ムニーロン
この世界のどこか、地図にもない小さな国のお話。
その国は国民が1000人くらいの、ちいさな国でした。
その国の人達は、みんな、ムニーロという名前の、マシュマロのようなお菓子が大好きでした。
そのお菓子は、丘の上にある、西原博士の工場でつくられていました。
その工場のまわりは、いつも、甘いにおいがしていました。
子供のたちがムニーロを好きな理由は、甘くて美味しいからだけではありません、みんなが好きなのは、ムニーロで作られた正義のヒーロー、ムニーロンがいるからです。
その国にはビブリオ・バルニフィカスという、悪い人間がいました。 ビブリオはいつも、銃やいろいろな武器を持って、街で国民を脅すのです。
「ほらほら、ぼやぼやしていると、この銃や、いろいろな武器で、みなごろしだぞ!」
ビブリオが来ると、優しい国民達は、こわくて、いっせいに逃げてしまいます。
「ビブリオが来たぞ、さあ、みんなみんな逃げるんだ!」
街で買い物していた人や子供たちは、いっせいに逃げていきました。
「ははは、俺はビブリオ・バルニフィカス! この街で一番強くて、怖くて、悪い男だぞ!」
そんな時、いつも、みんなのヒーロー、ムニーロンがやってくるのです。
西山博士は、ビブリオがあらわれると、すぐにムニーロンを、街に助けに行くように言うのです。
「ムニーロン、お前の出番じゃ!」
「はい西山博士、街を守るためにぼく、行ってきます!」
ムニーロンは、工場から街までひとっとび、ビブリオを退治しに行くのです。
「ビブリオお前の好きなようにはさせないぞ!」
「来たなムニーロン、今日こそはお前をやっつけてやる!」
ムニーロンが来ると、どこからともなくテレビカメラがやってきて、ビブリオとの決闘を撮影するのです、それはテレビで生で放送され、子供だけではく、大人もみんなでそれを応援するのです。
「頑張れムニーロン、悪いビブリオをやっつけろ!」
そしていつもムニーロンは、背中に背負った正義の剣で、ビブリオを倒すのです。
「いたいいたい、分かった、俺の負けだ。 今日は、これくらいにしておいてやるさ。」
そう言い残し、ビブリオは去ってゆきました。 それを見ていた子供たちは大喜び。
「悪は、いつだって負けるんだよね、そうだよねお母さん、そうだよねお父さん!」
子供たちはみんな、いっせいに家を飛び出して、ムニーロンに会いに広場に行きました。
「ありがとうムニーロン」「僕たちの街を守ってくれてありがとう!」
そんなわけで、子供たちはみんな、お菓子でできた正義のヒーロー、ムニーロンが大好きで大好きで、もちろんそのお菓子ムニーロも、美味しくてみんなたくさん食べるのです。
そんなある日、工場の扉を、コンコン、と叩く音が聞こえました。
ムニーロンが扉を開けると、1人のお母さんが、病気になった小さい子供をかかえて、涙を流しながらこう言いました。
「あの、この子、昨日の夜にムニーロを食べてから、具合が治らないんです。」
ムニーロンは心配になって。
「それは大変だ、ぼく、西原博士を呼んできます、博士なら理由が分かるかもしれません」
「ムニーロンさん、ありがとうございます」 お母さんは、涙を流しながらお礼を言いました。
ムニーロンはいそいで西原先生の部屋へ行きました。
「西原先生!大変です!」
「どうしたんじゃムニーロン、そんなに慌てて」
「とにかく、来てください!」
ムニーロンは、西原先生をあのお母さんの所へ連れていきました。
「あなたがムニーロを作っている西原博士ですか?」
「はい、そうです。」
「実は、この子、昨日ムニーロを食べてから、急に具合が悪くなってしまったんです」
「はぁ、そう言われましても、私は、お医者ではありませんので、分かりませんなぁ」
「そんな、あの子は昨日ムニーロを食べてから、急に具合が悪くなったんですよ!」
「そうですか、しかしそれがムニーロのせいとは分かりませんよ、子供はよく、急に具合が悪くなったりしますからね。 まあ心配でしたら、お医者様に見ていただいたらいかがでしょうかね?」
ムニーロンは、西原博士の態度が、少し気になりました。
「博士、そうは言っても、今までもこんな事があったじゃないですか、もしかしたら、ムニーロに、原因があるんじゃないですか?」
そう言うと、西原博士は怒って言いました
