40.異世界と魔法付与
「さて、じゃあ、準備はこんなもんかな」
桜咲は荷物を並べて呟いた。
食料に着替え、地図や筆記具。
必要と思われるものは全て買い揃えた。
ダウルからの説明を受けた後、ダウルから旅の資金として数え切れないほどの金貨を受け取り、その金貨で必要なものを揃えたのだ。
そして、桜咲は自宅へ戻り、こうして荷物を並べている。
レイチェルも一旦自宅へ戻って準備をしているところだ。
まずはイノベアの白の渓谷。
前の契約者を殺し、その場から動けなくなった精霊とレイチェルを契約させなければならない。
旅が長くなることは十分に考えられるのだ。
「つーか、こんなに荷物いっぱいあったら、旅するのも大変だよなぁ、、、四次元空間になってるポケット的なこと出来ないかな。青色のロボット的な」
桜咲は呟きながら、先ほど買ってきた布製の肩掛けバックを持つ。
「魔法でこれの中だけを広げれればいいんだけど、うーん、なんて魔法にすればいいんだ」
バックの見た目は変えずに、その容量だけを増やす魔法。
理論上、桜咲はどのような魔法も使えるのだから、あとは想像力次第というわけだ。
桜咲はバックの中が広がることをイメージしながら、唱える。
「えーっと、ワイドスペース!」
唱えた途端、バックが発光した。
青白い光がバックを包み、ゆっくりと光は消える。
「お、できたのか?これ」
そう言いながらバックを開くと、バックの底が見えなくなっていた。
「おお、できてる! やっぱり大切なのは想像力なのか」
改めて自分の魔法を理解した桜咲。
広がったバックの中に荷物を詰めていると、レイチェルが部屋の中に入ってきた。
「入るわよー」
「もう入ってるじゃないか」
桜咲は笑いながらレイチェルに言う。
パッとレイチェルの方を見ると、レイチェルは巨大なリュックを背負って扉に詰まっていた。
「え、なにそれ」
シュールなレイチェルの姿に桜咲は苦笑する。
「いや、あの、荷物多くて、、、ってショウは荷物それだけ?食料とかはどうするの?」
レイチェルにそう問われ、桜咲は先ほど詰めたバッグの荷物を次々に取り出した。
「パンと服とタオルと地図とペンとテントと布団と、、、」
「ちょっとちょっと、なにそれ、、、」
桜咲のバックから際限なく出てくる荷物にレイチェルは驚きを隠せない。
え?魔法でバックの容量増やすのって一般的じゃないの?
「バックの見た目変えずに、中に入る容量増やしてみたんだ」
桜咲がそう言うとレイチェルは言葉を失った。
「レイチェル?」
「物質に魔法付与って、、、そんなの聞いたことないわよ! それって、永久に魔力を持たせるってことでしょ? 」
ああ、これが異世界で感じるギャップってやつか。
と、桜咲はよく分からない満足感を得ていた。
「そーなんだ。じゃあ、レイチェルのもやっとくね。これでいい? 」
桜咲はレイチェルの荷物の中から小さなバックを手に取って尋ねる。
うんうん、と素早く頷くレイチェル。
「ワイドスペース!」
桜咲が唱えると、また青白い光がバックを包んだ。
それからレイチェルは荷物を全てバックに詰め込み、旅の準備は整っていく。
「さて、こんなもんかな」
桜咲が言うと、レイチェルは苦笑した。
「こんな軽装で旅するなんて」
「楽でいいじゃん。これこそ、冒険ファンタジーだよ」
「なんだか、楽しそうねショウ」
レイチェルが呆れたように言う。
すると、桜咲は笑って返した。
「まぁ、ワクワクはしてる。レイチェルは?」
「私? もう、現実離れしすぎてよく分からないわ。精霊の場所がわかって、ヨルムンガンドを討伐しなきゃいけなくて、目の前で物質に魔法付与する瞬間を見て、、、」
異世界で現実離れって言葉を聞くなんて、と桜咲は何だかおかしくなってきた。
「ふふっ、大丈夫。何がどうなろうと、僕がレイチェルを守るから」
桜咲の言葉にトクンと心臓が踊る。
なんだろう、この感情。
レイチェルは早くなる鼓動を感じながら、頷いた。
「じゃ、行こうか!」
桜咲はそう言って扉を開いた。
目の前に広がるのはオウガストの街。
その向こうには、未だ見ぬ異世界が続いている。
空が続く限り、大地が続く限り、心が続く限り、そこには物語が待っている。
あとは進むだけだ。




