手始めに
「まずはどうするんだ?」
「そうね、空に選んでもらおうかな。『力』、『知恵』、『勇気』の三つから選んで。その選んだ方法でやるから。」
「その要素はどこかで聞いたことがあるな。」
「緑の服着た人になんて関係ないんだからね。勘違いしないでよね。」
「お前はどんなキャラを目指してるんだよ。」
「いいから選んで。おすすめは『力』よ。」
「んじゃ、それで。」
「楓、準備をお願い。」
「かしこまりました。」
楓さんは海からの命令を受けて姿を消した。
海が何をするつもりなのか全く分からなかった。
海からは常に強い好意の感情しか流れ込んでこないからだ。
海の思考は俺でも読めない。
天才、鬼才、秀才のどの言葉でも表せない本物の化け物だ。
比べることすらおこがましい。
圧倒的な才能をありったけ詰め込んだような人物なのだ。
神がいたなら『神に愛された者』と表現するに相応しい人間は彼女の他にいないだろう。
容姿はもちろん、頭脳、身体能力、どれを取っても規格外である。
知能検査でIQ300を叩きだしたり、変装して陸上や水泳などの世界大会でも軽く優勝したり、女優を一年間だけやったこともあった。
デビュー半年でハリウッドデビューを果たし「飽きた。」と言ってあっさりやめた。
その鮮烈な印象と容姿から『気まぐれな妖精』と呼ばれていた。
彼女にとって世界は自分を満たすための玩具でしかないのだ。
周りの人間がサルのようにしか見えず、さぞかし人生が退屈だろうと思って聞いてみると「何言ってるの?空がいるから毎日楽しくてしょうがないけど?」だそうだ。
彼女の思考はさっぱり分からない。
考えようとすること自体が間違いなのかもしれない。
とにかく海がやることに失敗はない。
後のことは考えてないのであんなことになってしまったのだが...
そこは俺がフォローすればいい。
二度とあんな思いをするのは嫌だ。
どんなことをしても海を失うことは避けなければならない。
そのためなら喜んで悪魔に俺の魂を捧げよう。
そんな事を考えていると海が口を開いた。
「さあ、始めるわよ。準備はいい?」
「俺は何をするのか聞いていないんだけど?」
「空には《魔王》になってもらうわ。原稿と衣装を用意したから、振り付けはアドリブでよろしく。」
「どんな無茶ぶりだよ...」
「私の魔法で、空の姿と声をセルキア王国中の人たちの脳内に直接送るわ。」
「また無茶苦茶なことを...」
「いいじゃない、楽しければ何でも。いくわよ、《トランスミッション》。」
どうぞ、と海は手で俺を促した。
仕方なく俺はやることにした。
海の用意した全身を包み込むような黒いローブを慌てて着た。
「フハハハ、ご機嫌麗しゅう愚民ども。今日は下賤な貴様たちに話がある。簡潔に述べよう、我に恭順を示せ。全てをこの我に差し出せ。何を為すにしても我の許しを乞え。さすれば命だけは助けてやる。逆らえば...」
そう言った瞬間、空から太陽のような輝きを持つ球体が出てきて空の周りを回り始めた。
「この魔法でセルキア王国中を焦土に変えてやろう。行け!」
空の周りを回っていた球体は勢い良く上空へと上がっていき、爆発した。
凄い衝撃波だった。
王宮がギシギシと鈍い悲鳴をあげる。
爆発は空中に巨大な黒いキノコ雲を生み出した。
「これは我の本気ではないぞ、1パーセント程だ。恭順を示さなければ本気のものを中心地である王都に打ち込む。期限は一週間後だ。王都の東にある『グラマリの丘』で我は待つ。いい返事が聞けることを楽しみにしている。フハハハ。」
「カーット!ノリノリだったわね。凄い演技力よ、ハリウッドでも通用するかも!」
海は凄く興奮していた。
対する俺は...
「死にたい...穴があったら埋まって死にたい...」
無性に死にたくなった。
なんだあの原稿は!?
俺もなんでノリノリになってるんだよ!?
どんだけ恥を詰め込んでるんだよ。
あんな事を言うのは頭のおかしいやつしかいねえよ。
なんだ?俺の眠れる厨二病の血が騒いだのか?
フハハハ、死にたい...
きっと俺のことをみんなで笑ってるんだ。
「ママ、あのお兄ちゃんは...」「こら、見ちゃいけません!」って道を歩いていると親子に言われるんだ。
「あ、魔王様(笑)。焼きそばパン買ってきてよ。」ってこれからクラスメートにパシられ続けるんだ。
「このような大人にはなってはいけませんよ?これは全身恥部のような存在です。」って悪い見本として子供たちの教材になるんだ。
死にたい...
「なんで落ち込んでるのよ?」
「死にたい...」
「とってもカッコ良かったわよ。魔王より魔王らしいくらい。」
「死にたい...」
「重症ね...」
「良いのですか?」
楓さんが戻ってきたようだ。
楓さんは何をしていたんだろう?
「いいのよ、その内戻ってくるわ。それよりお疲れ様。魔力は大丈夫?」
「あの程度問題ありません。ソラ様がおっしゃった通り、1パーセント程しか消費していません。」
共犯だった。
あの太陽みたいな魔法は楓さんの仕業だった。
二人がかりで俺に恥をかかせにきていた。
そこで小さな仕返しをすることにした。
「12歳、おねしょ。」
二つの単語を呟くと海の肩がビクンと跳ね上がった。
ギギギと油を差していない歯車が回転するように海がこちらを向いた。
「そ、空、何か言ったかな?」
「別に...」
「そ、そう、それならいいのよ。」
「姫様、何かあったのですか?」
「何でもないわ、本当よ!?」
「逆に怪しいのですが?」
「そんなことないわ!それより上手くいったわね。」
「誤魔化しましたね。」
「誤魔化したな。」
「そこはスルーしてよ!」
涙目で海は叫んだ。
少し落ち込んだ気持ちが晴れた空であった。
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