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無能勇者の烙印  作者: 汐倉ナツキ
第一章

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17/60

仕組まれた冤罪



 私は───真昼君が好き。


 確かに経緯は特殊な状況下による吊り橋効果とかそういうのかもしれない。

 けど、関係無い。

 今ではもう彼無しの未来は考えられない。

 生まれて初めての感情に戸惑いはあった。

 だけど、とても心地良い。


 これまでこんな風に誰かを想った経験は無かった。

 だからこそずっと大切に抱いていたい。

 この胸に渦巻く甘く苦い温もりを───。




 でも真昼君。

 私はもう……限界かもしれない。


 私の純潔は散らされた。

 金切り声で泣き叫んでもあの男は許してくれなくて。

 近付けられた醜悪な顔が気持ち悪かった。

 周りの男達の視線も気持ち悪かった。

 気持ち悪くて。

 気持ち悪くて気持ち悪くて気持ち悪くて気持ち悪くて。


 目を閉じれば頬を叩かれた。

 口を閉ざせば鼻を摘まれた。

 笑顔でいろと髪を引っ張られた。


 五感で感じる全てが気持ち悪くて私は我慢出来ず吐瀉物を吐き出した。

 そしたら間髪入れずに顔を殴り飛ばされた。

 衝撃でベッドから転げ落ちた後、中の血管が切れて鼻血が止まらなかった。

 私の醜態を見てあの男は「興が冷めた」と服を着始めた。


 その様子を見て私は安堵した。

 これ以上は穢されずに済む。

 悪夢は終わったのだと───その勘違いはすぐに正される事になる。


「きゃあ!?」


 いつの間にか甲冑を脱いだ騎士が私の手を掴み強引にベッドに連れ込んだ。

 私の身体に跨り服を脱ぐ騎士(けだもの)の後ろにも同様に醜悪な顔をした(けだもの)が蔓延っていた。

 悪夢はまだ終わってなかった。


「きゃああああああああ!? きゃあああああああああああああ!?」


 真昼君、真昼君、真昼君。

 助けてなんて我儘は言わない。

 貴方は私の心の拠り所でさえ在ってくれればいいの。

 貴方だけが私の希望の光。

 きっと貴方は私が穢れていても私の手を握ってくれる。だから───。


「ひっぐ……っ」


 そう思い込んでも嗚咽は止まらない。

 そう思い込んでも流涙は止まらない。

 そう思い込んでも嫌なものは嫌で……。


 こんな仕打ち、もう耐えられない。


 ごめんなさい、真昼君。

 貴方の事は───初恋でした。




 ▼




「───かはっ!?」


 目が覚めた。

 いや、意識が戻ったが適切か。

 窓から射し込む日差しが眩しい……。

 違う! ここはどこだ!?

 慌てて辺りを見渡した。


 この世界で初めに寝泊まりした部屋だ。

 あの時と違うのはベッドでなく床で目覚めたところだ。

 死んでない。

 まさか夢だったのだろうか。

 ここで目覚めてからの全てが。


 いや違う。

 現実逃避するな。

 あの時、俺は確かに焼印を胸に押し付けられ───。


「ひっ!?」


 昨日の記憶が脳裏にフラッシュバックした。

 釘宮がメイドに音も無く気を失わされた。

 連行される御子柴さんの悲痛な叫び声。

 地下深くで地面に押し付けられ焼印を刻まれた俺。


「はっ、はっ、はっ」


 息が苦しい。

 今まで呼吸ってどうやってしてたっけ。

 そもそも俺は───何で部屋にいるんだ?

 まさか……俺を甚振る為に生き永らえさせたのか?


 人間の所業じゃない。

 あいつら全員ひとでなしだ。

 そうだ、釘宮はどこに連れてかれたんだ? 御子柴さんは!?


「さ、寒い……ひっ、ひっ、はっ」


 赤く残る焼印の跡は燃えるように熱い痛みを感じるのに心と指先がとても寒い。

 身体が震える。

 息が……苦しい。寒い。

 御子柴さんに逢いたい。

 御子柴さんに逢わないと寒い……寒い。寒い。


 目尻から涙が溢れてきた。


 あの時、御子柴さんが騎士に引き摺られてた時に助けに行けたら……。

 違う。俺には力が無い!

