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無能勇者の烙印  作者: 汐倉ナツキ
第一章

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無駄な足掻き




「来賓の皆様はこちらから御退出願います!」


 収拾が付かず騒然とした貴族達。

 しかし、ついに騎士が貴族達を帰路に着かせた。

 それはカイルマンの指示では無い。

 カンベルトの指示でも無い。


 第一王子キリューゼルの指示であった。


 貴族は始めこそ渋っていたが玉座にいるカンベルトの顔を見た直後、顔を青くして我先へとその場を後にした。

 残ったのは俺達と王族、宰相、騎士だ。


 多くの人が消え去り、すっかり広くなったと感じるこの空間に「ゴホン」と咳払いが鳴り響いた。

 音の主であるカイルマンがチラリと俺を見下した目で一瞥した後、無害そうな顔を作り俺達に向き直った。


「それでは、本日のところは御三方もお疲れのご様子で⎯⎯⎯」

「その前に、少しいいかな。宰相閣下」

「え、ええ! 勿論ですぞ!」


 カイルマンの言葉を途中で割った男が名乗る。


「お初にお目にかかるね。勇者の御三方。私はキリューゼル・ラ・カルメロルツ。この国の第一王子だ」


 ゆったりとした口調で喋る男。第一王子キリューゼル。

 奴は何の為にこの場で名乗った?

 目的が分からない。

 奴の狙いはなんだ?

 奴に関する記憶を引っ張り出す。

 さっきの特定の一人に向けた舐めるような視線……。


 まさか⎯⎯⎯御子柴さんか!?


 俺がその可能性に思い至った時、キリューゼルがカイルマンに目配せをした。

 一瞬のアイコンタクトにカイルマンは「分かりましたぞ」と小さく頷いた。


「マヒル殿、よろしいですかな?」

「……はい」


 カイルマンは俺に視点を定めた。変わらず見下した目で。


「マヒル殿のステータスは他の御二方と較べ、非常に低いご様子。ですからマヒル殿には特別に先んじて効率良く訓練を行えるカルメロルツ一の修練所に案内させて頂きますぞ!」


 違うな。有無を言わせずヤバイ場所に連れていく気満々って面だ。

 まあ、良いだろう。

 痛いのは勘弁だが一思いにやってくれればいい。

 二人とはここでお別れだ。

 最後に憂いが出たが、御子柴さんの事は釘宮が何とかするだろう。

 あいつになら安心して任せられる。


 ⎯⎯⎯騎士が近くにいる二人から俺を引き剥がした。


 そして、元の世界の皆とも今生の別れだ。

 もし来世なんてものがあるのなら、次こそは⎯⎯⎯。






「待って下さい! 真昼君がどこかへ行くのなら私もついて行きます!」


 御子柴さんが宣言した。

 は?

 何やってんだこの人は!?

 御子柴さんは俺に近寄ろうと足を進める。

 その様子にカイルマンは「うーむですぞ」と闖入者に唸る。

 使えないカイルマンを横に置き、キリューゼルが俺と御子柴さんの間に入った。


「ナデシコ殿は私の私事に付き合ってくれるかな?」

「え?」

「大切な用事だ。付き合ってくれるね?」

「わ、私は……真昼、君と……」


 有無を言わせないキリューゼルの話し方に御子柴さんはたじろぐ。


「彼なら大丈夫。それに、ここでこうして拱いていても無為に時間を浪費するだけなのは、君なら分かるだろう?」


 物分りの悪い子供を諭すような物言いに御子柴さんはムッと眉を寄せる。


「例え真昼君が大丈夫でも、私が彼と一緒に居たいんです! 彼と行かせて下さい!」


 御子柴さんの啖呵にキリューゼルの口元がヒクついた。


「そう、か……私の私事に付き合うのは嫌だと」

「別に嫌だとまでは……」

「穏便に事を執り成そうとする私の心遣いが理解出来なかったか……いくら見てくれが良くとも所詮は異界の女、か」


 キリューゼルは軽く息を吐き自身の前髪を振り払った。

 その後の奴の御子柴さんを見る目は据わっていた。

 空気が変わった。

 なにか……不味い事が起こる。


「その女を引っ捕えろ!」

「は!」

「きゃあ!? 何を……離して!」


 キリューゼルの命令で騎士が御子柴さんを拘束した。


「何を、してる……彼女に手荒な真似するな⎯⎯⎯うグッ!?」


 御子柴さんの元へ向かおうと身体を動かした瞬間、俺は地面に叩きつけられていた。

 画面が切り替わったみたいに一瞬で目の前に床が広がった。

 俺のそばに控えていた騎士の仕業だ。


 俺は騎士の動きの起点すら見えなかった。

 これがランク最底辺とランクAとの力の差。

 抗う事すら愚かしいと思わせる圧倒的な実力差!


