良平は銃口を海原に向けバンバンと撃ち続けた。
三部作
❶
笹本良平が和歌山県東牟婁郡串本町で住みついたのは調度十年前であった。
それまでは大阪市東成区今里で暮らしていた。現在四十六歳で独り者でもある。しかし笹本の半生には波乱で痛ましい過去があった。
三十四歳で妻を在る事件で亡くしている。その事件は大阪市で住んでいた頃に起こった事件で、妻ゆかりが三十三歳の時暴漢に襲われ、ナイフで腹部を刺され即死すると言う痛ましい事件であった。
妻は一言も何も口にする事無くこの世を去ったのであった。
良平と妻ゆかりは大恋愛の末結ばれたおしどり夫婦であった。特に良平が妻ゆかりを事のほか愛していたから、妻の突然の死でショックは計り知れないものであった。
良平はその時、今ま育てて来た全てを打ち砕かれた様に感じていた。
事件後間もなく仕事も辞める事にした。二人で作り上げて来たものが多かっただけに落ち込みが酷く、また二人の間には子供が出来なかった事もあり、せめてそれがあれば気を紛らわす事も出来たのであったが、それさえ出来なかったから何一つ残らない思いであった。
打ちひしがれた様に成って、大阪今里のマンションを離れたのは十年前。そして海の見える町和歌山串本町に生活の舞台を移す事にしたのである。
ゆかりと生前二人で何度も来た事があった串本町が、良平にとって一番落ち着く場所であった事は確かで、独りに成ってからも気分を変えようとこの地を訪れていたので、その延長線上にこれからの人生を考える様に成っていた。
そして十年前に思い切って一歩踏み出す事にした訳である。 五年前小型の船を購入する事に成り、その船に「ゆかり丸」と名を付け、よく二人で船釣りを楽しんでいた時の様に、今は一人であったが、それでも船の名前を妻の名前と同じにして釣りで心を和ませていた。
平成十年八月近畿地方に大型台風が来て、海辺の街は大被害が出る事に成った。
それは今までに経験した事の無い大きさで、甚大な被害が至る所で出る事に成った。
その台風から一週間が過ぎ、海も穏やかに成って来たので良平は久し振りに漁に出る事にした。
実はこのような時は大漁に成る事が多く、魚たちも荒れ狂っていた海では大人しくしていたが、海が穏やかに成り、それでお腹を空かして辛抱し仕切れなくなって、餌に飛びつく様に貪るのである。
それがその餌には針がついているから可哀相に釣り上げられて行く事になる。自然界の条理には成程と思えるものがあった。
良平もこの地へ来て十年が経ち船を買ってからでも五年が経っていたので何もかもを把握しで来ていた。
思いがけない大漁に出くわす事に成り、久し振りに興奮した一日に成った事が、どれだけ嬉しかった事か存分に感じていた。
そして最近可成親しく成って来たお隣さん等に、その釣り上げた魚を貰って貰おうと頭の中でその光景を描いていた。
この地に来てから当初は心の中を曝け出す事など出来ず控えめにしていたが、そのうち親しく成って来て何時の間にか何もかもを話せる様に成っていた。
そして気が付けば妻が暴漢に襲われあっけなく命を落とす事になった事も口にしていた。 アパートの隅で何年か置かれていた骨箱も、今では串本のお寺に奉納して、月命日には手を合わせる日々を繰り返していた。
その様な運びに成って行くのも、その殆どが近くの人達の温かい心遣いで事が運んでいた。
そんな思いをする者など決して多くなど居ない事を良平は何時も感じていて、亡き妻を偲ぶと言う事は、未だ見つかっていない犯人を恨む気持ちも相当であった。
犯人は百七十五センチの痩せた男で右目の下にうっすら痣があり眼光が鋭いと言う特徴がある男であった。
それは妻が大阪の今里のロータリーから少し北よりに進んだ所で刺されたから、誰も犯行現場を見た訳ではなかったが、その前後に同じと思える人物を見かけた人が二人居て、案外早く犯人が捕まるような言い方をニュースではしていた。 しかし結局犯人逮捕に及ぶ様な情報もそれ以上無く、今では十二年の歳月が流れてしまったのである。
串本町に来てからもその事件の話を何度かした事があったが、それは良平にとっては何の慰めにも成らず、寧ろ心を痛める苛つくだけである事を感じて、なるべく最近はその話は口にしなく成っていた。
魚を一杯船底の魚入れに入れて帰路に着こうとした時、良平の目に入った物は海に浮かぶ目印のブイであった。 それは決して何時も無い場所であったので、良平はそのブイに掛かっているロープを竹の棒で手繰ってみると、その先には頑丈に包装された四角い箱が繋がれている事に気が付いた。
その包みがあまりにも大層で、しかもいつも見かける漂流物とは何となく違っていたので、興味本位でその漂流物を船の中に掬い上げる事にした。
然程重くは無く簡単に持ち上げる事が出来たが、良平はその時それが良からぬ物ではないかととっさに気が回った。【麻薬。若しくは覚せい剤】
そのような言葉が浮かんで来て妙に関心を持っている自分を感じていた。とりあえず操舵室に隠し、船を港に向かって走らせた。
そして港へ着いた時はその箱の中身が気に成ったが、それより大量に獲れた魚を捌く事を考えていて、思い通り大漁であった事の満足感で心を一杯にしていた。
妻が生きていた頃に何度かあった興奮した一日に似ていた。
そしてこんな日は妻ゆかりの事も忘れる事が出来、忘れられなくとも心良くして思い出す事が出来た。
魚を全部捌き配る家も決めて船から下りようとしたが、やはり先ほど拾い上げた荷物が気に成って来て、その荷物をめったに仕舞わない所にとりあえず仕舞って、閂をして釘で打ちつけ上からカモフラージュをしてから船を離れる事にした。
この船を壊さない限り判らないような場所であった。其れと言うのもやばい物であっては困ると思ったからであった。
「これで安心」と自分に言い聞かせる様にして船を後にした。
アパートに戻り良平は満面笑みを浮かべてご近所に魚を配って、お返しに野菜などを貰う事に成り、最近この地に来た事が最高の選択であった事を心で確かめていた。
久し振りに快い一日に成った事で銭湯に行く足も軽やかで、長らく忘れていた楽しい時を過ごす術を改めて感じる一日と成った。
翌日は日曜日。朝からトイレの掃除を済ませ、持ち船に向かっていた良平は、漁場を考えながら今日も二匹目の泥鰌が居ないかと虎視眈々と目論んでいた。
そして船に着いた良平が度肝を抜かれる事に成る。船が荒らされている事に気が付いた。 操舵室が特に荒らされていてむちゃくちゃにされていたのである。
良平は何故そのように成ったかなど直ぐに理解出来た。それは昨日海で拾い上げた箱が原因している事であると思い、危険を感じとりあえず船を出す事にした。
エンジンは問題なく動かす事が出来たのでとりあえず沖に出る事にした。
昨日良平がその箱を拾い上げている姿を誰かが何処かから見つめていて、それが夜の間にこのように誰かが船を捜しまくった事に繋がったのである事が想像出来た。
結果的に日ごろはその様な所へは隠す事など無いのであるが、多分その様な所へ隠したから誰かが捜しに来ても見つけ出す事が出来なかったのだろうと思われた。
とりあえず船を走らせて沖に出て、周りに誰も居ない事を確認してから箱の無事を確認したが、良平は何か不吉な事を予感していたのである。
そして昨日海に漂っていた箱を拾い上げたその箱を、操舵室の奥から取り出し包みを広げる事にした。
何枚にも包まれたビニールがその中に何が入っているかを物語っていた。
【覚せい剤】この言葉が頭に中を一杯にしていた。
再度誰も居ない事を確認してから良平がそっとその包みを解きほどき始めた。
箱の中から英語の新聞で厳重に包まれた五丁の拳銃が出て来た。
真新しい脂の匂いのするその拳銃は三十八口径のロシア製の拳銃で、良平はその現実に驚くばかりであった。
そして自分が置かれている立場が危険な位置である事もすぐに悟る事と成った。
何処かで誰かが、それはこの拳銃に関係ある者が良平が海で引き上げた物を何処かで見つめていて、そして昨夜船から離れた良平を確認してから、その船に乗り込んで至る所を捜しまくった様で、良平はその拳銃を手にしながら自分がこれからどの様な道を選択すれば良いのかと自身に問答していた。
拳銃のほか実弾が百発ほどその箱の底に綺麗に並べられていて、全く水など入らない包み方であった。 そもそもこのような事が何故起こったのかは簡単に想像出来た。先日の台風で串本では二隻の小型貨物船が座礁して、その船が真っ二つに千切れ、名古屋まで運ぶ筈だったコンテナーが、荒海に投げ出され大破するコンテナーもあり、中の荷物が散乱したようである。
しかも一艘ではなく二艘が座礁した事がややこしくしている。この海難事故は一週間前、韓国船籍の船とマレーシア船籍の船が座礁して、双方共スクラップ処理に成る運命と成った。それだけ被害が甚大であったのである。
その荷物が漂流している事が考えられ、良平が拾い上げたのもその内の一つではないかと想像する事が出来た。
❷
船の乗組員に裏組織の者が居り串本か何処かは判らないが、陸地で待つ誰かにその荷物を渡す積りであったが、台風が来て海が時化て思わぬ展開に成った訳である。
そして串本の海でその荷物は何処かへ流され、受け取る筈だった荷物を今躍起に成って誰かが探している事が想像出来た。
拳銃と実弾はそのまま又隠す事にした。そうする事が一番であると良平には思えた。 誰かが一度家捜ししているから二度としないだろうと考えたからである。
その船は韓国籍で名古屋へ行く予定であったと、そしてマレーシア船籍の船は名古屋へ寄り横浜へ行く予定であったと新聞は伝えた。
良平は名古屋の裏社会の人物、若しくは横浜とか関東の裏社会の人物と想像しながら、この串本に今そのような関係者が何人も来ている可能性があると思わざるを得なかった。
串本には海上保安庁もあれば串本警察も在る。今良平がその拳銃をどちらかに持って行けば、表彰でもされるかも知れないがそんな物は要らない。
只これからは何においても気をつけないといけないと思うように成っていた。誰かが良平の全てを見張っている可能性が考えられたからである。
あの海で何となく興味本位で拾い上げた漂流物を誰かがはっきり見ていて、それが拳銃である事も百も承知でと思った時怖くさえ成って来た。
それから気苦労な毎日を暮らす事に成った良平であったが、それ以降は際立った事も起こらず、おそらく見つからなかった拳銃を諦めて名古屋とか横浜へ帰ってしまったのだろうと良平は感じていた。
難破船が夜明けの海に無残な姿で現れてから一ヶ月が過ぎ、その姿は解体が進んで船と言うより鉄の固まりに成りつつあった。
あと二週間もすれば何もかも無くなり元の海に戻る様である。
難破船と供に何もかもが無くなれば良いのであるが、ほとぼりが醒めた頃良平はその拳銃を隠し場所から取り出し眺めていた。
トカレフ38と刻印が押されていて、それがロシア製である事が良平にも判った。
すっかりほとぼりが冷めて緊張感が取れた雨のある日、良平はその拳銃で撃ってみたく成って来て大海原に出て誰も居ない事を確認して、操舵室の中から海に向かってバンと発射した。
一発二発三発続けさまに打った。
そしてその海にあの妻ゆかりを刺し殺した犯人を想像しながら、更に四発五発六発とバンバンバンと撃ち続けた。
心の中が洗われた様に成り快感であった。同じくして憎い気持ちや怒りすらも込みあげて来ていた。
そしてまだ見ぬ犯人の命を、その銃弾でとどめを刺す事を想像していた。
我に返って慌ててその拳銃を今まで隠してあった場所に戻し大きく溜息を付いていた。
気を取り戻し釣りの仕掛けの段取りを始めた時、何処からか何時の間にか一艘の船が近づいて来て側で泊まった。
平の知り合いでまだ若手の漁師矢作徹であった。
「良ちゃん。あんた知らんかなぁ。この前の座礁事故でなんか大事な物をコンテナーが壊れて失くしたらしいよ。俺捜してほしいって言われているんや。頼まれているんだけど知らんかなぁ?」
「わからんね。誰に頼まれたのです?」
「いやぁそれは言えないけど。串本の人には間違いないけど」
「それじゃあ僕も知っている人?」
「あぁ知っているよ。多分」
「多分?それじゃあ市場の誰か?」
「そうじゃない。」
「では近所のおばさんとか?」
「まさか。良ちゃんだから言ってあげるよ。スナックのマスターだよ」
「マスター?」
「ああ、でも内緒だよ。他の人には言わないでくれる」
「あぁわかった。でもなんでスナックのマスターが?他の漁師が言っているとか海保とか警察が言っているとかなら解かるけど、何でマスターなの?」
「あのマスターは元々は向こうさんの人だからじゃないの」
「向こうさんの人って?」
「だから裏社会」
「そうなの?。」
「あぁそんな人結構居てるからね。何処の街にも」
「そうなの。でもこんな小さな町だから知らないより知っているほど良いからね、そんな事は」