 違う。無駄なんだ、無理なんだ!

 違う。どうして俺達がこんな目に遭わないといけない!


 違う違う違う───違う!!


 不意に出入口のドアが荒々しく開かれた。


「陛下から召集命令が下っている。ご同行願う」


 騎士だ。

 俺は口が上手く動かせない。

 喋れない。

 俺は昨日植え付けられた。

 その身に刻まれた。


 こいつらに───恐怖を。


「何を蓬けている。さっさと来るんだ」


 騎士が俺の腕を掴み、昨日と同じように引き摺った。

 昨日は襟首を掴まれてたが今は服が破けている為か腕を掴んだようだ。

 しばらくしてまだ浅いが少しだけ呼吸が安定してきた。


 改めて己の身を眺める。

 あの時は暗くてよく分からなかったが破けた服の下に赤、青、紫、黒と首から下のところどころが打撲アートで異様にカラフルになっていた。


 痛みに慣れても、痛いものは痛い。

 炭化した胸元は打撲と比べ物にならないほど痛みが酷い。

 それに少し痒くなってきた。

 喉がカラカラに渇いてる。


 水が欲しい。


 俺はあの日、御子柴さんに貰った水の味を思い出す。

 思い返せば無知だったあの頃はまだ幸せだったかもしれない。

 知っていたようで何も知らなかったあの時の記憶を、目を閉じ想起させ───。






「ぐあっ!?」


 床に突き飛ばされた。

 俺を引き摺り回した騎士は一瞥もせず踵を返した。

 騎士が廊下を出た時、見覚えのある大きな扉が音を立て閉じた。

 陛下から召集命令が下っている、だっただろうか。


 どうやら俺は玉座に座るカンベルトの前に引き摺り出されたようだ。

 鑑定眼で視るに周りには昨日の面子がほとんどを占めていた。

 だが、釘宮と御子柴さんがいない。


 俺だけに何の用だ?

 今度はカンベルト自ら俺を痛めつける気か?

 それとも公開処刑?


 いずれにせよこの世界の人間らしい良い趣味をしている。

 最後には殺すつもりなら直ちに殺せ。今すぐに殺せ。

 お前達の道楽にこれ以上付き合い切れない。

 関わり合いになりたくない。


 心の中で虚勢を張るが、身体は正直で震えが止まらない。

 この場にいる全員が俺を容易く殺せる。

 精神的にも、物理的にも。

 そして御子柴さんという俺のこの世界に於ける精神的支柱がいない。

 気付いた時には俺の呼吸はまた浅くなっていた。


「勇者マヒル・シオクラ殿……何か釈明はありますかな?」


 カイルマンが突き飛ばされた体勢のまま蹲る俺に問い掛けてきた。

 ───釈明?

 馬鹿かこいつ。一体何の話だ?


「勇者マヒル・シオクラ殿。今回なぜ呼び出されたか分からない訳では無いですな?」


 分かる訳無いだろ。

 死刑ならさっさとそう言え。

 返事を出さない俺にカイルマンが溜め息を吐く。

 溜め息を吐きたいのはこっちの方だ。


「…………恍けてるのですかな? それとも本当に身に覚えが無いのですかな?」


 カイルマンは「まあ、後者は無いでしょうが」と続け、奥で控えていた騎士に指示を出す。

 騎士は「は!」と奥から何かを運んで来ている。

 運んで来たものを見て貴族連中がヒソヒソと喧しくなった。


「全く嘆かわしい事ですな。まさか勇者がこのような凶行に及ぶとは……」


 凶行? 本当に何の話だ。

 カイルマンは何を言っている。

 騎士が奥から運んできたのは車椅子。

 そしてその車椅子に乗せられた髪の乱れた女だった。

 上等なドレスを着飾ってる事からただの女では無い事が分かる。


 その女が俺と何の関係があ───は?


