47.異世界と朝食
クロワッサンとサラダ、コーヒー。
宿屋で出された朝食を桜咲、レイチェル、リリィで食べていた。
ノエルはリリィの背後に立ってその食事を見守っていた。
軽い食事に、重い空気。
そんな空気に耐えられなくなり桜咲は口を開く。
「本当に誤解だってば」
するとレイチェルは目も合わせずに、クロワッサンを口に運ぶ。
無視、いや無言の圧力か。
桜咲がレイチェルの沈黙に、心が折れそうになっているとノエルが机の上のフォークを桜咲に突きつけた。
「うわっ、なにするんですか」
フォークに慄き、桜咲が硬直するとノエルはメガネに指で触れながら桜咲を見下した。
「いや、お嬢様の乳房を揉みしだいておきながら、なかったことにしようとしている羽虫のさえずりが聞こえたのでな」
「いや、揉みしだいてないし、羽虫はさえずらないでしょう!って誰が羽虫だ」
桜咲がノエルに反論していると、レイチェルから殺気を感じた。
そんなレイチェルの気配を察したのかリリィは桜咲に上目遣い話しかける。
「乙女の純潔の責任とってな? 」
やーめーろー。
レイチェルにはちゃんと説明したよ、寝てたらリリィが勝手に入ってきてたんだと。
今、変なことを言うとレイチェルの機嫌が悪くなること山の如しだろうが。
朝食を終える頃には、なんとかレイチェルも機嫌を戻していた。
「本当にイノベアまで一緒に行くの?」
桜咲がレイチェルに尋ねた。
「あかん? 行き先一緒やろ? 」
リリィはコーヒーを飲みながらそう言った。
桜咲達の行き先はイノベア白の渓谷、リリィ達はイノベアに帰る、目的地はほぼ同じなのだから同行しても不思議ではない。
「でも、僕たち街まで行かないよ? 」
桜咲は地図を広げながらそう言った。
イノベアの首都、ヒラナミはイノベア領の中心にある。
比べて白の渓谷はイノベア領の端にあり、地図上では近いが実際にはそうはいかない。
「なんなん? ダーリンは白の渓谷に行くん?」
「うん」
桜咲が頷くと、リリィの背後からノエルが入ってきた。
「白の渓谷は危険区域。故に立ち入りが制限されていると記憶していますが」
「え!? 」
と、桜咲とレイチェルは聞いていなかった情報に驚愕した。
確かに国家機密である精霊の存在が確認されている場所ならば、立ち入りが禁止されていても不思議ではない。
「そうやんなぁ」
リリィはノエルの話に同調し、頷いていた。
更にノエルは工言葉を続ける。
「それに、白の渓谷を目指すのであれば、この村から真っ直ぐ進める道があります。地図を失礼します。こちらがこの村です、ここからこの森林を抜けるとそのまま白の渓谷に到達できますよ」
ノエルは地図を指でなぞりながら説明してくれた。
確かにノエルの説明する道を通れば遠回りなどせず、直線距離で目的地にたどり着ける。
「いやぁ、残念ですね。せっかく出会えた羽虫、もといお嬢様のお知り合いと同行できないとは」
腹黒さを形にしたような表情を浮かべながらノエルは言った。
いや、良いんだけど、なんか腹たつな。
桜咲がノエルに不満の視線をぶつけていると、リリィが桜咲に抱きついた。
「いやや!ダーリンに会えたんやしこれも運命や」
「女連れの運命などありませんよ」
ノエルはリリィの腕を桜咲から引き剝がしながら言った。
だが、どっかで桜咲はホッとしていた。
ここからイノベアまでリリィと一緒だとすると、精神の消耗もレイチェルへの好感度の減少も著しい。
「僕たちは少しでも早く行かなきゃならないから、ここで分かれようか」
桜咲がそう提案するとリリィはショックを受けていた。
「別れるって、、、。あんなに愛し合ったのに、勝手な男や」
愛し合ってないし、多分別れるって漢字が違う。
ノエルがなんとかリリィを説得し、出発になった。
「ダーリン、困ったらウチんとこくるんやで。そんなちんちくりんでは満足できんやろうから」
最後までリリィのレイチェルに対する嫌味は続く。
ようやくノエルに引きずられてリリィは出発した。
長い長い異世界生活4日目。
まだまだ続いて行く。




