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無能勇者の烙印  作者: 汐倉ナツキ
第二章

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『いつも』の日々②/想回



 ───夢を見ていた。




『近所の夏祭りってなぜか毎年二日連続で来ちゃうんだよね〜』

『ふーん陽也はそうなんだ。俺は基本演芸やってる土曜だけかな。日曜は抽選くらいしかやる事無いし』

『俺ここの祭り初めてなんだけど、汐倉、演芸って毎年何してんの?』

『売れてない芸人とかアイドルとか歌手とかが営業してるよ、烏丸』

『ザックリと惨い事言うな真昼は。駆け出しって言ったげなよ』

『んー、僕もよく見てたけど皆芸歴短く無さそうなんだよね。ベテランって訳じゃないんだけどさ』

『テレビとかに出るようなメジャーな人は流石に見た事無いな』


 真昼達中学一年男子剣道部一行は土曜の部活終わりに集まって近所の神社でやってる夏祭りに来ていた。

 神社一帯に広がる祭囃子。

 スピーカーから流れる和太鼓や笛が『ああ、祭りが始まったんだなぁ』と感慨深くさせる。


『何食べる?』

『おいおい秋田、まず飯系だろ。常識的に考えて』

『烏丸、何でそんな攻撃的なの? ストレス?』

『腹減ってんだよ』

『パッと見だと飯系は焼きそば、たこ焼き、イカ焼き、フランクフルトとかがあるな』


 真昼達は悩んだ結果各々が食べたいもの買って食べる。

 シェアはやりたい人がやるという取り決めをした。


『じゃあ俺たこ焼きと焼きそば食べよ……うへえ合わせて八〇〇円かい。流石お祭り価格、ボるなぁ』

『汐倉そーすんだ。じゃあ俺もそのセットにしよ。部活終わりで腹減ったしガッツリ食いたいもんな』

『僕はイカ焼きとたこ焼き頼むから朔次郎は焼きそばと何か頼んでよ』

『焼きそば? まあ別にいいけど。うーん、じゃああとはフランクフルト頼もうかな。おれとヨシで焼きそばとたこ焼きシェアだよね?』

『そう。食べたい物全部買っても食べ切れないからね』

『おっけー』

『んじゃあぼくは焼きそば、たこ焼き、フランクフルトだなー』

『俺は取り敢えず焼きそばだけにしとこ』


 飯を買ったはいいけどこの神社他の神社と比べて狭いから食事スペースが無いんだよな。

 先に来てた奴等が座れそうなところは独占してるし、適当なところで立ち食いするしかないか。


『あ、僕んちすぐそこだからテーブルで食べれるよ。ゴミは流石に祭りのゴミ箱に捨てに行ってもらうけど、来る?』

『YES!』

『その言葉を待っていた!』

『ぼく行くー』

『俺も』

『俺も行く』


 剣持の提案に五人全員が乗った。

 そして剣持家で全部食べ終わった頃の時刻は十六時。


『ちょっと休憩してからデザート系買いに行くか』

『さんせーい』


 そして時刻は十七時になった。


『俺かき氷買って来んね。大容量二〇〇円でお祭り価格の中では割と安いしシロップ全種類かけ放題なんだよ』

『俺も同行しよう! てか汐倉、シロップ全種類かけ放題ってまじ? 最高じゃん』

『ぼくも先かき氷にしよー』

『おれはベビーカステラ買うかな。十五個入りだから皆で食べれるでしょ』

『俺わたあめ買おっと』

『僕はりんご飴にしよ』


 んまんまと甘味を堪能しながら駄弁っていた六人の内四人が十八時半頃に帰宅した。

 残ったのは真昼と烏丸。

 残った理由は演芸を見る為である。


『演芸開始まであと三〇分もあるな』

『どうする? 場所取りしなくても後ろから普通に見れるけど』


 真昼からもたらされる情報に少し考えた様子を見せた烏丸。

 彼はわずか数秒後に顔を上げ『そういえば喉が渇いたな』と提案する。


『飲み物買って戻ってくるか』