「うん。でも俺らには関係ない話だけど、普通に暮らしていれば問題なんか無いからね。」
「ええ。」
「だから良ちゃんが何かを知っていたなら教えてほしいんだ。」
「あぁ、でも何も知らないから、何を失くしたのだろうね。余程大切な物とかなのかな?」
「あぁ、俺も分からないけど何か三十センチほどの段ボール箱って言っていたよ。中身はマスターも知らないって」
「それってやばいものじゃないの?麻薬とか?」
「いやぁ、知らない。そんなやばいものだったら海保が動くんじゃないの、警察も。だからそんな物じゃないと思っているんだ。もしその様な物なら俺関わりたくないから」
「それもそうだね。あの難破船から海に流れ出した事は確かなんだね?」
「そう言っていた。コンテナーが岩に打つかって壊れた事もニュースで遣っていたから間違いないと思う。」
「もしそれが違法な物なら、大きな事件だね。例えば覚せい剤二十キロとかだと末端価格にして何億円とかとなると」
「そうだね。でもまさかと思うよ。良ちゃん何かを見つけたら又誰かが見つけたと言っていたなら教えて」
「あぁ解かった。すぐに徹さんに言うから。」
良平は矢作徹の船を見送りながら心の中で妙な汗が流れている事を感じていた。
魔の手が直ぐそこまで来ているように思え、改めて拳銃を今後どの様に扱うか思案していた。
それはある意味ショックでもあった。
矢作がおかしな事を言って来たので、あの船を家探しされてから、何か訳の分からない不穏な力がこの串本の地に蔓延っていて、その何かに支配されているような気がして来た。既に何もかもが一段落して片付いていると思っていた筈が、未だにくすぶり続けている事がショックであった。
あの拳銃を拾い等しなかったら、そしてそれを警察か海保に届けていれば、何ら気を使う事など無かったものを、少々後悔の念が良平の心に興って来ていた。
しかし良平は常に心に中で、何時か必ず昔で言う仇討ちを考えていた事は確かで、妻ゆかりの事を思い出す度にその事を誓っていた。
拳銃を見た時その心は間違いなく確固と成った事がより鮮明に判る事と成った。
それでもあの箱を拾い上げた時に確かに誰かに見られていたから、あの様にその夜船を家捜しされたわけで、今でも誰かが、それは組織かも知れないが、良平に関心を寄せている事だけは確かな様である。
それから更に一ヶ月が過ぎた頃良平は何時もの様にトイレ掃除に励んでいたが、その時入って来た男二人が警戒する事も無く大きな声で用足しをしながら話し始めた。
良平は女子トイレの拭き掃除をしていたので男子トイレからその声が聞こえて来た。
「俺たち何時までこんな田舎にいるのか参ったね。」
「でも兄貴が言っているから逆らえないしなぁ」
「情けねえよ。マスターしっかりして貰いたいね。」
「全く。後二箱かー参ったね。箱が壊れて海の底に沈んで仕舞ったのじゃないの?」
「なら俺たちでは無理だぜ」
「そうだね」
「早く見つけて名古屋へ帰りたいね。」
「まったく」
「駅裏へ行ってすきっとしたいな」
❸
良平は男二人が話している声を耳を立てて聞き込んでいた。後二箱それは正しく良平が拾い上げた拳銃の事である事は直ぐに判った。
詰まり拳銃は三丁だけでなく、可成の数字の拳銃を密輸していたのだと言う事も判った。
それは言い換えれば可成の組織の者が絡んでいると言う事でもあり、とんでもない事に関わっている事も考えられた。
この際拳銃を恐れて警察や海保に持って行く事も考えたが、良平の行動を四六時中監視している者が居るなら、それはタレこみに等しくある種の裏切り行為になり、必ず報復されるのではないかと良平は感じていた。
彼らは良平を疑いながらも確実に持っているとは思っていないようである。
間違ってもあの拳銃はあのまま隠しておくべきであると思えていた。
トイレから出て行った二人の男を窓越しにそっと見ながら良平は、抜き差しならぬ所に自分が立たされている事を感じずには居られなかった。
その男たちは二十代後半で如何にもチンピラ風で、使い走りが毎日の仕事のような風情であった。
あの時トイレで彼らと出来わしていたならと良平が考えた時、何か恐ろしいものさえ感じて来ていた。まさか何も知らずにこのトイレに来たとしたなら、良平の一部始終を把握している訳でもなさそうである。
もし毎日良平が公衆トイレの掃除をしている事を知っていたのなら、ここへは来ない筈であると思えた。
息詰まる思いにさらされ早く彼らがこの街から出て行ってくれる事を姿が消えるまで見送っていた。
彼らの存在は四六時中気を使わなければ成らない事を意識しなければ無からなかったから、あの漂流物を拾い上げてからどれだけ窮屈な日を過ごしているかと言う事であった。
ところが噂で多くの船が荒されている事が良平の耳にも入って来て、それは良平が狙われているのではなく串本の漁師が狙われている事が判った根である。
詰まり全ての漁師が拾い上げていないかと疑って掛かっているようであった。
拳銃三丁でこれほどまでに時間を掛けて家捜しするのかと、良平はそのしつこさに彼らが普通の穏やかな組織で無い事を感じていた。
スナックのマスター円城寺保が、その組織に昔居た事もその後はっきり知る事になったが、このように事が展開すると言う事は、この街が可成汚染されているのかも知れないと思わされる事であった。
それでも結局拳銃は見つかる事が無く串本は静かに成って行った。
三丁の拳銃は良平の船の中で死んだように眠っていて、その一連の騒動の立役者である事など、まるでお構い無しに静かに操舵室の裏に隠されていた。
すっかり周りは秋景色に成って、あのトイレで見かけたチンピラ風の男を見る事も無くなり、平穏な日々が続く様に成って来ていた良平は何時もの様に漁に出た。
彼は商売ではなかったので、その獲った魚はご近所に配るだけであった。
時たまお金をくれる人が居て、それも快く受け取ってはいたが、さりとて予約を受ける程の力も無く、あくまで素人の趣味の域から抜け出す事は無かった。
気が付けば何時もの生活を取り戻していて、何も気を使っていない毎日に成っていた事も確かで、今までと何ら変わらない笑顔も取り戻しているように思えていた。
年の瀬が押し迫り一年が終わろうとしていた年末によく在る話であったが、引ったくりなどが毎年横行する季節になった。
ある人はボーナスを手に浮かれ、ある人はクリスマスに興奮し、ある人は侘しさを肌身で感じ、そのような人が世の中を斜めに見る癖が付いて身勝手な犯行に及ぶ者も居る。
それがひったくりであり、恐喝であり、強盗や殺人にまで発展して行く様である。
そんなご時世の昨今、名古屋でコンビ二強盗が立て続けに起こり連日ニュースに成った。そして恐喝だけではなく拳銃強盗であり、店員を脅しながらレジからお金を取ると言う凶悪な犯罪であった。
そしてとうとう拳銃で撃たれる店員が出て犯人も怪我をして取っ組み合いになり、店員の一人が柔道をしていて拳銃を振り落し、取り上げたわけであるが、犯人が残して行った拳銃が、良平が海で拾った拳銃と同じトカレフ三十八口径であった。
良平は新聞を読みながら、船に隠してある拳銃が強盗に使われた物と同じ物である事を知り気持ちが悪くさえ成ってきた。
強盗に襲われた店員は死んではいなかったが、太股を貫通するほどの銃弾を受け重症であると警察が発表した事を知る事に成った。
良平が船に隠している拳銃は、新聞に書かれているように強盗にも殺人にも使える事を改めて思わされたのであった。
何も無かったなら、良平に何も拘るものが無かったら、何の躊躇も無く拳銃を警察に差し渡すものを、拳銃を手に入れてから良平は間違いなく、その銃で犯人を撃ち殺す事を考えている事だけは確かであった。
強盗に入った男の写真がモニターに映し出され、その男の姿を決してはっきりではなかったがニュースで見る事に成った。
背丈が百七十ほどで痩せ型色黒で頬にホクロ、 妻ゆかりを殺した男と似ているが、顔に在るのは痣ではなくホクロであり、背丈も百七十五ではなく百七十である。よく考えてみれば妻を殺した男と全く違うのであるが、この類のニュースを耳にする度に、良平はいつも神経を尖らせて見入ってしまう癖が付いている。 勿論街中を歩いていても思う事は同じであった。
あれから十三年近くが過ぎたが褪せる事無く事件が在る度に昨日の事の様に思い出す。
あれから何度同じような事件が発生したか、ストーカー、愉快犯や精神異常者の意味の解けない犯罪、同じような事が幾度数えたか、その度に気を病んでいた。
細い体で百七十五センチ、右の目の下に痣があり、そのようなモンタージュの男が、テレビモニターに映り出されたその姿が頭に焼き付いている。
後姿で気に成った時はこちらを振り返るまで見続けて滅入ってしまうほど神経を尖らせている。もしも振り返った時モニターに映っていた男なら、どのように感じるのだろうと思う程切羽詰ったものが良平にはあった。
妻ゆかりの死を受けとめる事が出来ず、何時までも吹っ切れないままで苦しみ抜いて来た十二年の歳月は重く、良平にとっては昨日の事のように思っていた。
それは言い換えれば良平にとって妻ゆかりの死は、何時の日が来ても過去の出来事として次第に風化して行く事などありえないと思っていた。
あの痛ましい事件は犯人が捕まらない限り昨日の事であると思い、そして今日は犯人を捕まえる日なのであると思い、毎日そのように思い続け良平は生きてきた。
警察は十二年余りの間に犯人を捕まえる事が出来なかったようであるが、良平は必ず自分で捕まえて見せると意気込んでいるだけでなく、信念さえ持ち合わせているのである。
その信念は日を重ねるに連れ次第に増して行っている様に思えている。
月命日にお寺さんにお参りをして妻に誓っている事も、彼の心の中でいつか復讐をして見せる事を誓っている事が信念をより強固にしているようである。
笹本良平は時たま大阪東成警察署へ赴く。そして担当の刑事東山清二と口を聞く。
「お久し振りです。その後何か新展開になる話が御座いませんか?」
「残念ながら今の所はありませんね。何か別件でも起こせばと思いますが、特徴がある面をしているのですから・・・」
「それも無いですか?」
「無いようですね。精神異常者なら病院のカルテとかで通院記録などで足が付く時もあるのですが・・・」
「まるで無いのですね。」
「ええ今の所。」
「先日名古屋で強盗があり、妻を殺した男と容姿が似ていてヒヤッとしましたが別人でした。」
「そんな事がありましたか、笹本さんが言われるように人でも殺す男です。必ず又何かを遣る筈です。
窃盗とか万引きとか軽い犯罪で捕まえて別件で、それで吐かせばと思いますが、今の所は全く網に掛からないようです。
貴方の奥さんの場合は大変残虐で大きな事件ですから、何かを起した者は、先ず貴方の奥さんの事件に拘わりがないかを第一に考えていますので、常に関連がないか調べる様にしています。それでも今の所該当者が居ないのが現状です。申し訳ありません。」
「いえ、刑事さんが長年関わって来て居られる事が大変嬉しく思います。これでもし犯人が見つかれば気もすっとされると思いますが、何時までも見つける事が出来ないのは疲れる話だと思います。」
「でも必ず捕まえて見せますから信じて下さい。」
「ええ、宜しくお願い致します。」
良平が東成警察暑を後にして今里ロータリーの現場へ行った時、真新しい花束が供えられていた事にこの日も驚かされた。
既に十二年が経っているその現場に、花束を備えてくれる人がいる事が驚きであった。
妻の実家は四国の土佐で実家から誰かが来て等とは考えられなかった。
そして笹本良平も生まれは大阪ではなく幼い頃は岡山県で育った男であり、大阪には親戚など全く居ない筈であった。
だから妻の殺された現場に今でも花が供えられている事が考えられない訳で理解に苦しむ事と成った。
それは刑事さんが未だ逮捕に至らない事を悔いて花を供えてくれているのだと思うようにしていた。
しかし警察へ行ってその事を口にする事は担当の方の面目を潰すようにも思えて黙っていた。
あれから十二年。いや十三年弱、真っ赤に血で染まったコンクリートが何もかもを物語っていた。事件現場へ良平が一目散に走って行った時には妻は既に息耐えていた。
真っ赤に染まった真新しいポロシャツが惨劇を表していた。
残酷であった。無念であった。
「今度の休みは釣りだね」
「ええ、楽しみにしています。パパ、でもその前に私釣り道具屋さんへ行きたいのだけど」
「あぁ行ってあげる。今日でも良いよ、早く帰って来るからその積りで」
「はい、有り難う。待っています。」
これが二人が交わした最後の言葉であった。
目を輝かせて楽しそうに言った妻ゆかりの最後の言葉を昨日の事の様に思い出し、良平は供えられたその花束を見つめながら目頭が熱く成って来るのが分かった。
