12.異世界設定
一呼吸置いてからレイチェルが話を切り出してきた。
「色々聞きたいことはあるのだけれど、ショウは違う世界からきててわからないことだらけだと思うからまず私の分かる範囲でこの世界の事を説明しようと思うんだけれど、いい?」
「そうしてくれると助かるよ」
有難いレイチェルの提案に頼る桜咲。
レイチェル自身も桜咲のことが異質なはずなのに質問ぜめにせず自分から説明してくれることに優しさを感じずにはいられない。
オウガスト、ウルダッセン、カルゼン、ビノタイト、イノベアの5国から成っているアルクラインという世界。
魔法という技術を軸に世界は回っており、その技術は産業から軍事まで幅広く利用されていた。
現在は世界歴1210年。
レイチェルは今の世界について簡単に説明してくれた。
なるほどと聞きいっている桜咲に「それで君の事を聞かせてくれるかな?」と言葉を続ける。
「あ、そうだね。僕は何でかわからないんだけど違う世界からきてしまったんだ。その世界は魔法もなくて、、、なんていうか科学を軸に成り立っていて」
「科学?」
レイチェルは首を傾げながら聞く。
「うん。簡単に説明するのは難しいんだけど、魔法っていう技術がないから、したい事は自分でするって感じかな。例えば火をつけるのも魔法がないから、僕がいた世界では何が燃えるのかどうすれば火はつくのか、調べて用意して道具を使って火をつけるんだ」
「魔法がないって大変よね」
真剣に桜咲の話を聞くレイチェル。
「まぁ、どんどん技術が進歩してるから今は火なんてボタン一つでついちゃうけどね」
と桜咲は補足した。
「あ!」とレイチェルは頭の上にビックリマークが浮かんでいる様な声を出す。
「ど、どうしたの?」
驚いて桜咲が尋ねるとレイチェルは更に言葉を続けた。
「でも、ショウは魔法使ってたよね?魔法ないんじゃなかったの?」
ああ、そのことかと桜咲はポケットからスマートフォンを取り出した。
「魔法がつかえることは僕は分からないんだけど、、、僕が妄想してた世界にそっくりなんだよね」
桜咲がそう言うとレイチェルは頭の上にクエスチョンマークを浮かべ首を傾げた。
「どういう事?」
「えーっと、僕もよくわかってないんだけどね。僕が妄想して物語にしてた世界にそっくりで、、、その中に桜咲翔というキャラクターを描いててその桜咲というキャラクターは全属性魔法を無尽蔵に使うことができるっていう設定なんだ」
更にクエスチョンマークを増やすレイチェル。
「ショウは物語書きをしていてショウが書いていた物語にこの世界がそっくりで、その中に自分と同じ人物を描いていてその人物と同じ能力をショウは持ってるって事?」
桜咲の話を自分なりに解釈してみるレイチェル。
本当に荒唐無稽の一言に尽きる話だなと桜咲自身笑ってしまうような状況だ。
だが、嘘などついていないし今は説明を続けるしかない。
「そう。このスマートフォンっていう機械に物語の設定を書いているんだけど読んでみるから聞いてくれる?」
桜咲が尋ねるとレイチェルは頷きで返してくれた。
メモアプリを開いて世界の設定を読みあげる。
普段なら自分の小説を読み上げるなんて羞恥の極みだと思っていたが今はこの設定もただの歴史書にすぎないので抵抗は感じなかった。
<アルクライン>という世界。
そこで暮らす人間は魔力を持っており、個人の適正により魔法を使うことが出来る。
<アルクライン>は5つ国に分かれており、互いに侵略や同盟を繰り返し世界統一を目指している。
その中で魔法は武力であり生活の一部になっていた。国同士の争いや同盟の歴史を経てお互いに攻め込まないという5カ国条約を締結させた<アルクライン>は平和な日々を手に入れた。
そんな中、5カ国のひとつ北の果てにある<ウルダッセン>という国の王が倒れ王子に王位を継承したことで物語は動き始める。
王子は再び世界統一を目指し闇の魔法に手を染めた。人間の魔人化である。
魔人化した王子を止める術のない他国は<ウルダッセン>との国境に壁を築き、軍を動かして拮抗状態を保っていた。犠牲の出る拮抗である。
そこに主人公が現実世界から召喚され<アルクライン>には存在しないほどの魔法で世界を救う。
<アルクライン>は5つの国に分かれている。
<ウルダッセン>
闇の魔法に長けており、主に狩猟で暮らしている北の国。
<イノベア>
風の魔法に長けており、開発などを得意とする国。気球などを開発した西の国。
<カルゼン>
肉体強化魔法に長けており強大な軍隊を所有しているが国内に豊かな自然を所有しており農業を主体にしている南の国。
<ビノタイト>
水の魔法に長けており、漁業を生業にしている東の国。
<オウガスト>
大陸の中央にあり4国全てと隣接している国。光の魔法に長けている。魔法の研究を主に行なっている国である。
「っていう話なんだけど、、、」
自信なさげに桜咲が読み終えるとレイチェルは少し驚いてみせた。
「各国の魔法や産業なんてショウには説明してないわよね。じゃあ、本当にこの世界はショウの書いていた物語にそっくりなのね」
そっくりだ。だがここに来て異質な存在があった。
シンという人物の情報だ。
「そっくりだけど、僕が書いていた物語にはシンなんて人物は登場していないさせる予定も設定もなかったんだ。それにレイチェル、、、君という存在もね」
桜咲がそう言うとレイチェルは笑った。
「ははは、そりゃそうよ。私は私。この世界で生きているんだもの。その小説だってたまたま同じ、、、うん。たまたまよ」
たまたま。偶然。奇跡。何万分の、何億分の1で起きない事ではない。
でもそんなものは酔っ払いが何も考えずにピアノに向かいモーツァルトを演奏できてしまうような確立。
本当に偶然なのか?と桜咲が悩みながらスマートフォンの画面を見ているとレイチェルの設定が新しく書き足されていた事を思い出した。
「そうだ!これ!君の情報も加筆されているんだよ!出会ったからなのか」
「どういうこと?」
レイチェルはスマートフォンの画面を覗き込むが、文字が読めるはずもない。
「なんて書いてあるの?」
レイチェルに問われて桜咲は読み上げる。
<レイチェル・フェザリオ設定>
銀髪美少女。
精霊魔導師志望。
「美少女って、、、」
とレイチェルは赤面した。
ふと桜咲は気づいてスマートフォンの操作をする。
銀髪という部分を消して金髪と修正すればどうなるのか。
銀髪という文字の部分に触れるが操作は出来ない。
つまり、すでに確定している情報は修正出来ないということか。
だんだんとこの世界の設定が理解できて来た桜咲。
どんな無茶苦茶な設定だと作者が作者を心の中で責めた。




