31.異世界と剣術
「僕で実力を試すってことかな、嬉しいねぇ。僕に臆しない若者を見るのは久々だよ」
ダウルがそう言って笑顔を見せると、時間が止まったと錯覚するほどに空気が張り詰めた。
ゆっくりと木剣を構えるその挙動から目が離せず、瞬きすらできない。
「ああ、なんか分かります。強いっすね、やっぱり」
木剣の切っ先をしっかりダウルに向け、桜咲は呼吸を整える。
「いくよ」
ダウルはそう言って踏み込んだ。
正面。
桜咲の正面から踏み込み、真上から振り下ろす。
目の前でその人間離れした速度を見ると、普通の人なら戦意喪失してしまうだろうスピードだ。
だが、桜咲はタイミングを合わせて木剣で受け止めた。
木と木がぶつかり合いカーンと高い音が響く。
「やるね」
ダウルは目の前で笑顔を作って見せた。
優位に見せることもダウルの剣術のひとつである。
「なんかで読んだことありますよ。実戦で長さのある武器を使うなら、基本は横振りって。手加減ですか?」
桜咲は少し不機嫌なように言って見せると、ダウルは木剣を一瞬引き、桜咲の右から横向きに斬りかかる。
だが、桜咲はしっかりとダウルの切っ先を睨みながら後ろに飛んだ。
ブンッとダウルの木剣が音を立てて空を斬る。
「手加減?違うよ。実戦なら一撃で決めなければ、中途半端な傷はかえって敵の士気を高めてしまうからね。頭を狙うのさ」
そうダウル言われ、桜咲は背筋が寒くなったのを感じた。
これが、本物の闘気。
桜咲の目にはダウルが大きく見えていた。
幻想を薙ぎ払うように桜咲は大きく踏み込んで、縦に斬り下ろす。
ダウルはその切っ先の動きを察知し、木剣で受け止めた。
が、桜咲は受け止められた木剣を軸にして回転し、右足でダウルの腹部に蹴りを入れる。
手応えあり。
そう確信して桜咲はダウルの顔を見ると、ダウルはニヤッと笑った。
「甘いよ」
そう言われ、桜咲が自分の右足を見ると、ダウル左手が受け止めていた。
「しまった!」
桜咲は嘆く。
が、ダウルはそのまま桜咲の右足を掴み、ぶん投げる。
投げられた桜咲は、空中で一回転し、うまく着地した。
「やるねぇ」
ダウルはその様子を見て称賛した。
反射神経の塊のようだとさえ思うダウル。
これが、ほとんど戦ったことのない者の反応なのか。
だが、手は止めない。
さらにダウルは踏み込み、何度も桜咲に打ち込んだ。
どの角度どのタイミングであろうが、桜咲は受け止める。
反対に、少しでも隙を見せようものなら、桜咲は全身を使って攻撃を仕掛けてくる。
その攻撃は剣士というよりも獣のそれに近いとダウルは感じた。
本能で攻撃を受け止め、本能で攻撃をしている。そんな感じ。
「なんて反射神経なんだ君は」
打ち込む手を休めず、ダウルは桜咲にそう言った。
「そっくりそのまま返しますよ、ダウルさん」
桜咲も負けじと打ち込む。
打ち込んでいると、次第に桜咲は汗ばみ、その汗は額をつたって桜咲の目に入った。
「くっ!」
急に視界を奪われる桜咲。
見えないながらも木剣が自分の頭部めがけて振り下ろされる気配を感じた。
やばい。このままではやられる。
そう直感し、桜咲は木剣の気配めがけ、全力で振り下ろした。
カーンと今までよりも高い音が響きわたる。
すぐさま、桜咲は目の汗を拭い目の前を確認すると、自分の木剣が折れていることに気づいた。
「くっそ、負けか」
素直に悔しがると、目の前でダウルが笑った。
「はっはっは。いや、引き分けだよ」
そう言われダウルの木剣を見てみるとそちらもおれているのが見えた。
木剣が2人の試合に耐えきれなかった、故の引き分け。
桜咲とダウルは顔を見合わせて、笑いあった。




