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釈迦の掌~クラス転移で才能開花~  作者: にゃほにゃほ
閑話
1/42

閑話:大和撫子の憂鬱

時系列的には転移二日目です。


 私、清水悟しみずさとりには好きな人がいます。


 名前は阿迦井空あかいそら


 高校入学時からの顔見知りではあったんだけど、言葉を交わすようになったのは二年位前からです。


 きっかけは一生忘れないでしょう。


 そのことを話すには入学式の日までさかのぼります。





 私は満開の桜並木を眺めながら入学する高校に向かっていました。


 私は桜が大好きです。


 あまりにも綺麗だったので前方への注意が散漫だったのでしょう。


 何かにぶつかってしまいました。



「きゃっ!」


「おっと、大丈夫?」



 後ろに倒れそうになるのを何かに支えられて大丈夫でした。


 しかし、自分の状況を見て思わず赤面しそうになりました。


 腰に手を回され助けてくれた男の子の顔が目の前にあったのです。


 少女漫画で見るようなシチュエーションだったのです。


 まさか自分がこの立場に置かれるとは思っていませんでした。




 私は男の人が苦手でした。


 同級生に比べて、体の発育がいいからなのでしょうか?


 ジロジロと私の体を眺めてはニヤニヤと笑うあの顔は好きになれそうもありませんでした。


 告白を何度かされましたが、みんなその顔をしているのです。


 隠そうとはしていますが、その顔を見慣れている私にはバレバレでした。


 男の人はみんな私の内面ではなく外見しか見ていないのではないか?と考えるようになりました。


 今思えば、私は軽い男性不信に陥っていたのではないのかと思います。


 その証拠に、憧れのシチュエーションに置かれているのにもかかわらず、体が震えてしまいました。


 そのことに気付いた男の子は「怖がらせてごめんね。」と言い残してその場を離れていきました。





 助けてもらったのにお礼も言わずただ怖がってしまいました。


 そのことがずっと気がかりでした。




 次にその男の子を見たのは教室の中でした。


 彼は窓際の席でぼーっと外を眺めていました。


 視線を追ってみると校庭の桜を見ているようでした。


 桜が好きなのでしょうか?


 好きだったらいいな。


 そう知らないうちに考えてしまいました。


 初めてだったのです。


 私の目だけを見て話しかけてくれたのは。


 一度も私の目から下は見ずに彼は去っていきました。


 彼は今までの男の人とは違うかもしれない。


 そう思って先ほどのお礼を言おうと思って話しかけようとしましたが、足がすくんで彼の元へ行くことが出来ませんでした。


 心のどこかで彼を疑っていたんだと思います。


 さっきのは自分の勘違いでシチュエーションに流されただけなのではないか?


 彼は他の男の人たちと同じで私の外見を見て助けてくれたのではないか?