「やめろぉおおお!!」


 釘宮が御子柴さんを解放せんと突っ込んで行った。

 そうだ釘宮!

 俺より御子柴さんを助けろ!

 お前達は心根から良い人なんだ!

 そんなお前等が幸せになれないなんて嘘だ!

 だから騎士と隔絶した実力差があろうとも、何をしようと無駄だとしても、せめてあの二人だけでも───ッ!


「下種が、離せぇええ⎯⎯⎯ぎぃッ!?」

「ま、真昼君ッ!?」


 必死に出した勇ましさも虚しく騎士は足一本だけで真昼を押さえ付けた。

 真昼は湧き上がる無力感にギリギリと歯を食いしばる。


「その男もだ! 捕らえよ!」

「は!」


 キリューゼルが釘宮を指し、騎士に命じた。

 万が一という奇跡すら起こさせぬよう騎士は数人掛りで釘宮を囲った。

 そして暴れさせる事無く押さえ付けようと素早く釘宮ににじり寄る。


「くっ───はぁああああ! そこを退けぇえええええ!!」


 だが、釘宮の雑に振った腕がにじり寄る騎士数人を吹き飛ばした。


「うわああああ!?」

「なん、だ……この力はぁあああ!?」


 その様子を見た騎士達は困惑していた。

 王族も。

 そして俺も。

 目の前の光景に理解が追いつかない。




「な、なぜだ……この男はレベルも低く、能力値も我が国の騎士の誰とも比べ物にすらなっていなかったではないか!」


 キリューゼルが予想を超えた釘宮の進撃に怯えた。

 先程奴が全員に表示したステータスが間違っていた?

 それは無い。

 あの開発機は正常だった!

 間違い無くあの男は、今の時点では取るに足らない存在だったはずなのだ!

 なのに……なぜあの男は我が国の騎士を一蹴出来た!?

 なぜなのだ!?