時たま【時効】になる事件が在る。どれだけ悔しくてもどれだけ怒りを湧きたてても時効は時効である。 何も出来ないのである。東成警察暑でピリッとしたものを何も感じない事が、既に何回か繰り返している良平にとって、この儘時効に成りはしないかと思えて来ていた。
そして未解決のままこの事件が終息するのではないかと皮肉にも警察を訪ねる度に思えて来ていた。
そして現実に打ち負けて良平は人生で一番の汚点と感じながら、彼自身も何時かこの事件を忘れて行くのではないかと思う様に成りはしないかと懸念された。
其れほど迄にこの事件が難儀な事件であると思われた。
妻の殺された現場に、花を何時も添えてくれるのは誰なのかと思ったが、全く警察以外に見当が付かなくって、心の中に暖かいものを感じながら良平は現場を後にした。
それでもその花を誰が供えてくれて居るのかいよいよ気に成って、十二年前にゆかりと暮らした数年間の事を思い出していた。
❹
もし誰かが花を供えてくれるとしたら、多分妻が生前に仲が良かった友達とか、会社で付き合っていた人であるとか等想像出来た。妻が殺された時警察は遠慮も無く妻の交友関係をしつこく聞いた事があった。
男関係が無かったのかとか、妻も良平も共に浮気などしていなかったかとか、事細かに問い詰める様に聞き晒された事を十二分に覚えている良平は、思い出すだけで気が腐る思いであった。
しかし妻が殺されそれが暴漢と成っているが、果たして暴漢で何も妻の知らない男であったのかなど良平には判らない。
良平と結婚するまで妻ゆかりがどのような生き方をしていたのか等判らない。
良平が思う妻ゆかりと、他の人が思うゆかりとはまったく別な感じに捕らえているかも知れない。
警察はしつこくその事を口にした。二人とも若かったので警察には軽く見られた様であった。
良平は心をかき乱された様に成って、それから二年間の間に痩せ衰え心身ともにくたびれてしまった。
仕事も辞め、和歌山県串本町に住所を移すまでに心の乱れた二年が過ぎていて、それでも更に串本に来てからでも五年の歳月が、妻ゆかりの忘却が付いて回っていた生活であった。
現場から帰り際にもう一度警察へ寄る事にした良平は、真新しい花が供えられていた事を刑事の東山清三に伝えて、
「どなたがお花を供えてくれているのかご存じないでしょうか?」と聞いていた。 東山は思案した跡で、それは山田瑠璃かも知れないと口にした。
その理由として、山田瑠璃がゆかりが殺された日に彼女と出会う約束をしていたようで、それが山田瑠璃の一方的な事情で行けなく成って、それとは知らずに出かけて行ったゆかりが暴漢に襲われ殺されたのだと、それでその事が心に突き刺さる様に痛く思い今でも花を供えさせて貰っていると聞いた事があると。でもそれは既に三年も前の話だから、果たして今もその様にお花を供えているのかは疑問であると、一度聞いてみればと刑事に言われた良平は早速山田瑠璃の消息を聞く事にした。
東山刑事は山田瑠璃の三年前の住所を直ぐに教えてくれた。
時間があったので早速訪ねる事にした良平は、大阪市天王寺区の東山に言われた住所に足を運んでいた。
古いアパートであったが中々上品な造りのアパートが建っていて、今もその一室で山田瑠璃が住んでいた。「ご免ください。私笹本良平と申します。笹本ゆかりの夫の笹本良平と申します。」
「はい。」
僅かであったがドアが開き、山田瑠璃と思われる人物が警戒するように隙間から良平を見つめた。 「笹本です。お邪魔しても良いでしょうか?」
「はい。」
「実は今日ゆかりが亡くなった現場へ行って来ました所、立派なお花を添えて頂いていて、それが何方が供えて頂いたのか判らなかったので東成警察署の方にお聞きしました所、考えられるのは貴女ではないかと言われまして、違っているかも判りませんでしたが、とりあえずお伺い致しました次第です。
刑事が言うには、『奥さんが亡くなられた時に、事のほか誰よりも心を痛められていた人が貴女であると思う』と言って居られましたから、但し何年も前の話でありますがとも・・・」
「そうでしたか。確かに私がお花を供えさせて頂きました。気が向けばさせて貰っています。」
しかしそんな誰もが忘れてしまいそうなのに大変嬉しいです。
「いえ、私は当然だと思っています。あの日ゆかりに電話をしなかったなら、ゆかりは死ぬ事など無かったかも知れません。私が余計な事をしたが為に、まぁ玄関では何ですからお上がり下さい。」
「はい、有り難う御座います。」
「ところで今日は警察が何かいい話でも?」
「いいえ、警察は未だ進展していないようです。このまま彼女は殺され損で終わる様な雰囲気に成って来ました。今でも警察がゆかりの犯人を必死で捜してくれているとは思われません。」
「そうでしょね。実際毎日今でも捜していたならそれは大変な事でしょうね。」
「ええ、だから別件で誰かが逮捕され、その中に犯人が居ないかと聞く位の事だと思います。それでたまたま犯行を自供すれば警察は大手柄と言う具合と思います。
ところで今日現場でお花が供えて頂いたのをじっと見ていると正直不思議にさえ思えて来ました。あれから既に十二年が経っているのですから、余程この花には意味があるのではないかと思えました。
そして花を供えて頂いたのが山田瑠璃さんだと判り、あの日ゆかりが最後に電話で話をしたのも通信記録で貴女であった事が判りました。
私は貴女とゆかりが幼馴染である事は知っています。今更この様な事を言うのも失礼な事かも知れませんが、あの日何が起こったのかもっと知りたいです。貴女とゆかりがどの様な事を話し合ったとか・・・」
「ゆかりと私は色んな事を話し合う仲でした。それは私が当時付き合っていた人がいて、その事を知ったゆかりは反対していました。
実際その男は今で言う遊び人だったかも知れません。ゆかりはその様に捕らえていたようです。だから毛嫌いするような言い方をしていた事を覚えています。
結果的にはゆかりの言う事が合っていて、その男は私に借金を残して出て行きました。
ゆかりは人を見る目があったのか私が甘かったのか、とにかく嫌っていました。
そして何度も別れる様に言われました。あの日もあまりにもゆかりがその様な言い方をするので、他の話もありましたが二人は会う事に成ったのです。
私から会ってくれないかと言いますと『私の家の近所なら構わないから』と成って、夕方から今里のロータリー付近の喫茶店で会う事を決めたのです。
しかし私が急に体調を壊して気を揉んでいましたが、結局行けなく成って約束の時間に成ってもまだマンションで居たのです」
「ゆかりは?」
「ええ、多分ロータリーの喫茶店で私を待ってくれていたと思います。電話が掛かるまで。そしてその帰り道に暴漢に襲われたのだと思います。
私がゆかりに余計な事を言わなかったならこんな事には成らなかったと思うと辛いです。」
「今話された事は警察にも言っているのでしょうね。」
「ええ、通信記録が在りましたので警察が来て、ですから翌日警察に言った様に思います。
でも結果的には事件に関係ない話と言われました。
その付き合っていた人の事を警察が疑ったと思いますが、翌日犯人は百七十五センチから百八十センチほどの痩せた男と言う事で、私が付き合っていたその男は、百六十五センチほどだからまるで別人で、だから警察は何一つ追及しなかったのだと思います。」
「なるほどね・・・そうでしたね・・・あの時複数の人が同じ事を証言していたようでしたね。犯人について」
「ええ、大柄な不審者とニュースでも言っていました」
「失礼な事を言うかも知れませんが、それでゆかりが死んでしまい貴女はその男の人とその後どの様に成ったのですか?
ゆかりが猛烈に反対していたと思うと何か気になります。
何故かと申しますと、私がゆかりを好きに成った一番の理由は、彼女が人の事でも自分の事のように考える優しさを持ち合わせた女だからです。
誰かが困っていれば我が事のように考えて、必死に成って解決をしようとする優しさを持ち合わせた女である事が何より好きだったからです。
それは多分貴女も思って居られる筈で末代まで同じ気持ちの女でした。
だから何故そんな女が殺されなければ成らないのか今でも考えられないのです。
もしあの時、警察に言っていない事があればお聞きしたいです。
何でも構いません。ゆかりの気持ちに成って、彼女が何を思い何に拘り殺される事になったか知りたいです。このまま警察に任せておいても、『判りません、見つかりません、諦めて下さい』と成る様な気がします。
❻
今日も東成署へ行って来ましたが、これで担当が何人変わったか知れません。その内迷惑な顔をして対応されるような気がします。
もし知っている何かがありましたら教えて下さい。貴女がこのようにして今でもお花を供えて頂いている事は、それなりに深い何かがあるように思えます。」
「深いものと言われましても判りませんが、確かにあの時男の人の事で言い合っていた事は確かです。だからと言ってそれで何かなど考えられません。第一犯人が大柄だったから全く見当が付かない訳で、ゆかりは私が付き合っていた人を嫌っていましたが、それは事件には全く関係無い事だったと思っていました。」
「あの時犯人が大柄で痩せていて、目の下に痣のようなものがあってと具体的に言われましたが、それって間違いなかったのかと今では思います。
警察がそのように発表したのでその様に思い込んでいますが、このように犯人が捕まらないのはその所にも間違いや初動のミスが無かったのかと思います。
全く別な人が犯人で仮に女だとしたら絶対捕まる事等ありえないと成るのです。
勿論警察はそのような事は百も承知で捜査されて来たと思いますが」
「ええ、警察は私が付き合っていた人を調べたかも知れませんが、でも決してしぶとくは無かったと思います。もし、しぶとくあの男を追い詰めれば、所詮いい加減な男でしたので、私に何かを言ってくる筈で私も攻められていたと思います。
だから警察はあの時、あの男の事は蚊帳の外だったのじゃないでしょうか。何しろ背格好が全く違い過ぎましたから」
「それでその男とはどのように成ったのですか?」
「どのように?」
「ええ、ゆかりが殺された時に何かをゆかりの事で話したとか、何か変化があったとか在りませんでしたか?」
「ありました。それから男が私のその時住んでいたマンションに入り込んで来て同姓する事に成りました。私もあの時はその男の事が決して嫌いではなかったので拒みもしませんでした。」
「でも結果的にその男と別れたのですね?」
「ええ、ゆかりの言う通りつまらない男でした。裏社会の人とも可成親しくしていたような気がします。色んな事が判って来て、それにゆかりの事で警察も何度か来ていましたのでそれを嫌って出て行きました。
それで私も心機一転を考えてこのアパートに引っ越す事を考えたのです。あれは七年か八年前に。ここへも警察の方が来られた事が一度ありました。
付き合っていた男が胡散臭かったのか、それとも警察に何かがあったのか、とにかく何度か来ました。私も何かを疑われていたのかも知れません。何しろ犯人がまだ逮捕されていないのですからね。」
「それでその男は、今は?」
「全く判りません。既に出て行ってから十年程経ちますから」
「もう一度お聞き致しますが、ゆかりが暴漢に襲われて亡くなった日は、貴女が独りで前のマンションに居られましたか?」
「ええ寝込んでいました。お腹が急に痛く成って。その後男が訪ねて来てあの夜は男も泊まっていました。」
「あのゆかりが殺された六時頃にですね」
「ええ、」
「出来ればその男の人の事をもっと知りたいのですが、ゆかりが何故その人を毛嫌いしたのか知りたいのです。
ゆかりが何故殺されなければならなかったのかどうしても合点がいかないのです。。仮に犯人と思われている男が、変質者とか精神異常者なら案外早く捕まると思います。
あの近くでいつもうろうろしている事も考えられるからです。
変質者や精神異常者には罪の意識がおそらく無いと思われます。だから又同じ事を繰り返すかボロを出すか、案外簡単に捕まる事が予想される訳です。
しかしゆかりを殺した犯人は決してそのような者ではなく、咄嗟的に事に及んだとしても、それから今まで十二年間余り逃げているのですから結構狡賢く生きている様に思われます。
犯人の背格好を警察が最初ニュースで発表した人物と全く違っていたのなら、簡単には犯人は捕まらないと思われます。
背格好に拘るあまり寧ろ犯人を避けて捜しているのかも知れません。
だから無駄な事かも知れませんが、貴女がその当時付き合っていた男がゆかりと相当仲が悪かったのなら、ゆかりが殺される動機がその人に在る事になる訳です。
勿論その男にはアリバイがあったと成るのですが、その男に友達が居て胡散臭く思っていたゆかりを友達に犯行を依頼したのなら問題なく遂行される訳です。
最近よく聞く代理殺人のようなものです。
だから警察が何かを見逃しているかも知れませんので参考までに教えて頂けないでしょうか?