『おっけー。どうせならラムネ飲もうよ』

『あり』


 キンキンに冷えたラムネを買ってさっきの場所に戻ったら、上原が同じ部活の奴と二人でそこにいた。可愛い。


『上原、昨日振り』

『あ、汐倉だ! やっほー!』

『やっほー』


 真昼はスーパーラッキーに深く感謝した。

 学外で上原とのエンカウント。

 これは今年の運を使い果たしたな……今年はあと半年も残ってるのに。


『萌の旦那さ……じゃなくて汐倉、と烏丸か』

『おい今ゴング鳴らしたか? ファイトするか田中おい』

『もー! 別にまだ旦那じゃないよ!』

『田中は上原と二人なんだな』

『烏丸達も二人だろ』


 いつものパターンに慣れたようにスルーする烏丸とわざと火種を作って放置する田中。


『さっきまであと四人いたけど演芸興味無いって帰っちゃったの』

『じゃあ二人で合ってるじゃん』


 クラスメイトとして面識のある烏丸は田中と話してる。

 上原とはやっぱり女バス繋がりで来たらしい。

 田中は悪い奴じゃないんだけど頻繁に揶揄ってくるから嫌だ。

 嫌いじゃないけど嫌。

 そう、田中は嫌な奴なのだ。


『上原の私服見んの新鮮だな』

『私も汐倉の私服見るの新鮮だー』


 上原は胸元に英文がプリントされた黒のTシャツに紺色の七分丈ズボンを着ていた。

 ありふれた服装なのに上原が着てると死ぬほど可愛く見える。

 祭り効果とか関係無く普通に可愛過ぎる。


『まあ逢うの基本学校だけだし、そりゃそっか』

『そうなると見れるのは見慣れた制服だけだもんね』

『へー、上原ってこういう服着るんだな』

『あんまジロジロ見るなこらー! 恥ずかしいだろ!』

『あははー』

『もーいじわるだなー』


 雑談に興が乗った頃、時刻は十九時になった。

 ついに演芸が始まった。

 芸人がお笑いネタを披露したり女性歌手グループが歌ったりしてる最中。

 上原は真昼の七分袖をクイクイ引っ張った。


『む。どしたん?』

『何か向こうに迷子っぽい小さい子がいるんだけど……どうしたらいい?』

『上原は力になってあげたいんだ?』

『……うん』

『じゃあ声掛けに行くか』

『うん!』


 真昼は烏丸に『上原とちょっと抜けてくる』と伝えたら力強くサムズアップされた。

 グーでぶん殴ったろかこいつ。

 田中は『萌、頑張んな!』と上原にエールを送っていた。

 そのせいで上原は顔を赤くした。

 何勘違いしてんだこいつらと思ったがそれはともかく。


『どうしたの? お母さんとはぐれちゃった?』

『……うん。きづいたらおかあさんどっかきえちゃった』

『坊や、名前は?』

『しろー』


 真昼と上原は視線を合わせる為にしゃがんでしろーと話す。

 とにかく話の通りだとお母さんは遠くにはまだ行ってないっぽい。

 真昼達はまずしろーを連れて祭りの運営がいる場所に迷子を探してる人はいないか訊いたが空振り。

 ここに来たらアナウンスしてくれるって言ってたから真昼達はしろーのお母さんを探す冒険の旅に出た。




 それから二〇分ほどして突然しろーがトタタタと走って行って射的してる女の人に抱きついた。

 どうやらあの女の人がしろーのお母さんのようだ。

 しかしあまり構って上げてないお母さんだなぁと真昼と上原は苦笑いした。


『まあ、ともあれ一件落着。演芸見に戻るか』

『うーん。まあそうだね。戻るか』


 戻ったら戻ったで烏丸と田中に死ぬほど弄られる。その事実をまだ二人は知らない。




 ───夢を見ていた。




『それじゃあ二学期も始まった事だし、今配ったプリントに二学期の目的を書いて下さい』


 先生は黒板に『一年生二学期の目的』とチョークで記入した。

 その様子を見ていた真昼は黒板に書かれた『目的』に注目していた。

 真昼の脳内は『目的って何だ?』で埋め尽くされていた。


