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無能勇者の烙印  作者: 汐倉ナツキ
第二章

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『いつも』の日々①/夢想




 ───夢を見ていた。


 少し前まで当たり前のように暮らしてた元の世界の夢。

 今やもう帰れない元の世界の夢。

 享受していた『いつも』という日常がどれだけ尊いものだったのか。

 でも、そんな『いつも』はすでに奪われた。だが現実はここに無い。だから俺は夢を見続ける。あの頃の夢を───。




『私、上原萌香! よろしく!』

『ああ、俺は……』

『高木悠一でしょ? 黒板に貼ってある座席表に書いてあったよ!』

『……それ俺じゃないね。一個後ろの席の奴だね』


 名前を間違えた上原は『あ、まじ?』と焦った様子を見せる。

 真昼は名前を間違えられた事なんてどうでもよかった。今名前を知ったばかりの女子に、入学式前の校門で一目惚れした女子に話しかけられた事実に頬が少し赤くなっていた。


『あははは! 真昼め名前間違えられてやんの!』


 後ろから顔を出す日焼け褐色の二枚目が爆笑しながら真昼の肩をバシバシと叩く。


『俺が高木ね! よろしく上原!』

『あ、よろしく!』

『こいつは汐倉真昼ね! 俺と同じ小学校出身で俺の親友!』


 高木が小っ恥ずかしい事を言う。けどこれが高木の通常運転なので真昼はスルーする。


『俺は汐倉真昼。よろしく』

『うん! よろしく! あー……ごめんね? 名前間違えちゃって……』


 真昼が『いや、別に……』と言ってる途中で高木がジーッと真昼の顔を見てきた。


『真昼、お前……いつもより明らかに口数少ないし、もしかして……』

『ん? なになに〜?』


 何だか嫌な予感がする。

 こいつは出逢ってから肉親より顔を合わせる時間が長い。

 実のところ小学校、放課後、休日のほとんどをこいつと過ごしてる。だからお互いの変化には敏感だ。敏感だからこそ察しが良くなる。そして察しが良過ぎるからこそ嫌な事もある。






『上原の事───好きになっちゃった?』


 今のがその嫌な事だ。


『…………えっ?』

『お前……っ』

『いだだだだだだ! いだいだいっだい! 真昼も知ってんだろ!? 腕の関節はそっちに曲がらないっだーい!』


 まじで余計な事しか言わねえなこいつ!

 考える前に思った事何でもかんでも口に出しやがってまじでこいつ!


『ふっ、俺は考えた上で言ったーい! いだだだだだだぁー!』

『なお悪いわ! この馬鹿!』


 真昼達のやり取りを見ていた今日からクラスメイトになる知らない顔の生徒達がクスクス笑い始めた。席が教室の真ん中辺りだからか注目されまくってる。最悪。

 というか同じ小学校に通ってた奴が『まーたいつものが始まったよ』と呆れながら笑ってるのが見えた。おいコラてめえ見世物じゃねえぞ。


『あっ、その……そうなの?』

『む』


 高木の関節を極めてる真昼を上原が顔を赤くしながら見ていた。

 そうなの? とは好きになっちゃった? に対するアンサーの事だろう。こんなに人がいるところで訊くとか鬼畜か。違うか。見るからにテンパってるし、俺もテンパってるし。


『いや、違わないんだけど違うっていうか……』

『…………』


 こんな時だけ高木が空気読んで黙ってんのが腹立つ。

 でも、そんな事すら気にならないほど……次の言葉を待つ上原に見蕩れていた。


『一目見た時から上原の事……可愛いって思ってたよ』

『あ……ありがと』


 真昼の絞り出した本心。

 真っ直ぐに目が合った上原は恥ずかしいのかさらに顔を赤くした。


『エンダァアアアアアアアイいい痛あああああああいやぁあああああ!?』

『お前まじでいい加減にしろよ?』

『し、汐倉が私の事可愛いって……あわわ』


 さっきの一瞬静かになった教室がワッと湧き上がった。色んな意味で。

 高木は変わらずうるさいし上原は赤い顔のまま俯き気味に小声でボソボソ呟いてるし周りはうるせえし。ザワザワと何だこれ、地獄か? 地獄か……顔が熱い。


『いやぁ、賑やかだねぇ』


 いつの間にか教室の前方の出入口からスーツ姿の中年男性が疲れた顔を覗かせていた。


『入学初日の朝っぱらからドラマみたいな甘酸っぱい青春のクライマックス見せつけられて先生はちょっと胃もたれが凄いなぁ……うん。もう参ったね、どうも』


 これは、上原との出逢い。

 あの後先生の号令で皆席に座ったけど、上原が座った席は真昼の真右だった。上原が一号車で真昼が二号車だったから少し離れてたけど確かに上原は真昼の隣の席に座っていた。


 高木がからかってきて、周りが乗っかって、真昼と上原は顔を合わせ顔を赤くする。ついでに先生は胃を押える。気付いた時にはそれがこの中学、一年一組のお決まりになっていた。