「御子柴先輩を離せぇえええ!」


 釘宮を押さえに動く騎士を弾き飛ばし、彼はついに御子柴の前に辿り着いた。


「あ、ああ……っ」


 余りの気迫にキリューゼルは腰が抜けたのか鈍い音を立て尻もちをついた。


「まずは御子柴先輩を助ける。次に汐倉君も助ける。その次は三人で元の世界に帰る! その為にもお前達は⎯⎯⎯邪魔だ!」

「ひぃいい!?」


 キリューゼルの股間から床に染みが広がった。


「待つのですぞ! セイト殿! マヒル殿がどうなっても構わないのですかな!?」


 額に汗を流し慌てるカイルマンが指差す方には真昼が居た。

 身体を押さえ付ける騎士と、抜刀した剣を首に突き付ける騎士と共に。


「外道が! 人質のつもりか!?」


 怒りで顔を歪ませた釘宮は騎士を蹴り飛ばして御子柴の拘束を解いた。

 蹴り飛ばされ、白目を剥いて気絶した騎士の甲冑は無惨にも砕け散っていた。

 レベルのおかげか肉体が五体満足に原型を留めているが、ランクの低い者が釘宮の攻撃を受けていたら即死だっただろう。

 釘宮はその様子を一瞥する事無く、そのまま御子柴を抱えて真昼の居る場所に疾く駆けた。


「はぁあああああ!!」


 真昼を拘束する二人の騎士を蹴り飛ばした釘宮は真昼も脇に抱え込んだ。

 完全に腕が塞がった。

 しかしそれでも釘宮に死角は見えず、騎士は二の足を踏む。


「シンクレシオ」


 玉座の近くに佇んでいたルーシェルが専任騎士の名を呼んだ。


「かしこまりました」


 短い返答を主君に返した騎士は音も無く姿を消した。

 その一秒後、シンクレシオのいた場に小さな突風が巻き起こった。






「真昼君……ああ、良かった」


 御子柴さんが俺を見て顔を柔らかくし安堵の息を漏らした。

 自分も捕らえられていたってのに……こそばゆい。


「御子柴さんも無事で良かった」

「うん。僕を挟んでイチャつくのは後にしてね? でも、皆無事で良かった」

「そういえば釘宮君……貴方、その力は……?」


 この世界のルールを壊しかねない釘宮の異変。

 ステータスを遥かに凌駕した力の発露。

 御子柴さんの問い掛けに釘宮は本当に分かっていないような表情を浮かべ首を振った。


「すみません先輩……俺にもよく分かってないんです。でも、二人を助けられる力が手に入ったんです。今はそれでい⎯⎯⎯くっ!?」


 釘宮は突然、俺達を抱えたまま凄まじい速度で移動した。

 移動した先から俺達が元いた場所に目を向けると、そこには何かを抉るように腕を突き出したシンクレシオ・アレイアードがいた。


「おかしいですね。伝承だと勇者は召喚された直後は、レベルの問題で力が不足してると訊いていましたが……」


 アレイアードは不敵な笑みを浮かべた。


「どうやら貴方は違うみたいだ⎯⎯⎯セイト殿!」


 腕を使った刺突と呼んで差し支えない神速の攻撃を釘宮は余裕を持って避けた。


「シンクレシオさん……どうして!?」


 奴の兇行に釘宮は困惑していた。

 彼は僕達の味方だったはずなのに、と。


「釘宮、ルーシェルの人質の件を覚えてるか?」

「そうか……だから!」


 いや、それ込みでもあいつの顔は今の状況を楽しんでるように見える。

 シンクレシオ・アレイアード。

 やはりあの男もあの男で気が狂っている。

 そんな男を従えるあの女も!


 今思い返せばそうだ。

 あの時、俺達の味方をしてるように見えたのは政敵に対するただの嫌がらせの為だったんだ。

 どんな理由であれ他人を拉致するような奴がまともな訳が無かったのだ。


「……いや、貴方にどんな理由があろうと!」


 シンクレシオが繰り出す一撃必殺の拳を避け、釘宮は旋風を巻き起こす威力の蹴りを返していた。

 実力は拮抗してるように見える……いや、御子柴さんはともかく俺というお荷物がいなければ両足に加えて片手を使える。


 俺という縛りが無かったならすでに釘宮が勝っていた。

 今頃この国から脱出する事もままなったはずだ。

 そして釘宮の圧倒的な力があれば御子柴さんを絶対に守れる。だったら───。


「釘宮! 俺を捨てろ! 捨てて御子柴さんと逃げろ!」

「汐倉君! その選択肢は僕に無い! 僕達は三人で生き抜くんだ!」

「俺の事はもういいんだ! もう十分貰った! この先三人で逃げ延びれたとしてもきっと俺だけは弱いままだ! お前達の荷物になるくらいなら俺は、ここで死ぬべきなんだ!」


 俺と釘宮の問答に口を挟もうとした御子柴さんは突然出された思いがけない言葉に思わず目を見開きキュッと口を結んだ。


「……それは違うよ。僕達三人の中に死ぬべき人間は一人もいない……だというのに汐倉君はいつの間に死にたがりになったんだ! あんなに生きたがってた君が!」

「くっ、俺は……俺だって……っ、死にたくないに決まってるだろ……生きてたいに決まってんだろ! ……だけど、俺なんかの我儘よりお前達が生きる方が優先されるべきだろうが!」

