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どんなシュートをきめた?

土曜日は小学校の近くに車を停めて、トレシャツと、ハーフパンツの翔太は、今から二時間、小学生のサッカーのコーチをする。


桜花F.C.は彩未の兄の颯もかつては所属していて、彩未にとっても身近な存在だった。

完全にボランティアなのだが、翔太はサッカーの楽しさを教えてもらったから、とここでコーチを引き受けている。


メインのコーチは各学年の保護者が努めていて、翔太はその時その時で、コーチが足りない学年を主に見ていたりする。


小さい頃からプロを目指していて、jリーグの下部組織 アガテのジュニアユースにも所属し、なかなかの強豪の高校で活躍ををしていて、サッカー漬けだった翔太は、かなり上手い。

本人は、下手くそと自己評価をしてるけれど、比べてるのがきっと高みを見すぎているからだ。



「こんにちはー」

すでに顔馴染みとなった彩未は、サッカー少年少女のママさんたちに挨拶をする。

「あ、あみちゃん。こんにちは!」


校舎の影に入れば、それなりに暑さを凌げる。


持ってきたシートを敷いて、階段に座る。


「あーみちゃん。一緒に来たってことは、コーチのシュートはゴール決めたんだ?」

にこにこと言ってきたのは、3年生のコーチの奥さんで堤 真紀さん。

「え?」

と、その言われた言葉を反芻して、『あっ!』と思い至る。


「ゴール...入りましたよ」

ボソボソと答えると、

「やった♪」


真紀さんは隣のママさん中野 瑠璃子さんの手を握って笑いかけた。

「で、ナイスシュート?ヘボシュート?」


「ええー?」


ど、どうだろう。


「えー、ディフェンダーがいきなりゴール前でオーバーヘッドしちゃった気分でしょうか...」

そう、びっくりした、という事をサッカーのゴールで例えたけれど、実際に翔太は高校時代はDFで活躍をしていた。

「なるほど!」


「いやん、おめでとう」

瑠璃子さんがニコッと手を握ってきた。


「今だから言うけど、うちのダンナたち。長瀬コーチにはっぱかけたらしくて、気にしてたの」

「あ、それも、聞きましたよ」


「あ、そう?だってね、週末にこんなサッカーに付き合ってくれるカノジョはかなり貴重だって。ね」

「んー、でも。私は翔太がサッカーしてるの、好きなんです」


「「やぁー、ごちそうさま」」

「お粗末様です」


ペコリと彩未もお辞儀を返した。


一時きっかりに始まった練習は、今日は1、2年生を担当するようでまずは尻尾とりといってビブスをパンツにたくさんはさんで、翔太が子供たちから逃げる。


走りながら子供たちの群れから逃げるのも、とても楽しそうでいきいきとしている。


「確かに楽しそうにしてるよね、長瀬コーチ」

真紀さんは、グランドを見ながら言っている。


続いて、ボールタッチをさせるけれど上手く出来ない子には側について一人ずつアドバイスをしていた。


「で、いつするの?」

「え?」

「やぁだ。結・婚・式♪」


「まだ、そこまでは決めてないんです」

「あ、そうなんだ!」


「いちばん。わくわくして楽しい時期だよね」

瑠璃子さんが言ってくる。


「なんでしょうか?」


確かに何もかもが幸せだ!


「長瀬コーチ!ゴールおめでとう~!」

真紀さんが、休憩をとりに来た翔太に向かって叫んだ。


「ん?」

戸惑った顔の翔太は、その隣の彩未をみて視線で問うた。


「あのね、ディフェンダーがいきなりゴール前でオーバーベッド決めちゃった気分だったって!」

真紀さんが言うと、


「おー!ナイスシュートや!」

堤コーチが翔太の肩をグリグリとした。

「って...。俺をネタで話さないでくれます?」

「だって、可愛いからさ。お二人」


堤コーチの言葉に翔太は目を覆った。


「俺、立派な成人男子ですけど」

「とっとと、このままきっちり嫁にして。立派な男になれよ!長瀬コーチ」


「彩未、何でもかんでも話したりしてる?」

「ん?だって、翔太だって、アドバイスもらってるんでしょ?」

「まぁ」


「それに何でもかんでもじゃないよ?」

「そうそう!そんな、際どいことは聞いてないよ?」

真紀さんがニコッと笑みをむける。


「際どいことって...」

「大人のアレコレとか」


瑠璃子さんが言うと、翔太は飲んでいた水筒を口から離すと、ごふっとむせていた。


「大丈夫?」


「へ、平気...」

タオルを渡せばそれで口元を拭いて、

「...休憩おわり!」


気合いをいれた声を出して、再び走っていった。


「かわいいなぁ~」

クスクスと真紀さんが笑ってる。

「楽しみだね、長瀬コーチはいいお父さんになりそうだし」

瑠璃子さんに言われ

「お、お父さんって」


「だって、子供好きでしょ?絶対。すっごく面倒見てくれてるから」

「そうそう。こんなにいっぱいいるのに、子供の名前も親の事もちゃんと覚えてるし、どの子が初ゴール決めたとかも。サッカーの楽しさを教えてくれるし、プロのコーチでもいいくらい」

「...好き、そうかも...」


(確かに...。)


「考えて、なかったなぁ...」


「そうなの?」

「はい」

「私なんて、考えてないまま出来たから。ちゃんと順番に考えて出来るの羨ましい」

瑠璃子さんが言った。

「一番上の子、20歳で産んだよ?」

「え!若い!」

「そ、だから。大変だった、でも、何とかなるんだよ。難しく考えないで」

ね?っと瑠璃子さんが言うと、真紀さんも頷いた。


「とりえずまだ何も、決めてないですから~」


『結婚』って。

色々と、考えなくちゃだめなんだなぁ....。

(良いとき、って。いつだろう...?)




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