 ───夢を見ていた。




『ねー真昼、中学生活どう? 楽しい?』

『んー? 別にふつー』

『ふつーかー私はねー』

『別に訊いてないし』


 真昼に話し掛けてきたのは真昼の姉、真夜(まよ)だった。

 真夜は真昼と歳が三つ離れてる為、現在高校一年生である。

 友達数人と志望校に行けたらしくウキウキした様子で弟に絡んでいる。


 リビングのソファで寝転がってる真昼は読書の邪魔をされて嫌そうな顔をしている。

 そんな反応は姉弟だから慣れたもので、ソファの周りでうろうろ歩き回ってあれが良かったこれが良かったと高校生活を語ってた真夜だった。が、突然思い出したように話題を変えた。


『そういえば真昼さ、入学式で真昼より髪短い女の子と仲良さそうにしてたよね』

『───は?』

『いやー、真昼君にもついに春が来たかー。小学生の時は生意気小僧の高木とずっと一緒に遊んでたから浮いた話なんてひとっつも訊かなかったからなー』

『な、なな……っ』


 真夜は『うんうん』と後方保護者面で頷く。

 真昼は普通だったらありえない事を言う姉に言葉を失っていた。

 当たり前だ。姉も新入生。入学式が他の高校より早かったから授業も始まってるってさっき自分で言っていた。


 ならば真昼の入学式の様子なんて知り得るはずが無い。母親が教えたのか? でもニュアンス的にはまるで自分の目で見たような言い回しだった。

 そしてついに『まさかっ』と姉の所業に思い至った。


『参列してたのか!?』

『てへ、バレちゃったー』

『学校はどうした! この馬鹿!』

『休んじゃったー』

『休んじゃったーじゃないだろ! 何考えてんだ馬鹿が!』

『馬鹿馬鹿って呼ぶんじゃないの! お姉様とお呼び!』

『うるせえ!』


 真夜は隙を突いて『とう!』と真昼から本を奪い取った。


『ふふん。これから二度と私の事を馬鹿と呼ばず、尊敬の念を込めてお姉様と呼ばないとこの本は返せません』

『それ、クラスの奴から借りた本だから傷付けたり汚したら弁償はそっち持ちね』

『うぐっ』


 人質ならず物質を取り優位に立って要求を通そうとした真夜だったが、弟の可愛くない反応に息を詰まらせた。

 でもこの姉、そんなの関係無いと胸を張る!


『お姉様とお呼び!』


 真昼は意固地になった姉は絶対に折れない事を知っている。

 それでも素直に『お姉様』と呼ぶのはなんかムカつくから嫌だ。

 でも本が返って来なくなるのは普通に困るし。


『姉、貴、様、本、返、却、要、求』

『何その般若心経みたいな……でも姉貴様、か』


 せめてもの抵抗で真昼は別の言い方を取った。

 真夜は腕を組み『ふーむ』と有りか無しかをジャッジしている。


『有りね! これからは敬意を込めて姉貴様とお呼び!』

『はいはいー姉貴様ー』


 本は無事手元に返ってきた。

 真昼は『姉の奇行は今に始まった事じゃないしなぁ』と授業ボイコットは気にしない事にした。

 さて読書の続きでもするかとソファに戻った時───。


『で、で? あのベリベリショートヘアの子とはどんな関係なの? 脈あるの? 好きなの? ね、ね、ね?』

『おくたばりやがれ下さい姉貴様』

『あーちょっとー! 真昼こらー! 逃げんなー!』


 真昼は怒って自室に戻っていった。


『流石にしつこかったかー』


 真夜は広くなったソファに座る。

 そしてポケットからガラケーを取り出してポチポチいじる。見てるのは真昼の入学式の様子を写した写真。


 この姉、盗撮していたのである。弟に知られると間違いなく消去されるので写真の事は母親との秘密である。

 その写真を拡大して真昼───では無くその隣の女の子を見る。


『このぼやけ方は……うえ、上原、上原……そっか中学上がったら名札に苗字しか書かないもんなぁ……なるほどー、上原ちゃんか』


 この姉、また弟を揶揄うネタが出来たとほくそ笑む。が、残念な事に影からその姿を目撃していた男がいた事に気付いていなかった。


『消、せ』


 温度の無い声。リビングの扉から顔を覗かせてた真昼の表情は無だった。さらに目から光が失われている。これは怒るより怖い。

 そしてとどめに扉の曇りガラスで見え辛かったが、真夜は確かに見た。

 真昼が右手に木刀を装備していたのを見てしまった。殺意高過ぎじゃない?