 俺は鑑定眼で女のステータスを視た。

 そこには昨日と寸分違わない彼女のステータスが───御子柴さんのステータスが表示された。


「なん、で……?」


 見ただけで分かる。

 御子柴撫子。

 彼女は酷く憔悴していた。

 明瞭に残った涙の跡、無造作に乱れた髪、虚ろで充血した瞳。

 昨日までの御子柴さんは見る影も無かった。

 あの後でまさか……っ。


 ステータスを視なければ誰だか分からなくなるほどの変わり様に俺は激しく狼狽した。

 御子柴さんはまだ十七歳で、女子なのにこんな仕打ち……。

 誰が御子柴さんをこんな目に遭わせた……っ、誰が!?

 玉座の近くで俺を嘲笑う男の声が微かに鼓膜を響かせた。


 そういえばお前が御子柴さんを連れて行っていたな……キリューゼル・ラ・カルメロルツ!

 お前か……お前が御子柴さんを!!

 無理を通して膝をつき身体を起き上がらせ、首謀者を睨みつけた。


 俺はこいつらに何も出来やしない。

 だがこの胸に沸き上がる怒りは理屈で抑えられるものではない。

 握りしめた拳の下から何かが割れた音がしたが気にする余力は俺には無い。

 今の俺は冷静になれない。なるつもりも無い。


「勇者マヒル・シオクラ殿。此度、この者が犯した罪状は───」


 罪状?

 は?

 誰が?


 俺が?


「───強姦罪ですぞ!」


 カイルマンの告白に貴族が一層喧しくなった。

 ゴウカンザイ……。

 強姦、罪?

 俺はカイルマンの言葉を咀嚼するのに時間が掛かった。


「どうして、こんな恐ろしい事をしたのか……教えて頂けますか?」


 玉座の近くに佇むルーシェルが怒りを抑え、さも悲しげに俺に問い掛けてきた。

 信じたくは無いが、あの女の表情に演技(ウソ)は見えない。

 本気で分からなくて俺に訊いている。

 途端、冷水を掛けられたように途端に頭が冷えた。


 あー……つまり、あれか。


 庶民ならまだしも曲がりなりにも勇者一人を使い物に出来無くした王族が第一王子。

 そんな醜聞を政敵とそれに与する貴族連中に知られたくないが故の擦り付け、か。

 カイルマンは第一王子派閥だからキリューゼルに加担した。

 処分するしか扱い道が無い俺を利用した……流れとしてはこうか。


 ───とことん舐め腐ってる。


 どこまで俺達を玩具扱いすれば気が済むんだ。

 弱い者相手であれば何をしても許されるのか?

 例えこの国がそうだとしても俺だけは許さない。許されざる蛮行だ。

 こいつらは人間じゃない。

 弱肉強食は獣の摂理だ。

 だからこそこいつらは───。


「なぜ同郷の、苦楽を共にする仲間を強姦したァ!」

「ひっ!?」


 これまで沈黙を貫いていたカンベルトが口を開いた。

 しかし問い掛けとは裏腹に本人は今回の騒動自体に興味が無いように見える。

 それなのにカンベルトの発した声、その威圧感が怒りに染まっていく俺の心に不安心を取り戻させた。


「犯行当日、つまりは昨日ですが……私は彼女を部屋に招きました。日が落ち始めた辺りで部屋に帰したので……理由は図りかねますが、その後に事を決行したと考えるのが自然かと思いますよ。父上」

「ふざ、けるな……っ、俺はやってない!」


 キリューゼルの飄々とした態度に再び怒りが沸き起こった。


「不敬ですぞ! 殿下相手に! それが例え勇者であっても看過されるものではありませんぞ!」

「よい。私は我慢の出来る人間だからね」

「は! 出過ぎた真似を!」


 私は我慢の出来るニンゲン?

 はあ?