 それを言うなら『目的』じゃなくて『目標』じゃね? と死ぬほど細かいところに気を奪われていた。

 そもそも『目的』は『目標』をクリアする為の段階の一つ。

 そんな小さい事を一つ書くだけでいいのか? と真昼は訝しんだ。


 しかし先生に訊くのも面倒だと思った真昼は『まあいっか』と考えるのを止めた。


『『目標かぁ』』


 つい口から漏れ出た言葉が隣の席の女子と被った。

 思わずお互いに顔を合わせた。


『あはは、声ハモったね汐倉』

『そうだな、上原』


 お互い一言だけ交わして正面に向き直った。

 今の二人は揃って顔が赤い。

 後ろの少し遠い席から高木が『いいネタ見っけ』と言わんばかりにニヤニヤしてるのを真昼は気付かなかった。

 先生はラブコメの波動を感じ取り咄嗟に胃を押えた。




 ───夢を見ていた。




『かっけー、入部早々二年三年の先輩に勝っちまったよ』

『やっぱ道場通ってた奴は強いな』

『ぼく二人とは小学校一緒だったけどここまで凄いのは知らなかったな』

『いや水上も三輪道場通ってたんだろ?』

『最初だけね。ぼく、幽霊門下生だったから』

『おまっ、それ月謝だけ消えてくヤツじゃん』

『親が泣くヤツじゃん』


 剣道部による新入生歓迎会の催し───総当たり戦。

 一年生は希望者だけが参加出来るその催しに参加しなかった未経験者組である彼らに持て囃されてたのは三人。


 お互い以外に全勝中の三人の名前は汐倉真昼、その幼馴染みの秋田陽也、そして二人と別道場に通ってた烏丸篤真である。

 ちなみにあくまで催しの為時間が無いから延長戦は無く、三つ巴の試合は全て引き分けの結果に終わった。


 同じく道場組唯一の女子、三輪透子は惜しくも三年の女子に打ち負けてしまっていた。


『むぅ、私も汐倉と秋田と同じ道場だったのに……』


 正座し、荒々しく面を外した透子が悔しそうに独り愚痴る。

 その声が訊こえた真昼は透子の隣に胡座で座った。


『……何よ』

『三輪には前も言ったけど、手っ取り早く強くなりたいなら効率の良い練習が物を言うんだよ。剣道もそうだし何事もな』

『汐倉は眼が良いからそういう事言えるんだよ……前に訊いた汐倉の強くなる方法を実践して見取稽古しても私のはただの見学になっちゃったのに……』

『俺はなるべく努力しないで強くなりたいからな。三輪と同じで負けるのは嫌いだから。努力しないようにする努力くらいはするよ』

『………やっぱりよく分かんない。結局強くなるのはセンスが物を言うんじゃないの?』


 いつの間にやら未経験者組が近くまで集まって真昼達の会話を訊いていた。

 というか陽也と烏丸も一緒になって訊いていた。

 お前らはなんでやねん。

 特に烏丸、お前は俺より強いだろ。


 去れ小僧。お前に獣に育てられた人間の娘が救えるか。


 ちなみに獣は比喩。

 剣道の鬼だからね三輪家の男衆。

 汗臭いってよりお目目がギラギラしてて獣臭い。

 まあ、剣道してりゃ防具は臭くなるから皆臭いけどね。同じ穴の狢だね。


『何でか知らんが一年全員集合した今が良い機会と思うし、まだ始めたばかりの君達にだからこそ言っとくけど───剣道にセンスは必要無い!』


 真昼は胡座のままドーンと決めた。


 男子未経験者組の沢城、剣持、水上が真剣に俺の話を訊き始めた。剣道だけに……いややっぱ水上だけは上の空だ。沢城と剣持の二人に付いて来ただけだこれ。

 女子未経験者組の依田、矢部、佐原は面白い内容が訊こえてきたから寄ってみた。

 それから何となく成り行きで男子と同じように俺と三輪の正面に佇む事になったみたいだ。


『何かこの構図俺達が先生みたいじゃん……ていうか陽也と烏丸は何で未経験者(そっち)サイド!? お前ら経験者(こっち)じゃん! 何しれっと未経験者(そっち)側に混じってんの!?』

