9.異世界入国
入国関所には、これぞ衛兵というような鎧を来た男が立っていた。
「オウガストへようこそ。ここは光の国だ。冒険者かな?」
力強い声が腹まで響いてくる。
衛兵にレイチェルは自分のポケットから取り出した宝石のようなものを見せた。
それを見た衛兵は「ああ」と気づいたような表情でレイチェルに向き直した。
「オウガストの冒険者、、、シルバーランクか。こちらの彼もオウガストの冒険者なのかな?」
衛兵に聞かれ桜咲が言葉に詰まると代わりにレイチェルが答えてくれた。
「彼はオウガスト領で生まれたのだけれど街の中で生活していないのよ。それでこの度オウガストの冒険者として登録するために来たの」
どうやらフォローしてくれているらしい。うんうん、と頷いてレイチェルに合わせる。
「なるほど。では通るといい」
レイチェルのフォローもあって難なく入国を果たした。
レイチェルの説明によるとオウガストという国はこの街とその他の小さな村々と森で形成されているらしく、国土全体もオウガストという名前で、この街もオウガストという名前のようだ。
わかりやすく例えるなら国が大阪府、街が大阪市のように国と街が同じ名前で呼ばれている。
これも設定が作り込まれていない部分の補正なのか、と桜咲は推測した。
入国。街に入った桜咲は息を飲んだ。
ありきたりなファンタジーゲームの画面かと思ってしまうほどの景観。石畳の道にレンガと木で造られた建物、木々。
それぞれが主張しあって調和し街を成していた。
「すっげぇ、、、」
桜咲の口からつい言葉が漏れた。
「オウガスト領最大の街オウガスト。総人口20万人といわれているわ」
得意げな顔でレイチェルは言った。
「これぞ、だよなぁ」
「これぞ?君ってたまによく分からないことを言うよね。話も聞きたいし、お茶でもしようか。っと、さっきのドラゴンの報告しとかないと。じゃあギルドのカフェスペースにでも行きましょうか」
レイチェルがそう言って歩き出した。
「あ、ついていきます」
2歩遅れて桜咲は続いた。
少し歩くと民家やその辺のお店とは一回り大きな建物の前でレイチェルは立ち止まった。
「ここがギルドよ」
あまりにイメージ通り過ぎて桜咲は笑ってしまった。
「ギルドって登録すると仕事がもらえるアレだよね?」
「そうよ?しってるの?」
またレイチェルをキョトンとさせてしまった。
そうなのか。やはりこの世界は桜咲のイメージを補正しながら具現化したもので、その用語や概念などは桜咲の王道イメージから創られているようだ。
「ああ、なんとなくね」
と話を濁して再びレイチェルについて行く。
レイチェルに続いてギルドに入ると中は綺麗に並べられた木製の椅子と机があり、奥にはカウンターがあった。
カウンターは2種類ありその上には恐らくカウンターの種類を示した文字が書いてあるようだったが桜咲には読めなかった。
しかしその文字の横にはそれぞれ剣の絵とビールの絵が書いてあり、向かって右が依頼を受けたり登録したりするカウンターで左が飲み物や食べ物を購入できるカフェスペースに当たるカウンターだと推測できた。
「こっちよ」
と先を歩くレイチェルに続き右側のカウンターまで進んだ。
カウンターの中には赤茶色の髪の毛が特徴的な可愛らしい女性が座っていた。
「あら、レイチェル。いらっしゃい、今日も精霊探し?」
その女性はどうやらレイチェルのことをよく言っているようだった。
「そうなのベリー。でもダメね。私も諦めて通常魔法を覚えようかしら」
ため息をつきながらレイチェルはその女性、ベリーに言った。
ベリーはレイチェルの言葉に笑顔を返すと桜咲の存在に気づいた。
「あら?珍しいわね、レイチェルが男の子を連れてるなんて」
そうベリーに言われるとレイチェルは慌てて否定した。
「違うわよ!森でたまたま出会っただけよ。ギルドも登録してないって言うから連れてきただけの恋人未満パーティー未満の知り合い未満よ」
いやそれはただの他人ではないですか。と肩を落とす桜咲。
「あ、桜咲翔です」
軽く会釈をする。
「ベリー・ラキシフェルです。ベリーでいいわ。オウサキって珍しい名前ね?」
「あ、いやオウサキは苗字、ファミリーネームなんです。ショウの方がファーストネームで」
あらそうなの?とベリーは返す。
そんな会話をしてるとレイチェルが割ってくる。
「ベリー、あのね、街からそう遠くないところにドラゴン、、、多分古龍種が出現したのよ」
言葉を聞いて固まるベリー。
「ドラゴンって、、、そんなの国の危機じゃない!なんでそんなに落ち着いてるの!?」
言葉を荒げるベリーとは対照的に落ち着いてレイチェルは答えた。
「それがね、、、」
と、レイチェルは先ほどの説明をした。
桜咲が魔法でドラゴンを気絶させ、捕縛したこと。その詳しい場所。
「君は何者なのかね」
話を聞いてベリーもレイチェルのようなことを聞いてくる。
いやぁ、、、なんと説明すればいいか。
ファンタジーでは異世界から来たことを隠すのが王道、もしくはバレて英雄ルートなんだろうけど、英雄と担がれるのも居心地が悪いしなぁ、、、。
そう考えて桜咲は言葉を発した。
「内緒にしてもらいたいんだけれど、、、実は違う世界から来たんだ」
一大決心。長年秘めて来た愛の告白のように桜咲は言った。
普通に考えて信じてもらえるわけないよな。そんな事を考えているとベリーから信じられない言葉が聞こえる。
「ああ、じゃあシン様と同じってことね?」
ん?同じ?
「え?違う世界からきたって他の人間がいるの?」
驚いて桜咲は聞き返した。