『あい消しますごめんあそばせーっ!?』


 真夜は冷や汗を滝のように流し、真昼に見えるようにポチポチと爆速で写真を消去した。

 本当に消したのか、写真はそれだけなのかを最後まで確認した真昼はスーッとリビングから消えていった。怪異かこいつは。


 危機は去ったと息を吐く真夜はニヤリと笑みを浮かべ『(甘いぞ弟よ……!)』と心の中で呟く。口に出すと高確率で悟られるから念の為。

 この姉、すでに母親と写真を送り合いメール式簡易バックアップを構築していたのだ。


 その事実に、当時の真昼は気が付かなかった。というよりガラケーのシステムをよく分かっていなかった。この家では携帯は高校に上がってからでないと賜れない。真昼が気付かないのも仕方が無かった。

 結果的に汐倉家の姉弟は姉が一枚上手なのだった。


 ちなみに二〇一二年当時、すでにスマホは普及している。

 この姉、なぜスマホでなくガラケーを選んだのか。それは酷く単純───ただの逆張りであった。




 ───夢を見ていた。




『ガオンの攻撃だけ馬鹿みたいに重過ぎじゃね?』

『まあ、その代わり馬鹿みたいに鈍いからバランスは取れてるっしょ』


 真昼が返答するが、納得のいかない高木は不満を漏らし続ける。


『そりゃそうなんだけどさぁ……Bの溜め攻撃めっちゃ誘い込まれちゃうんだけど。相手CPUの癖に』

『まあ、俺ら基本的にCPUは最高レベルの9でやってるからね。そりゃコンピュータ君も頭良くなっちゃうでしょ』

『8以下だとヌルゲー過ぎるからなー』

『日によってはレベル9が雑魚でレベル7がCPU最強の日もあるけど、アレなんなんだろうな』

『アレまじでなんなんだろうな』


 今日は小学五年生になって二度目の新学期。その初日だった。

 開会式とか何か疲れたし学校は早めに終わったけど秋なのに如何せん残暑がキツい。だから真昼と高木は外遊びを断念しテレビゲームに興じていた。


『何かこのゲーム楽しいのは楽しいんだけど去年より前からずっとやってるから流石にちょっと飽きてきたな』

『真昼の提案でマンネリ打破してたけど、流石にもうやる事無くなってきたしな』

『タイマンは死ぬほどやった』

『コンピュータ交えて二対二も死ぬほどやったし俺ら対コンピュータも死ぬほどやった』

『アイテム無しにしないとCPUが超必ボールに群がって勝負にならないからアイテムはずっと無しだったけど、何回か解禁もした』

『ド根性バットでサンドバック野郎が何メートル飛ぶかも競った』

『トーナメントはコンピュータ邪魔過ぎて止めたんだよな』

『自作ステージも作りまくって目新しさの欠片も無くなったしな』

『ストーリーモードはまだ擦れそうだけど流石に同じストーリー六回以上見る気は無いな』

『ボス戦チャレンジは楽しかったけど、もう倒し方がパターン化されてただの作業になっちまったしな』

『持ちキャラ不可縛りしてからキャラピックなんて五〇〇年はランダムから動かしてないし』

『………エアラライドやる?』

『やる。エアラライド二、三回やったらクールザソウル7かモンスターハント3やらんか。ゴッドイート2でも可』

『今度はポータブルゲームか。オッケー』


 そうは言ったものの二人はエアラライドを楽しんだ後、ソファの上でボーッと天井を眺めていた。エアラライドのゲーム音は流れてくるもののテレビ画面はしばらく操作が無かった為暗くなっている。