『せんせーそんなんいいから話続けてくださいよー』

『そうですよーせんせー』

『うっぜぇこいつら……グーでぶっ飛ばしてやりてぇ……』


 拳を握り締めピキピキする真昼の横で三輪がトントンと肩を叩いてきた。

 振り向くと三輪は『うんうん』と二つ頷いて真昼と目を合わせた。


『で? 話の続きは?』

『お前も経験者(こっち)だろうが……っ、まあいい。俺と三輪だけ座ってんのも悪いし皆も座ってくれ』


 経験者達のコントのような軽いノリにつられて笑った皆は真昼の周りに半円になるように座った。

 もちろん真昼が直線の中心点で皆は半円の弧だ。

 ちなみにこの皆に三輪は含まれてない。


『でだ。話の続きだけど、剣道にセンスは必要無い。これまじね。古事記にもそう書かれてるくらいにはまじだ』

『いや古事記には書かれてねぇだろ』

『そこ、陽也君お黙り』

『はいせんせー!』


 また笑いが起きた。

 うんうん。我が事ながら流石は幼馴染みコンビの阿吽の呼吸。

 私事で真面目な空気感苦手なんだよね。

 ちょいちょいふざけないと変な汗流れそうで。

 皆の笑いが収まった頃に真昼は話を再開した。


『何で剣道にセンスが必要無いのか。歴六年目の俺の持論だが、ズバリ人には『慣れ』があるからだ』

『慣れ?』


 依田の相槌に頷き肯定する。


『剣道は何も試合の為だけに稽古する訳じゃない。むしろ試合の為だろうとそうで無かろうと普段の稽古にこそ意義がある武道だ』

『ほーつまり……どゆこと?』


 剣持が頭上にクエスチョンマークを浮かべ首を傾げる。他の皆も同様に。

 結論を急くな剣道未経験の若者達よ←同い年。

 ただ経験者組は分かってるのか頷くだけだった。


『剣は心也。剣を学ばんと欲する者は、まず心を磨け。これは剣道修練の心得。三輪道場で黙想前に復唱する心得の最後の部分を抜粋した』

『俺んとこの道場とちょっと違うけど、確かに言うね。どこもこんな内容だと思うよ』

『補足ありがとう烏丸。でだ。今言った剣道修練の心得は今回の話の肝だ』


 話が核心に迫ってるのを感じてか比較的皆頷くだけになった。


『少なくとも学生剣道は正しい修練による人格形成の道だ』


 これは過去、暇潰しにウィキ○ディアで読んでたから間違いない。

 段位取得の筆記試験で必要らしいから軽く目を通しただけだけど。


『正しい修練とはそれ即ち『基本に忠実である事』だ。この中でその教えを体現してるのは陽也と三輪だな』

『真昼もそうでしょ?』

『汐倉もそうよね』

『………自分じゃ言いたくないけど俺もそうみたい』


 矢部が『烏丸君は?』と経験者の中でも烏丸だけを省く事に疑問を持ったみたいだ。

 当然の疑問だな。

 他も『そういえば』となる中、当人である烏丸は耳を塞いで顔を背けていた。


『み、耳が痛い……』

