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第4話 蔦を枯らすもの

今回はやや現実的な怖さを感じたエピソードを記す。

植物を扱う仕事をしていたときの話だ。


都心のどこかだったと思うが、当時の私はそれなりに大きな某ビルの敷地内に配置された、植栽のプランターの維持管理を任されていた。

そのビルでは、いくつかある出入り口のうちの一つに直径150cmほどの割と大きな円形のプランターが置かれ、各種の植物を取り混ぜた寄せ植えが作られていた。陽当たりもよく植物の生育には適した環境で、なおかつ植わっているのは強壮な種類の草木ばかりだった。管理する側としては楽な仕事と言ってよかった。


ところが、ある日その現場に行ってみると、寄せ植えの一部の植物だけが、ひどく枯れて茶色になっていた。客からの苦情は出ていなかったが、その枯れ方は誰の目にも明らかで、なおかつ管理する側としては不審に感じるものだった。

植わっている各種の植物の中で、最も性質が強く枯れにくいはずの蔦だけがボロボロになっていたのだ。こうした植栽が傷む理由はいくつか考えられるのだが、いずれの場合も本来ならその蔦が最後まで残り、他の草木が枯れていくはずだった。


一体何があったのかと調べたところ、蔦の株の周りの土が掘り返され、また埋め戻された跡があった。並みの草花であればこれが傷みの原因かと合点が行くところだが、問題の蔦はこの程度では枯れないほどに強靭な性質のものだった。

とりあえずは根の状態を確認しようと、私はその蔦の株を再び掘り返してみた。すると用土の中から、見慣れない白い石のようなものがたくさん出てきた。軽石や化粧石などが用土に混じることはあるが、その時に出てきたものは形も大きさもそれらの石とは違っていた。そもそも軽石等であれば蔦が枯れることはない。


枯れた株元から出てきた物体を集めてみると、それはどうやら動物の骨のようだった。それも猫や鼠のような小さな動物ではなく、割れてはいたが少なくとも大きめの犬の脚くらいはありそうな、太く丈夫な長い骨が複数含まれていた。一部については単に割れていたのではなく、たしかに切断されていた。血の跡は全く無かった。


誰が何の目的でこのような事をしたのか、まるで分からない。何らかのまじないの類いだったのかもしれないが、動物の骨に蔦を枯らすほどの成分が含まれているのかどうか。

そこは日中は人通りが多く、夜中にそれらの骨を埋めるにしても警備の目がある場所だった。単に埋めて隠すだけのつもりなら、他のプランターや花壇などを選ぶだろうと思われた。


既に刻限が迫っており、さすがに状況を手に負いかねた私は、その場で上司に電話を掛け指示を仰いだ。すさまじきは中間管理職の心と言うべきか、返ってきた答えは「社に持ち帰ってゴミとして処理しろ」の一言だけであった。なおこの人は第一話で私と話していた上司と同一人物である。時系列としてはこの骨の話の方が数年前だ。当時から彼はこんな感じだったのだ。

切れた電話を片手に私は途方に暮れかけたが、結局は指示の通りにしたのだからあまり偉そうなことは言えない。帰社後にまだ残っていた歳の近い同僚たちと骨を見ながら話し合ったが、豚骨だろうとか人間に違いないとか無責任な意見が出るばかりだった。


その後は事件になった風もなく、再び蔦が枯れることもなかった。万一に備えて欠片のいくつかを土に戻しておいたので、今もまだ同じビルのプランターの中に残っているかもしれない。

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