44.異世界と再会
「すまないねぇ、今日は貸切なんだよ」
ゼロとの死闘、レイチェルの覚悟、桜咲の誓いを越え、村へとたどり着いた桜咲とレイチェルは宿屋を探していたのだが、ようやく見つけた宿屋の女将にそう言われてしまった。
貸切。
しかも、この村には他に宿屋はない。
「なんとかならないですか?」
レイチェルが女将に食い下がるが、女将は首を横に振った。
「諦めておくれ。上客でね、全部屋分の宿泊代を受け取っちまったんだよ」
女将はため息をつきながらそう言い捨てた。
女将の言葉に肩を落とすレイチェル。
レイチェルは桜咲の宿泊分まで考えているが、なんとかしてレイチェルだけでもちゃんとした所で宿泊させたい、と桜咲は考えていた。
桜咲はバックから金貨を数枚取り出して、女将に見せた。
「この子だけでもなんとか泊まらせてもらえないですか。お金はあるんで」
桜咲が女将に向かってそう言うと、レイチェルは少し怒りながら桜咲に言い聞かせる。
「ちょ、ダメだよ。ショウもちゃんと休まないと、あんなことがあったんだし疲れてるでしょ」
あんなこと。
つまりゼロの強襲と戦闘のことである。
「そんなこと言ったらレイチェルも怪我したんだから、レイチェルだけでもなんとかちゃんとしたところで寝ないと。それに僕はほら、テント持ってるし」
桜咲はそう言って笑顔を見せる。
そんな2人のやり取りを見ていた女将はまた、ため息をついた。
「そうはいわれてもねぇ。貸切にしてるお客さんは安全のために、誰も建物に入れるなって言ってるのさ。そんなに泊まりたいなら、アンタらがお客さんと話してみるかい」
そう言うと女将は桜咲の手元から金貨を1枚手に取る。
女将からすれば桜咲達が宿泊する事で儲けが増えるのだから、どちらかと言えば宿泊はしてほしいようだ。
「良いんですか?」
桜咲がそう尋ねると女将は外を指差した。
「ああ、聞くのは自由さね、保証はしないが。ここの宿の向かいに酒屋がある、貸切にしているお客さんのお付きの人はそこにいるよ」
「ありがとう、行ってみます」
桜咲は女将に礼を行ってレイチェルとともに宿屋を出る。
道を挟んで向かい。
酒屋というのはいわゆる飲み屋のようで、食事処も兼ねている。
酒屋に入ると、明らかにそこにはふさわしくない身なりの整った男が食事をしていた。
村人とは服装も気配も違う。
年齢は三十代ぐらいで眼鏡をかけているその男は、見るからに神経質そうだった。
「あの」
桜咲は男に近づき、声をかけた。
男は持っていたフォークを皿に起き、桜咲の方に向き直す。
「私は食事中なのですが、何かご用ですか? 」
「えっと、間違っていたら申し訳ないんですけど。向かいの宿屋を貸切にしているのって貴方ですか?」
相手の表情を見ながら恐る恐る尋ねる桜咲。
すると男は眼鏡を拭きながら、聞き返した。
「そうですが、何か? 」
ターゲットの発見に成功したものの、気難しそうなその男がターゲットだったことで喜ぶに喜べない桜咲とレイチェル。
「あの」
とレイチェルが本題を切り出す。
「出来れば空いてる部屋に宿泊する事を認めていただきたいのですが」
「お断りします」
レイチェルの頼みに男は即答した。
断って男は再び食事を始めようとする。
そんな男に桜咲は少し熱くなった。
「ちょっと待ってくれよ。この村は他に宿がないんだ」
すると男はため息をついた。
「そのために相当の対価は支払っています。なんの問題が? 」
くっそぅ。
嫌味メガネの典型的なキャラクターしやがって。
桜咲は言葉にできぬ絶妙な苛立ちを覚えていた。
そんな会話をしていると、桜咲の背後から声が聞こえた。
「何してんの? ノエル」
男はすぐそちらに振り向き、頭を下げた。
「いえ、お嬢様。この者らが宿に泊まらせてほしいと」
ノエルと呼ばれた男はそう言って頭を上げる。
「なんやそれ。ウチは別にええねんで」
ん?聞いたことあるな、と桜咲が振り返るとそこにはリリィが立っていた。
オウガストの市場で行き倒れているところを桜咲が助けた、イノベア出身の女の子。
突如、、桜咲に求婚したあのリリィだ。
リリィの顔を見て言葉を失う桜咲。
そんな桜咲の顔を見て、リリィは素早く抱きついた。
「ダーリン!ウチを追いかけてきたん?! 」
ちょっとやめてもらえますか?
レイチェルさんの視線が痛いです。
ゼロの視線よりも冷たいです。