 一体何を言ってるんだ。


 この───人非人は。


「しかし勇者マヒル・シオクラ殿。それでは昨夜どこで何をしていたのか説明と証明をして頂けますかな?」

「そうだね。私が嘘を言っていて自身は冤罪だと、そう主張するのなら出来るはずだ……そうだね?」


 カイルマン、キリューゼル。

 両名は澄ました顔で俺に釈明を求めるが、その声は嘲りに満ちていた。

 どこまでも人の神経を逆撫でする奴らだ。


「どうしたんだい? だんまりじゃないか。まさか本当に……」

「俺はあの後、騎士共に引き摺り回され地下の最奥で焼印を押し付けられて失神した」


 ───焼印。

 その言葉に反応して場が騒然とした。


「まさか本当に勇者を……」

「あの烙印は本物だったと……国王陛下は何をお考えなのか」

「よせ。口を慎めトンプソン卿よ」


 周りが喧しい。

 だが、キリューゼルの挑発に乗ってやった。

 何を言っても意味が無いとしても、無駄だとしても。

 これは御子柴さんの名誉と尊厳の問題だ。だから───。


「だから犯行は無理だと? そうか……それで? 宰相が言ったように証明が出来無ければその説明も戯言になるんじゃないかな」

「キリューゼル殿下の仰る通りですぞ! 証明をお願いしますぞ!」


 キリューゼルとカイルマンが嘲笑い、見下すのを隠しすらしなくなった。

 証明なんて出来るはずがない。

 物的証拠があったとしてもすでに隠蔽されてるのは目に見えている。

 現場不在証明(アリバイ)なんて───いや。


「この城の地下、その最奥に引き摺られる道中に騎士が監視していた厳重で強固な扉があったな。その中には生気の無い紫髪の少女がいた」


 貴族連中は紫髪に過剰に反応した。

 奴らの言い分から察するにどうやら紫髪は呪い子と呼称され、この国における災いの象徴のようなものらしい。

 キリューゼルは予想の外から出た言葉に狼狽えている。

 カイルマンは目を見開き、冷や汗をかいた。


 狼狽える二人は言いたそうだ。

 「どうしてお前が知っている」と。

 この国はどれだけの数のヘイト先があるんだか……だが、この情報は使える。

 御子柴さんの尊厳を傷付けたキリューゼルに一矢報いる事が出来るかもしれない。


「それを知ってる事こそが冤罪の根拠。監視されていた紫髪の少女の名はシャルロッテ・エス───がっ!?」

「その眼、やはり厄介ですね」


 あの無表情のメイドが俺を乱暴に拘束した。

 骨がミシミシと悲鳴を上げている。


「マヒル様。貴方の発言は国に混乱を招くもの。軽はずみで口にしてよいものではありません」

「言論弾圧か……石器時代に取り残された猿程度の治世じゃそれが限界だろうな」

「王族批判は不敬罪に該当します。貴方にはその覚悟が御有りのようですね」


 俺の左薬指と小指からボキッと鈍い音が鳴った。


「〜〜〜〜っ!!」


 薬指と小指が変色している。

 遅れて痛みが走る。

 骨を折られた。

 ルーシェルは良心が堪えるのか「やり過ぎでは……」と青ざめ、見てられず顔を背ける。

 貴族の中には面白い催しだと口角を上げる者が出た。


 俺が大人しくなったのを確認したメイドは俺を第一王子派閥の騎士に投げ渡した。


「(随分と面倒な手間を掛けさせてくれましたな。今はまず勇者マヒル・シオクラ殿本人の口から訂正をさせ、貴族に犯罪者の虚言だと知らせる必要がありますな。これを機に反対派閥に活気付かれても面倒ですからな。まあ、最悪の時は適当に……)」