「そんなことは過去にもない! ムニーロン、でたらめを言うな! もう、君は帰っていい! それからあなたも、私は忙しいんだ、これで失礼しますよ。」
と言うと、西原博士は、扉を閉めてしまいました。
ムニーロンはそのお母さんと子供を連れてその子の家まで飛んでゆき、子供をあたたかいベッドに寝かせました。 お母さんは、その間もずっとずっと泣いていました。
「おかしい、もしかしたら、、、、いやそんなはずはない。」
ムニーロンはすこし西原先生のことが気になったので、家に帰って、その国の一家に一台ある、国の情報を調べるシステムを使って、西原博士のことを調べました。
しかし調べても調べても、いい事しかでてきません。
気のせいかと思ったその時、ムニーロを食べて病気になった子供達のサイトを見つけたのです。 症状はみな一緒で、ムニーロを食べてから急に具合が悪くなって、それからずっと治らないとうものでした。
「そんな、、、、そんなバカな、、、、、」
ムニーロンは愕然としました。
そのサイトをずっと見ていると、こんな記事がありました。
「西原博士は、ムニーロの賞味期限を伸ばすために、コミロチンという薬をムニーロに入れているが、このコミロチンは、海外では使用が禁止されている、危険な薬である。」
「世界でコミロチンが食品につかわれているのは、世界中でこの国だけ」
「西原博士は、ムニーロでもうけたお金で、国王にお金を渡して、特別にコミロチンの使用を認めさせている。」
「テレビにもお金を渡して、子供が病気になったニュースは流させないようにしている」
そんな記事を、ムニーロンは信じませんでした。
「こんなのデタラメだ、西原博士はそんな人じゃない、みんな知らないだけだ、だって現実に、西原先生は僕を作って、ビブリオからこの街を守ってるじゃないか! ばかばかしい言いがかりだ!」
ムニーロンは怒って、そのサイトを閉じようした時、チラリとこんな記事が目に飛び込んできました。
「二年前、西原博士がムニーロンを作ったのと同時に、ビブリオが街で悪さをするようになった、これは偶然だろうか? 現にムニーロンがビブリオと戦うようになってから、ムニーロの売り上げは飛躍的に伸びた。」
ムニーロンは、体から一気に血の気がひきました。
「まさか、、、、、、」
ムニーロンは、必死にビブリオについて調べました、しかし、調べても調べても、やはり、ムニーロンが生まれた後すぐに。ビブリオが街にきたのです。」
「そんな、ビブリオを倒すために博士が僕を作ったのなら、僕より先にビブリオが街で暴れていなければ、順番がおかしいじゃないか!」
ムニーロンはいてもたってもいられなくなって、川のそばにある、薬の工場へ飛んでいきました。
扉を叩くと、中から人が出てきました。
「すみません、西原博士の工場の者ですが、工場長さんいらっしゃいますか?」
「はい、少々お待ちください」
その人は奥から、薬の工場の、一番えらい人を連れてきました。
「ああ、ムニーロン、いつも西原博士には、お世話になっていますね。」
「あの、おたくの薬、えっと、コミロチン、、、西原博士は買っているんですか?」
「え? 今なんて言いました?」
「コミロチンです」
「コミロチンねえ、さあ、どうかな、うちはね、たくさんの工場に売っているから、詳しくは分からないねぇ」
「あの薬は、危険なんですよね?」
「ああもちろんさ、子供なんかが食べたら、体が弱い子なんか。病気になっちゃうだろうね。
でも、この国じゃ使えるんだから、不思議だよね、まあうちの子供には、そんなの入ってるのは危なくて食べさせないけどね。」
「そんな、、、、ウソだ、、、」
ムニーロンは愕然としました。
「あの薬があったのはほんとうだったんだ、でも、それを西原博士が使ってるかはまだ分からない。 そうだ、日曜日は西原博士はお休みで、誰も工場にはいない、日曜日に、工場に行って調べてみよう。」
日曜日が来ると、ムニーロンは裏口から、そっと西原博士の工場に入りました。
そこには、ムニーロを作る大きな大きな機械が、広い工場のなかにたくさんありました。
「いつもは西原博士の部屋にしか入ったことなかったけど、工場の中は、こんなに広かったんだ。」
ムニーロンは、広い工場の中を、一生懸命、西原博士を信じながら、その薬、コミロチンを探しました。