「君は馬鹿だ! 生きる事を我儘とは言わないだろッ! 助けられるんだ……今の僕なら! 二人を助けて三人でこの国を脱出して絶対に元の世界に戻るんだ! だからこそ!」

「この、分からず屋が──ッ!」

「その言葉、そっくりそのまま返すよ! 頑固なのはお互い様だ!」

「蹴りの威力が上がった……? はは、さっきまでの威力が限界じゃなかったのか! セイト殿!」


 釘宮が猛攻を仕掛けた。

 まるで台風が巻き起こったような暴風に、屋内では逃げ場が限られるシンクレシオは冷や汗を掻く。

 そしてついに釘宮の攻撃を凌ぎ切れず奴の頬から一筋の血液が流れた。


「やりますね……セイト殿。私もこのままじゃ敵わなそうだ」


 シンクレシオはチラリとルーシェルを見やる。

 視線を受けたルーシェルは神妙な顔でこくりと頷く。

 その様子に口角を上げたシンクレシオが釘宮から間合いを取り、改めて拳を構えた。


 刹那⎯⎯⎯この場の空気が鈍重になった。


 シンクレシオから放たれる背筋が凍りそうな威圧感に、俺は呼吸を乱された。

 こいつ、ただでさえヤバイのに……さっきよりヤバイ!


「この場でこの力は使いたくなかった。本当に使いたくなかった。しかし、曲がりなりにも貴方は勇者だ。出し惜しみして敗北を喫するくらいなら、私は⎯⎯⎯」

「リリアン。場を収めよ」


 シンクレシオが仕掛けてくる直前、傍観に徹していたカンベルトが口を開いた。


「ぐっ!?」

「きゃっ!?」


 俺と御子柴さんは身に響く衝撃に声を漏らした。

 床に叩きつけられたのだ。

 いや、俺だけ床に落とすならいい。

 御子柴さんまで床に落としたのはなぜだ?


「ぐ、は……」


 疑問に思った時には釘宮がドサッと音を立て倒れていた。


「⎯⎯⎯は?」


 釘宮の背後に立っていたのは無機質で無表情なあの女⎯⎯⎯メイドだった。

 メイドのステータスは事前に確認済みだ。

 ランクB相当……そのはずだった。

 しかし今一度彼女のステータスを見るとシンクレシオとほぼ同レベルのランクS。


「まさか、『偽装』の技能が………っ!」

「勇者様のその眼、やはり魔眼でしたか。道中視線を鬱陶しく感じましたが、ようやく腑に落ちました」


 メイドは釘宮を拾い、腕に抱えた。


「釘宮を……どうするつもりだ」

「さあ、私の預かり知らない事情ですので。ただ国王陛下がこの勇者を所望してる為、命までは取られないと思います」


 それは言外に「貴方は知りませんが」と言ったも同然だった。

 だがそんな事はどうでもいい。釘宮に何を!


「イヤ、離して! 真昼君!!」


 御子柴さんがまたしても騎士に捕まってしまった。


「くっ!?」


 俺も捕らえられた。

 さっきより押さえる力が強い。

 釘宮がいなくなった事で鬱憤を晴らすように痛めつけてきた。


 ───終わった。

 いや、この世界に召喚された時からすでに詰んでいたのだ。

 ここまで来て、俺はようやく現実を直視出来た。


「この男……私に恥をかかせたな! 貴様、父上のメイドか? その男を殺せ! 今なら褒美は幾らでもくれてやる!」

「その命令は私でなく、我が主君に向けられればよろしいかと」

「何? 父上に……クソッ、私に沸き立つこの苛立ちはどうすればよいのだ!」

「勇者はこの男だけでなく、あと二人残っています」


 俺が死んでも二人は助かるなんて甘い幻想だった。

 そうだった。

 俺がいなくても二人は敵国に対抗する為に召喚された生きた兵器。

 奴らは勇者様なんてご大層に敬った事を言ってはいたが、全てはまやかし。


「……そうだったな。おい、女を連れて来い」

「は!」

「いやっ、真昼く……真昼君!! 助け、て!! いやあ!! 真昼君!!」


 顔を歪め、泣きじゃくる御子柴さんは騎士に引き摺られ、キリューゼルと共に広間をあとにした。

 もう、俺には反抗する気力も湧かない。

 釘宮の逆転劇も終わってみれば全てが茶番だった。


 国王であるカンベルトには余裕があった。

 どんな状況に陥ろうとその姿勢を崩す事は終ぞ無かった。

 何が起きようと予定調和だったのだろう。

 何をしようとも、何を考えようとも……全ては無駄に終わる。


 あの日、あの時、あの瞬間……この世界に降り立った時点で⎯⎯⎯俺達は。






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