 カイルマンの合図に騎士が頷き、俺は再び床に押し付けられ拘束された。

 合図に従って俺の下に集う為に奥から新しく現れた騎士は小道具。

 いや───拷問器具を持ってきた。


「勇者マヒル・シオクラ殿。貴殿の先の言葉は全てが虚言であると白状するのですぞ」


 カイルマンが俺を見下しながら言う。

 どうせ嬲られ、殺される未来しかないというのなら……。


「俺が……嘘を吐く理由、が……無い」


 あの日、御子柴さんが恐怖と戦い抗ったように。

 例え結果が伴わなくとも、俺は。

 ───パチュ。


「ぎぃっ!?」


 鋭い痛みに俺は音の発信源に目を向けた。

 血が流れている。

 俺の爪が剥がされた跡から。

 痛い。

 竹刀で手にささくれたのなんて比べ物にならない。

 顔面から汁という汁が溢れてきた。


「さあ、打ち明けるのですぞ! 件の罪を認め、虚言を改めるのですぞ!」

「ふぅーっ、ふぅーっ。俺が嘘を吐く、理由が無い! 故に……俺に嘘を吐く道理が無い!!」

「!?」


 真っ直ぐ向けた俺の鋭い視線にカイルマンが少し怯んだ。

 しかしすぐに持ち直し、爪を剥いだ程度では心が折れないと判断したカイルマンは騎士から受け取り自ら短刀を手に持った。


「次が最後通告ですぞ。まずは犯行についてですな。正直な答えをその口から割らなければ───その目をもらいますぞ」


 俺は左目のすぐ前に鋭利な短刀を突き付けられた。


「お、俺は……」


 あの日、御子柴さんが恐怖と戦い抗ったように。

 例え結果が伴わなくとも、俺も彼女と同じように……っ!




「俺はやってない!!」




 カイルマンは「残念ですぞ」と眉を顰め呟き、俺の左目に短刀を刺し込んだ。

 躊躇が無かった。

 左目に挿入された異物に俺は今までの苦痛がお遊びに感じる、今までに体感した事の無い激痛が走った。

 思わずとも叫ばずにはいられなかった。


 短刀から逃れようと頭を動かすが、俺を拘束する騎士がそれを許さなかった。

 それがまずかったのか左目の奥からブチッと何かが千切れた不快な音が鼓膜にこびり付いた。






「アギャあアアあぁアあァアアッッ!!!」


 真昼は左目を奪われた。

 あまりの痛さに喉を枯れさせるほどの悲痛な叫びが止まらない。

 痛みから出た反射で目を閉じてしまい瞼や涙袋も斬れてしまっていた。

 左目から血が止め処無く流れた。

 カイルマンに指示され、白魔術を使える騎士が真昼に回復魔術を行使した。


「何!? この男、なぜ魔術が効かないのだ!?」


 狼狽える騎士は真昼を死なない程度に回復させるつもりだったみたいだが、どうやら当てが外れたようだ。

 しかしそれは真昼にとっての朗報。延命など何の価値も無い。

 彼はついに地獄から解放されるのだから。


「陛下の御前だぞ! 静かにしてろ!」

「ごばっ!?」


 真昼は腹を殴られた。

 騎士からすれば何気無い一撃。

 しかし、能力値が脆弱な真昼からすれば───。


「……ぁ、ァァぁあ…………えァ……」


 そのせいで呼吸すらままならなくなった真昼は残った右目すらも視界が黒く染まっていく。

 意識が薄れてゆく中、真昼は歓喜した。


 ようやく悪夢が終わる。

 地獄から解放される。

 ついに終われる、と。


 自身を蝕む激しい痛みから真昼は怒りよりも解放を求めた。

 死による解放で安楽を得る。

 黒く染まりゆく世界に感謝を。

 感謝。

 感謝感謝感謝。

 感謝感謝感謝感謝感謝感謝感謝感謝感謝感謝感謝感謝か───かかかかかかかか、ははは、ひはははははははははは、はは………。


 騎士が拘束を解いた。

 自由になった真昼の身体は重力に逆らう事無くドサッと床に叩き付けられた。

 顔から床に血が広がっていく。

 真昼の裂けた服とも呼べぬ服は赤く染まってゆく。

 赤く染まってゆく。

 赤く染まってゆく。


「父上、この者は自白こそしませんでしたが紛れも無い黒。処分は如何様にされますか?」

「捨ておけ。回復魔術も通じぬ死に体であるのならいずれ死ぬ。これ以上些事に付き合う暇は無い。儂は行かせてもらおう」


 カンベルトは奥へ消えていった。

 陛下の姿を最後まで見届けたカイルマンは「ふむ、ですぞ」と少し考え騎士に命じた。


「王都の外に捨ててくるのですぞ」

「は!」

「そうですな……少し遠いですが試しの森辺りに捨てれば死体も残らないでしょうからな」



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