42.異世界と白き死神
桜咲は怒り心頭でその切っ先を銀髪の男に向けていた。
ここまで真剣に誰かを斬りたいと思ったのは初めてだ。
こっちは無敵の主人公だぞ。
男は先ほどの桜咲の踏み込みを受けて、初めて驚きの表情を見せた。
まさかあの状況を正面から突破されるとは思っていなかったのだろう。
確認しなければならないことは2つ。
この男が何者なのか。
この男の目的はなんなのか。
桜咲は素直に問いかけた。
「お前はなんなんだ。何で僕達を襲う」
震えるレイチェルの肩を抱きながら桜咲は男を睨みつける。
右手の刀でその男に切っ先を向け、左手でレイチェルの肩を抱いていた。
「こちらが問うている。貴様こそ、何者だ」
男は再び無表情に戻り、言葉を返してきた。
このままではラチがあかない。
コミュニケーション能力ないのかコイツ。
と、桜咲は少し力が抜けた。
仕方がないので、桜咲はレイチェルの肩から手を離してポケットのスマートフォンを取り出した。
出会った者はスマートフォンのメモアプリに設定が追記されるという、謎の現象を利用するためだ。
メモアプリを開き、男からも注意を逸らさないように確認していく。
1番新しい欄、そこにはこう書いてあった。
〈ゼロ〉
ウルダッセン帝国軍、王直属騎士。
白き死神の異名を持つ。
「ウルダッセン帝国軍、王直属騎士だと」
読み上げながら桜咲は男を睨みつけた。
またかよ。
こうして不意に現れる敵は決まってこの帝国軍だ。イクサといいゼロといい。
桜咲が読み上げるとその男、ゼロはすぐに踏み込んで剣を振る。
桜咲はすぐにレイチェルの前に立ちゼロの剣を刀で受けた。
「おい、この無表情! 行動するときは意思表示からはじめろ」
桜咲はゼロの剣を弾いた。
すると、ゼロは少し後ろに下がって距離をとり、剣を持たない左手を桜咲に向けた。
なにか来る。
そう桜咲は直感した。
勘ではなく、魔素がゼロの左手に集まっているのを感じたのだ。
桜咲はすぐさまレイチェルごと包む魔法壁を展開する。
「バリア!」
と、同時にゼロも魔法を放った。
「プロミネンス」
ゼロの左手に集まった魔素が火焰に代わり、放たれる。
まるで横に伸びる、火焰の柱だ。
だが、どれだけ強大な魔法も桜咲の魔法壁を超えることは出来ないはずだ。
そう考えている桜咲だったが、その魔法壁が少し揺れていた。
「くっ、なんて強力な魔法」
桜咲はゼロのプロミネンスの威力に驚く。
そのまま火焰の波が過ぎると、目の前で立っているゼロが大きく見えた。
「レイチェル、ここから動かないでくれ」
レイチェルを庇ったままでは、危ない。
そう桜咲は判断し、レイチェルから離れ、レイチェルの周囲に魔法壁を展開した。
1枚では何かの拍子に破壊される可能性がある、2枚だ。
「デュアル・バリア」
「ショウ、、、」
「レイチェルはここにいて、お願いだから」
レイチェルの安全を確保した桜咲は、全力でゼロに向かい踏み込んだ。
キーンと、甲高い音が響く。
桜咲の刀とゼロの剣がぶつかり合う音。
桜咲の踏み込みをゼロが受け止めたのだ。
「お前の目的はなんだ、ゼロ」
桜咲が名前を呼びかけるとゼロは少しだけ眉を動かした。
名前を知られていることに、微かながら動揺したようだった。
それから、ゼロは口を開く
「危険性の排除」
なんだこいつは会話が出来ないのか。
義務教育からやり直せ。
桜咲はゼロの会話能力に苛立ちを覚えながら、刀を打ち込む。
ゼロはその全てを受け止めていた。
「危険性ってなんだ!」
刀と剣を交えながら、会話を試みる。
「貴様という存在」
「僕がどうした!」
会話というよりも解読に近い。
「我が主の懸念」
「会話能力無いくせに難しい単語をつかうな!文法勉強してこい!」
「それは関係なかろう」
無表情のまま、ゼロは剣の合間に回し蹴りを混ぜてきた。
桜咲はその蹴りを躱し、ゼロの顔面を貫く。
が、ゼロもその切っ先を躱した。
ゼロは主の危険になる可能性を秘めた桜咲を殲滅しにきた。
このゼロという男の言葉を解読すると、こうなる。
「主ってのは、ウルダッセンの王か」
解読しながら桜咲はゼロに問いかける。
すると、ゼロの動きが更に加速し、桜咲を斬り掛かる。
その剣を受け止め、桜咲はニヤリと笑った。
「言葉は分かりづらいけど行動は分かりやすいな、ゼロ」
「貴様は危険だ」
ゼロは素早く左手を構えた。
「ショウ!あぶない!」
背後からレイチェルが叫ぶ。
桜咲はその攻撃を待っていましたと言わんばかりに、ゼロに向かって突っ込んでいく。
「プロミネンス」
「させるかぁ!!!」
魔法を唱えるゼロの左手を桜咲は蹴り上げた。
蹴り上げられたゼロの左手から天に向けて火焔が放たれた。
「その魔法は真っ直ぐに進む、なら発射口を上に向ければいいだけなんだよ」
桜咲は得意げに言い放って、瞬時に刀をゼロの首元に突きつける。
「チェックメイトってやつだ、ゼロ」
首元に切っ先を突きつけられても表情を変えないゼロ。
だが、体を動かすことも出来なかった。
「なんでお前は僕を狙ったんだ」
「それほど強大な魔力を垂れ流しているんだ。ある程度の実力者ならこの世界に貴様が現れた時に気づいている」
ゼロは左手を天に向けた状態で答えた。
桜咲は更に質問を続ける。
「僕をどうしようって言うんだ」
「捕縛、研究。及び魔力の抽出」
魔力の抽出?
それってどういう、、、。
それに、このゼロはイクサのように紋章みたいなものがない。
桜咲がゼロの言葉を聞いて、考察していると、その瞬間生まれた隙をついてゼロが大きく後方に飛んだ。
「今の状態では、捕縛は叶わないと判断した。撤退する」
ゼロはそう言って自分の懐から小石を取り出した。
「転移」
「おい、待て!」
桜咲がゼロに駆け寄るが、すぐに小石が発光し、ゼロは光に包まれ、そして消えた。
おそらく、転移魔法だ。
突如現れたゼロという男。
今まで感じたことのない冷たい敵意に、桜咲は言葉にできない不安を感じていた。




