閑話 真昼が倒れてから
「あ」
一言、と言うより一文字が口から漏れ出た女性は突き出した手を誤魔化すようにグーパーしてサッと引っ込めた。
先程まで彼女が手を突き出していたその先には暴風が巻き起こっていた。
───緑の風魔術。
その暴風の余波で木の葉が月夜を舞い散った。
美しい光景だったが風に斬り刻まれた魔物も舞い散ってた。台無しである。
「魔物に襲われてたの見かけたからつい助けちゃったけど、こいつどうする?」
「そりゃあお前助けとけよ。わざわざ助けたのに即見捨てるとかサイコパスか」
余計な事をしてしまったと頬に汗を流す女性にガサツで巨漢の男が「つまんねえ事訊くな」とめんどくさそうに答えた。
「マクナさんは素直じゃないんだよね! 助けるつもりが無かったら最初から見捨ててるはずだもん!」
「ガハハ! そりゃそうだ! マク、一本取られちまったなぁ!」
「うるさい」
無意識に確信を突いた少女に巨漢の男性は上機嫌に笑った。
マクナと呼ばれた女性は頬を赤くして顔を背けた。
しかし直ぐに思い出した顔を浮かべ巨漢の男性に問い掛ける。
「でもガル、ほんとにいいの? 私達今作戦行動中だけど」
「この森に放ったランクBの魔物が全部死んでたのは確認しただろ」
少女が「あー、あのキモイ魔物ですねー」と嫌そうな顔をした。
「それにマク、お前の回復魔術の腕前はよ〜く知ってるつもりだぜ」
「それはアンタが作戦行動毎に馬鹿みたいに傷負ってそのたびに私が治してあげてるからでしょ」
「おいおいマク、そいつは言いっこ無しだぜ」
「マクナさん! ガルセルドさんは脳筋過ぎるからしょうがないんだよ!」
「流石にそりゃないだろレオーネ。援護風の追撃はやめてくれよ」
しょげるガルセルドと呼ばれた巨漢の男性を見て笑うレオーネと呼ばれた少女。
そんな二人を見てマクナは「まあ、それはともかく」と早速回復魔術で治療を始めた。
「…………ん? こいつ、発熱してる。凄い熱。身体中打撲が酷いし、指の骨も、左目もやられてる。血も足りない。それにこの炭化した胸元───」
「ああ、無能の烙印を刻まれてるな」
ガルセルドは「全く胸糞悪い」と眉を顰める。
「てことはこいつ、この傷全部カルメロルツにやられたって事だね」
「それも死んでてもおかしくねぇ傷をな。見たところまだガキだしよ、よく生きてるもんだぜ。このガキ、大したガッツだ」
敬意を表したガルセルドは上着を脱ぎ、汚れる事を気にする事無く真昼の下に敷いた。
大柄でガサツな面が目立つガルセルドにしては繊細な手際にマクナは「いつもそんな感じだったらね」と溜め息を吐く。
「この烙印ってヴィス様と同じ……ですか?」
レオーネが神妙な顔で二人に訊いた。
「……ああ、そうだね」
「魔術適性が無い貴族階級以上の人間に与えられる不名誉の印。団長みてえな奴がまた生まれちまったって訳だ」
漏れ出る二人の殺気に当てられてか、間で寝ている真昼は呼吸を乱した。
「あ」
「うおっ、やっちまったァ」
思わず患者に負担を掛けた二人は直ぐに殺気を霧散させた。
「取り敢えず、見過ごせないし……容態が安定したら旧カルディッシュ王国まで運んであげるか」
「お前……やっぱお人好し過ぎじゃねぇか?」
「ふん」
旧カルディッシュ王国改めカルディッシュ・カルメロルツ領。
かつてカルメロルツに侵攻され敗北したこの国は反カルメロルツ派が少なくない。
だからこそマクナはこの地を選んだのだが、如何せん距離が遠過ぎる。
ガルセルドがお人好しと言ったのも過小評価に過ぎるほどマクナは優しかった。
「レオ知ってます! こういう人をデレてるって言うんですよね!」
「うるさい……っていうか誰からそんな言葉教わったの? 誰?」
「ファニルスさんです!」
「あいつ次会ったら絞める」
マクナはゲラゲラ笑う軽薄な男、ファニルスを幻視し額に青筋を浮かべ目を細くした。
「まあ良んじゃねえか? 二件の偵察と廃棄物処理は終わらせたんだ。次の作戦が決まるまでオレ達はフリー。付き合うぜ」
「レオもです!」
「ふん」
マクナは照れ隠しで鼻を鳴らした。
「………それにしてもこいつ、全然魔術効かないんだけど」
「はあ? なんだそりゃ!?」
「わあ! それ凄いですね! 何かの特異体質ですかね!?」
「だとしたら厄介だよ。だから、恐らく何か種があるはず……」
三人の朗らかな雰囲気とは裏腹に、試しの森周辺。
そのカルメロルツ方面には死体が転がっていた。
頭を擂り潰された死体、達磨にされた死体等猟奇的な死体ばかりが散乱するその血溜まった場所にはメッセージが残されていた。
死んだ騎士の甲冑に荒々しく彫られたメッセージが。
『不当に捕らえた者達を解放せよ。さもなくば次はお前達の首を落とす』