『あー、軽く説明すると烏丸の道場は基本に忠実な三輪道場と違って勝つ為の稽古をする基本とは少しズレた道場なんだよ。だからこんな変な事してんだと思う』

『あーあー訊こえなーい!』


 実際に烏丸の道場へ遠征に行った陽也が補足を入れた。ナイス。


『基本に忠実であればその動きにもいずれ『慣れ』る。基本の動きが染み付けば自然と強くなるって訳だ。この場合は三輪がそうだな』

『えらく持ち上げるけどさ、私さっき負けたんだけど……?』

『そう。だから皆そこを訊きたいんだろ?』


 陽也と烏丸を除き、三輪を含む皆が頷いた。


『ただ基本に忠実にしてるだけじゃ強い奴には勝てない。これは大前提ね。強くなりたいなら相応の努力が必要だ。例えば陽也は子供の部だけじゃなくその後やってた大人の部にも参加してた。人より稽古量、稽古の純度が上がれば動きが人より洗練されるのは必然。これが陽也と三輪の違いだ』


 結局努力か。

 まあ順当でしょ。

 まず基本に忠実って難しそう。


 うんうん。そりゃそういう感想にもなるわな。

 小難しい事言ってた割に結局稽古不足を指摘しただけだもの。とか思ってたら三輪から逆襲を受けた。


『……汐倉は?』

『三輪、お前ほんとに負けず嫌いな。俺の場合参考になる人少ないから例に挙げなかったのに。情報源(ソース)は三輪』


 三輪のせいでまた視線が集まってもーた。

 皆『裏技があんならさっさと話せ』みたいな顔してる。

 何だこのゆとり共←同じ穴の狢。


『俺は大人の部で強くなった陽也の稽古姿を観察する。見て取った動きを自分流に昇華して落とし込む。陽也みたいにガンガン稽古したくない人はこの少しの努力だけで確実に強くなれ……何?』

『言うは易しだよ。それ前も訊いたし、ようは見取稽古って事でしょ? 汐倉みたいに眼が良くないとただの見学になっちゃうし違う手段は無いの?』

『それやろうとしてないだけじゃね……てか三輪って俺と同じタイプだけど俺より必要以上に稽古したがらないよな。道場主の孫娘に言うのもおかしな話だけど、剣道にセンスは必要無いがやる気は最低限必要だぞ。流石にやる気無しで強くなるのは剣道に愛された天才だけだろ。神様にセンス貰いまくりの』

『ほら、結局センス必要じゃない』

『透子チャーン話聞いてたー? 天才はセンスで強くなる。凡人は努力で強くなるって言ったの。まあ、天才が努力したら凡人はそれ以上に努力しないと追いつかないけど。俺の知る限り俺らの周りに天才は居ない。皆努力型ね』


 そういった意味では陽也が天才じゃなくて本当によかった。

 もし天才だったら凡人の俺はなけなしのやる気すら消え去って努力すらしなかったかもしれんし。

 マジで剣道が嫌になって辞めてたかもしれん。


『結論、センスが無くてもやる気と努力で何とかなるのが剣道ね。努力の方向性は人それぞれってだけ。剣は心也。剣を学ばんと欲する者はまず心を磨け。まずは基本に忠実に稽古して、強くなりたいなら人より努力する。これはそれだけの話だよ』

