無能発覚
翌日になり、カルメロルツの王城に戻ってきた。
行きのような荷車では無く、煌びやかな装飾を施された馬車で帰路に着いた。
おそらく行きは冒険者の存在で馬車が定員オーバーだったから荷車になったんだろう。
まあ、そんな事は今やどうでもいい事か。
「それではこれから、宰相閣下に無事帰還した事をご報告に参ります」
僕達をメイドさんが牽引する。
城の廊下の窓から城下の街並みを見た。
初日と同じく甲冑を着けた騎士の数が多い。
これはルーシェルさん達の件を除いても僕達を逃さない為の檻になっていた訳か。
正攻法での脱出は厳しい……どうにかして裏をかければいいんだけど。
チラリと横を見るとどうやら汐倉君は初日に欠かさなかった情報収集を怠ってるように見える。珍しいな。
というより、その表情に覇気が無い。
御子柴先輩も汐倉君の様子を気にしてる。
汐倉君は昨日あれからずっと黙り込んでいた。
だから僕達は心配してたけど……まさか!
君は⎯⎯⎯諦めたのか!?
あんなに元の世界に帰りたがってたのに、もう自分の命を身限ったのか!?
確かに僕達が相手する奴らは強大だ。
でも、まだ試してもいないというのに、やってもいないというのに……!
僕に「助けて下さい」って頭を下げたじゃないか!
生きる事は諦めたく無かったんじゃないのか!?
クソッ、メイドさんがいるから汐倉君に討論すら仕掛けられない。
歯痒く思ってると小さな闘争が目に入った。
御子柴先輩が汐倉君の手を繋ごうと画策してるが尽く失敗していた。
またやってる。そう思ったが少しおかしい事に気が付いた。
これまでの汐倉君は手を繋ぐだけなら抵抗しなかった。
だというのになぜ今は抵抗してるんだ……?
「⎯⎯⎯ッ」
まさか君は僕達を巻き込まない為に敢えて距離を置こうとしてるのか?
僕達を巻き込んででも生き残ろうとした君が……ふざけるな!
君だけが危険地帯で苦しんで、そんな君を見て僕達は安全な所から高みの見物を決められると本気で思ってるのか!?
犠牲なんて、そんなの許さないぞ!
君が君なりに考えて出した最良の結論なんだろうけど、僕はその覚悟を否定する!
覚悟っていうのは犠牲になる事じゃない!
そんなのは独り善がりなただの自己満足だよ!
僕達は本当の仲間だ。
僕は仲間を絶対に見捨てたりはしない!
絶対に三人で元の世界に帰るんだ!!
▼
広間の扉を前にしたメイドは俺達の後ろに控えた。
内側から扉が開かれた。
ここは初日に国王と謁見した場所だ。
玉座には国王カンベルトが、その隣には宰相カイルマンが俺達の到着を待っていた。
その両脇には王女ルーシェルとその騎士シンクレシオ、そして……カナレア? 職業欄からして王女。第二王女か。前はここにいなかった奴だ。
カナレアは専任騎士がいないのかルーシェルと違って一人だ。
それに……キリューゼルというギザな男。
第一王子で取り巻きが大勢いる。
奴の瞳、その視線の先には御子柴さんしか映っていない。
今はまだ弱くとも魔術士の才能がある勇者なら流石に何もされないよな……大丈夫だよな……?
いなかった奴といえば、壁際に立ってる奴らだ。
職業……貴族? 貴族って職業なのか?
ともかく周りの貴族連中は俺達を好奇の目で眺めていた。
気分悪いな。俺達はパンダか。
見てみると貴族は最低でもランクC相当の実力を持っている。
ランクBがそこそこいて、ランクAは数えるくらいだがいた。
ちなみにカイルマンはランクC。
端に控えている騎士はランクBの上澄みからランクA相当の実力者が揃っていた。
王族のカンベルトはランクA。
キリューゼル、カナレア、ルーシェルがランクC。
ルーシェルの専任騎士シンクレシオは⎯⎯⎯ランクS!?
