5.主人公の目覚めと異世界
息を飲む桜咲。
まさかここまでファンタジーな世界だとは。
そしてまさかこんなタイミングでドラゴンに出くわすとは。
感動と恐怖が入り混じり喉の渇きを実感する桜咲。しかもレイチェルの表情から察するにドラゴンとはそうそう遭遇するものではないらしい。
「、、、げて」
絞り出すようにレイチェルが呟いた。
「え?」
と視線をドラゴンから外しレイチェルの方を向く桜咲。聞き返した桜咲にレイチェルは声を荒げる。
「逃げてって言ってるの!ドラゴンなんてプラチナクラスでも討伐できないわ!」
そのレイチェルの表情から真剣味が伝わってくる。
ああ、神さまなんて密度で物語を進めていくんだ。
自分の作り出した世界に飛ばされ美少女と出会い胸をときめかせて、ドラゴンに遭遇し、、、バッドエンド。
悲劇じゃないこんな物語は喜劇だ。
漫画でも小説でもこんな急展開についてなどいけない。桜咲は現実の非現実さに苦笑してしまう。
そんな桜咲にレイチェルは苛立ちを露わにしてしまう。
「何してるのよ!早く立って逃げるの!ドラゴンよ!?ここに居ても2人とも死ぬだけなの」
声を荒げるレイチェルの表情は焦りと恐怖を浮かべ必死そのものだった。
ヒロインにこんなに取り乱させてしまうなんて、と桜咲は立ち上がった。
現実世界でも何もなさず平々凡々と生きてきて憧れていたファンタジーに迷い込んでまでバッドエンド。ああカッコ悪いなぁ。ほら見ろ膝なんか震えて笑ってるどころじゃない大爆笑満点大笑いだ。
でも、ここは俺のファンタジーだ。
「主人公は全属性の魔法を無尽蔵に使えるんだよ、ドラ公」
レイチェルの前に立ち右手を構えた。そんな桜咲の姿にレイチェルは戸惑う。
「君、何してるのよ」
いくぞファンタジー。ここが俺の伝説の起点だ。
「でっかい目ん玉見開いてよく見とけドラ公!!主人公がヒロインを守る姿を!これがファンタジーだ!」
大きく息を吸い込んで桜咲は叫ぶ。
「ホーリーレイ!!!」
桜咲が叫ぶと構えた右手に光が集まり、その光は散弾銃の如く拡散しドラゴンの体にを目掛け飛んでいく。その光はドラゴンの体にぶつかると破裂しその巨軀を大きく揺らした。
揺れながらドラオンは咆哮の如くグアアアアと悲鳴をあげる。その悲鳴の振動だけで木々は揺れ大地は割れる。
そんな光景にレイチェルは言葉を失っていた。
だが桜咲は続ける。
「そんなもんで倒れるとは思ってない!でも動きは止めさせてもらうぞ!アースプリズン!」
叫びとともに大地はうねりををあげて形を変える。せり上がった地面が牢の様にドラゴンの体を縛り上げる。そのままドラゴンは動きを奪われてしまった。
「ふぅ、、、こんなもんかな」
桜咲は右手を下ろして一息つく。そのままレイチェルの方を向くと、ペタンとレイチェルは座り込んでしまった。
「腰、、、抜けちゃった」
そう言ってレイチェルは乾いた笑い声を桜咲に向けた。