『何か頭ボーッとして来た』

『ずっとテレビ画面見てたからね。しょうがないね』

『高木の家のテレビがデカ過ぎて脳内情報過多なんじゃね? それか全力で伝説のエアラライドマシン作りにいった弊害か』

『どっちにしろ俺のせいかい。てかそもそも今日外で遊ぶ予定だったからね』

『それはそう。暑過ぎて中止したけど、今思えば適当に商業施設歩き回ってても良かったんだよな』

『俺達いつも川のとこで探検してるからその発想がパッと出て来なかったわ』

『しゃあない。全部暑さのせいだ』

『おのれ残暑、ぶっ殺してやる』


 頭がボーッとするのも何もかも悪い事を残暑に押し付けた二人は、そのままだらだらと会話する事にしたみたいだ。

 流石に体調微不調のままゲームをやる気にはならなかったらしい。


『真昼ー、あれ取ってきてー』

『えー? じゃあついでに俺も貰うけど良いよね』

『えー? いいよー』

『えー? ってなんやねん』

『えー? 真昼の真似だけど』

『そこはかとなくウザイから止めろ。ほれ持ってきた』

『おっ、サンキュー』

『俺もサンキュー』


 高木の言っていた『あれ』とはレモン瓶ジュースの事。なぜ『あれ』で真昼に伝わったのか。それは親よりお互いの方が顔を突き合わせてる時間が長いからである。むしろそうとしか言えない。

 それはそうとこの親友、ゲストに自宅の冷蔵庫から飲み物を持って来させてやがる。


『相変わらず炭酸強ぉ……』

『真昼炭酸苦手なのによくこれ飲むよね』

『この家甘い飲み物これしか無いじゃん。しょうがないじゃん』

『甘党の宿命か。悲しいな』

『うおお、パチパチと喉が攻撃されてるぁ……』

『炭酸だからね』


 喉を潤した二人はソファの前にあるテーブルに瓶を置く。

 再び二人して背もたれにもたれ掛かり一息吐いた後、高木が口を開いた。


『で、好きな子出来た?』

『話題が一八〇度変わってて困惑。何、今って修学旅行の夜?』

『俺達恋バナとか中々しないじゃん。新鮮じゃん?』

『新鮮じゃんも何も好きな子出来た事が無いから語る事無いぞ俺』

『初恋もまだな真昼君に恋バナは早かったカナ?』

『挑発されてもその通り過ぎて何も言えねえ』

『なんだぁつまんねえなぁ』


 高木は『だったら』と続けた。


『どういうタイプの女の子が好きとか言い合うか』

『いや高木は黒森がタイプでしょ? 好きなんでしょ? 知ってるぞ俺』

『はあ!? キモ! 何で知ってんだよ!』

『黒森の友達が教えてくれた。あとキモって言うなパンチ』

『イデッ、つーか逆に何で黒森の友達がそんな事知ってるんだよ』


 高木は殴られた腕を擦りながら疑問に思った事を訊く。


『女子の間で情報が出回ったら一瞬で広まるんだって』

『女子ーズネットワーク怖過ぎだろ! 学校の休み時間中に男集めて恋バナしてただけなのに聞き耳立ててたのか!? 結構小声で喋ってたのに……キモ!!』

『いやお前ら毎日が修学旅行の夜かよ。じゃなくて、聞き耳では無くて高木が気になってた女子が参加した男子の一人に訊いて、女子に話し掛けられて舞い上がったその勘違い男子が簡単にゲロっちまってって経緯らしい』