「そんな薬あるはずないよ、そんな薬、ここには絶対ないんだ。」
ムニーロンがいくら探しても、コミロチンは見当たりませんでした。
全ての場所を探し終わると、1つだけ、鍵のかかった部屋がありました。 ムニーロンは、悪いことだとは思いましたが、鍵を壊して、そのドアを開けました。 すると。
その部屋には、あの、コミロチンが、段ボールの箱に詰まって、たくさん置いてあったのです。
その一番上の段ボールの箱を開けてみると、中には説明書が入っていて、、そこには
「この薬は危険です、小さい子供や、体の弱い人が食べると、病気になる恐れがあります」
と書いてありました。
ムニーロンは、足の力が抜けて、その場に崩れおちてしまいました。
「そんな、、、ウソだろ、、、どうして?」
ムニーロンは絶望を感じていました、すると、ある考えが頭にうかびました。
「ビブリオだ、ビブリオが何か知っているはずだ!」
そう思うと、ムニーロンは、ビブリオの家に急いで飛んでいきました。 ムニーロンは、ビブリオが帰って行った場所を、覚えていたのです。
ビブリオは貧しい家に住んでいました、その扉を叩くと中から、傷だらけのビブリオが、よろよろと出てきました、そう、その傷の全ては、ムニーロンが正義の剣で切った傷なのです。
「ムニーロンか、なんだ、俺は今日は何もしちゃいねえぞ」
「そうじゃない、ビブリオ、お前にちょっと聞きたいことがあるんだ。」
ビブリオは、何かを悟ったような顔で言いました。
「そうか、それなから、家の中に入りな。」
ムニーロンがビブリオの家に入ると、小さな子供が、ベッドで苦しそうに寝ていました。
「こ、これは、、、、、、」
「これは俺の子さ。 2年前のある日、ムニーロを食べてからずっとこうなんだ、でも俺には子供を病院に行かせてあげるお金がなかったんだ、だから西原博士の所へ行ったんだ。」
ビブリオはボロボロの体で、話を続けました
「それで西原博士に、なんとかして下さいって頼んだんだ、でも、博士は、自分は知らない、ムニーロのせいじゃない。って言うだけで何もしてくれなかった。
でも俺は諦めないで毎日工場に行ったんだ、俺がこの子にできることはそのくらいしかなかったから。 するとある日、みかねて博士がこう言ったんだ。
ムニーロが原因ではないが、もし君が、武器を持って広場でこの国の人々や子供を脅すなら、病院のお金は私が払おう。
って。 俺は何がなんだか、何でそんな事を言うのか分からなかったけど、病院のお金をくれるって言うんなら何だってしますと、西原博士に指示された所で武器を受け取り、広場で暴れるようになったんだ。
そうしたらすぐに、ムニーロン、お前が現れた。 しかもテレビのカメラも一緒にだ。
そのときに俺は、西原博士が言った意味が分かったんだ、俺が暴れて、お前が俺を倒す、それがテレビで放送されれば、お前の人気は高まって、それに応じるように、ムニーロのお菓子が売れる。 西原博士は俺が工場の扉を毎日叩いてる間に、その方法を考えたんだろうよ。」
「そんな、ウソもいい加減にしろ!!」
「嘘じゃない、第一、なんでお前が来るときにカメラが来るか、お前は知らないだろう?」
ムニーロンは言葉に詰まりました。
「その仕組みはこうだ、まず西原博士から俺に、暴れる時間と場所が命令されるんだ、西原博士はテレビにも俺のあらわれる時間と場所を教えるんだ、だから俺の現れる所にはテレビカメラが必ずいるってわけさ。 西原博士は、テレビにもたくさん金を払っているんだ。」
「そんな、、、、、、、嘘だ、、、でも、、、、そう考えれば全てが納得できる、、、
じゃあ僕は、この危険なお菓子を世間に広める為に、この罪のない男を斬っていたのか」
ビブリオは、放心状態のムニーロンにこう言いました。
「ムニーロン、いいか、よく思いだしてみろ。 確かにおれはいろいろな武器を持って、街の広場で暴れていた、でもな俺は一度だって、誰も傷つけちゃいない、お前にだって、一度だって武器を使ったことはなかっただろう」
ムニーロンはこの2年間、いちどもビブリオが自分の体を傷つけなかったことを知っていました。
「俺の話はもう終わりだ、帰ってくれないか。」
ムニーロンは放心状態のまま、ビブリオの家を出ました。
