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第7話 社屋にまつわる話など

前の話でも書いたが、これまで私が奇妙な体験をした場所は、病院よりも一般企業の社屋や店舗などの方が多かった。

第1話と第2話では当時勤めていた会社の社屋で起きたエピソードの内、特に印象的な二つを書いた。今回は細々とした出来事をまとめて記したいと思う。



その晩は、翌日の大型納品に備え、社員たちが大勢残って作業に追われていた。私たちの部署だけでなく企画の女の子たちも一階に下りてきて、資材の用意や搬出の手伝いをしてくれていた。

下駄箱の近くの倉庫で、私は梱包か何かの作業をしていた。背後の作業台のところでは、企画部の子たちが小さな寄せ植えを作っていた。中途採用の多い私たちの部署とは違って、企画部は専門の学校等から新卒で入社した子が多かった。女の子ばかりで部員同士の仲も良く、特にデザイン性が求められる仕事では彼女たちも直接作業に携わった。

しばらく梱包を続けながら、私は彼女たちの話し声を聞いていた。HさんとFさんという、私より古株だが歳はそれぞれ一つと二つ年下の二人と、誰かもう一人の三名で作業を進めているようだった。こちらの仕事が一段落した頃、ちょうどHさんらの作っていた寄せ植えも出来上がり、それを受け取って納品の列に加えた。Hさんは企画部の主力で、デザインを任せたら社内の誰よりも巧かった。植物についての造詣も深く、数年後には外部に引き抜かれて退社していくことになる。私は作業台の所に戻ると、Fさんと一緒に後片付けをしている彼女に、さっきはFさんともう一人は誰が手伝ってくれたの、と聞いた。Hさんは不思議そうな顔をして、ずっとFさんと二人だったよと答えた。私はえっと驚いた。嘘でしょ、三人いたよねとFさんにも確認したが、誰もいませんよ、怖いからやめて下さいと怒られてしまった。それは私だって怖い。


ある古参の先輩は常日頃から、この社屋には霊が憑いているのだと冗談めかして話していた。なんでも以前に取引先の担当者が来社したとき、霊感の強いその担当者は、嫌な感じがする、と言って決して上の階に行こうとしなかったのだそうだ。いかにも眉唾物の話だが、この中年社員は折に触れてはそのエピソードを後輩たちに話して聞かせた。上の階には当然ながら、5話で書いた屋上も含まれる。


この社屋ではもう一つ、私が直接体験した出来事がある。例の役員フロアの仕事で早朝出勤したある日のことだ。二階の事務所にはパートナーのNさんが先に来ていて、何か前日にやり残した書き物の仕事をしていた。私は彼に挨拶したあと、タイムカードを切って階下に戻った。数分後にNさんが下りてきたのだが、顔色がおかしい。どうしましたかと尋ねると、二階のトイレに鍵が掛かってるんだよ、と声をひそめて彼は答えた。玄関や事務所の鍵を開けたのはNさん自身だ。泊まり込みの社員もおらず、その場にいたのは早朝出勤の私たち二人だけのはずだった。こう書くとNさんの勘違いと思われるかもしれないが、実際のところ彼は普段から快活な人柄で、むやみに何かを怖がったり作り話をしたがったりするような人ではない。私は先輩と一緒に事務所へと戻り、トイレのドアを確かめた。そこはたしかに鍵が掛かっており、また照明のスイッチは外の壁にあったのだが、消灯のままになっていた。

Nさんと二人で、どうしたものかと顔を見合わせたものの、ノックしても中からは反応がなく、全く人の気配すらしない。結局、なにかのはずみで誤って施錠されたのだろうと決めつけて、私たちは取引先に向かった。騒ぎになった様子もないので、真相は知らずじまいになっている。

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