43.異世界とリスタート
桜咲はレイチェルにかけていた魔法壁を解いて駆け寄った。
「レイチェル!」
その華奢な肩は小刻みに震えている。
桜咲は自分の設定通りの能力を持っているが、レイチェルは今まで普通の冒険者として生きてきたのだ。
これまで見てきた世界とは景色が違う。
レベルが違う。
「ご、ごめんショウ、、、私、足手まといで、、、」
肩を震わせ首から血を流しながらも、レイチェルは笑顔で桜咲にそう言った。
レイチェルの気遣い、優しさなのだろう。
守ると誓ったのに、逆に気を遣わせている。
桜咲は刀を強く握った。
拳は怒りに震えている。
ゼロへの怒りではない。守れなかった自分自身への怒りだ。
「レイチェル、、、やっぱり、俺、、、」
1人でウルダッセンに向かって、戦争を止めてくる。
桜咲がそう言おうとすると、レイチェルが察したのか桜咲の刀を握る手を覆うようにして握った。
「レイチェル」
ハッとして、刀を握りしめる自分の手に視線をやる桜咲。
強く握った手は血が滲んでいた。
その手を優しく包む柔らかなレイチェルの手のひらは、暖かい。
滲んでいる血ごと包み込んでレイチェルは笑顔を桜咲に向けた。
「1人でいくなんて言わないで。私は弱いよ、だけどショウと一緒に行きたい。守ってくれなくていいから」
「レイチェル、なんでそこまで」
桜咲は情けないと知りながらも、不安を浮かべた表情のままレイチェルの顔を覗き込む。
レイチェルは真っ直ぐに桜咲の目を見つめた。
「お母さんを探しに行きたいってずっと思ってた。すんごい独りよがりだし自分勝手な願いだったんだけどね。でも、ショウに出会って、自分のことじゃなく違う世界のために、、、人のために真剣な姿を見てきた。気づいたら一緒にいたいなって思ってたの、少しでも力になりたいって思ったの」
レイチェルの鼓動が聞こえていうような気がした。
ドクン、、、ドクン、、、。
だんだんと早くなる鼓動。
桜咲はそれが自分の鼓動だとは気づかずに、ただレイチェルの眼差しに吸い込まれていた。
桜咲は全身の力が抜けていくようだった。
自然と桜咲はレイチェルを抱きしめていた。
「守る。守らなくていいって言われたって守るから。レイチェルがいるから僕はなんでも出来るんだよ」
情けない。
女の子に血を流させて、女の子に背中を押されている。
桜咲はその情けなさをかき消すように、強く強くレイチェルを抱きしめた。
「痛かったろ? ヒール」
桜咲はレイチェルの首元、傷口に手を当てて回復魔法を唱えた。
いつも通り魔法の反応、発光が起こりその傷口は綺麗に消え去る。
「ありがとう。私も力になりたい。必ず精霊と契約してみせるから、期待しててね」
レイチェルはいつも通り笑ってみせる。
その笑顔が僕を進ませる。
文字の羅列だった世界、幻想だった世界だったけど、魔法よりも剣よりも、強いものはその笑顔なのだと桜咲は感じていた。
どの世界でも人の心に目を向ければ、魔法なんかなくても世界は救える。
綺麗事なのは承知しながらも桜咲はそう信じたかった。