「僕は、、、、、何もしらずに、、、罪の無い人を、お金のために、傷つけていたんだ、、、ムニーロで苦しんでる子供たちだって、僕のせいだ、僕を信じて、ムニーロを食べたんだ、、」
ムニーロンの目には、たくさんの涙があふれました。
ムニーロンはそれから家にこもって、泣いて泣いて、ずっとずっと泣き続けました。
それから何日泣いた後のことだったでしょう、ムニーロンは決心しました。
「僕のせいで病気になった子供達のためにも、西原博士を倒さなきゃいけない!」
そう決意すると、部屋にあった正義の剣を背中に背負って、ムニーロンは、西原博士のいる工場へ飛んでいきました。
工場の裏口から入ると、ムニーロンは、そっと背中の正義の剣を抜き、西原博士の部屋の扉を叩きました。
すると中から、西原博士が出てきました。
「やあムニーロン、久しぶりだね」
ムニーロンは、無言で、西原博士の部屋に入りました。
「どうしたんだいムニーロン、様子がおかしいじゃないか? どこか悪いのかい?」
ムニーロンは、怒りを押し殺して言いました。
「悪いのはあなたの方じゃないんですか?」
西原博士は意味が分からずに言いました。
「ムニーロン、何を言っているんだ、話がないならもういいかな、私は忙しいんでね。」
「ちょっと待ってください、あなたに聞きたいことがある。」
「なんだい、別に私には言うことなんてないよ」
「博士、コミロチンという薬を知っていますか?」
「コミロチン、さあ? そんなものは聞いたことがないな」
「嘘だ! 僕はあの鍵の付いた部屋で、それを見つけたんです!」
「あの鍵は、君が壊したのか、、、、、、なんということを」
「博士は、、、あれが危険な薬だと知っているんですか!!」
「あれは危険なのかい? でも、法律では禁止されてはいないはずだよ」
「危険なのは知っていたでしょう! 僕は国王様にも聞いてきたんだ、あなたがお金でコミロチンを法律で認可させたことを!!」
「そこまで調べたのかムニーロン。 そうさ、私は君を、そしてビブリオを、ムニーロを売るために、広告として使っていたんだ。 案の定よく売れたよ、そのおかげで国王にもテレビにも、たくさんお金を払えてね、いまじゃあムニーロの病気のことなんて、一切テレビじゃあ流れないようになった。 君のおかげさ。」
ムニーロンは頭に血がのぼりました。
「あなたは、そんなことでお金を儲けて、恥ずかしくないんですか!!」
「恥ずかしい?どうしてだい? 現に、たくさんの子がムニーロを好きじゃないか、病気になるのなんて一部の子さ、そんな子はムニーロでなくたって、いつか病気になってしまうのさ」
「許せない、、、、、、、」
ムニーロンは剣を構えました。
「ムニーロン、わしを斬るならそれでもいい、だがこれだけは覚えておけ、真実というのは苦いんじゃ、嘘は甘いんじゃよ、ムニーロの様にな、いい匂いがして、甘いんじゃ。 国民は苦い真実よりも、甘い嘘の方を信じてしまうんじゃよ、結局みんな、その偽の甘さが、大好きなんじゃよ。」
「嘘だ! そんなの嘘だ!!」
ムニーロンは正義の剣で、西原博士を斬りました。
西原博士がいなくなると、国王とテレビにお金がまわらなくなってしまったので、国王とテレビはカンカンに怒りました。 テレビは毎日、ムニーロンの悪口を放送し、悪いムニーロンが、正義の西原博士を斬ったと報道しました。
ムニーロンは驚きましたが、国民を信じていました
「みんな、本当のことは信じてくれる、真実なら、きっと信じてくれる。」
ムニーロンは、国民に説明するために、広場に飛んで行きました。
すると国民はムニーロンを見つけて。
「あっ、悪いムニーロンがいるぞ!みんな! やっつけろ!!」
と、ムニーロンのほうに押し寄せてきたのです。
「待ってください、僕の話を聞いてください!」
というムニーロンの声は
「ムニーロンを倒せ! 正義の西原博士のかたきをとれ!」
という群集の叫びでかき消されてしまいました。
人々は手に手に武器を、武器がないものは素手で、ムニーロンをこれでもかと攻撃し続けました。
ムニーロンはみんなに攻撃せれ、次第に意識が薄くなってゆきました。
薄れゆく意識のなかで、ムニーロンの耳に、西原博士の言葉が響きました。
ムニーロンよ、国民は真実の苦味よりも、甘くいい匂いがする嘘のほうが、好きなんじゃよ。