスの全てを懸けてでもその地へ赴き、対象団体にまつわるもの全てを潰しに回る。

 過激とはそういう事である。


 しかしそのアルミスを恐れず新たな宗教を興した命知らずがカルメロルツに存在した。

 数日前、カルディッシュ・カルメロルツ領に突如として現れ、数々の奇跡を起こしたその者を崇めた現地住民は彼を神聖視し神格化した。


 全盲故に全てが見えないはずの彼は全てを見通しているという矛盾を抱えている。

 彼は黒き聖装束と紅き円形の装身具を身に纏い、紅き円形が施された黒き目隠しで目元を包み隠している。


 普段の静謐な雰囲気から醸し出される神秘的な様子は信者をより信心深くさせた。

 信者は彼の身に着ける紅き円形を救いの象徴として模させてもらい身に着けたり身体に彫ったりした。


 人々の信仰を浴びた彼は自らを『メシア』と名乗った。

 それ故に彼、メシアを崇める人々は世界の救世主足り得る彼の名を頂戴し『メシア教』を創始した。


 メシア教での教えはメシアの言動を踏襲している。

 森羅万象に八百万の神が宿るとされる思想。

 自然への畏敬と感謝の意を抱く事で災害を収め、自然から恵みを頂く。


 教主メシアは意のままに雨を降らせ、太陽を顕現させた。

 奇跡を目の当たりにした人々は教義も守られなければ教徒を救う事も無い。

 そんなカルヴァーナ教を推進するアルミスに唾を吐くように新たな宗教を創り上げた。


 だが、全ては計算された演出。

 それを目の当たりにした民衆は起こった現象を奇跡と当て嵌めるしかない。

 これが文明レベルと情報伝達の愚鈍さを逆手に取った俺だけの味方作りの方法だ。




「しかし、まさか職業『勇者』にこんな特性があったとはな」


 あの時、カルメロルツによって死にかけた時に俺は死ななかった。

 マクナが回復魔術を掛けてくれた以前の話だ。

 ふと疑問に思った俺は監獄エリアで腰を下ろした時間に鑑定眼で自らのステータスをより細かく視た。


 そして判明した。


 あの時俺を延命させたのは職業『勇者』にある基本機能だった。

 職業に力が秘められてるとは盲点だった。普通に気付かないだろ。

 職業『勇者』に内包されている機能は『BRAVE:CODE』と呼称されてる勇者成長システムだ。


 職業『勇者』を所有する者のステータス成長率を著しく向上させ、簡単に死なないよう生命維持までしてくれる。

 生命維持には寿命を伸ばす機能も含まれてるらしい。

 なんだか「錆び付いて壊れるまで長期間戦わせてやる」っていう卑劣な意志を感じるな。


 あとは武器、装備、道具の空間格納が出来る。

 基本機能はこれだけだ。

 まあ、これだけって言ってもだいぶ破格だが……どうしてあの時にこれら機能を見つけられなかったと後悔してしまう。


 しかし、職業『勇者』の力の真髄は基本機能には無い。

 勇者成長システム『BRAVE:CODE』の真髄は所有者によって分かれる三つの特性にある。

 一つの特性は『武』、一つの特性は『知』、一つの特性は『勇』。


 一つ目の特性『武』は文字通り武力に連なる全てが優先され向上する。

 緊急時には経験値という名の貯蓄を切り崩し武力の前借りが可能。

 おそらく釘宮はあの時、無意識に『BRAVE:CODE』を起動させ武力の前借りをしたのだろう。

 でなければあのステータスで出力されようはずも無い強大な力の説明が付かない。


 二つ目の特性『知』は文字通り知力に連なる全てが優先され向上する。

 緊急時には経験値という名の貯蓄を切り崩し知力の前借りが可能。

 一つ目の特性『武』と方向性は違うが似たような機能だ。


 俺が獲得した特性は『知』だった。


 だから俺に危害を加えた反体制派のリーダー、サナトス・アペストルを利用し経験値を貯め短期間でレベルを上げられるだけ上げた。

 そして貯めた経験値を使い知力の前借りを行った。


 この世界いつでも緊急時みたいなもんだから使えるやろの精神で使ってみたら案の定使えた。

 システムガバガバだな。

 おかげで助かったけど。


 しかし知力の向上とは言うものの体感すると解る。

 特性使用中の俺は底知れぬ全能感を覚えた。

 まるで劇薬のようだった。

 頭の中が澄み渡り何でも思い通りに出来ると錯覚するほど……いや、確かに実現が出来る道筋が視えていた。


 俺の技能『鑑定眼』と『BRAVE:CODE』の特性『知』は相性が良過ぎたらしい。

 だから少ない気象情報でも天気を完璧に予測出来た。

 天候の奇跡を演出出来た。

 人を観測すればその人の思考や何かを完璧に近い形で予測出来た。

 だから人心掌握もそう難しい話では無かった。




 だけど『メシア教』とは笑えるな。


 咄嗟に答えた『メシア』という名前。

 あの主人公は原作というかゲーム本編では記憶喪失の男だし全盲では無い。

 まあ、あのゲームは使用スキンを変更すれば全盲バージョンもあるからあながち間違っても無いか。

 俺は初期スキンを貫いた古参勢だが、な!


