プロローグ
北です。
妄想癖が悪化して創造と現実がわからなくなってきたので、文字に起こすことにしました。
物書き素人なのでポンポン話が進みます。
「ごめんね」と言い、母は家を出た。
残された僕はただドアの向こう側を見ていた。
真っ赤な室内とは裏腹に、外の世界は虹色だった。
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「納得いかない」
そう思ったのは何度目か考える間もなく、俺は袋を押し付けられ外に放り出されていた。
地面の熱気が足に伝い、ドロドロに溶けていくのが容易に想像出来る。
放り出してくれた家主は、拾ってやった哀れな小僧には何をさせても良いと思っているのだろう。
大当たり。何をされても文句は言えない。
5歳の時に出ていった母、顔も分からない父。母の知り合いの知り合いである男の所で、土木工事やら借金取りやらやらせている所を、有難いことにとても丁重に優しく(当社比)助けて頂いた。
帰っても何をされるか分からないので、俺は彼らのご厚意に甘え雑務を任されているというわけ。
まだ1週間も経ってない。
「くっそ···」
これだから酒は嫌いだ。
人をこうも面倒くさくする。
いつも適当だが平和主義で扱いが楽な家主も、一発キメるとこうだから、本当に勘弁して欲しい。
お陰で俺は、やらなくてもいい家主のゲロを片付け、そのゲロが入った袋を顔面に当てられ、そして少し染み出したゲロ袋を遠い下水道に捨てに行かなくちゃいけない。
店の外でも家主の大笑いが聞こえる。
人を小馬鹿にする卑屈な笑い。
不愉快に思った俺は、早急にその場をあとにした。
辺りは真っ暗だ。
多分、もうすぐ昼だろう。
ここは「黒街」
太陽が存在しない、暗黒の地。
いや「太陽が見えないだけで、確かにそこに存在している」の方が正しいのか。
地熱があるから気温もある。
今の季節は夏だ。
草木も存在し、しっかりと光合成をして俺達の必要とする酸素を供給している。
何故、太陽が人々に目視出来ないのか、それは誰にも分からない。
最初にこそ見つけた人だって、分からなかったことだ。
しかし俺達がちゃんと生活出来ている分には、さほど重要なことでもないのだろう。
黒待ちの周りには高い壁で阻まれており、そのてっぺんに登った者もいない。
歴史上、登った者はいたにはいたが、姿が見えなくなってしばらく降りてこず、数ヵ月後にミイラ死体だけが降ってきたという。
登っている間に食料が尽き、水も尽きたのだ。
この街から抜け出すのには一つだけ。
黒街の大通りの延長線上にある、狭い小道だ。
そこを通れば難なく「太陽のある世界」へ行くことが出来る。
しかし自ら行くような物好きはそこまで居ない。
黒街はならず者、歪な物の集まり。
人になれず、人に嫌われ、人に疎まれ、人の作った社会に溶け込めなかったモノの終着点なのだ。
俺は向こうの世界からの者だから、やってきた当時の警戒さは物凄かった。今でも誰にも信用されていない。
寝込みに命を狙われないようになっただけマシだ。
下水道につくと子供たちが壁に絵を描いたり、汚水髪で作った船を浮かべて遊んでいた。
ものすごくでかい目、尖った歯、しっぽ。
(······リスか)
リスが先祖の種族は恐ろしくはないが、面倒だ。
よく物を盗むし、すぐ秘密を喋る。
俺も前ここにゴミを捨てにやってきた時、少し辺りを見回した隙に財布を抜き取られていた。
絶対奴の仕業だ。今に見てろ。
俺は家主のゲロ袋を子供達に投げつけた。
彼らの足元で破裂して飛び散る。
まともに食らった1人の子供は1度停止してこちらを向いた。
「うーわ···、リス系の目で見られると気味が悪いんだよな···」
他の子供も遊ぶのを止め、ゲロと俺を交互に見、鼻をひくひくさせていた。
臭いか、臭かろう。
怒りと困惑が半々って顔だ。
優しい俺は忠告した。
「そのゲロ、賛成の毒液だから少しでも触れるとそこから溶け始める。体温により反応する性質だ。お前らじゃ、たまったもんじゃないだろうな」
ほら、と俺は自分の頬を指さした。
ゲロ袋を当てられた顔面は、よく見るとうっすら赤く、肌が爛れている。
子供達はそれを変わらない眼で見つめた。
すると、子供の内1人が金切り声を上げ始めた。
丁度、足元に袋が落ちたリスだった。
足首までの皮がベロンベロンに剥がれ落ち、小さい血の粒がポツポツと出始めたかと思うと、一気に吹き出した。
次第に肉も溶けていき、所々白いモノが見えた。言わずもがな、骨である。
それを見た子供達の鼻息はみるみるうちに強くなり、その1人を置いて下水道の奥の方へ逃げていった。
「···友達じゃねーのかよ······」