こいつ、ほとんどの能力値がAで埋まっている。
魔力はあまり無いみたいだが、こいつみたいなバグが使うとウィンドウ開発機が壊れるのか……。
「戻られましたか! いやはや、道中とても大変だったと聞きましたぞ。よくぞ戻られましたな!」
カイルマンが満面の笑みで両手を広げた。
この男、口元は笑ってるが初対面の時と同じく変わらず目は笑ってない。
「戻ってきて早速なのですが、ウィンドウ開発機の修復が終わってるので勇者様方にはステータスを開発してもらいますぞ」
騎士連中が見覚えのあるデカイ機材を抱え込んできた。
ウィンドウ開発機だ。
釘宮が俺に視線を向けてきた。
それを意に返さず先んじて前に行こうとしたら御子柴さんに制止され、その隙に釘宮が前に出た。
「さあ、地を一滴垂らしてウィンドウの開発をするのですぞ!」
「はい」
騎士の一人が前に立った釘宮にナイフを渡す。
釘宮は受け取ったナイフを躊躇無く指先に滑らせ、ウィンドウ開発機に手をかざして血を垂らした。
ポチャンと水音が鳴り、ウィンドウ開発機に埋め込まれた半透明な結晶が輝きを放つ。
しばらくして光が消えた。
ステータスの開発が完了したようだ。
「さあ、セイト殿! ステータスの提示をお願いしますぞ!」
「分かりました」
カイルマンが興奮して催促する。
周囲を囲んでいる貴族と同じくカイルマンの後ろにいる国王も興味ありげな顔をしている。
感覚的に使い方が分かったのか釘宮は宙に手をかざし、ステータスを表示した。
俺の鑑定眼で視た通りのステータスが現れた。
レベルの割に能力値が高く、馬鹿みたいに技能が敷き詰められている。
そのステータスはそれらを見た周囲を圧巻したようで「おお」と感嘆の声が広がった。
御子柴さんも所持している『成長促進』と『ステータス強化補正』と『魔術強化補正』は俺には無い勇者の標準技能。
釘宮の技能はさらに盛りに盛られていた。
まさに選ばれし者だ。
それに対して俺は『鑑定眼』と『多言語理解』だけ。
能力値も特筆するものは無い為、このザマだと勇者としては失格なのだろう。
業腹だが初期値が努力でどうにかなるなら努力もしよう。
しかし、しがらみとは勝手に巻き付いて来るもので⎯⎯⎯。
「これは期待が持てますなぁ。次はナデシコ殿! お願いしますぞ!」
御子柴さんが俺の前に立っていた為、興奮冷めぬカイルマンが二番手にその名を呼んだ。
彼女は釘宮と同じ動作を再演して滞り無くステータスを開発した。
「ナデシコ殿もステータスの提示をお願いしますぞ!」
「……はい」
御子柴さんも宙に手をかざしてステータスを表示した。
釘宮には劣るもののレベルより優れた能力値だった為、貴族と同じくカイルマンも満足そうに頷いていた。
そして⎯⎯⎯。
「最後にマヒル殿! お願いしますぞ!」
好奇の目が全て俺に降り注いだ。
しかし先程と打って変わりそれら全ての視線を気に留める事無く、俺は断頭台へと向かって行った。
釘宮と御子柴さんは俺のそばから離れないように距離感をキープしている。
俺も二人と同じ行程を経て、ステータスの開発を完了させた。
ジクジクして指先が痛い……自傷も、痛いのも嫌いだ。
「マヒル殿! ステータスの提示をお願いしますぞ!」
御子柴さんが息を呑んだのが分かった。
釘宮は咄嗟に動けるように少し重心を移動させていた。
「分かりました」
俺は緩慢に宙へ手をかざし、ステータスを表示した。
マヒル・シオクラ レベル3
職業『勇者』
種族『人間』
ステータス
体力 E-
筋力 F
俊敏 E
耐久 E
魔力 -
幸運 D-
魔術 -
技能『鑑定眼』『他言語理解』
その場が静寂に包まれた。
当然、俺のステータスの酷さに唖然としてるのだ。
そもそも戦う者の平均的な数値はC。
反応から見るに悪い予想は当たっていそうだ。
そして静寂も束の間。
ざわめきがこの場全体に広がっていく。
「これは、ステータスが庶民と変わりが無いではないか」
「待てい、一〇〇年前に前例はある。切り捨てるにはいささか早計が過ぎるのでは?」
「いやいや魔力を見たまえよ。事実、皆無ではないか」
「魔術適性が無いように見受けられるが?」
「だが職業には確かに勇者と記されている」
「能力値が平凡に過ぎますな」
貴族共が好き勝手に俺を品評し収拾が付けられないほど一層喧しくなった。
そのほとんどが侮蔑を孕んだ視線を無遠慮に俺に向けた。
訊き取れた中に魔術適性について触れていたものがあった。であるなら予想は確信に変わる。
しかし意外だ。
貴族の中に哀憐の意を俺にも向ける輩がいる。
それも数少ないランクAの実力者が、だ……不気味だな。何を考えてるんだあいつは。
それよりもお前だよルーシェル・リ・カルメロルツ!
お前も俺を憐れむのか?
この世界に俺を召喚した実行犯の分際で!
何なんだ……何様のつもりなんだお前は!
「真昼君!」
「汐倉君!」
釘宮と御子柴さんは悪意から守るようにより俺に近寄り、気を張った。
俺の為にありがたい事だけど⎯⎯⎯。
「もう俺を守ろうとしなくていい」
二人の為にもここで区切りを付けるべきだ。
「いや、絶対にいや……真昼君と、離れたくない!」
御子柴さんなんて震えている。
彼女は当事者に成り下がらず、傍観者で在れば無用な恐怖に身を震わせる必要も無いのに。
彼女は⎯⎯⎯抗っている。
これまでの自分に。
この狂った世界に。彼女は⎯⎯⎯。
「君の魂胆はお見通しだ。だからこそ僕は、僕の覚悟を押し通して……君の覚悟を否定する!」
釘宮も焦燥感に満ちた表情を浮かべながらも俺のそばを離れるつもりは無いらしい。
二人共に己の遥か格上に歯向う意志を見せる。
勝ち目を度外視してでも俺の味方であってくれる。
本当に⎯⎯⎯良い人達だ。
逆の立場だったとして果たして俺に同じ事が出来たか……きっと無理だろう。
俺は我が身可愛さが出てしまう気がしてならない。
だからこそ、その差がステータスにも現れたのかもしれない。
勇者とは元来、真に勇気ある者を指す名称だ。
いざとなった時、俺に勇気が湧く事は無く忙しなく視線を動かす事しか出来無いはずだ。
その当事者を忌避する姑息な精神性が鑑定眼なんて二人に無い技能を生み出したのだろう。
この技能は誇れるオンリーワンでは無く、恥ずべき戒めの象徴だったという事だ。