もしその男の写真でも残っていれば有難いです。何でも良いですから、」
「解かりました。名前は判ります。」
「お願いします。」
「はい。」
山田瑠璃は紙とペンを取り出し男の名前を書き始めた。可成の間付き合っていた事を証明するようにその名を素早く書いた。
既に十年の歳月が流れているとは思わない素振りであった。
良平はそんな山田瑠璃の仕草を見つめながら、この女は身も心も今活字にしている男の虜に成った時期があり、今でもその頃を惜しんでいるようにも思えて来た。
ゆかりが殺された日は、この山田瑠璃と会う約束をしていたのが、山田瑠璃の突然のキャンセルでゆかりは待ちぼうけをくらって、その帰りに暴漢に襲われたと成っている。
そして山田瑠璃は警察に、その日は自宅で腹痛に成り寝ていてそこへ男が六時過ぎに遣って来てその夜は二人で眠ったと言った。
おそらく警察にも同じ事をその時は言ったと思われる。
山田瑠璃が良平に紙を差し出した。
江上聡と書かれていた。
住所は判らないが大阪の大正区で住んでいると男が言っていたと、山田瑠璃は男の部屋へ夜に連れて行って貰った事があったが、暗かったのではっきりは覚えていないと言う事であった。
只覚えているのは、ガードを潜った事でそれに大正駅と書かれていて、その下を潜って背の高いマンションに着いてそのマンションの何処かであったと口にした。
それは大正区の千島団地の事である事が直ぐに判った。
「あぁそれって千島団地です。海の側の」
「えぇ風が気持ち良いでした。」
「エガミサトシって言うのですね。貴女が同姓をした人は」
「えぇ、そうです。」
「この人って、どのような仕事をされていたのですか?」
「はっきり判りませんが、可成お付き合いしてから知った事は、なんか差し押さえされた物件の乗っ取りとか言っていました。
その所へ入り込んで何とかするとか、何を言っているのか私には判りませんでしたが、でもあまり褒められた仕事では無かったと思います。それで盗聴器を仕掛けるとか変な事を言っていたのを聞きました。
私のマンションから仲間の様な人に何度も電話をしていましたから、だから聞こえない振りして私は知らぬ顔でいました。」
「詰まり普通の人じゃなかった訳ですね。真面目に働いて頑張ってなどまるで関係無い人だったのですね。」
「かも知れません。でも初めはその様な人ではなかったと思います。一緒に暮らしだしてから何やかやらと目に付いて来て」
「でもゆかりはその様な人である事を見抜いていたのですね。」
「えぇ多分、だから口をすっぱくして私に言っていました。別れなさいって。」
「でも貴女は決して、今でもあれから十年も過ぎた今でも江上聡さんの事が嫌いではない」
「そうかも知れません。」
「有り難う御座いました。突然お邪魔して根掘り葉掘り聞かせて頂きまして、申し訳御座いません。でも後何年かでゆかり殺しの犯人は時効に成るのです。
私に何か出来るものがあるのならゆかりの為にしてあげたいです。貴女が今でもお花を供えて頂いている事に甘んじるわけではありませんがご協力頂ければ有難いです。
どうか今後とも宜しくお願いしておきます。」
「えぇ解かっております。」
「では失礼致します。」
良平はこれ以上聞き捜せば山田瑠璃が気を悪くして、今後に影響してはいけないと感じて来て急遽質問する事を止めるようにした。
気が付けば既に夕方に成っていて、天王寺から特急黒潮で一路串本に向かっていた。快適である。
列車の中で頭の中を整理しながら変わり行く景色を眺めていた。夕陽がドラマの様に良平の全身を赤く染めていた。
山田瑠璃に何かを求める事は無理な話かも知れないが、警察の生ぬるい態度に少々苛立っていた良平は些か焦って来ていた。何度警察に足を運んでも、結果が一向に見えて来ない事で無性に悔しかった。
さりとて自分が警察官であっても何ら犯人に繋がるものなど考えられない訳で、結局諦める事を覚悟するような時間の流れにも思えた。
「犯人逮捕に至らず断腸の思いで今日を迎えてしまいました。」と時効に成った翌日の朝、悲しげでやる瀬無い表情で、警察署長が朝礼で口にする様な気がしてならなかった。
電車の中で山田瑠璃が口にした事を思い出していた。
そして今の彼女の心境を。
山田瑠璃はあの事件当日何かを相談する為にゆかりに電話をして落ち合う事を決めた。
それは彼女から言い出した話で結果ゆかりが殺される事に成ったので、その時に抱いた申し訳なかったと言う気持ちが未だに尾を引いていて、それが証拠に花束をゆかりの死んでいた現場に供えている。
生前ゆかりは、山田瑠璃が付き合っていた男江上聡の事を極端に嫌っていたが、山田瑠璃は決してそうではなく寧ろ好きであった。
それが証拠に彼女は江上聡とゆかりが亡くなった後同棲をしている。
その江上聡は決して良いとは言えない仕事をしていたようである。
差し押さえした家を乗っ取ったり、又盗聴器を仕掛けたり、あまり褒められた事ではない事をしていたようである。山田瑠璃はその事を知ったが見て見ぬ振りをして、何も咎める事など決して無かったようである。
それが証拠に今でもその男の事を決して悪くなど思っていないようだ。
あの事件があった時に事件現場に来たゆかりは、約束の時間にもやって来ない山田瑠璃から電話が掛かって着て、腹痛で行けないと言われ仕方なく喫茶店を後にした。
そして真っ暗に成った歩道で暴漢に襲われ命を落とす事に成った。
百七十五センチとも百八十センチも背丈の在る男を目撃したのは、その喫茶店の客で木村茂吾と言うサラリーマンと、近くの電気店前で男を見かけたと言う主婦小枝好美の証言が犯人像を確固なものにした。
その男の事を共通して口にした理由として、胡散臭い風体で、如何にも犯人らしい格好に見えた事が何より優先された様である。
山田瑠璃は他にも色々口にした。
事件のあった日は夕方に江上聡が来て、二人で朝まで過ごしたとも言った。
それは完全なアリバイに繋がった訳で、警察が不審に思う事無く見逃された訳である。それと言うのは二人の証言がきっかけに成っていた。
江上聡の仕事の話も胡散臭いものがあった。
差し押さえた物件を乗っ取るようにして誰も寄せ付けないようにすれば結構儲かる事になるのである。
良平はその様な事がバブルの時代によく起っていた事も聞いていたので、至って珍しくは無かったが怖い仕事である事は知っていた。
盗聴器を仕掛ける事も当然考えられ、悪い奴らがする事には止め処が無いように思えていた。そしてふと思った事があった。山田瑠璃が口にした言葉で盗聴器を仕掛けると言った事が気になった。
江上聡とはどのような人物であるのか、そして何故ゆかりがその男を毛嫌いしていたのか、頭の中が割れるような思いに成りながらその事を串本に着くまで汲汲と考えていた。
そしてもし江上聡が山田瑠璃の家に、それを仕掛ければどの様に成るかを考えてみた。
詰まり山田瑠璃とゆかりがする会話を江上聡が全て把握していたならどの様に思うかであった。
二人で特にゆかりが江上聡の事をぼろかすに言っていたなら、それは間違いなく怒りが込み上げてくる事は確かで、それもしぶとく続けば相当嫌な気分に成った事が理解できる。
例え自分が悪くても、いざ他人に指摘され、それも直ぐに別れる事を言われると腹が立つ事は間違いないと思われる。
しかしそのマンションはすでに引き払って今は別の所に住んでいる。そして今の所へ変わったのは、既に江上聡と同棲を解消してからの事だから盗聴や監視する必要も無いのである。
しかし十年ほど前に、今創造している事が現実に起こっていたのなら、ゆかりが殺される事に成ったのかも知れない。
江上聡と言う男が真面目で、大手の企業にでも勤めているのなら決して考えないが、寧ろその反対でまるでやくざか愚連隊、若しくは遊び人のような生き方をしていたのなら十分考えられる事である。
山田瑠璃が気を悪くするかも知れないが、江上聡が誰かを使ってゆかりに嫌がらせをする積りで近づいて、結果的に殺してしまったかも知れないと考えた時成り立つ話である。
❽
良平は是が非でもその江上聡を見つけたく成って来た。
それには拳銃が必要かも知れないが、それでも良いから江上聡に会いたく成って来た。
串本に着いた時はすっかり遅く成っていたが、良平がその時始めて今までに無い感情を抱いていた。
この十二年間の間持ち続けていた感情は、決して明るい事も未来も無いもので、寧ろネガテブなものであった。
何とか気を入れ替える為に買った小船も、妻ゆかりとの思い出を思い出し心を癒す道具であった。
何時も悲しみに撃ち砕かれたような生き方をしていたから、燃えるものも殺気立つものも何一つ無かった年月であった。第一この串本に住居を移したのは一口に言えば現実からの逃避であった。
生きる事自体が辛かったから、何もかもから逃げていた生き方を選んでいた。
ところが今日妻ゆかりが殺されていた現場に行き、山田瑠璃によって新しい何かを摑み初めた気がして体の何処かから漲ってくる何かを感じ始めていた。
それは決して逃げようとする弱弱しいものでは無く、立ち向かおうとする闘志の様なものである事に気が付いた。
それは言うまでもなく拳銃を手にしたからで良平の心の内に確固たる鬼のような気持ちが育ち始めたからであった。
山田瑠璃に江上聡の写真を一枚貰う事が出来て、その写真を机の上に置きじっと見つめながらあの妻ゆかりが殺された現場の様子を思い出していた。
真っ赤な鮮血が五十センチにも広がり、真っ白になった妻の顔がライトに照らされて浮かび上がった時、何もかもが終わっていた。
それは人の顔では無かった。周りが血で真っ赤に染められていてまるで妖艶に包まれた雪女の顔に見えた。
苦しんで更に苦しんで、そして息絶えた恨みの顔であった。
ガタガタと震えながら救急車が来るのを待った良平には、掛ける言葉も思い付かない状態であった。
死んでいたから・・・
それでも救急隊員は必死で介抱したが、それは既に無駄だと判っていた。胸の骨が折れる程人工呼吸を繰り返しながら病院へ救急車は走ったが既に終わっていた。「お気の毒です。」と言う声も心なしか力が無かった。
判っていた。良平には。
❾
あれから十二年
【犯人は決していい加減な者ではない、精神異常でも変質者でもない。きちんと物事を考える事の出来る者である】
良平は十二年もの間逮捕に至らなかった現実に物申していた。東成警察署にもそのような言い方をして食い下がった事もある。
しかし何一つ解ける事が出来ない警察に痺れを切らす始末であった。この十年間良平は、串本の海を眺めながら、その心は今里のロータリーの現場を浮かべていた。
しかし今眼が覚めた。
そして翌週再び山田瑠璃を訪ねていた。
「山田さん今週も来させて頂きました。それで変な事言いますが貴女も私と一緒で一人暮らしなのですか?」
「そうですよ。又良い人が居ればお願いしておきます。」 「私は当初、結婚って素晴らしいものだと思いました。何事も無く上手く行っていれば最高の人生だったかも知れませんが、私の様な事に成ったならこんなにも辛いものだから、果たして結婚が良いのか今は分かりません。」
「そうかも知れませんね。私も今も、多分これからも独りで暮らす様に考えていますから、結婚は嫌なのかも知れません。ゆかりの事もひと時も忘れた事が無い事も確かです」
「でもゆかりの事が原因で結婚を諦めたなんて困ります。気にせず良い人が居れば結婚して下さいね。誰も止める権利など有りませんから」
「そうですね。私ゆかりを餌にして結婚出来ない事を理由にして狡い女ですね。」
「いえ私には判りません。何がベストかなど。
今日は貴女に言い辛いのですが、この前教えて頂いた江上聡さんの事で、お話しを聞きたくて来させて貰いました。それで江上聡さんが何処で住んでいるか知りたく成りまして。
この前は大正区の千島団地に入っている事を知りましたが、今でも同じ所で暮らして居られるかを知りたくて」
「それは判りません。何年もお会いしていませんから」
「多分そうだと思いましたが一応お聞きさせて頂こうと思いまして、それはこれから千島団地に行って調べさせて貰いますから、最悪あの建物は公団だから、森之宮の事務所に親戚と言う名目で照会すれば何とか成ると思います。
ただその人に会うと成った時、貴女の名前が話の途中に出て来れば貴女に迷惑に成るのでしょうか?それを聞いておかなければ成らないと思いまして。何分串本から天王寺まで本当に楽に来られますから、とても便利が良いからついこの様な単純な話でも来させて頂いた訳です。
江上聡さんに貴女がここで住んでいる事は絶対言ってはいけないですね?」
「いいえ構いませんよ。でも来ないでしょう。絶対行けないと思っている筈です。お金を貸していますし未だにお金は戻って来ない訳ですから」
「そんな理由があるのですか?それじゃぁ無理でしょうね。こちらへ来るのは」
「それで江上さんに出会って何をする気なのですか?」
「何って言われましても、でも貴女が昔行った時にどの建物であったかを思い出せないかと思いまして。何か特徴を。」
「特徴?判りませんがクリーニングの取次ぎをされている所がありました。よく見る店と同じような感じでした。その横からエレベーターに乗った事を覚えています。
他には喫茶があり朝から行った事を覚えています。」
「江上聡さんの部屋は何階だったかなど覚えていないでしょうね。」
「ええ、でも可成高かったように思います。風が凄く吹いていたから。窓から外を見た時も可成高かった事も覚えています。」
「そうですか。とにかく一度行って来ます。果たしてそれで判るかなど分かりませんが。」
その江上聡の写真を持って東成警察署に向かっていた。
刑事東山清二と面会して今までの経緯を話す事にした。そしてあのゆかりの殺された時に証言したサラリーマンと主婦の発言に全くぶれた所が無かったのか知りたかった。
「私は犯人が今も見つからないのは、犯人に対する思い込みがきついのではないかと思うのです。犯人が最初から言われた男と全く違った者ならと考えた時、例えばこの男など十分動機がある事が判ったのです。」
「これは何方ですか?」