『よ!』

『その通り!』


 真昼は陽也と烏丸から野次が飛ぶ中『ご清聴ありがとうございましたー』と話を緩く締めた。

 一年ズは疎らに拍手してくれた。

 疎らだろうと反応があるだけで嬉しいものよ。と思ってたら一年ズの外側からも拍手が聞こえてきた。


 音の主達はノリの良さそうな方の先輩達と顧問の先生だった。


『え、話訊いてたんすか? 恥っず』

『新一年で固まって何してるのかと聞き耳立ててたら中々興味深い話をしてると思ってね。良い演説だったよ』

『先生、俺は別に演説のつもりは無かったんすけど……ただセンスを理由に辞められるのもなぁと思っただけで』

『ぜっはっはっは』


 歯抜けの黒い髭みたいに笑ってんじゃねぇ……とジトーッと目を皿にして内心で悪態付いてたら次は先輩が話し掛けてきた。三年の。


『汐倉、歳下のお前に恥を忍んで訊く。俺には何が足りなかった? 何でお前達に勝てなかった?』

『あ……スゥーーーーーッ、俺……っすか?』


 同級生とか歳下相手なら遠慮無くベラベラ喋れるけど流石に歳上相手はキツイ。

 流石の流石に俺にもそれくらいの分別はある。


『そうだ。気付いた事があるなら何でも言ってくれ』

『あ、はい』


 どうやら逃がしてくれないみたいだ。

 何だこの向上心の塊みたいな先輩は。

 強面だし何だか怖い。


『先輩は……体格良いし基礎は出来てて動きも悪くなかったです。打突も重かったし先輩達の中でも飛び抜けて強かったです』

『だったら何でお前達三人に負けた』

『それはまあ、理由は一つっすね』


 真昼は陽也と烏丸を見遣る。

 視線に気付いた二人は頷いた。


『隙を突きやすかったんすよ、先輩は』

『俺に……隙だと?』

『そうです。俺相手の時はガチに見せ掛けたフェイント入れたら面白いくらいに嵌ってくれたんで体格差があっても勝つ事が出来たんす。陽也は基本に忠実過ぎるから先輩の軸が少しブレてて真正面貰ったんす。烏丸相手では単純に主導権握られてパワー負けっすけど』


 先輩は今日の試合を思い起こしてるのか考え込んだ。


『三輪道場での教えは『心』『技』『体』の三位一体の精神です。体を鍛え、技を澄まし、心を磨く。その一つすら欠けさせたら駄目なんす。試合ではその三つの熟練度が物を言います』

『俺は三人よりそれが劣っていたという事か』

『まあ、そういう事ですかね』


 先輩は強面のままスッキリした顔になった。


『汐倉のおかげで気付きを得た。感謝する……それはそうとちょっと生意気だなお前達は!』

『いだだだだ! 先輩! 人の関節はそっちに曲がらないったぁあああい!?』


 この時、真昼と同じクラスだった沢城が『これ、デジャブかな?』と呟いていたのを真昼は知らない。

 真昼達三人はそのあと先輩以外の先輩達にも可愛がられた。

 憂さ晴らしに遭ったとも言う。


 これが中学剣道部の始まりだった。


 月日が流れる中で一人辞めた奴がいるけどそれ以外は高校に上がった今でも交流があるくらい真昼達同級生組は仲が良い。ズッ友だ。

 噂では他の運動系の部活動はレギュラー争いとかでギスギスしてたらしいが、俺達は向上心はあっても野心は無かったからな。

 平和よ平和。


 それに真昼達は試合するのも好きだけどどっちかというと稽古派だったからってのもある。


 ちなみに次期部長は陽也だ。

 真昼も候補に上がったが丁重に辞退していた。


 役職とかまじ勘弁過ぎる。

 部活動部長会議とか新入生部活動紹介とか部活動予算会議とか参加したくないイベントがいっぱい控えてるし。


 次期副部長は烏丸と三輪だ。


 三輪はやる気を最低限度しか持ち合わせて無いが剣道経験者でしっかり者。

 女子を纏めるに相応しい人材だ。


 陽也は剣道に対してこの部内で一番と言えるほど真剣で経験も豊富。

 普段、稽古時間外の道場内でパンイチになって疾走したりとふざけまくりの男だが、男子を纏めるに相応しい人材だ。

 変態だけど相応しい人材だ。


 当初候補に挙がった俺と陽也と烏丸の三人は、相応しい人材とか関係無くそれはもう押し付け合いの三つ巴だった。

 漢気ジャンケンで一抜けした俺が一人勝ちした結果に終わったが。


 ガハハ、俺は───自由だ!




 ───夢を見ていた。





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