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41.異世界と銀の剣

「空間転移? って言ってたっけ。あれが出来るんなら旅は必要なくなったりしない?」


 歩きながらレイチェルが尋ねてきた。


 オウガストの街を出て平原を越え、少しした所である。


 レイチェルの質問に、桜咲は少し悩んで答えた。


「なんて言えばいいかなぁ、空間転移っていうのは、知っている場所に移動する魔法だから、行ったことない場所には行けないんだ。なんていうかそういうお約束」


「お約束? ショウってたまに、変な言い回しするよね」


 レイチェルはそう言って笑った。


 変かなぁ。

 空間転移、ワープ魔法といえば行ったことある街にするものだろ。

 と、桜咲は考え込んだ。


 桜咲が使う魔法は、この世界の既存のものではなく、桜咲の想像力に影響されるオリジナルのものだ。

 桜咲が〈そういうもの〉だと意識していれば、〈そういうもの〉になる。

 空間転移魔法は、既に〈そういうもの〉になっていた。


「レイチェル、この先の地図について聞きたいんだけどいいかな? 」


 桜咲はバックから地図を取り出しながら言った。


 先ほどまでいたオウガストは、文字が読めなくとも、何となく分かった。

 丸が付いているのがイノベア白の渓谷と、ビノタイト終わりの山脈だということは分かるが、オウガストからイノベア白の渓谷までにいくつか文字らしきものを通過している。


 レイチェルは、地図を覗き込み、桜咲の質問に答えてくれた。


「まず、この先にある小さな川。それから、少し進むと雑木林があるらしいの。今日はその雑木林を越えて、その先にある小さな村を目指すことにしないかな? 多分4時間くらいかかるから」


 指さしながらレイチェルは説明をしてくれた。


 それにしても4時間か。

 冒険ものの小説に歩く大変さの描写はそう多くないが、これ、魔物と戦うよりも大変じゃないか?


 桜咲は少し、先の長さにため息が漏れそうになった。


 だが、レイチェルと歩く美しい自然は、時間を忘れさせてくれた。



 見たことがないほど澄んだ水の流れる川。

 木製の橋を音を立てながら歩く。


 更に行くと雑木林があり、その中を貫いている道を周囲を警戒しながら進んだ。

 見たことのない花や果実に、桜咲はキョロキョロとしてしまう。

 まるで遠足のようにワクワクしながら歩いていると、時間はあっという間だ。


 雑木林を越える頃には、太陽は沈んでしまう。

 桜咲の魔法〈ライトアップ〉により照らしながら進み、今日の目標の村まではあと少しという所まで来ていた。


「ふー、次の村で馬車とか買えないかな」


 桜咲は半分冗談で言うと、レイチェルは笑った。


「ダウルさんからお金貰ってるとはいえ、そこまではないでしょう? 歩いてもイノベアまではあと3日くらいで着くわよ」


 3日か。

 だが、設定補正がかかっているのか、桜咲は体の疲労を感じていなかった。

 達人クラスの体術を会得しているのだから、これくらいの進行では疲れないのだろうか、ありがたい。


 だが、レイチェルは冒険者とはいえ女の子である。


 大丈夫かと聞いても、大丈夫と答えるだろうしなぁ。


 桜咲は移動手段というものについて、真剣に考え始めていた。



 照らしながら進んでいると、道の先に灯りが見える。


「あ、あれかな?」


 レイチェルは遠くを見つめながら、笑顔を見せた。


「うん、多分そうだよね」


 桜咲は頷き、少し足を早めた。




 油断。

 目的地を目視して気持ちが浮ついていた。

 油断していた。


 殺気。

 気がついた頃には、桜咲の背後、レイチェルの首元に剣を突きつける影があった。



「なっ!?」


 桜咲が身構えながら振り返る。


 すると、背の高い男がレイチェルの背後から、首元に銀色の剣を突きつけていた。


 魔法の灯りが桜咲の視線に合わせて照らすと、男の顔が見える。


 銀髪に右目の眼帯。とても綺麗で、冷たい、作り物のような顔立ち。

 その男はゆっくりと口を開いた。


「力を感じる。貴様か」


 そこ冷たい視線は桜咲に向けられていた。


「なんだよ力って、、、。レイチェルを離せ」


 力を感じる?

 バカを言うな。

 お前こそなんだ、そのオーラ。

 目で見えるほどに強いとわかるオーラを纏っていた。

 赤黒い、重いオーラだ。

 その男はそんなオーラに包まれている。


 その男の腕の中で、レイチェルは言葉を失い、恐怖していた。


「何者だ」


 男は剣を握る右手に力を加えながら、桜咲に問う。


 だが、桜咲はレイチェルの命を握られている状況に、 冷静さをかいていた。


「うるせぇ、早くレイチェルを離せ! 僕が代わる!」


 そう叫ぶが男は眉一つ動かさない。

 そのまま男は更に剣に力を加えた。

 力を加えられた剣は、レイチェルの首元にゆっくりと触れ、その表面を小さく裂いた。


 レイチェルの雪のように白い肌に、ひとすじの赤が浮かぶ。


 血。


 男は剣を止め、もう1度言葉にする。


「次はこの首をとばす。この世界で見たことがないほど強大な力。何者だ、貴様は」



 レイチェルの首から流れる微かな血。その赤。

 ああああああああ。

 と頭の中が沸騰していくのが分かる。



 気づけば桜咲は刀を抜き、目視出来ない程のスピードで踏み込み、その男の剣を吹き飛ばしていた。



「あああああああ!!てめぇ!やりやがったな!」


 桜咲の踏み込みに気づいた男が剣をレイチェルから浮かせたのを見逃さず、剣を刀で吹き飛ばしたのだ。

 そのままのスピードで桜咲は男を蹴り、レイチェルを保護した。


「やっちゃいけねぇことをやったな、初登場野郎!」


 鼻息を荒くしながら桜咲は刀の切っ先を男に向ける。


 抱きしめたレイチェルの肩は少し震えていた。

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