 そう考えてしまっていて、もし本当にそうだった時が怖かったのだと思います。


 彼の名前は阿迦井空あかいそらだと自己紹介の時に分かりました。


 でも一年間、何度も話しかけようと思いましたが、話しかけることができませんでした。


 彼は私のことに気付いていましたがすぐに視線をそらしてしまいます。


 私が怖がったことが悪かったのだとその時は思いました。




 一年が経ったことで私は二年生になりました。


 彼に話しかけられずに1年間を過ごしてしまったことに、はぁと溜め息を吐きながら、あの時と同じ桜並木の道を歩いていました。


 また前方不注意だったのでしょう。何かにぶつかりました。



「きゃっ!」



 今度は何かに支えられることなく尻餅をついてしまいました。


 でも、彼かもしれないと恐る恐る目を開けました。


 そこにいたのはあの時助けてくれた男の子ではなく、いかにもという感じの不良っぽい高校生の三人組でした。



「あん?なんだ?」


「おいおい。すげぇカワイイじゃん。」


「ぶつかってきた責任とってもらわないとな。」



 そう言ってあのニヤニヤとした笑みを浮かべていました。


 私は頭が真っ白になりその場で震えてしまいました。



「震えてかわいそうに、俺たちが介抱してやらないとな。」


「そうそう。俺たちが優しくしてやるぜ。」


「ま、俺たちなしでは生きていけなくなるかもしれないがな。」



 ぎゃははは、と下品に笑いながら三人組の一人が私に手を伸ばしてきました。


 私は思わず身を固くして目をつぶってしまいました。


 でも、いつまで経っても何も起こりませんでした。


 目を開けると彼がいました。


 私に向かって伸ばされた手を掴んだ状態で。



「何だお前?」


「彼女の顔見知り?ですかね。」


「俺らはこれからその彼女に責任とってもらわないといけないんだから邪魔しないでくんない?」


「責任って、見た目に反して随分と女々しいこと言いますね。吹き出すかと思いました。」


「何だとぉ。」



 そう言って彼に殴りかかりました。


 彼は避けずに殴り飛ばされました。



「なんだこいつ?弱いくせにあんな生意気なこと抜かしてやがったのか。」



 再び三人組はぎゃははは、と笑いだしました。


 殴り飛ばされた彼に視線を向けると、私を見ており目線を動かし逃げるように促していました。


 三人組は彼の方に注意を向けており、私の方を見ていませんでした。


 その時、彼はわざと殴られたのだと分かりました。


 言葉で煽り、手を出させて注意を自分に向ける。


 この状況でなんて冷静なのかと感心してしまいました。


 彼の意図を汲んで逃げることが最善だと思い、彼に向けている視線とは反対方向に駆け出しました。


 私は彼を見捨てるのではなく、助けを呼びに行こうとしていました。


 恩を仇で返すような真似だけは死んでもしたくありませんでしたから。


 数十m走ったところで転んでしまいました。


 恐怖で震えた足がもつれてしまったのです。


 私の転んだ音で不良たちが私に気付きました。



「あの女逃げやがったぞ!」


「とっ捕まえろ!」


「油断ならねぇな!」



 今度は私に注意が向きました。


 しかし、チャンスだと思い彼に逃げるように視線を送ろうと彼の方を見ると、彼は幽鬼のようにゆらりと立ち上がったかと思えば、自分の胸元を漁りながら三人組に近付いていきます。


 やめてと恐怖で震える体を押さえつけて彼に視線を向けましたが、彼の視線の答えは強い拒絶でした。


 なぜそこまでしてくれるのか?


 まったく分かりませんでしたが、胸の奥がとても暖かくなり、思わず涙がこぼれてきました。



「ぎゃははは、泣いて喜んでやがるぞ。」


「これから優しく慰めてやるからな。」


「お前じゃ無理だろ。この前...」


「おい。」



 その声を遮るように震えあがりそうなドスの効いた声に不良の一人が彼の方を振り向きました。


 その振り向きに合わせるように不良の目に、彼は手に持った棒状のものを突き付けました。


 彼が突き付けたのはシャープペンシルでした。



「ひっ!」


「動けばお前の眼球をえぐり取る。残りの二人が動いても同じだ。分かったら返事をしろ。」


「わ、分かったからやめてくれ。」


「僕は返事をしろと言ったんだ。誰が余計なことを言っていいと言った?」


「わ、分かった。」


「他の二人は?」


「わ、分かった。」「お、俺もだ。」


「そうか。分かってくれて僕は嬉しいよ。」



 そう言って彼が笑った瞬間、三人組はビクッと反応した。


 とてもいい笑顔でした。


 口が三日月のように吊り上がって、目が笑っていないところなんか最高でした!





 おかしいぞって思ってます?


 私、昔からヒーローもので言う悪役が好きで、彼の笑みに悪役が嗤う姿を重ねていたからだと思います。


 同級生の女の子に私の好みを話しても、誰も共感してくれませんでした。


 何故でしょうか?