『聞き耳より悪質じゃねぇか誰だその裏切り者は!?』

『菊本だって。チクりそうな顔してるよあいつは』


 真昼は『うんうん』と頷く。


『あいつはこれから恋バナからハブだな。鉄の掟は破っちゃいけないから鉄の掟なんだ。あのクソ野郎め』

『で、高木が気になってた女子が櫻田だって』

『櫻田? あーあいつね。へー俺も罪な男だな……ふっ』

『理由は顔が良いからだって。喋ると残念って言ってた』

『はあ!? ふざけんな櫻田! 顔以外にも良いとこあるだろうが! 喋ると残念はその通りかもしれないけど!』

『認めててウケるわ。ちなみに喋ると残念は高木と喋った事ある女子全員がそう言ってたらしいよ』

『……まじで? 俺ってそんなに喋ると残念?』

『俺と喋ってる時にもよくウザイ発言出るからそのせいじゃね?』

『ウザイのが駄目か………そりゃ直せないな! 性格だもの!』

『はは、開き直るのウケるわ』


 高木は『いやそうじゃなくて』と軌道修正を図る。


『俺ばっかりじゃねぇか。今度は真昼! 真昼はどんな女の子がタイプなの?』

『えー、どんなって言われてもなぁ……』

『強いて言うなら?』

『んー、髪長くて可愛かったら好きになるんじゃない? そういうの女の子っぽいから』

『そういうのいいから。性格とかそういうのは?』

『知らんよ。そういう話になるとまじで理想の話になるけどそれでいいの?』

『いいともー!』

『はいはい。うーん。そうは言ってもなぁ……明るくて活発、軽口も叩き合えて笑顔が可愛い元気な子、とか?』

『全部が当て嵌る女子はウチの小学校にはいないな』

『だから初恋もまだなんだよ。間違いない』

『こいつ、原因を外部に押し付けやがった……』


 その一年と半年後、真昼は初恋を経験した。

 それも自分より髪の短い女子に一目惚れする。その女子はかつて長い髪の女子を女の子っぽいと言っていた真昼の考えを木っ端微塵に吹き飛ばした。




 ───夢を見ていた。




『まずいまずいまずいまっずーい!』


 中学校二年生時の五月。

 今日は剣道大会で何か大きなイベントの予選をやる日←何の予選かは真昼が興味無くて覚えてないだけ。

 そんな大切な日に真昼は少しだけ遅刻していた。


『あの電車遅延するとか訊いてない! あと人助けする気も無かったのについでしゃばっちまった! 竹刀背負ってたから気が大きくなっちまったんだメイビー! 間違いない! くっそあの一本が遅延さえしなきゃ余裕で間に合ってたんだチクショー!』


 弁当やら水筒、手拭いやら何やらを入れたエナメルバッグと竹刀袋を肩に掛けた真昼は息を切らしながら目的地に到着した。

 防具袋と計量用の竹刀は顧問の車に乗せてもらってる為、先に大会会場に着いている。


 一応真昼が肩に掛けてる竹刀は練習用の予備である為、実は持って来なくてもよかった。

 万が一計量通過した竹刀をアップで壊したなんて事になれば面倒という理由から念の為に持ってきたのだ。


『あ、やっと来たー』

『ん……ん!?』

『やっほー汐倉ー!』

『何で上原がここにいんだよ』


 自転車で最寄り駅まで走る。最寄り駅から五駅目で電車を乗り換える。乗り換えた電車から三駅目で駅を出る。そこから大会の会場まで徒歩三〇分ほど時間が掛かる。

 そんな面倒なプロセスを踏んでまで上原がここにいる理由が分からない。


『えー、汐倉の応援』

『……まじで?』

『まじまじ、頑張ってね!』

『頑張る……頑張るっ!』


 真昼は好きな子からの応援に心が叫びたがってファイヤーした。

 それはそうと上原の後ろにいる女子五人は何しに来たんだ? と首を傾げてると上原が教えてくれた。


『あの五人は全員秋田君の応援だって』

『陽也の奴何であんなモテるんだ?』

『さあ、私はあんまり秋田君を知らないからよく分かんないけど顔じゃない?』

『顔かよ結局……まあ、俺は上原に応援貰ったから別に良いんだけどね』

『私の応援だけでいいの?』

『むしろ上原の応援だけがいいまである』

『あ、ありがと……私の応援だけがいいんだ……そうなんだ……あわわ』


 上原は顔が赤くなって声が小さくなった。


『そうだ、俺はもう中入らなきゃだから行くよ。応援ありがとう上原! 俺頑張るから!』

『う、うん! 頑張ってー!』


 その日、戦績としてCブロック個人戦で二位入賞。惜しくもブロック優勝を逃してしまった。

 敗北の原因としては集中力の欠如。

 流石に大会にもなると一瞬足りとも気を抜けず、結果四回戦目には意識が散漫になっていた。そう言った意味でも相手の方が一枚上手だった。


『最初にあいつとやってたら俺が勝ってた』


 と、閉会式の後に真昼は負け惜しみを言っていた。

 情けないのは分かってた為、流石に上原には言わなかったが。

 次の日の団体戦では自校がブロック三位入賞を果たした。


 しかし予選は個人戦も団体戦も両方落選。

 残念な結果に終わった。

 団体戦は三年だけが戦った為、真昼達二年と一年生は応援に回っていた。だから団体戦の日に上原は来てない。


 真昼は『クラス違うし明日学校で逢えるかなぁ』と呑気に観覧席で氷でキンキンに冷えたスポドリを飲む。

 ちなみに剣道大会で応援が大声を上げるのは禁止の為、拍手での応援が常だ。

 真昼達応援組はバカデカイ拍手で三年生の勇姿を応援していた。全部終わったあと三年生に『お前ら拍手がデカ過ぎるわ』って笑われた。やったぜ。

 



 ───夢を見ていた。




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