きんきゅう会議をしんせいします!
練習を終えて二人で翔太の部屋へ帰って来た彩未は、少し早めの夕食となる、オムライスとスープを作って、テーブルに置いた。
卵がうまくくるめないから、半熟に焼いた卵をライスの上に乗っけるやり方の、なんちゃってオムライスである。
「はい!」
と、そして勢いよく手を上げた。
「...どうぞ、彩未さん」
「緊急会議を申請します!」
「なんでしょうか?」
「良いときっていつだと思いますか?」
「...それは、俺が『彩未の良いときに』と言ったことに対してという事でいいでしょうか?」
「正解です!翔太さん」
「とりあえず、食べたいと思います。美味しそうな湯気が...」
「んー。賛成します」
「「いただきます」」
礼儀正しく手を合わせた翔太を見ながら彩未も手を合わせた。
出来立てのオムライスは見た目はよくないけど、味はそこそこの出来だった。
「「ごちそうさま」」
彩未がご飯を作ったときは、翔太が、翔太が作ったときは、彩未が食器を洗うという長瀬ハウスにおいては、明記されていない法律だ。
後は...きちんと言葉に出して相手に伝えよう!
だ。
というのも、彩未と翔太が別れたその原因は、言いたいことを言えないままのスレ違いで...ちょっとした、お互いの思い込みや、相手に対する変な気づかいで、6年という長い年月を離れて過ごした。
だから思うことを伝え合う事が大切だと痛感している。
「会議のためにお皿は彩未さんが拭きます」
「...ご苦労さま、です。」
単身者用の狭いキッチンに並んで立ちながらお皿を片付ける。
二人分だからあっという間に片付いてゆく。
ちょんちょん、と体ごと寄り添って彩未は翔太を見上げた。
そうすると、屈んでちゅっと軽くキスをしてくれるので、嬉しく笑ってまたちょんちょんと、定位置に戻る。
今はそんな何気ない事が...とても嬉しい。
片付けを終わって再び、色んな事を兼ねるテーブルの前に座って
「彩未さん、では続きをどうぞ」
「えーっと。いつがいいんだろう?ってふと思ってしまって...」
「俺が...彩未の良いときで、と言ったのは...。再会して間もないってゆうのと、それから。彩未が仕事の都合とかあるかと思ったからです」
ぴしっと手をあげてそう言ってくる。
「仕事...」
確かに、今は担任を持っているから、こんな状態で結婚なんて考えられない。でも...来年の4月以降なら?どうだろう。
彩未は25で翔太は24。
もう一年働けばその分延びて行く。
その間...平日は、それぞれ違う家に帰る。
付き合い出して間もなく入った夏休みを、ほとんどこの部屋で過ごした彩未は...やはり翔太と離れたくない。
「翔太さん!」
いきなり呼んだので、翔太は「はい!」と同じトーンで返してきた。
「ここは!来年決行で!お願いしたいと思いますっ」
「なんで、その結論に至ったのかは不明ですが、了解です」
翔太がそうこたえる。
「「...よろしくお願いします」」
戸惑いつつも嬉しそうな翔太に、彩未も笑みを浮かべた。
「に、しても...結婚て、何を準備するのかな?」
「それも、含めて明日相談すればいいと思ったけど?」
「翔太、かしこい!」
「いや...ふつうだから」
きゃん!と好きな気持ちが高まってテーブルをよけて抱きついた。それに応えて、頭をぽんぽんと撫でてくれるのが心地よくて、額を擦り付ける。
「今日は甘えモード?」
「ド」
「よいしょ」
掛け声と共に、コロンと床に寝転がらせられる。
「甘えんの、上手になったよな?」
うふっと笑みを浮かべれば、望みどおりのキスがもらえて彩未はご機嫌のまま翔太の背に腕を回した。