こんなこと、俺に呟く資格はない。
俺に友達なんかいない。必要も無い。
でも、誰かを裏切り裏切られる世界の中で、「友達」だけは最期まで信用に値すると、理想を抱いていたかった。
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「ただいまですー···」
俺は店の向かい側にある、元のねぐらに戻った。
外観は豪邸の廃墟の様で、昔1度だけ連れて行ってもらった遊園地のお化け屋敷な雰囲気。
中もそれ相応の、穴だらけの壁、床、天井。
街灯の明かりが穴から差し込まれなければ、うっかり足元がハマってしまいそうだ。
(さて、俺はどうしたもんか)
大広間に着いたものの、そこからどう進めばいいのか分からない。
ここへ初めて来た時も、家主に目隠しされ、ここを出る時も毎回失神させられている。
(ここで店に戻った所で、あの手刀を食らうのは嫌だからなぁ···)
そんなことを思い辺りを見回していると、不意に上の方から歌声が聴こえた。
そちらを見ると、はじめてここへきたときにもいた【白い少女】が、すぐにも崩れそうな天井の柱に座っていた。
彼女は太陽のある世界へ続く道の壁を見つめ、ずっと歌っている。
この歌は確か···あれだ、Queen。良い趣味をしている。
確か、少女もここの住人だった筈だ。家主がそう言った。
「なぁ、あんたもここに住んでるんだろ?帰り方、教えてくれよ」
そう呼びかけてみたが、何の反応も無い。
もっと大声を出そうとすると、少女はこちらを見ずに口を開いた。
「ここはあなたの家じゃない」
不気味で、それなのに心地よい声。
直接脳に響く。
だがしかし、何だ、このガキは。
これだから子供は嫌いだ。
どこの世界へ行っても、子供は生意気で害虫のようだ。
「あぁ、そうさ。本当の俺の家は壁の向こう側にある。でもここの家主が、「ここは君の家だと思って」と言われたんだ。だからここにいる間は俺の家でもあるし、君の家でもある。いくらここにいようがいまいが、君に関係はないだろう」
それに、と続けた。
「君の家もここにはない筈だ。人に何か注意する時は、まず自分が行動を改めるべきじゃないのか?」
そこまで言った所で、少女が振り返った。
それを見て俺は息を呑む。
少女の顔には仮面が付けられていた。
真っ白ののっぺらぼうのような仮面。
その向こう側で俺をじっと見つめている。
氷の様な視線。
俺はまるで、蛇に睨まれた様だった。
気味が悪くなった俺は視線を戻し、また大広間を探索しようとすると、【白い少女】が、高さ数十メートルある天井から飛び降りていた。
体重を感じさせない軽やかな着地に、人間でないものを感じる。本当に、気味の悪い。
少女は自分のヒール付きの踵をリズム良く鳴らす。
すると、広場の中心の床が音もなく聞いたかと思うと、下へ続く階段が現れた。
この秘密基地感、寒気がする。
恐る恐る【白い少女】に聞いた。
「この建物は元からこんななのか?それとも君らの誰かが作ったのか?」
【白い少女】は何も答えない。
ただ一言全く的外れな返答をした。
「ここは私の街。私の家。だから私がここで何をしようと許される。そうゆうこと」
どうゆう事だよ。途中から来たんじゃないのか。
もう相手にするのも疲れ、俺は少女を無視し階段を下った。
しばらく下ると、ぼうっと灯りが見えてきて、そこにはまるでBARの様な趣のある扉があった。
元々この建物にあった店か何かなのかもしれない。
そうっと開くと、そこには見慣れた風景が広がっていた。
そうか、確かによく見てみたら、BARの様な内装だ。
カウンターに並べられた数多くのグラス、棚から除く日本酒·ウィスキー、きっと奥の部屋にワインセラーもあるのだろう。
俺が元々住んでいた所もBARだったから、何がどこにあるかは何となく分かる。
まじまじと見つめる中、カウンターの下から一人の男がぬっと現れたものだから、俺は思わず叫んで後ずさった。
「あぁ···すまん」
低く深い声。
しかし優しく声をかけてくれた大男は、名前を大仙という。
家主と共に俺を拾ってくれた1人だ。
「あ、いや、ごめん俺こそ。勝手に驚いて···」
赤面しながら返す。
大仙は俺が唯一と言っていい程安心できる人物だ。何故だか分からないが···。
賢くてどこまでも寛容。男の中の男だと思う。
大仙みたいな人ばっかなら世の中平和なのになーとか思っていると、彼とは正反対のような奴が帰ってきた。
「ただいまー!···って海斗くん!なんでも戻ってくれないんだよぉ。君の為に俺様がスペシャルカクテル作ってやったのにぃ···」
そう言ってベロンベロンに酔った家主は俺にのしかかってきた。重い、くさい。重くて臭い!
