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不可思議体験覚書 ~怖いような怖くないような怪談未満の実話~  作者: 文月斜


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第1話 夜に来た人

以前の会社の駐車場での話。


夜10時頃、翌日の仕事の準備をしていると、若い女性が会社の方へ歩いてきた。服装は白いスカートと青い男物のようなボタンシャツで、やや昭和めいた印象を受けたが、美人と思えた。

彼女は玄関先で立ち止まり、そこで入り口の植栽を眺めているのか中の様子を窺っているのか、しばらく佇んでいた。

取引先の誰かが来る時間でもなかったので、私は先輩社員の彼女か奥さんでも来たのだろうと思い、手が空いたら案内してあげるつもりで作業を急いだ。

数分して二階から上司が降りてきて、まだやってるのか、俺は帰るよと私に声を掛けた。お疲れ様です、と返してから、あの女の人を知っていますかと私は上司に尋ねた。

どの人? と言われて奇妙に感じた。上司は玄関から出て、彼女のすぐ近くを通ってきたはずだからだ。私は来訪者の人となりを伝えて念を押したが、上司は知らない、誰もいなかったぞ、お前疲れてるんじゃないかと答えた。

慌てて玄関の方を見ると、ちょうど彼女が背を向けて通りの方に帰っていくところだった。タイミング的には上司が見ていないはずはない。背中が見えたので、そのとき彼女の髪が肩よりだいぶ長いのだとわかった。

あの人、あの人ですよと指差して私は言ったが、上司は大して興味もなさそうに生返事をしただけで帰っていった。


私は残りの仕事を続けつつ来訪者の事を考えていたが、なぜか顔が全然思い出せなかった。たしかに美人と感じたはずなのに。

そして、近付いて来るときも後ろ姿でも強く印象に残った白いスカートとシャツの青。考えてみれば外灯がそれなりに明るいとはいえ、あれほど青々と見えるものだろうか。彼女だけが昼の道を歩いているかのように色彩が鮮やかだった。

多少気味が悪くなって、その夜は早々に事務仕事を切り上げて家に帰った。後日談は特にない。

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