「この人は妻が出合う約束をしていた日に、その出会う筈の相手の人と一緒に女性のマンションでいた人です。」
「笹本さんが何かを探されたのですか?」
「はい。私は自分なりに妻の為に頑張ってあげようと思っています。それでこの男が妻の友達であの日出会う積りであった山田瑠璃さんと、妻が殺された後直ぐに山田さんと同棲をしている訳です。
この男私の妻とは仲が悪く、犬猿の仲に成っていたようです。
それにとんでもない事も可能性としてあったかも知れません。それはこの男が人の家に盗聴器を仕掛ける仕事をしていた様です。
詰まり山田瑠璃さんの家にそれを着けて、妻と山田瑠璃さんがこの男の悪口を言っていたなら、この男は怒ると思われます。
何故なら妻が山田瑠璃さんに、この男と付き合う事を可成反対していた様です。山田瑠璃さんはあまり思っていなかった様ですが、妻は極端に嫌っていたらしいです。
実際この男はいい加減な生き方をしていて、まともに働く事もしないで、妻から見れば仲の良い幼馴染が騙された様に成って行く事を見ていられなかったのかも知れません。
だからその事で山田瑠璃さんにくどく忠告を繰り返していて、あの日妻が殺された日も、その事で二人が落ち合う事に成ったようです。妻は忙しかったらしく山田さんに家の近くまで来て頂いて話す積りだった様です。
しかし会ってほしいと言い出した山田瑠璃さんが、急に腹痛に成って急遽取り止める事に成った様ですが、妻は既に家を出ていて喫茶店で待っていたようです。
電話で中止を知った妻はその足で帰る事にしたが、その帰り道で真っ暗に成った所でナイフで刺されていたようです。
私が言った時は既に息がありませんでした。植木の隅に倒れていて。
この十二年間の間このようにして警察にも何度も来させて頂いていますが、犯人は見つからないようですから自分なりに捜しています。
この写真の男は背丈が百六十五センチほどで、手配の男とは全く背格好が合いませんが、果たして当時の二人の証言が絶対間違いない事なのか教えて貰えないでしょうか?」
「いえ、それは間違いがあったとは思っていません。一番有力な証人である事は確かです。
あの時間に現場を歩いていた人物ですから。もし別人ならあれほど毎日報道されていた訳ですから、誰かがあの男を見かけている筈です。あれだけの大柄ですから必ず誰かの目に入っている筈です。
しかしあれから十二年。未だあの男の消息が全く判りません。事件に関係なかったならそれでも構わないのです。別人なら又考えを変える事が出来るのです。」
「ではやはりあの男が有力な容疑者であると」
「まぁそう言う事に成りますね。でも今貴方が仰っている事は調べる必要があるかも知れませんね。」
「お願いします。是非。」
「ええ」
「私もこの男が盗聴を仕事にしていると言われて何かがあると思ったのです。それに山田瑠璃さんが言うには、あの事件当日、山田瑠璃さんもこの男も二人で彼女のマンションで朝まで過ごしていたと言っていますが、その話の裏には何かが潜んでいないかと勘ぐってしまいます。この男にゆかりは嫌われ邪魔に成っていたようですから、何かがあっても不思議ではないように思えて来ました。
この男が誰かに、若しかするとその手配に成っている背に高い男に頼んで犯行を企てたのなら、インターネットで最近あった交換殺人事件のような類のものも考えられる訳です。」
「そうですか?随分飛躍されていますね。でもとりあえずこの男を当たってみますから」
「はい。八年ほど前まで大正区の千島団地に住んでいたと山田瑠璃さんが言っています。
❿
一階に喫茶店がありクリーニングの取次店があるとも言っていました。今現在は判りませんが、森之宮の公団事務所に聞けば消息が分かると聞いています。」
「ええこちらで調べますから。」
「お願い致します。毎月お墓参りをしているだけでは埒が明かないと思いまして、串本から出て来ていますから、又何かが御座いましたら来させて貰いますのでお願いしておきます。」
「分かりました。この話はいい情報なら良いのですがねぇ。何しろ八方塞ですから困っています。」
しかしそれから二週間ほど過ぎたが東成署の刑事東川清三からは何も言って来なかった。
良平はあまりにも古い話であったので期待もしていなかったが、新しい展開に成りはしないかと些かではあったが希望は持っていた
何とか東川から連絡を貰ったのは、それから更に一ヶ月が過ぎていた。新しい年を迎えゆかりの命日も過ぎ早十三年目に入ろうとしていた。
江上聡の消息を摑んだと東川刑事が口にした。
江上聡は組関係に名を連ねて大阪を離れていた事がわかった。
場所は名古屋に移り、金融を主な仕事にしている白石組若しくは白石金融と言う名で、兄貴分と成って若い衆を数人抱えている兄貴分肌に成っていた。それゆえこれからは素人は余計な事を絶対しない事と東川刑事が口にした。
そして良平が言っていた事が、まんざらでも無いような言い方をして東川は興奮している様子を伺う事が出来た。
十二年も追い続けた犯人を検挙出来れば刑事としてどれだけ誇らしげに思えるか、外部の者には決して分からない事であるが、一枚の賞状に込められた血と汗と涙と命が込められているから、どれだけ名誉な事であるかと成る。
その様な事が今起こるかも知れないと東川は思っているのだろうか、今までとは全く違う様子を良平には感じる事が出来た。
東川は張り切っていた。おそらく良平が持ち込んだ情報が、起爆剤に成って動き出した事が伝わって来た。
良平が思ったのは、江上聡が捕まる事等ありえないと思い込んでいた筈が、十三年目に入りいきなり警察が核心に近づいている事を感じたのかも知れないと思えた。
全く無印であった筈が、気が付けば何時の間にか大本命に成っている様なもので、江上聡が相当びっくりしているかも知れないと思えて来た。
大阪府警東成署の刑事東山清二は名古屋に赴き江上聡に問い詰めていた。
「十三年前貴方は、男女関係にあった山田瑠璃さんと付き合っていたが、その事を嫌がり瑠璃さんに貴方と別れる様に説得していた笹本ゆかりさんに腹が立ち、大阪市今里のロータリー付近で笹本ゆかりさんをナイフで刺し、逃亡した疑いが掛かっております。重要参考人としてご同行下さい。まだまだお聞きしたい事が沢山御座います。」
江上聡は東山刑事に肩を押され名古屋を後にした。
良平の言った言葉が江上聡の任意同行に繋がった事で、ゆかりを殺した男として江上聡が自供するものと確信していたが、一向に自白などせずに黙ってしまった。
拘留期間の間に是非自白する様に東山刑事ほか東成署は必死に成ったが、結局拘留期間が過ぎて江上聡は獲り放たれる事になった。
ニタっと笑みを浮かべて江上聡は名古屋行きの電車に乗り去って行った。
「すみません。余計な事をさせてしまって申し訳ありません。」
良平は東山刑事に気を使う様に面目なさそうに口にした。
「いえ笹本さんこれで動きますよ、あの男は、要するに泳がせたのですよ。
多分近い内に山田瑠璃さんの所に仕返しに来る筈です。そこで現行犯逮捕と成るのですよ。殺人未遂か恐喝とかの罪で。それから絞り上げるのですよ。十三年前の事をしっかり思い出さすのです。血の出る思いをしてでも」
「成る程その様に成るのですね。安心致しました。そう成れば妻も成仏して貰えますね。」
「ええ早く一時も早くその様に成らないとね」
「お願いしておきます。」
「ええ解かりました。だから貴方は絶対余計な事をこれからはしないで下さい。危険ですから。やくざなんて者はいざとなったら怖い連中ですからね」
「はい解かりました。」
ところがそれから一ヶ月が過ぎたが、江上聡はまるで動かなかった。東成警察の刑事が連日山田瑠璃の身辺警護を続けたが動きの無い日が続いた。
それでは計算が違うとばかり刑事東山が山田瑠璃を訪ねて全く変化がないかを聞く事にした。
刑事が来た事で山田瑠璃は驚いたが、ゆかりの敵を取って貰えると考えて喜んで刑事に協力する態度をとった。
「山田瑠璃さん貴方が以前住んでいたマンション覚えていると思いますが、どうかその時の事をよく思い出して頂きたいのですす。江上聡の事を調べなければ成らないかも知れません。
私たち警察は犯人が大柄な男と言う証言があり、その大きい人物に照準を合わせて捜査して参りましたが、決してそうではなく、犯人は全く違う年恰好であったかも知れないと成りまして、実際殺しの現場を誰も見ていた者は居ないのですから、当然頭を柔らかくして見直さなければ成らないと思います。
笹本さんも逮捕される事を待ち望んで居られます。出来る限り亡くなったゆかりさんもこの儘では成仏出来ない状態です。ご理解下さい。 それで江上聡が事件に関与していないかを今一度検証しています。
江上聡にも先日任意同行を求め取調べをさせて貰っていますが、決定付けるものが無く放免致しました。
しかし疑いが晴れた訳ではなく、引き続き捜査させて貰っています。そこで貴女にお伺いしたいのは、江上聡が当たり前の様に盗聴していたりしていた様ですが、貴女自身の行動も盗聴されていた可能性があると思うのです。
貴女がゆかりさんに江上聡の事で相談されていたとお聞きしていますが、その点はどのような感じだったのです?」
「ええ、何度も話した事ありました。電話を掛けた時も掛かって来た時も、日常茶飯事の様に江上聡の事を話しました。私はあまり言いたく無かったのですがゆかりが必ず別れなさいって言っていました。」
「もしそれを江上聡が聞いていたと考えた時、どれだけ気分が悪いかと思いませんか?江上聡が怒り出すような内容ではなかったのですか?」
「でもそれって私の声だけなのでしょう盗聴って?携帯になど出来ない筈だから」
「ええ、テーブルの下とか差し込みプラグとかに盗聴器を仕込まれている筈だから、貴女の声だけでしょうね。盗聴器に入る声は。でもそれでも十分解かると思います。話がどのように進んでいるかを、更に想像する場合は被害妄想の様に成って、の気持ちが更に増幅されると思いますよ。
だから仮に、貴女たちの会話を聞いていた江上聡は、手に汗を滲ませてゆかりさんの事を、憎悪の気持ちで一杯に成り殺したく成っていたかも知れませんよ。思い出して下さい。貴方とゆかりさんとの交わした会話を」
「まさかそんな事。あの所に盗聴器が・・・信じられません。
でもそんな風に言われれば判りませんね。私はあの人にお金を都合した事も何度もあり、それを返してほしいなどと催促などしませんでしたが、それに盗聴されていたかも知れないとも思わなかったですが、正直分かりません。
そんな事とは知らず、私とゆかりの会話はズバッとゆかりが言う事が多かったから、かなり激しかったかも知れません。あの最後に会おうとした時も江上聡の事があったから、お互い興奮するような態度であの様に成った事も確かです。」
「詰まり江上聡と別れる様に言い続けたゆかりさん。
それに同調する様に成って行く貴女の声をあの男が一部始終を聞いていたとすると、貴女から見て江上聡の心の内をどのように理解されますか?」
「何もかもを聞く事が出来なくても、多分二人のやり取りがどのような内容であるかは直ぐ解かると思います。そして腹が立って来ると思います。もしゆかりの声も聞かれていたなら、途中で聞くのさえ嫌に成るでしょうね。」
「その様に貴女から見ても思うのなら、やくざになる様な男にとっては許せないでしょうね。」
「やくざに成っているのですか?江上聡さん?」
「ええ、今あの男は名古屋でやくざに成っています。子分まで持っていて」
「そうですか。その様に成って居るのですか?」
「はい、だから貴女の事を逆恨みして、此方へ来ないかと張り込みをさせて頂いています。貴女に何かがあればいけないので。身辺保護を」
「私の?」
「ですから、あの男があの日貴女と一緒に居たと成っていますが、それには間違いないか再度検証させて頂きたいのです。
今里のロータリーで犯行があった時刻に、間違いなく以前貴女が住んでいたマンションで江上聡が居たかを知りたいのです。
貴女のマンションは谷町七丁目付近でしたね。だから十五分ほど在れば犯行現場から戻る事が出来る訳で、江上聡が貴女のマンションを訪ねて来たのは何時でしたか?覚えていないかも知れませんが思い出して頂きたいのです。一番肝心な事ですから」
「あの日は彼が何時来たかって言われても、気が付けば江上さんが来ていたって感じで、はっきり覚えていません。正直な所。あの人がそんなに疑われているのですか?確かに盗聴されていたのならその可能性が在ると思いますが」
「ええ、だから再検証しなければならないのです。犯人の背格好が始めに言われていた人では無いかも知れないと思えば」
「でもあの時は私も警察の発表の通りだと思っていましたから、江上さんを疑う事など決して無かった訳で、そんな事考えられないでした。
もし犯人が百六十五センチだと最初警察が言っていれば、江上さんはその様な背丈だから気にしていたかも知れません。
そんな事考えられなかったから疑う事もしなかったと思います。その後あの人と同棲をしたのですから」
「犯人は証拠になる物は何一つ残していません。瞬時にしてゆかりさんをナイフで刺し、現場から立ち去った様に思われます。
幾ら暗がりと言えども、今里のロータリーは結構車も人も通行量の多い所ですから、だから犯人はそのどちらも居ない一瞬に犯行に及んだと考えられます。
江上聡があの日を境に何か変化のある態度とか口にした事とか無かったでしょうか?
その同棲をされたのは正確には何時からなのでしょうか?」
「ええ、あの日私がお腹を壊し痛かったから泊まってほしいと私が言って、それであの人はその日に泊まり、それから殆ど私のマンションに泊まりだして同棲に成ったのです。
あれは私の都合でその様に成ったと思っています。
でもあの頃警察の方が何度か来て江上さんは気にしていたから、・・・結構気を使っていたみたいでしたよ。」
「それって何故でしょう?」
「多分いろいろ判って来たのですがあの人はやばい事をしていたみたいです。
何度も電話で話している事を聞きましたから。「警察は大丈夫か」とか、「何処の組が関係している」とか、「狙われている」とか、「命の保証が無い」とか、そのような事を当たり前の様に言っていましたから、可成やばい事をしている事は判りました。勿論私は見て見ぬ振りをして、と言うか、まるで何も聞こえていない振りをしていました。