「重いし臭いです」
あ、やべ。口から出た。
「なんだよ!言うようになったな!そんな偉い子にはこれをやろう!」
と、持っていた酒瓶を俺に突きつけた。
「···なんすか、これ」
嫌な予感がする。嬉しい予感は当たらないのに、嫌な予感はよく当たる。
答えは聞かずに、そのまま捨てた方がいいんじゃないのか?そもそもこの世に存在していいのか?
そんな考えがぐるぐる渦巻いていると、いかにも楽しいというように、家主は目を細めて笑った。
「〖俺様の〗スペシャルカクテル♡」
あぁ、死ぬ。
「オラ、俺が飲めっつってんだ!さっさと飲め!」
と、酒瓶を開けて無理やり口に押し込もうとする。
あかん、これはあかん。
必死の抵抗を試みるも、無駄に強い家主の力は簡単に振り解けない。
凄いアンモニアの匂い。それに混じって酒と、腐った穀物の匂い。この人は自分の汚物を晒すのが好みらしい。
何が入っているか想像出来た所で、俺は本格的に家主を蹴り飛ばした。
顔面にクリーンヒットし、横のテーブルに顔ごと突っ込む。
自分でオリジナルカクテルを浴びているけど、まぁ本人のモノなら溶けることもないだろう。
「リタ、悪酔いしすぎだ」
大仙が1ミリも心配していない素振りで声をかける。(リタとは家主のことだ。)
いや同感、言っても直らない酒癖は放っておいて時々構うくらいが丁度いい。
と、リタはいきなり笑い出したかと思うと、息絶えた様に寝始めた。情緒が不安定か。
こうゆう人の思考回路は読み取れない。
いつもニコニコ微笑む彼は強い人間なのか、はたまた臆病なだけなのか。
(まぁ、何を以てして強いかなんて、俺にもわからないが···)
俺は昔から強かった。精神的にもそうだし、腕っぷしも。強いと言われて育ったものだから、自分強さを疑ってはいない。だからこそ汚れ仕事も受け入れたし、必死に許しを乞う任年の始末も出来た。
しかし、ここにいると何か、何か違和感がある。
俺は、この人たちの事をまだ名前しか知らない。
素性も、過去も、一切知らない。
そんな物無いんじゃないか、とさえ思う。
俺の過去も大して面白くないし、重要ではない。
「すまんな海斗。こいつはいつもこんなだ」
だらしなくいびきをかくリタの代わりに、大仙が言うと、またカウンターにあるグラスを磨き始めた。
大仙の過去も気になる。疑問もある。
目が普通の人間と違う。
俺みたいに白に赤味を帯びているような色相の問題ではなくて、瞳の感じからして違う。
俺は、その瞳が常に流れているように思えて仕方がない。
目の一つ一つが別の生命の様な···そんな感じ。
そんなことを悶々と考えていると、後ろの扉が不快な音を立てて開いた。
すると、そこから自分と大差変わらない身長の女が入ってくる。
「ミラ、」
彼女はミラ。
【白い少女】と、この2人と同じく大分前からここに住んでいる。
しかしここにいることは滅多にない。いつもどこかしらへ行っている。
その髪色が少し特殊で、右目にかかるひと房ほどの髪と、ポニーテールで結われた髪のしっぽの部分は白で、それ以外は綺麗な黒だ。
俺の髪はくすんだ灰色だから、ミラの髪は羨ましい。
目は俺と同じく白に赤味を帯びた色相。
俺とミラはこの通り共通点が多い理由に、流れている血が同じだ。
兄弟という訳では無い。言うなれば「種族」が同じだ。
この事を俺が知るのは、ひとつ跡のお話。
俺が呼びかけてもこっちには一切目もくれず、奥の部屋へと消えていった。
「本当、あの女はいけ好かねぇ。まるで俺らがあいつに何か迷惑かけてるみたいじゃねぇか」
そう呟く大山はまた舌打ちして、1番左端のグラスをリタに向け思い切りぶん投げ、「起きろ!ここで寝るんじゃねぇ!ソファが溶けるだろ!」と叫んだ。
投げられた当人は全くお構い無しに寝続ける。
ここにいるのは基本この5人に加え、あと2人ほどいる。
俺は仮の住人みたいなものだけれど···。
あ、俺の名前言ったっけ。
まぁ大体察しついたかな。
俺は白鳥海斗。
他にミラ、大仙、リタ、【白い少女】____呼びにくいからハクとでもしよう。
俺が生まれてからの人生の中で、美しいものに触れて大切なものを失って、ゆっくりと死んでいく物語。
お読み頂きありがとうございます。
個人的にこの物語は、話が進んでいくにつれて物語が繋がっていくと思うので、もし良かったら気長にお付き合い頂けると幸いです。