 かっこいいのに、悪役。




 それはいいとして、彼はその三人組に二度と私にかかわらないことを約束させて不良を開放しました。


 解放された三人組は脱兎の如く逃げ出しました。


 緊張が解けて私は涙が止まりませんでした。


 自分でも思った以上に怖かったのか、今までにないほどの号泣です。


 泣いてる私に、彼はハンカチを差し出して何も言わずに少し離れた場所に立っていました。


 なんでそんなに離れた所に立っているのか気になった私は彼に聞いてみました。



「グスッ、何でそんな所に立ってるの?」


「だって清水さん、初めて会った時から男の人が苦手でしょ?」


「そうだけど...」


「なるべく視線とか合わせないようにしてたんだけどまだダメだった?」



 ここまで私に気にかけてくれるなんて、今までいなかった。


 ジロジロ人の体を見て、上辺だけの言葉を取り繕うような男の人しかいなかった。


 彼はやはり他の人とは違っていた。


 彼は優しいのだろう。


 注意しないと分からないような優しさで溢れている。


 そう思うとまた胸の奥が暖かくなった。


 その時、気付いた。


 私は彼のことが好きなのだと。


 初めてこんな気持ちになったけど、とても心地の良いものだと思った。


 自覚するとともに、頬が熱を帯びていくのを感じた。


 彼のことを直視できない。


 でも言わなければならないことがある。


 勇気を振り絞って口を開いた。



「あの。」


「うん?」


「助けてくれてありがとう。あと入学式の時も。何度もお礼を言おうとしたけど、なかなか言い出せなくて...」


「それが言いたかったのか~。何か言いたそうにしてたのは分かってたけど、僕から近付くと清水さんをまた怖がらせちゃうと思って、声かけなかったんだ。」


「ありがとう。そんなに気を使ってくれて。」


「全然。それより、学校どうする?」


「あっ、ごめん。私のせいで...」


「いいよ。なんかさぼろうかなって気分だったし。」


「どうして?」


「桜が綺麗だったから、ひなたぼっこでもしようかなって。」


「桜、好きなの?」


「花の中では一番好きだね。清水さんは?」


「好き。」


「そっか。綺麗だよね。」


「うん、大好き。」



 もう一つの想いも伝わるように呟いた、「大好き。」という言葉に乗せた私の気持ちは、いつか彼に届くだろうか。


 いや、届かせて見せる。


 そう思い、彼に一つ提案した。



「あの、一つ頼みがあるんだけどいいかな?」


「何?」


「私の男の人に対する恐怖を取り除きたいの。協力してくれないかな?」


「具体的には何をすればいいの?」


「私と友達になってくれないかな?」



 彼はその提案に一瞬驚いた顔になったかと思えば、突然笑い出した。



「ど、どうしたの?やっぱりダメかな?」


「違うんだ。清水さんの提案が意外だったから。」


「じゃあ?」


「いいよ。むしろ僕からお願いしたいくらいだ。僕ってあんまり友達いないしさ。」


「ふふふ、ありがとう。これからよろしくね。空くん・・・。」



 初めて男の子の下の名前を読んでしまったので、顔が赤くなってないか心配になりました。


 その後、私たちは二人で始業式をさぼり、桜を眺めながらおしゃべりをしました。




 この日抱いた初めての気持ちを、成就させてみせると心に誓った。





 そして今、私は憂鬱です。


 まずいです。


 あのメイドさんはやばいです。


 私と同じ匂いがするのです。


 つまり、彼女は私の好みに似ている気がするのです。


 それに同じような人が増えるような予感がします。


 早く手を打たないと空くんを盗られてしまいます。


 まぁ、私のものってわけではないのですが...


 自分で言ってて悲しくなってきました。


 と、とにかく明日、空くんの所に行ってみようと思います。


 相談したいこともありますし。





 その日も空くんのことを想って眠りについたので、とてもいい夢が見れました。


 内容はとてもとてもいえませんが。




 



 


ユニークが1000人突破した記念に書きました。

いつもご愛読ありがとうございます。

記念ごとに閑話などを書いてみようと考えていますので、希望などがあれば感想欄に書いていただけるとありがたいです。


感想等お待ちしてます。

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