それはゆかりの事とは関係なかったと思います。警察を警戒していたのは。」
「山田瑠璃さん随分昔の話で無理な事を言っているか分かりませんが、あの日の事を是非思い出して頂きたいのです。
何でもいいから。あの日江上聡が貴女の家にやって来て、慌てて服を着替えたとか、手を洗っていたとか、風呂へ急いで入ったとか、水をがぶがぶ飲んでいたとか、何でも宜しいのです。御座いませんか?思い出せませんか?」
「でも遠い昔の事ですから。じっくり考えて見ます。何かがあれば良いのですが」
「ええ、出来れば頑張って下さい。それとこれからもずっと貴女の身辺警護をさせて頂きます。刑事の田野倉と向井の二人が」
「そうですか。大変ですね。」
「もし江上聡が犯人なら必ず動くと思っています。それで貴女を常に警護していますから、あの男の事を思い出して下さい。」
「ええ、刑事さんが言われた事を思っていると、今気が付いたのですが江上さんの事で、あの人ゆかりが殺された時からゆかりの事を口にしなくなった事を思い出しました。」
「それってどう言う意味ですか?」
「ええ、ゆかりが亡くなるまでは常にゆかりの事を煙たいような言い方をしていましたが、それに彼女が内に来ている時は絶対来なかったのですが、いつも気にしていてアレルギーのように感じていたのでしょう彼女の事を。
⑪
そして「あの女は苦手だ」って何時も言っていました。
「煩いお袋を思い出すから苦手だ」って、でもゆかりが居なくなって、それからは多分一度も彼女について口にしなかったと思います。まるで吹っ切れたかのように。
普通江上さんの心境を考えた時、寧ろゆかりが死んだ後に色々口にするのが当たり前ではないかと思ったのです。それで今まであんなにゆかりの事を口にしていた江上さんが、一切触れなく成った事が不思議でした。まるで何も無かったかのような態度に私は腹が立った事を思い出しました。」
「それはどの様に解釈すればいいのでしょうか?」
「何故だか判りませんが、例えば私の電話が鳴った時、何時も毎日の様に掛かって来ていたゆかりからではないかと思うわけです。
それって彼女が既に亡くなっているのにそれでも彼女からかも知れないと思う訳です。
錯覚と言うか今までがそうだった様に。それと同じ事で江上さんがまるでゆかりの事に一切触れない事が不思議だったのです。
「あの女煩かったからなぁ」とか、「俺は嫌いだったなぁ」とか、それがまるで無かったと思います。」
「大変難しい心の内ですなぁそれは。それって貴女がゆかりさんと言う大切なお友達を失くされてショックだったから、あえて江上聡は触れないようにしていたのではないでしょうか?」
「いえ、あの人の事を、私はゆかりほど嫌いでは無かったのは、結構気の利く男であったと思っています。だからゆかりが亡くなった事で私がショックを受けている状態であったから、あの人は私を励ましてくれていたと思います。それが他の人でゆかりではなかったなら。」
「・・・」
「私は今刑事さんが言う様に、仮にあの人がゆかり殺しの犯人だと考えてみているのですが、もしそうなら私にゆかりの事など言えないでしょうね。
私がゆかりの事に触れるだけで辛いとか神経質に成るでしょうね。一番側に居てる人が一番犯人を憎んでいる人でも在るから、一番警察に近い人でもあるから、その様に考えると江上さんが私と暮らしながら常に気を使っていたかも知れません。だからゆかりの事に触れる事はご法度であったと言う事に成るのでしょうね。」
「なるほどね。でも合っていそうな気がしますよ。貴女がおっしゃる事が」
「今気が付いた事だから何とも言えませんが・・・」
その頃良平は東成警察署の東山に、決して動かないようにと強く言われていたので厳粛に言われた事を守っていた。
それでも山田瑠璃の事も気になり、一方で船に隠している拳銃の事も気に成っていた。
そして最近思い出す事が段々空く成って来ていた。
妻ゆかりの事が昨日の様に思い出す毎日に成っていた良平は、彼自身あくまでも常識のある善人では無いと思っている事である。それはもし今ゆかりを殺した犯人と出くわすなら、船に隠して在る拳銃で犯人を仕留めてもいいと思っている。
あの拳銃を海で拾い上げた時に、まるで神様がそのようにしても良いと言ってくれた様にさえ思えたので、いち早く警察や海保へそれを持って行こうとは決して思わなかったのである。
必ず敵を取ると何時も思っているから、その決意が拳銃を手にした事で更に確固たる決意に成った様な気がしている。
もし誰かが拳銃を家捜しする時は多分良平以外の者がそれをすれば、船を木っ端微塵にしなければ取り出せないようにしてある。
詰まり閂を外さないと更に四本の釘を抜かないと、その中を見る事が出来ない仕掛けにしてあるので、以前誰かが多分やくざが捜しに来た時も見つけられなかったのはその性だと良平には自信があった。
そんな時のある朝
串本大島に渡るバイパスで、中年の女性が車に撥ねられ即死すると言う事故が起こった。
出会いがしらで主婦の信号無視が原因であった。
ところが相手の乗用車は、名古屋市の梅野興産と書かれた車であり若い男が運転をしている車であった。
後日その事故の現場検証をしていたのである。道端に花束が添えられた所を通りがかる事に成った良平は、警察官に車を止められ、暫く全面通行止めに成り完全に道が封鎖されたので仕方なく待っていた時、男が面倒くさい様な不貞腐れた態度で警察の相手をさせられていた。
おそらくその男に責任は無いのだろうと良平は思いながら、見つめていて気が付いた事があった。
以前トイレ掃除をしていて、その時大きな声で話していた男である事を気付いた。
詰まり串本に拳銃を捜しに着ていた、若しかすると良平の船を家捜しした男かも知れないと思った。
未だに彼らはこの場所に留まって何かをしているのかと、重いものを感じて来て溜息が出て来た。
車が一斉に走り出したが良平は少し離れた所に車を止めて、検証していた男のねぐらを突き止める事を咄嗟に思いついた。
そして事故の検証が終わり車の男が面倒くさそうに車に乗って走り出した。その車は一目散にスピードを上げて走り出し大島に向かって行き、長い防波堤だから気づかれては不味いと考え暫くしてから車を走らせた。
その車は灯台の方には行かず串本大島漁港の方に下りて行った。そして駐車場の隅に車を停め小さな離れの様な東屋に男が消えた。
ここで住んでいるのかと思ったがそこは民宿と書かれていて、その粗末な東屋のような造りの佇まいの中で暮らしている事が判った。
多分長期で借りているのだろうと創造する事が出来た。しかし真正面に見えているものは他でも無い海上保安庁の建物である。
元々この島は流刑の島である。この地に見張り番を置き、海保の動きを見張っているのかと良平には思われた。
それは言い換えれば、良平が拾い上げた拳銃のほか覚醒剤、非合法ドラッグだの、非合法のあらゆる物がこの港で荷揚げされているかも知れないと思わされる気に成って来た。
男が借りている部屋は民宿の離れのような格好で、本館は数部屋がありそうで、だが離れは一家族だけと言う感じに成っていて、正にプライバシーを守れる環境であった。
ここから向いの海保の様子を窺がっていてタイミングを見て荷物を受け取るのかと、良平は以前に拾い上げた包みを思い出しながら密輸されるシーンを想像していた。
こんな事が若しかすると毎日行われているのかも知れない。
あの海から荷物を拾い上げた時も、ここから誰かが見ていた事が予想され、良平は胸に詰まるものを感じていた。
男はそれきり出て来なかった。しかし良平は男が中から外を窺がっているかも知れないと思うと怖く成って来たので、後ずさりするようにその場から離れる事にした。
男の名前は交通事故のあった時の新聞によると、猪原周吉と言う名古屋の男で会社員と成っていた。それは麻薬を売る会社かも知らないが何も判らない。
しかし良平にとって決して嬉しい話ではない。その男に何れ痛い目に合わせられるかも知れない。殺される事も考えられる。
それから数日が過ぎた時、漁師で良平がこの地に来てからら友達になった野田新次郎や加西忠雄などの者から、この男の事を詳しく知る事と成った。
「この男は名古屋の梅野興産と言う会社に籍を置いている猪原周吉と言う男で、以前はマグロ漁船に乗っていたが遠洋先でトラブルを起こし、それも傷害事件に成る様な喧嘩をして、船から降ろされ名古屋で荷役仕事をする事に成ったが、ところが親方に可愛がられる事になり、その親方がその辺を取り仕切っている石田組の若頭幸田伸介だったので、いつの間にか猪原周吉も石田組の組員に名を連ねたと言う事らしい。梅野興産は表向きで内情は石田組が仕切っていたようだ。」
事細かに野田新次郎がそのように口にした。そしていつも二人で串本の町をウロウロしている事も、もう一人の友達の加西忠雄が口にした。
この二人は兄貴分の幸田伸介に命令され串本に住み着いている事が、大島の住家も見て来ているので良平には辻褄が合う結果であった。
そして石田組がこの串本の地で大きな取引をしている可能性が在る事も想像出来て、しかもずっと以前から同じ事が繰り返されている事も考えられた。
犯罪に汚染された町串本
まるで映画を観ているような気に良平はされたのである。考えてみれば良平が串本に来てから十二年目に入ったが、この間で誰かが警察や海上保安庁に逮捕されたと言う様なニュースなど聞いた事が無い。
全くその様な事が起こらない様に海保の巡視船が常時停泊している。飾りではないだろうが緊迫感など全く無い。
しかしこの港町は可成汚染が進んでいるかも知れないと良平には思えて仕方が無かった。
何十キロの覚せい剤が積み卸されていても決して分からないかも知れない。何故なら彼らは全く安全な時にそれを動かしているのだとしたら捕まる事は考えられない。
肝心な時は毎日休む事無く保安庁の動きを捉えていれば、決して間違いを起こす事など考えられない。
あの大島の家から見張っていて、物を渡す船にも受け取る側の船にも安全な事や危険な事を知らせれば絶対現行犯逮捕とはならないだろう。
良平はこの町は何れ何かが起こるだろうと思えて来た。漁師友達の矢作徹でさえ汚染され始めた一人かも知れないし、良平に気さくに何もかも話してくれている加西忠雄も野田新次郎も、スナックのマスターの影響を受け、侵食され汚染されて行っているのかも知れない。
その様な事を思うと良平はこの町が嫌に成って来た。
大阪今里で虫けらの様に殺された妻ゆかりと住んでいた時の気持ちに似たものを感じた。
それは突然不幸ごとが起こる前兆のようなものであった。
暴力とは正に何もかもを変えてしまう。
常識も平和も培って来た何もかもを剥ぎ取ってしまう魔力が暴力には潜んでいる。
あの今里のロータリーでライトに照らされた妻の顔は、その暴力と言う魔の力で全てを掻き消された様なものであった。
その中には愛も恋も何もかもが含まれているのである。幾ら愛おしくとも二度と妻を抱く事など出来ない訳である。勿論喧嘩も然りである。
良平は大阪の山田瑠璃の事が気に成って、一度行かせて貰う事を考えていた。勿論そのような事をすると、東成署の東山刑事に嫌がられては不味いと思い東山刑事に電話を入れる事にした。
ところが東山刑事にそれは不味いから止めてほしいと言われその理由として現況を知らされる事に成った。
「笹本さんの言われた事で我々は動かさして貰っています。しかし今の所江上聡は沈黙を保っています。
しかし山田瑠璃さんに何かされても困りましので、山田瑠璃さんの周りは身辺警護をしていますから近づかれては困ります。」
「そうですか。有り難う御座います。万が一の事があるといけませんので、私にも責任がある訳ですから」
「ええ、解かっています。お気持ちは。でも先日も山田瑠璃さんに可成しつこくお聞きしましたが、今一何かを摑める状態ではなく困っております。
江上聡が血の付いた服で山田瑠璃さんの家に来たとかだったら即逮捕となるのですが、何しろ一回任意同行を求めて放免に成っている男ですから、頭を痛めている次第です。
山田瑠璃さんに江上聡が手を出せばいいのですが・・・」
「その作戦も今一なのですか?」
「ええ、おっしゃる通りかも知れません。でも根気よく我々は頑張りますから」 「ええお願い致します。ところで東山さんにお聞きしたい事があります。名古屋港で港湾荷役を牛耳っている石田組って組を調べて頂きたいのですが?」
「石田組ですか?」
「そうです。今串本の町に流れて来ています。流れてって言うか、この海で何かが起こっている様に思われるのです。覚醒剤とか」
「へぇー覚醒剤がねぇ、それは聞き捨てならないですね」
「それに石田組が関与していないかと思いまして」
「何か摑んでいるのですか?」
「まぁ摑んでいると言えばそうかも知れません。」
「私は石田組について調べる事は簡単に出来ますが、その覚醒剤については、そちらの警察に言って貰うほど良いかも知れませんね。でも慎重にね、何しろどんなに小さな組でも拳銃の一丁や二丁は持っている筈ですから。
それに人も殺す事が出来る連中ですから。奥さんの事を考えただけでもよくお解りだと思いますが・・・その話は今の所凍結にして下さい。時期が来れば一斉にがさ入れをすれば良いのですから。」
「解かりました。」
「とりあえず石田組について調べる事は調べます。」
⑫
翌日早速東山刑事から電話が良平に掛かって来た。
「石田組について判りましたから。
構成員三十人ほどで、主に荷役仕事に従事していましたが、コンテナーがコンピューター化されその任務も相当減った様です。
それで幾ら歴史在る組織でも衰退の一方で最近は泣かず飛ばずに成っているようです。
そんな事で溢れた組員が良からぬ事を考えている事も、貴方の話を絡ませれば繋がるかも知れないですね。
又担当に話をしておきますからその時はお願いしておきます。何かがあれば言って下さい。今は貴方の奥さんの事で突破するものを見つける事が大事で、それで宜しいですかな?」
