25.異世界の流行はツンデレ
全力で振り抜いた拳を、自分よりも小さく華奢な桜咲に受け止められ、チンピラBは動揺を隠しきれない。
「なんなんだ、お前は」
チンピラBはこれぞやられ役と言ったセリフを吐く。
悪いなこっちは達人クラスの体術を持ってるって設定になってるんだ。
物語においては設定は遵守されるんだぜ。
と、桜咲はチンピラを睨みつける。
「通りすがりの男だけど?」
桜咲の言葉にチンピラ達はたじろぐ。
周囲の人だかりはざわついた。屈強なチンピラ達に皆何も言えずにいたのだが、そこに、到底強そうに見えない桜咲が入り込みチンピラの拳を受け止めたのだ。
その様な状況で視線を集めながら桜咲は言葉を続ける。
「この状況で僕にやられたら、めっちゃカッコ悪いけど、どうする?」
桜咲は敢えて軽口を叩いた。
挑発ともとれる桜咲の言葉に、チンピラ達は青筋を立てる。
「やられるのはお前だよ小僧」
とチンピラA。
「こっちは3人だぜ」
とチンピラC。
「離せよ!」
とチンピラB。
この男達はやられ役という設定でも書き込まれているのだろうか。
と、桜咲は呆れる。
「このまま振り返って、視界から消えるならよし。まだ続けるならさっさとしなよ」
桜咲は言い捨てながら、振り返り女の子を確認した。
青髪の女の子は少し怯えながらも、チンピラ達を睨みつけている。
ああ、強気な女の子なんだ、と桜咲は理解した。
桜咲に挑発されたチンピラ達は一斉に殴りかかってくる。
迫り来る拳をさっとかわしながら、腰にある刀を抜く桜咲。
そのまま刀を振り抜き、周囲で見ている者達の目に映らないほどのスピードでチンピラ達の衣服を切り裂いた。
大衆の目前で全裸。
分かりやすい悪役には分かりやすい制裁を。
「うわあああ」
チンピラ達は全裸にされ、惨めな姿になっている。
すぐさま恥部を隠しチンピラ達は、桜咲を睨みつけながら人混みを抜けて行く。
言うか?あのセリフ。
「覚えてろよ!」
はい出た。
「実際に言うもんなんだな、あれ」
と桜咲は刀を鞘に収めながら笑う。
チンピラ達が人混みを抜けどこかに消えて行くのを見ながら笑っていると、背後から話しかけられる桜咲。
「あの」
ん?と振り向くと青髪の女の子が近寄って来ていた。
「ありがとう。ほんとは1人でも大丈夫だったんだけど一応」
照れ臭そうに言う女の子。
ああ、こういう強気な女の子なんだな、と桜咲はニヤついてしまう。
よく見ると美少女だし、こういう強気系の美少女もありだな。
「なによ、何ニヤついてるの?」
「ああ、ごめん。かわいいなと思ってさ」
桜咲がそう言うと女の子は分かりやすく赤面しながら、言い返してくる。
「な、何よいきなり!新手のナンパ?」
気がつけば周囲の人だかりは解散していた。
「違うよ。本当に通りすがりの冒険者。まぁ新人だけどね」
ナンパ、と疑われ桜咲は否定を交えて言った。
女の子はホッとしたのか、一息をついて険しかった表情を緩めた。
「そう、でもありがと。私はユーナ、この先でパン屋をしてるから良かったら来て?サービスするわ」
青髪の女の子、ユーナは言った。
ユーナの警戒が解かれたことを感じ桜咲もホッとした。
「僕は桜咲 翔。怪我もなさそうでよかったよ。パン屋さんも後で行かせてもらうね。なんてお店?」
「この市場を抜けたところにあるジレッタってお店よ。っていうか、このままくればいいじゃない」
誘われたが、桜咲は通貨を持っていない。
そのことを素直に伝える。
「ああ、ごめん、今お金を持ってないんだ」
「そんなのいいわよ、助けてもらったんだし、いいから来なさいよ」
ああ、強気キャラじゃなくてツンデレキャラなのかと桜咲は理解した。
ユーナに手を引かれ、驚きながら市場を抜けて行く。