 そもそも俺の世界だとメシアはユダヤ教だし、神道と類似点はあっても違う教えだった気がするし、唯一神を名乗った覚えは無いけどここじゃメシアが神になってるし………だいぶカオスだな。

 色々とごちゃ混ぜになって、なんだこれ……これが日ユ同祖論? 違うか。違うな。


 三つ目の特性『勇』は文字通り勇力に連なる全てが優先され向上する。

 緊急時には経験値という名の貯蓄を切り崩し勇力の前借りが可能。

 中でも特性『勇』は特性『武』と特性『知』を内包する為、三つの特性の中では大当たりの特性だ。


 貰えるなら俺はレア特性の『勇』が良かった。

 けど特性のリセマラはおそらく不可。

 ただの無い物ねだりだ。

 分かってても、それでも特性は『勇』が良かったなぁ……溜め息出る。


 あとは拡張機能があるみたいだが解放条件が満たせてない為、それら機能はまだ使えていない。


「資料で得た奴らの傾向からしてアルミスは一ヶ月後以降いつ闇討ちしてくるか分からない。が、一ヶ月は余裕がある。その間にカルディッシュ・カルメロルツ領を攻略する」


 目標達成の為にも期限はあった方が張り合いがある。

 けど念の為に虚偽情報をばら撒かせた。

 その情報に踊らされるアルミスはまず本国に強襲を仕掛ける。

 だから実際には一ヶ月以上三ヶ月未満は余裕がある。

 RTAは嫌いじゃないから一ヶ月の期限は守るがな。


「メシア様、ここ北の都で生産される工業製品の売れ行きが芳しく無く……」

「生産品は官府の人間が指定した物ですね?」

「はい。初めは物珍しさからか売れ行きが良かったのですが、時間の経過と共に……生産品は変更出来ず、官府からの視察ではこちらに責任を押し付けられて……」

「それはお辛かったでしょう。ですが一月もせず環境は変わります。官府の責任者は事態を重く見て工業地帯の状況を省みるでしょう」

「本当……でしょうか。前にも同じ事はありました。でも我々もそう思い続け働いてきました。しかし官府は自らの間違いを認めた事はありません。また待遇が悪くなるとしか……」

「信じて下さい。私も、メシア教もすでに行動を起こしています。官府は必ずや自身の行いを悔い改める事でしょう」

「は、はい! 信じます! メシア様の仰る事ならば!」


 顔色を良くした信徒は「ありがとうございます!」と建物から軽い足取りで出て行った。

 いや、カルディッシュの一区画の経営状況とか死ぬほどどうでもいいんだが。

 そんなん外様の十六歳に訊くな馬鹿がよ。


 メシアとして奇跡を魅せた後は民衆の不安不満を軽減している。

 即刻解消可能な問題ならば即日に解決している。


 というかいい加減に適当してたら『メシア教』の教義が神道みたいになってて笑う。

 万物に神が宿るという思想で自然信仰。

 なのになぜ教主を立てるんだ?

 ガバガバ過ぎるがその部分は俺に都合が良かったからまあ良しとしよう。


 ちなみに『メシア教』の目的は世界救済。

 これは俺が宣言した。

 ゲーム本編でも主人公メシアは世界救済を目的に冒険していた。


 だからという訳でも無いが、この目的は都合が良い。

 世界救済の為には世界の膿を切除する必要がある。

 ここで問題だ。

 世界の膿とは何か?


 答えは簡単───カルメロルツだ。


 膿を取り除かなければ傷は治らない。

 世界に不要な膿、カルメロルツを切除しなければならないのは自明。

 なんせ切除しなければ世界は傷に侵されたまま絶対に良くはならない。


 大陸を支配し永らく悲劇を撒き散らすカルメロルツへの反逆は大多数が賛同した。

 元々不満を抱え燻っていただけの連中だ。

 少しのきっかけと大義名分さえ与えれば後は簡単にこちらへと転がる。


 外様の俺からしても単純過ぎる愚民共だ。

 神の贈物(ギフト)を使う必要すら無かった。

 だが奴らは愚民故簡単に思想を変える恐れがある。

 だからこそ魅せ続ける必要がある。

 救世の主として、メシア教の教主として。だから俺は───。






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