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28.面談と異世界

 ミーナに案内され、桜咲とレイチェルはギルドの2階、会議室へと通された。

 会議室には大きな机と数脚の椅子があり、奥の椅子に男が1人座っていた。


 ミーナはタバコに火をつけながら、男の隣に座り、桜咲とレイチェルに座る様に言う。


「まぁ、座りな。で、こいつがダウル、オウガストの冒険者の頂上にいる老害だ」


 煙と毒を吐き出すミーナ。

 その姿はさながら頂上にいる者ではないか。

 ダウルと紹介された男はミーナの言葉を受け流す様にニッコリと笑い、話し始めた。


「ギルドマスターをしている、ダウルと言う者だ。よろしく。これでもまだ40でね、老いているとはまだ思っていないよ」


 老害、と言う言葉に実は傷ついているようだ。

 ダウルは言いながら、桜咲を指差し、更に言葉を続ける。


「君が異世界から来たというショウ・オウサキだね。話は聞いているよ。だが、詳しく教えてくれるかな?」


「え、あ、はい」


 桜咲は咄嗟に返事をして説明を始めた。


「えっと、何から話せばいいのか」


 まず、桜咲は異世界からアルクラインに転移して来た者である。

 桜咲が生きていた世界には魔法はなく、想像上の存在であったが、そのため魔法という存在が登場する物語が世界的に受け入れられていた。

 桜咲も物語を書くという趣味があり、この世界はその桜咲が書いていた物語の設定にそっくりだということ。

 桜咲は、その物語の中に<桜咲おうさき しょう>という自分の名前をつけた登場人物を設定した。


 その設定とは、無尽蔵の魔力と全属性の魔法の使用、それに達人クラスの体術。

 それがこの世界では反映されている、ということ。


「ってことなんですけど、、、。ってこれ僕たちが呼ばれてるのってウルダッセンの帝国軍の話でですよね?」


 スマートフォンの中に出会った人の情報が追記されるというのは、何か思惑があったわけではないが明かさなかった。


「なるほど。いやぁ、すまない。ウルダッセンの帝国軍もそうだが、君という存在も異質でね。実に、不思議な話だ。ただ、聞いていた通り、君には敵意も悪意も感じない、試したわけではないのだがね」


 ダウルはそう言って頭を下げた。

 その横でミーナもタバコの灰を落とすほどに驚いている。


「そうかい、だからその剣を見た時も驚かなかったってことか。その新製法の剣はアンタの世界で存在してるってことだな?」


 ミーナは桜咲の腰にある刀を指差した。


「ええ、僕がいた世界では日本刀、刀と呼ばれているものなんです」


「カタナねぇ、、、」


 タバコを咥え直して、ミーナは言った。


「あの」

 と桜咲の横でミーナが立ち上がりダウルに話しかけた。


「なんだいレイチェル」


 そうダウルが笑顔で答える。


「ショウは本当にいい人です。2度も助けられましたし、ドラゴンの時も洞窟での時も、殺そうとはしませんでした。だから、その疑うようなことはしないでください」


 レイチェルは必死になって、ダウルに言った。

 すると、ダウルは急に真顔になる。


「優しさは甘さの表れだからね」


 ダウルがそんな事を言い返すと横からミーナがダウルの側頭部を殴った。


「言葉遊びしてるんじゃないんだ、だからアンタは老害って言われるんだ。からかうんじゃないよ」


 殴られた側頭部を抑えながらダウルは再び笑顔を見せる。


「老害なんてミーナ、君にしか言われたことないけどね。いたた、いやぁ、すまない。変な意味はないんだ。ただ、優しさと甘さが表裏一体なように、ショウ君

 、君の強さはこの国にとって有益であるとともに脅威でもあるんだ。君はまだ若い、それにこの世界に来てまだ日も浅い。君は力に溺れない自信と覚悟はあるかい?」


「それは、、、」


 桜咲はダウルの言葉に、反論できうる言葉を持っていなかった。


 確かに、桜咲はこの世界に来て、まだ2日目。強大な力を持ったのも同じく。

 その力の強大さに、自分が強くなったことに少しも呑まれなかった、といえば嘘になる。

 先刻、ユーナを助けたのも、もちろん単純な正義もあっただろうが、自身の力を過信し、一方的に撃退出来るのが分かっているからだ。


「話で聞く限りだが、転移魔法や強大な全属性魔法を、際限なく使えるということは、いつでも世界に対し一方的に宣戦布告し蹂躙出来るほどの力があるということだ」


 ダウルは桜咲を追い詰めるように言葉を続けた。


 自分の気に入らないことがあればいつでも世界を壊すことができる。

 そんなこと考えもしなかった。


 なんで考えなかったのか。

 いきなり異世界に飛ばされて、魔物に襲われて、絶望してもおかしくない状況ではあった。


 なんで、僕は力に溺れなかったんだ?

 桜咲は表情を険しくしながら、悩んだ。



 ギュッと手をにぎられた。

 汗ばんだ桜咲の手を、隣に座るレイチェルが握ったのだ。


「大丈夫」


 レイチェルは手を握りながら、桜咲に囁いた。


 ああ、そうか。

 僕は君と出会ったから、この世界でも生きていけると。

 君の笑顔が救ってくれたのか。


 だから。


「大丈夫です。僕の隣で大丈夫と言ってくれる人がいるから。笑ってくれる人がいるから。その笑顔を守りたいと思うから」


 桜咲は、これまでの人生で出したことのないほどの勇気を振り絞った。

 握られた手から勇気が流れ込んでくる。

 そんなレイチェルの行動が桜咲に、桜咲にも使えない魔法をかけたのだ。


 桜咲の勇気を目の当たりにして、ダウルはため息をついた。


「いやぁ、僕も歳をとったのか。そうだね、理屈ではない、打算ではない、そういった気持ちを忘れていたよ。追い詰めるような事を言ってすまない」


「だから老害だって言っただろ。いやぁ、若いってのはいいことだねぇ」


 ミーナはニヤニヤしながら桜咲を見た。


 これってまさか、、、。

 桜咲はハッとしてレイチェルを見る。

 赤面し視線を逸らすレイチェル。


 そんな2人を見て、ミーナは更にいやらしくにやけた。


「ほんといいねぇ若いってのは。こんなところで告白なんて」


 あああああああああああ。

 桜咲は頭の中で絶叫した。

 自然に出てくる言葉に任せていたのだが、深く考えていなかったのだ。


 そんな姿を見て、ダウルも笑う。


「とにかく、ショウ君はオウガストに居てくれると言うことか。いや、その気持ちよりも人を突き動かすものはないさ。君を信用するに値する、最高の理由だ」


 いや、信用してくれるは有難いんだが、この羞恥空間をどうにかしてくれ。


 こうして桜咲のギルドマスター面談は終わった。

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