カガミアワセ
この物語はフィクションです。
主に自分用なので、意味不明な描写も多々あります。
今ここで、ブラウザバックを推奨します。
こんな噂が広まった。
ネット上の掲示板にて、自称霊感持ちの「m3asjeip」と名乗るものが突如現れ、『何か』と会う方法と称し、
一、鏡面対称の個室に一人だけ入れ
二、中央にて「かがみあわせ」
三、目を開けろ
という支離滅裂な内容の文字列を、BANされるまで延々と書き込んでいたという。
信憑性も何もない、狂人の戯れ言。しかし、不思議な事に人々は喰いついた。
投稿したのは誰なのか…、何を降霊させるのか…、この情報は悪戯で…、はたまた都市伝説級の…、霊本人が自身の降霊方法を…、いやいやこれは世界滅亡を暗示して…
動画サイトにまで様々な憶測が入り乱れ、著名な心霊学者もコメントを残す程にまで大きな話になった。
いつの時代でも、その手の話は話題の的になってきた。それは今もこうして続いている。
人間っていうのは謎に弱い。と言う友人の言葉も、今回限りは少しだけ理解できる。
事の発端となった人物、「m3asjeip」は、何を隠そう俺の事だ。
ただの気まぐれで、掲示板に居つく人々を混乱させてやろうと投下した駄文。
ただ単に投稿したかったから、名前はランダムに打ち込んで。
話題になっている方法も、適当に取ってつけただけという身も蓋もない俺の作り話。
俺でさえ意味不明な文章だ。誰がどう考察しようが、全て「正解」で、同時に「間違い」になる。
そもそも、それで何かが現界される訳がない。全てフィクションなのだから。
…一体何で、こんな怪文章に喰いつかれたのか、俺でさえ分からない。もうあの話は俺の手を離れ、独り歩きしている状態だ。
そんなこんなで、今まさにヒートアップしている(元)俺の作り話。いつの間にか「カガミアワセ」なんて呼称が付いたり、美少女幽霊やら化物やらのイラスト、小説も投下されたりで、毎日エゴサをするのが俺の楽しみになった。
あれから数ヶ月。「カガミアワセ」熱はやっと収まり始め、ブームが去っていくのをしみじみと感じていた時に、俺は唐突に引っ越しをする事になった。
何でも、借りていたアパートが老朽化しているそうで、住むのは危険だと行政に言われたから~と、管理人のおっちゃんは疲れた顔で申し訳なさそうに説明した。
別に、引っ越しくらいなら大丈夫だ。検索して新しい借家を見つけられたし、幸か不幸か俺は独り身だ。
そんなこんなで引っ越し当日。今まで世話になったおっちゃんに、簡単にお礼を済ませた後、使い慣れた道具たちと一緒に新居へと出発した。
20分ほど車で走り、俺の住む団地が見えてきた。
田舎と都会の境界線、自然と人工物が半々の割合で存在する―――海、山、川、学校、病院、役所…これら全てが近くにある―――素晴らしい場所だった。
業者の人達と連携して荷物を運び終えたときには、既に夜。俺は和室で1人開封作業に明け暮れていた。
ふと空が恋しくなって、海辺に向いた小窓の方を向くと、そこには反射した月が映っていた。
ちょうど窓枠を中央にして、線対称に。
そこでおや?と思い、ちょっと部屋を見回してみる。思った通り、この部屋自体が、その窓枠を中心線にして対称に作られていた。
背中側にある扉代わりの襖も壁一面に広がり、左右の壁にある何本かの柱も同じ場所、足元の畳の敷き方も合同で、中心は明確。
完璧。完璧すぎる程に鏡合わせだった。
…やってみるか。
俺個人の解釈で、「カガミアワセ」を再現してやろう。
乱雑に積まれていた段ボールを壁際へ寄せ、整理し、これも左右対称にする。
障子も寸分違えず左右で揃え、部屋の中には俺一人。
条件一は満たした。
続いて条件二。
ゆっくりと部屋の中心へ歩いていき、体の中心線を窓枠と合わせる。
そのまま小さく「カガミアワセ」と呟きながら、目を閉じ、両手を同時にゆっくりと横へ伸ばす。
俺自身がこの部屋と同化し、「対称」となる。これが俺なりの、条件二の満たし方だ。
後はただ、目を開けるのみーーー!
一瞬、時間が止まったのかと思った。俺は立ったまま金縛りに遭っていた。
その部屋の中心を飾るオブジェクトのように。何も動かせない。
ちゃぷり
見開かれた双眼が、正面で唯一動く何かに釘付けになる。
そいつはスライムみたいに流動している、人型の「何か」。
窓枠の前で直立し、どろどろと左右対称に溶け落ちている。まるで当たり前のように。
ちゃぷり、ちゃぷり
そのままこちらへ、真っ直ぐに這ってくる。両手と思わしき二本の物を、前に後ろに、ぴったりと合わせて動かしながら。
あぁ、こいつが「カガミアワセ」なんだな。と、ぼんやりとしてきた頭で考える。
人々の噂を糧にして、「作り物」から「本物」になってしまったのだろう。
いや、「本物」になるために、俺の噂を利用した霊や魂の類かもしれない。
こいつがこんな不定形なのも、恐らく、人々が想像した様々な容姿全てに為るため…なんて考えると、我が子みたいに可愛く思えてきた。
俺の悪戯から生まれた、生まれたての純粋無垢な怪奇…。
異形の仔を産み落としてしまった事に、感謝すら覚えて。
これが俺の最期になったとしても、心残りは無い。そんな思考を最期に、俺は奴に―――。
『…代男性が失踪した事件で、警察は、奇妙なまでに整理された和室と、中央にある不自然な血溜まりから、被害者が部屋の中央で何者かに傷付けられ、連れ去られた可能性が高いとみて…』
『これが現場の写真から再現したものなのですが…見てください。
積まれた段ボールの位置、そして、血溜まりまでもが、部屋の中央のこの線。ここで綺麗に鏡合わせになっています』
『「カガミアワセ」…うーん、数か月前にネットで流行った都市伝説にかこつけた犯罪、なのでしょうかね…。』
ここまで読んでいただき、有難うございます。
怪異に遭遇した人間が、(その世界の中で)現実になった恐怖から「逃避」する心情を描きたかったのですが、実力不足でそこまで至らず、何とも締まりの悪いものになりました。
こんな‐作品の事なぞ忘れて、さぁ、貴方の日常に戻りましょう。