7.魔法と異世界
ドラゴンは魔法で捕縛し動きが完全に停止しているため、オウガストの軍に任せようというレイチェルの提案に賛同しひとまず2人はオウガストに向かうことにした。
桜咲の詳しい話はオウガストに着いてからまとめて話すこととし、2人は歩き出す。
緊張と恐怖と高揚感に支配されていた桜咲だったが次第に冷静さを取り戻してきたのを感じていた。
「レイチェルは何であの森に?」
「私は精霊魔導師志望なのよ」
えへっと笑ってみせるレイチェル。 ああ、これぞファンタジーのあるべき姿。
グッジョブ美少女ファンタジー。
そんなレイチェルの笑顔に頬を緩めつつ桜咲は気になることを質問する。
「精霊って普通の魔法と違うの?」
「うーん。魔法の原理が分かってないみたいだから細かいことは省くけど厳密には同じなのよね」
そう言ってレイチェルは説明を始めてくれた。
そもそも魔法とは世界に存在する魔素を自分の中にある魔力をブレンドして使用する。
魔力には適正があり、魔素との相性がある。
自らの魔力と相性のいい魔素を具現化することを魔法と表現し、魔力と魔素の相性でその者の適正魔法は決まる。
魔素には光、闇、火、水、地、風、雷、無の8種類存在している。
その魔素が何らかのタイミングで固まり意思ををもったものを精霊と呼び精霊魔導師とは、自らの魔力を精霊に与える代わりに力を行使する魔導師、魔法使いのことである。
精霊自身は魔導師と契約しないと実体を持たないためその存在は稀有とされている。
「って感じなの。でね、私は精霊と契約したくて森の中で魔素をサーチしてたの」
概ね想像通りの設定だな、と桜咲は頷く。
「なんでレイチェルは精霊魔導師になりたいの?」
桜咲は屈託のない言葉を素直にぶつける。そんな言葉にレイチェルはまた天使の笑顔を見せた。
「私のお母さんも精霊魔導師だったの。その精霊とお母さんはすっごく仲良くて、それこそ私が嫉妬しちゃうくらいにね。そんな魔導師にわたしもなりたくて、、、なんてまだまだ見習いだけどね」
語るレイチェルの言葉に引っかかりを感じて桜咲は聞き返してしまう。
「だった?」
話の中心はそこじゃないだろと気づいたのは言葉にしてからだった。
聞き返されたレイチェルは少し表情から笑顔を薄めながら答えた。
「珍しい話じゃないんだけどね。ほら、10年前のウルダッセンの宣戦布告の時にに国境防衛戦があったでしょ?その時にお母さんは招集されたの。貴重な精霊魔導師でプラチナクラスだったから、、、。沢山の人が亡くなったって聞いたし行方不明者も多かったでしょ?お母さんも見つかっていないの、、、生きているか分からないけど。だから私も精霊魔導師に慣れば国境戦域に行けるかなって」
先ほどまでとは種類の違う笑顔を見せるレイチェル。この質の笑顔は現実世界でよく見ていた。日本人が得意としている笑顔、愛想笑い。感情を閉じ込めるための化粧だ。
桜咲にはウルダッセン国境防衛戦も国境戦域もうっすらしか理解出来ていなかった。出来ていなかったが、何故か言葉が飛び出してきた。
「大丈夫だよ!僕が一緒に行く!」
アドレナリンが体中を走り回っているのが感じられた。