「ええ私は構わないのですが、この田舎の町も怖く成って来ました。最近又同じような事が起こらないかと何故か不安に成って来ます。あの今里で味わった屈辱を再び味わう事が絶対無いと言い切れないような気がして。」
「それだけ物騒に成って来たと言う事ですね。」
「はい。」
「気をつけて下さい。」
「はい。」
石田組の事を相当詳しく知っている漁師の野田新次郎も得意げに良平に口にする。
良平などはその類の者には鈍感で興味も無いが野田はその筋の者が好きなようで、スナックに日参している事もあり情報を摑んでいた。
「今石田組の若い衆がこの町に来ているのは、どうも石田組は仕事に干されて困っているらしいよ最近殆どがコンピューターでコンテナーを制御しているから人手なんか要らないって、それで間に合わないから干されてしまうんだって。
石田組は長い歴史があって、中々踏ん切りが着かない様だけど、先は全く見えないってあの若い衆が言って嘆いていたなぁ。 何をしても大変らしいよ。猟師も大変だけど、だから解散するか、それとも今まで犬猿の仲だった他の組に吸収して貰うか、奴さんたちも悩んでいるみたいだね。」
「よくそんな話出来るね?」
「出来るって三日と挙句顔を突き合わせていればスナックへ行けば出会うからね。その度に愚痴を聞かされるよ、あいつらに」
「へぇーそう」
「だからあいつら今何かを模索しているって言うか、凌ぐ術を捜しているような気がするな。串本に来てから可成り経つと思うよ、あいつら」
「そう、以前何かを探していたのじゃないの。例の貨物船が座礁した時に。」
「そう、確かそう。覚醒剤とか何かじゃないの。あの貨物船確か二艘とも名古屋港に入る予定だった筈だから、思わぬ事故にあって躍起に成っていたなぁあいつら。
マスターにも力に成ってくれないかと言われていたのを思い出すな。マスターは石田組となんか関係が在るらしいから、マスターを頼って石田組はここへ来ていたと思うよ。」
「それで今ここで何をしているの?」
「知らない。名古屋へ帰っても何もする事が無いから、ここで凌いでいる程まだましなんじゃないの?」
「でもこの町で何をしてお金を稼いでいるって言うの?」
「さぁ判らないけど。でも長く居座っている事は確か。俺やくざと友達に成れたから結構あいつら面白いからね。紹介しようか?」
「いやいいです。その人達と話をする事なんか出来ない。ピストルを持っているかも知れないし。ナイフを持っているかも」
「随分気が小さいんだね」
「いやぁそうじゃなくって私は嫁さんが」
「あっそうだった良ちゃんは大変な経験しているんだ。気が小さいなんてとんでもない事を言ってしまってご免、ご免。」
「いやぁ構いませんよ。実際そうかも知れないし、でも嫁さんが死んでいた所は忘れられないからね。だから私の妻は暴漢に襲われたって成っているけど、果たして暴漢か疑問です。
結局やくざとか暴力団とか、やんちゃを平気でする人の仕業だと思うと、その類の人とは係わり合いに成りたくないですね。」
「そりゃそうだね、悪い事を言って」
「だからそんな人は串本から一日でも早く出て行って貰いたいですね。正直な所。」
「多分あいつら石田組が解散に成ったら、ここで住み着くかも知れないね。あの口ぶりからしても猪原って男、ここが気に入っているようだし」
「そうですか。困りますね。」
「だけど名古屋へ帰っても厳しいからな。駅前の白石組にでも入れば生き延びると思うけどなぁ。あそこは金融だから。」
「随分詳しいですねぇ野田さんは」
「まぁね。」
「みんな生きて行くって厳しいって事ですね。」
「そう言う事。」
船着場で良平と漁師野田新次郎が話しに弾んでいたが、それから暫くの内に石田組は岐路に立たされていた。
委託会社と契約が切れていよいよ仕事場から追われる事と成って来ていた。解散以外に道は無かった。
それて畑違いであったが一部の者は白石組に拾い上げて貰う事となり、一部の者は解散引退と成り、一部の者は堅気になりトラックの運転手等になり、それぞればらばらになる事に誰もが承諾する事に成った。
石田親分は隠居に入り、既に覇気も闘志もまるで無く、今まで組員を難儀しながら引っ張って来た疲れがどっと全身を包んでいた。
元々厳かった先代に比べて
現組長は優しい穏健な男だった事が、組織が長らく続く事が出来たのか、それとも命取りに成ったのか誰も判らなかった。それだけ時代が奔流の如く急速に進む事に付いていけなかったのである。
串本に残された下っ端の猪原周吉と田戸博は身の振り方を兄貴分の幸田伸介に任せていたが、幸田伸介は既に石田組から離れ堅気を目指す決意であった。
良平は後に漁師野田新次郎からその石田組の顛末を聞かされた時、大阪で山田瑠璃と恋仲であった江上聡の事を思い出していた。
東成警察署の東山刑事が江上聡は今名古屋で勢力を伸ばしている事を聞かされていたので、何か接点が無いかと思ったのであった。
数日が過ぎ、その後の大阪の事も知りたかったので、久し振りに良平は大阪へ向かう事にした。
今里に着くと必ず花屋に寄り花を調達する事は何時もの事で、当たり前かも知れないが、其れは妻ゆかりに対する愛情であると良平は思っている。
山田瑠璃もどれ位前なのか判らなかったが、花を供えてくれたようで、まだ茎がしっかりした花が現場に供えられていた。
良平はその花を見つめながら他人さんの事件現場に、十三年を迎えた今も花を供える事など、誰にも決して出来ない事を山田瑠璃がしてくれている事で、ゆかりが幸せにさえ見えるのだった。
手を合わせその足で東成警察署に赴いた良平が耳にした言葉は驚きのものであった。
「世の中って厳しいものですね。何時の日か話しました事ですが、串本に名古屋のやくざが来ているって言いました話を覚えてくれていますか?」「ええ良からぬ事を考えているかも知れないって奴でしょう」
「ええ、それがあの時刑事さんに調べて頂いた、名古屋の石田組が解散するようですよ。仕事が無くなった様で。」
「そうでしたか。やくざやさんも厳しいのですね。」
「それで名古屋の駅前に白石組って在るのですか?そこに吸収合併されるようですよ。全部じゃないけど何人かが・・・」
「へぇー白石組って?あの山田瑠璃さんが付き合っていた、まさに今落とす予定の江上聡が入っている組織ですよ。」
「へぇーまさか!世間って広いようで狭いですね。でもその組は健全で、しかも金融が専門だから頭の切れる強者が居るのではないのですか?」
「よくその様な事ご存知ですな。」
「ええ、私の知り合いが結構詳しくて」
「その方は裏社会の方で?」
「とんでも御座いません。漁師です。真面目な。でも元その筋の方が友達に居るようです。串本に」
「なるほどね。さてどのようにしましょう?江上聡が現在世話に成っている組織に石田組の残党が入ってくれば、白石組は更に勢力が増して港湾も仕切る様に成るって事でしょうね。名古屋港は。
しかしますます厄介に成る事は確かですね。資金力が増すと強力な弁護士も着きますから、迂闊に手を出せなくなる事も在り得る訳で、余程慎重に掛からないと墓穴を掘る事にも成りかねないですからねぇ。弱った、弱った。」
「そんなに大変に成るのですか?」
「今より難しく成る事は確かですね。」
「山田瑠璃は何か変化がありませんか?」
「ええ一向に。毎日張り込ませているのですが、そろそろ結論を出さないと上にも言われていますから」
「そうなのですか。八方塞に成って来ているのですか?」
「ええ。まぁしかし江上聡を何とかしましょう。追い詰めてみますよ。吐かせて見ますから」
「お願いします。それで刑事さん、私せっかく大阪へ来ましたので山田瑠璃さんにお会いしても構いませんかねぇ。何時もあの現場に花を供えて頂いていますから、お礼も言わなければ成りませんので」
「ええ、そんな事なら行ってあげて下さい。内の者には連絡しておきますから」
「じゃあ行って様子も見て来ます。」
東成警察署を出て良平は阿倍野へ向かった。山田瑠璃はそこのアパートで暮らしている。
「ご免下さい。笹本です。ご無沙汰しております。」
「あぁご主人。今日はお花を?」
「ええ、それで山田瑠璃さんも最近お花を、いつも有り難う御座います。今日は供えて頂いたお花を見ていて、ゆかりも良い友達が居て羨ましく思いました。満面で笑みを浮かべているゆかりの顔が浮かんで来ました。本当にいつも有り難う御座います。これで犯人が捕まればいいのですが、中々そちらは進まないようです。」
「でも江上さんが疑われているのでしょう?刑事さんに何かを思い出してほしいと言われまして随分考えましたが、さりとて思い当たる事が無く、それでも表で刑事さんが私の身辺警護をして下さっているようで、申し訳なく思いますが、でも何も出て来なくって。」
「いえ、決して無理をなさらないように。でもこの様にしてゆかりにあの現場に行くと、込み上げてくるものがありまして怒りさえ覚えます。」
「そりゃ当然です。ご主人だけでは在りません。一日も早く犯人が逮捕されないと、私の人生も辛いものがついて廻っているのです。私の都合でゆかりが亡くなってしまったと思うからです。」
「それは不可抗力仕方ない事です。
山田さん、くどいかも知れませんが今一度思い出して頂けませんか?江上聡に本当にアリバイが在るのか?あの人には動機があるのですから、しかもあの人の生き方として身勝手で我儘で、事件を起こす犯人の特徴を江上聡は持ち合わせていたのではないのでしょうか?
私の妻があの男を嫌ったのは、その様な所があったからだと思うのです。山田さんはどの様に感じていましたか?」
「ゆかりから見ればそうだったかも知れませんが、私には結構気を使っていて優しい所もあって、でもご主人も刑事さんも江上聡のあの日のアリバイを崩したいのでしょう?
江上聡がゆかりを殺してから私の家に来たって事に成らないか、それが判れば良いのでしょう?
ゆかりが倒れていて発見された時間が六時過ぎだったから、江上聡が前のマンションに来た時間が、それより十五分ほど先なら犯行が可能ですね。谷町七丁目だから十五分ほどで帰れるのでしょう。只あの人が五時半頃にマンションに来ていたのなら全く関係無いって事に成るのですね。
だから江上聡さんが何時来たか、あ~ぁ、それを思い出さないと。」
「貴方はあの日お腹が痛くてゆかりと待ち合わせをしていたが行けなかった。
そして約束の時間に成ったが行く気がしなかったから、ゆかりに電話を入れた訳ですね?それって何時でした。それは覚えているでしょう?約束したのだから」
「ええ、それは通信記録に載っている時間ですから、五時五十八分でした。その時はゆかりと行けない事を話したから、ゆかりはその後喫茶店を出て今里ロータリーの方へ歩き出して、あの植木の在る所で何者かに殺されたのですね。」
「誰も見ていなかったのは偶然でしょうか?それともあの場所はバスの停留施設が在るから、少し広く成っていて、車を止める事も簡単に出来る場所でしたね。そこで待ち伏せしていたかも知れませんね。それが江上聡のような男なら、ゆかりに恨みを持っている男なら」
「ええ、電話で盗聴されていたと考えた時、ゆかりの様な言い方をしていたら殺されるかも知れませんね。結構きつかったから、それに合口を打っていた私も睨まれていたかも知れないし、だからゆかりを江上聡は相当恨んでいたと思います。電話を聞かれていたなら」
「おそらく聞かれていて江上聡がゆかりを相当恨んでいて、殺してしまいたい位恨んでいてと考えて、あの日の事を思い出して下さい。」
「・・・」
「貴方はお腹が痛くて我慢出来ない位痛かったのですか?」
「いいえ夕方はその様に痛かったのですが暫くしてから少し楽になり」
「それってどれ位してからですか?」
「暫くしてから」
「その暫くってどれ位です?」
「どれ位って・・・」
「江上聡はゆかりさんにナイフを突きつけ、ゆかりさんのお腹を刺し、素早く車に乗りその場を去った。
それから貴方の前に住んでいたマンションに駆けこんだ。谷町七丁目だから十五分で着くわけですから、七時までには貴方のマンションに着いている。このように考えれば犯行は可能です。
貴方はゆかりが殺された事を何時知りましたか?思い出して下さい。」
「あれは確かあくる日の昼頃刑事さんが来て知りました。それで警察へ行ってご主人にあの時お会いしましたね」
「ええ覚えています。」
「だからそれまで知らなかったです。まさかゆかりがあのような姿に成っている事など」
「前の日はお腹が痛くてテレビとか付けなかったのですか?」
「何分昔の事ですから、でも江上聡さんが来て起こされ話し込んでいたから覚えていないです。」
「江上聡さんと話し込んでいたと言う事は、お腹があまり痛く無く成っていたって事でしょうね?」
「ええ、」
「それって不思議ですね。ゆかりと約束をしていたにも拘らず行けなかった貴女が、江上聡が来てすっかりお腹の事を忘れて話し込んでいた。
テレビを付けたか付けていないか覚えていない。 勿論ゆかりが殺された事は臨時ニュースでも速報として、どのチャンネルでもやっていた様です。それも何も知らなかった。そうですね?」
「ええ、あの日は江上聡さんのテンションが高かった事は確かで興奮気味でした何故か。」
「それは憎かったゆかりを殺そうと思いそのように実行したからでしょう。」
「まさか」
「山田さん。今日は江上聡がゆかりを殺した事を前提にして話を進めたいのです。何故殺したかを突き止めるのです。そうする事で真実が見えて来るかも知れません。
それで江上聡があの日突然泊まると言い出したのですか?」
「いえ、あの日は私お腹が痛がったから此方からお願いしてその様に成った筈です。」
「でも腹痛も収まり話に夢中に成って、他の事は殆ど忘れてしまった。江上聡は興奮気味に話をした事以外は。何か食べなかったですか?コンビニに行かなかったですか?江上聡が何かを食べたいと言わなかったですか?
その日、江上聡から不躾な事を言いますが求められなかったですか?
翌日江上聡はどのようにしていましたか? 仕事に行かなかったですか? 誰かから電話が江上聡に掛かって来ませんでしたか? 江上聡が変わった事をしませんでしたか?
この様に聞きたい事が幾らでも出できます。それに警察が来た時江上聡はどのような態度でしたか?多分驚いていた筈です。
まさか警察が直ぐに来るとは思ってもみなかったから、もし誰かが犯行を見ていたのなら、直ぐ逮捕される事に成るからそのように成ると一瞬思った筈です。
だから相当びっくりした筈。思い出して下さい。この様に考えれば何かに突き当たる筈ですから。」
⑬
「でも警察があのあくる日に来て言われた事は、男で百七十五センチ程の痩せた人の知り合いが居ませんかって言っていましたから、それを江上聡さんも聞いていて笑っていたのを覚えています。
だからまさか江上さんを疑うなんて考えた事など今までありませんでした。出来る限りよく思い出してみますが余り期待はされては困ります。
ただ私もこの話は是非解決したいです。ゆかりの為にも私自身の為にも」
「江上聡さんはその日から貴女の家に泊まるようになり、結果的に同棲するように成った。 」
「ええ」
「それまで江上聡は同棲したいとよく言っていましたか?」
「いいえ、あの時がきっかけに成って、それまでは泊まった事さえ無かったです。」
「でもそれって何故かと思いませんでした?その後ゆかりが死んだ事を知った事で、江上聡が急に泊まると言った事を思い出しませんでしたか。何一つ不自然な事はありませんでしたか?」
「でもそれって私はお腹を痛めたから、彼はその様に考えたのだとその時は思いましたよ。泊まってくれる事が私にすれば嬉しかったから。」
「翌日警察が来て百七十五センチほどの男を捜していた時、江上聡さんが側で笑っていたと先ほど言われましたが、その後彼は何かを言いましたか?覚えていないですか?」
「・・・」
「あの後貴女は警察へ来てくれましたね。その時私の記憶では貴女独りで来て頂いた事を覚えています。江上聡は来るのが嫌だったのでしょうか?嫌っていたからゆかりを」
「いえ用事があるからって事で別れたと思います。」
「用事が在るからですか?それって警察が来るまでその様に言っていたでしょうか?」
「判りませんね。既にあれから十二年が過ぎています。だから正直、何もかも思い出す事なんて無理だと思います。
ただ常識としてそうではないかと思う言い方を今しているのかも知れません。でも更に貴方が先ほど言われたように、具体的にかい摘んでしっかり思い出してみますから又お越し下さい。
何かを思い出すかも知れませんので是非又の機会に。
今日は疲れて来ました正直なところ」
「そうですね。申し訳御座いません。」
良平はほんの僅かではあったが階段を一歩一歩登っているような気がして来た。
そして必ず何処か判らないが到達する様に思えて来た。
山田瑠璃のアパートを後にした良平は、十三年前の一日に起こった出来事を思い出してくれと山田瑠璃に言っている事に、彼も抵抗を感じながら、それでも何とかしなければと焦っている自分自身が在る事も感じていた。
そこにはこの十三年目に入った妻ゆかり殺しの犯人を浮かべて、時効と言う厄介な現実も押し迫っている事が気になり始めていた。
⑭
思えばこの十三年の間良平は一体何をしていたのだろうと、最近に成り心の中で焦る気持ちが大きく膨らんでいた。
事件が起こった最初の二年程は、その事実を認める事が出来ずに泣き崩れた日々を重ねていた。
会社も休みがちに成り、ふてくされた毎日を繰り返していた。気を紛らわす為に自棄にもなった時期でもあった。
そして警察へも何度も足を運んでいた。必ず警察が解決してくれるものだとどんな時も何時も信じていた。その気持ちが良平の心の最後の砦の様に成って、彼が大きく崩れる事を止めていたのであった。
部屋に閉じ籠り、とうとう会社にも辞表を出し、真っ暗に成った将来を刑事が案ずるまでに成っていた。
良平が精神科の先生にお世話に成り出した頃には相当参っていた。それで静養を兼ねてその先生にアドバイスをされた事は、二人の想い出の地へ行く事であった。
一番楽しかった事を思い出せる場所で暮らす事を薦められた訳である。そして時間を掛けて、既にゆかりが居ない事を身をもって感じなさと言う言わば荒治療でもあった。
そして良平は先生の言われるままに実行したのである。
ゆかりが亡くなった時に国から貰った見舞金、それと生命保険が経済的なものは支えになったが、心の中に在るものを正常にする事など決して出来なかった。
それから五年が経ち何とか小型の船を買い求める事に成ったのである。
良平にとってはその船が妻の代わりに成ってくれる事を願っていた。
妻ゆかりが生前釣船で大きな魚をゲットして、得意げに成っていた事が何度かあった事を良平は思い出していた。
妻が一番いい顔をした時である。
一番得意げに成って満面笑顔で、これ以上の幸せが無いと言った様なゆかりの顔を思い出すのである。
だから船を買う事にした訳で、それから今日までの良平は、それまでとは少しは違っていて、漁師の友達矢作徹や加西忠雄や野田新次郎などが出来たのもそれからであった。
それからの、詰まり五年から六年前頃から良平は、次第に友達や話し相手も出来るようになり、又次第に心が少しでも開けて行った事で隣近所の人達からも慕われる様に成って来て、魚をあげる事もしばしばあり、そのお返しに野菜などを貰う様に成っていた。
妻ゆかりが殺された不幸な過去も話す事も時には在った。
しかしこの間、良平が常に思いつめていた事は、妻ゆかりを殺した犯人を大阪東成警察暑が、必ずや逮捕してくれる事を疑う事無く信じ切っていた事であった。
確かに時効と言う言葉が在る事など知っていたが、妻に関してはそれは絶対在り得ない事であると常に信じていた。
警察に百パーセント信頼を寄せていた。
しかし十三年目に入り時々訪れる東成警察署の担当の東山刑事の言葉から、決して明るい未来がある様な言葉を耳にする事がなく成って来た事に、最近懸念する事が多く成って来た様に感じている良平は、何時の間にか心の中に【時効】と言う文字が、はっきり生まれて来ている事に気付き始めていた。
後二年でその現象が起こる訳である。
泣いても笑ってもそれまでの間で捕まらなかったら時効になり、その現実が何もかもを剥ぎ取る様に消してしまうのである。
良平が抱いている怒りも怨念も復習したいと言う心も、全てが消えてしまうのである。
事件が発生してから十五年が過ぎて、それで犯人は分かりませんでしたと警察に付き返されても、幾ら夫で在れ愛していた人であれ、素人に何が出来るかなど明白である。何も出来ないのである。
最近の良平は冷静にその様に考える様に成っていた。
それは今までに持ち合わせていなかった心が芽生え始めた事であり、その心は妻ゆかりが殺された事を自らの力で解決の為に戦おうと思い出した事であった。
警察が頭を垂れて時効の日に、
「真に申し訳あるません。断腸の思いです。」等と口にして涙ぐまれても聞きたくないと思える様に成って来た。
それは東成警察署に何度か通っている内に、今担当の東山刑事からも以前担当であった青木刑事からも共に感じる事は、
「私たちを追い詰める様に来ないでくれませんか?」と言いたい様な表情が見え隠れする事であった。
良平は妻の事件当時に証言をしたサラリーマンと主婦の声を直接聞きたいと思ったが、何分十三年近くが過ぎて居る現実に打つ手が無い思いであった。
そこには何もかもを警察に委ねた常識や現実があったからで、その事に素人が口出しなど出来ないプロセスに成っているが、このようにして解決に至らないと成ると一言言いたく成って来る。 その気持ちが焦りに変わり良平は心の中に辛いものを感じていた。
名古屋まで足を運ぶ事にした。
名古屋には江上聡が颯爽と風を切るように白石金融(白石組)で張り切っている事を東成署の東山刑事に聞かされている。
大阪阿倍野の山田瑠璃に三百万円ほどお金を借りたままで山田瑠璃と別れ、名古屋で暮らしている江上聡に会いたく成って来たのである。 勿論顔を突き合わせる訳ではない。遠くから見つめるだけである。
そしてどのような生き方をしているのかを観察したく成っていた。名古屋も大きな町である。 良平はその人の多さに、今更この雑踏の中で生きる積りは無いが、この地で暮らす江上聡の事を突き止めたかった。
妻ゆかりを殺したかも知れない男の事を。
名古屋市中村区にその白石組のビルがあった。近く迄行その入り口をそっと歩きながら覗くと真っ赤な絨毯が敷かれた狭い階段が目に付いた。
ひところ抗争事件が起こり、その関係の事務所であるのか思いのほか狭い階段に成っていて、簡単には入り辛い作りにしてあるビルが多く存在していた。
白石組もご多分に漏れず、そのような作りであった。良平は何食わぬ顔でビルの前を通り道向の喫茶店で腰を降ろす事にした。白石組へ出入りする者を簡単に見る事が出来る椅子を選んでホットを注文した。
江上聡が中で居るのか居ないのか等判らなかったが一時間ほど粘る覚悟であった。新聞に目を通しながら白石ビルを窺がっていると、男が二人ビルの階段を駆け上がった。先に上った男が若しかすると江上聡かも知れないと思いながら、山田瑠璃に借りた江上聡の写真を取り出して確認したが結果判らなかった。
ビルまで距離があり過ぎたのか、このような事が慣れていないのか或はビビッて居るのか、良平は喫茶店を出て再度白石ビルのそぐ側のビルの喫茶に入る事にした。
しかしそこからは白石ビルは見えないが、良平はその喫茶店に入って来るかも知れない白石組の誰かを待つ事にした。
長期戦を覚悟で一番奥の席を陣取った。そして待つ事四十分、男三人がやって来た。びしっと真新しい背広に身を包み精悍な男たちが入って来て、チラッと良平と目があったが素知らぬ顔で椅子に腰を降ろした。
話が始まってそれが白石金融の者である事は直ぐに判った。背中の男が上司で何やかやらと指図をしているような雰囲気である。
そして、
江上さんはきついですねぇ。俺たち付きかねますよ。」
「何で?大阪で居た頃はもっときつかったからな。君ら、もっとずけずけ行かないと潰されるよ。」
「へぇーもっとですか?」
「そう。大阪で居た頃は差し押さえる様な事ばっかりしていたから、こんなものじゃなかったから、もっときつかったんだから。」
「そうですか。」
「でも最初は優しくしないと駄目だよ。マニアル通り、そしてその内蛇のように」
「怖!」
「まぁ頑張って。俺先に行くから」
「はい有り難う御座います。勉強に成りました。」
「失礼します。」
「なぁ江上さんて、なんか怖いよねぇ。」
「あぁ僕も。僕らの時代はあんな厳つい事を言っていたら、お客さんが逃げるからなぁ」
「そう、若い女性は無理」
「そう、僕らは僕らのやり方も大事だと思うな」
「でも江上さんの言うように、ケジメだけはきちんとつける考えは持たないとね」
「それはその通り」
「でもあの人大阪で泣かした女が一杯居ているって言っていたなぁ。それにいつか大阪から警察が来て、あの人一緒に連れて行かれた事があったねあれって何?」
「知らないの?殺人事件の重要参考人だったらしいよ、江上さん。」
それで人違いだったの?今会社で居る所を見ると」
「知らない。あんなに偉そうに言っている位だから、人違いだったと思うな?」
「それならいいけど、殺人事件に関わっている人何か困るからね」
「そりゃそう。」
「僕はそんなの苦手だな。幾ら上司だからって」
「でも色んな事詮索しても気分がまずくなるからそろそろ仕事しよう。」
「あぁ。」
「なぁ余計な事言っていると篠崎の様に首に成るからもう止そう。」
「そうだね。あいつ今頃泣いているだろうなぁ。」
「そうだよ。気をつけないと」
「それで今何をしているあいつ?」
「駅前のエデンて店で客引きしているよ。」
「エデン?それってどんな店?」
「呑み屋だよ」
「へぇー」
「半分以下だね。手取りこの会社に比べたら。」
「そうよく知っているね。」
「ああ、最近話したから。あいつ江上さんの一番弟子だから結構出来たのに。江上さんあいつが結構出来るのが気に入らなかったかも知れないね。だからなんだかんだと言って辞める様に成った様だよ。」
「結局仲が悪かったのかもね。」
「あぁそうかも」
「でも俺たちは首にはならないと思う。だって篠崎のように頑張らないからな」
「ごもっとも」
二人は笑いあって喫茶店から出て行った。
⑩
良平は二人の会話から、篠崎なる人物を聞きだす事が出来た。しかも江上聡と関係が上手く行っていない様な事も知った。それは言い換えればチャンスである。
江上聡の過去を知るチャンスであると思えて来た。良平は喫茶店を後にして駅前で屯する事にした。気を使っていた性か結構疲れを感じる事に成り、駅前のサウナを覗き込んで人汗流す事にした。
二時間ほどが過ぎスッキリした心と体で、駅前のネオンが灯る中でふらふらとおのぼりさんの様に歩く事にした。
昼間喫茶店で白石金融の若い社員が言っていたエデンと言う名の店は直ぐに判った。
呼び込みで客引きをしている男がいないかと気にしながら良平は歩いた。しかし誰も居なかったので暫くしてから再び同じ事を繰り返した。
「お兄さん今夜は可愛い子と一杯如何です?綺麗な子が待っていますから」
「あんた何処かで見た事在るねぇ」
「俺を、ですか?」
「あぁ白石ビルの横の喫茶店だったかなぁ」
「へえー俺居ましたよ、あそこで、白石で働いていたから」
「やっぱり、じゃあ見たのだあんたを」
「そうなの?お兄さん遊んで行ってくれない。そんなご縁なら。店の人に安くする様に頼んでおくから。本当は結構高いのだけど。でも良いから白石金融で可成取られたのでしょう。高利だからあそこは」
「よく知っているね。そりゃ当たり前か。取り立てる方だったのだから」
「そうです。だからお詫びに」
「では寄らせて貰うかな」
「有り難う。お兄さん」
良平は店の中に案内され、直ぐ側に女の子が座り、久し振りにゆかりの事を忘れるひと時を過ごす事に成った。 一時間ほど遊んで思ったほど高くなかった事も手伝って、呼び込みのその男に声を掛ける事にした。
「楽しかったよ兄さん。」
「有り難う御座います。」
「又寄せて貰ってもいいかな?」
「ええいつでも」
「でも今度は高く付くって事かな?」
「いいえ、お兄さんは特別会員ですから。リーズナブルな会計ですよ」
「そう又来るね、あんたのお名前は?」
「篠崎です。」
「では又ね。今度一緒にご飯でも行こうか?あんた気に入ったから」
「有り難う御座います。」
「仕事あがってからでは遅くなるから、仕事に掛かる前にどうです?」
ちゃん?お兄さんについた子は?」
「よく分かるねぇ参った。見ていたの?」
「分かりますよ、あの子は良い子だから、だから言ったでしょう。間違いの無い子が居てるって」 「そうだね。何もかも図星だから、あんたに今度ご飯ご馳走するから。是非そうさせてくれないかな。お願いだから。あの麗奈ちゃんって子とこれからも仲良くしたいから、あんたが取り持ってくれれば、だからご馳走するから・・・将を打たんと欲せば先ず馬を射よって言うだろう」
「判りました。有り難う御座います。では日曜日の昼間なら空いていますから」
「そう有り難う。では必ず来ているから、それからお店は夕方四時からだね。じゃあゆっくり食べましょう。美味しいものを。」
「では楽しみにしていますから」
「此方こそ。それで夜は玲奈ちゃんで」
「あぁ頑張って下さい。」
「では今日はこれで。」
良平は思いがけない展開に心躍らせていた。結果が出た訳でもないが結果に向かっている事が感じられた。今まで警察に任せていた事が、結果として生ぬるい判断であった事に気がついたような思いに成った。
呼び込みの篠崎と落ち合う日曜日が来て、良平は心を弾ませながら名古屋駅に向かっていた。
既に篠崎が来ていて少々気まずかったが、直ぐに笑顔を作って頭を深々と下げた良平は嬉しくさえ成って来ていた。この何年間この様な楽しい思いをした事が無かったので、全身の血が騒ぐような思いであった。
良平には秘策が在った。
塩崎次第で良平は懐刀を抜く積りであった。
「今日はすみませんね。わざわざお越し頂きまして。」
「いいえ、僕夜以外は暇ですから。早くちゃんとした仕事と思いながら」
「でもそれはお兄さんがお安く遊べて良い子に出会えて、だからですよ。その逆なら腹が立つかも知れないし、僕が一言言わなかったら多分倍は取られていると思いますよ。でもそれはどの店に行っても同じだと思います。呼びこみで来られる方はみんな同じ運命です。」
「そうでしょうね。特別安くして頂いたのですね。今日は思い切り美味しい物食べて下さい。その積りで来させて頂きましたから」
「有り難う御座います。お言葉に甘えさせて戴く事にします。」
「ええ、どうぞ。では参りましょう。お魚料理は如何でしょう」
「いいですね。最近頂いた事が無いから、それで良いと思います。いい加減な生活をしていますから」
魚料理店に二人は入った。
その店は良平が雑誌で前もって調べておいた店であった。
料理を頂きながら良平が笑い顔で身の上話をした。
「私も同じです。私も株なんかしていますから、何時飛んでしまうかも知れないですから、お金はある内に贅沢もしておかないと、冥土には持っていけませんからね」
「それで、きついお金が要る事も在るのですね?白石を知っている所を見ると」
「ええ、電話で調達する事がしばしばで」
「怖いですよ。白石のお金は。」
「ええ判っています。短期ですから」
「それならいいけど。」
「貴方はどうも金融屋で働いていたにしては良心的なお方ですね。何か真面目な所が滲み出ていますね。」
「だから首に成ったのです。売り上げを伸ばすのは上手いのですが、回収が下手で焦げ付いて・・・」
「なるほど、利息が高いからどうしてもその様な事が起こる訳ですね。」
「そう、結構辛い思いをして虐められるようにして辞めさされた訳です。上司にきつい人が居りまして、その人に追い詰められように」
「その人って若しかして江上とか言う人じゃないのですか?」
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