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王道すぎて面白いラブコメ  作者: 近衛雄吾
◇第一章 三大属性美少女ヒロイン降臨
2/3

 新学期が始まり、俺は驚愕せざるをえなかった。

 エイプリルフールだと思っていたあの夢が現実のものとなったのだ。


「みなさん初めまして。私は霧月葵きりつきあおいと言います。よろしくお願いします」

 

 黒髪と切れ長の目が特徴的な彼女はきっとクーデレというやつだろう。いかにも理知的な雰囲気を醸し出していて、一つ一つの所作が様になっている。


「霧月さんは古賀君の横の席ね」

「はい」


 一礼して、俺の方に向かってくる。俺の席は窓際の最後列。彼女の席は俺の横。ここまでテンプレだ。ここで俺が話しかけることでラブコメのきっかけを得ることに──


「…………」


 やっべ、何を話せばいいか分からん……。咄嗟に言葉が出てくるほど俺は饒舌じゃないし、そもそも必要最低限の受け答えでさえどもったり、しどろもどろになったりする。端的に言えばコミュ障というやつだ。ディープなオタトークなら一週間ぶっ通しで喋れる自信あるのに……。

 と、いつの間にかホームルームが終わっていたらしく、霧月さんの周りには人だかりができている。

 居心地が悪いから、ひとまずいつもの場所に退散だ。俺がここにいない方が俺もみんなも気を遣わなくて済むだろうし、何より俺はあまり人ごみが好きじゃない。あ、年に数回戦士になる時は別だからな。

 誰に気に留められることもなく静かに教室を立ち去る。所詮リアルなんてこんなもんだ。ラブコメがしたいと願ってはみたものの、俺みたいなディープでコミュ障の相手をしてくれるやつはよっぽどのお人よしかよっぽどのディープなオタくらいだろう。

 理想と現実はわけが違う。ギャルゲーとかラノベなら転校イベントがあったとしても、いきなりモブがヒロインにたかることはない。必ず主人公と会話を交わし、親睦を深めていくんだけどな。

 しかし、まだ諦めることはない。俺は『二次元にいるような美少女とラブコメがしたい』と願ったんだ。きっとそのうち話す機会が訪れて、親睦を深める機会に恵まれるんだろう。

 そんなことを考えながら歩いていると、目的地についた。通称俺の場所こと屋上前の階段は、普段は誰にも使われることはない。屋上が開放されていないから当然だ。二次元みたく屋上が開放されているなんて学校、この国の高校にあるんだろうか。


 ○


その後、休み時間のたびに話しかけるタイミングを逃し、結局いつもの場所に退散して、授業が始まる前に戻るのを繰り返して今は昼休み。

 購買のパンを食べ終え、何をするでもなくぼーっとしていると、


「やはりずっと囲まれているのも疲れるな……」

「!?」


 例によってくだんの転校生、霧月葵がやってきた。

 ダメだ。やはり彼女を目の前にすると緊張して頭が真っ白になる。


「お、先客か──って、探したぞ!」

「!?」

「まったく……。こんなところにいたのか。毎時間どこかに行っているな~とは思っていたが、まさかこんな薄暗くて埃っぽいところにいただなんて……」

「あ、あの、何か用ですか?」

「ああ。キミの話も聞きたいと思ってな」

「は……?」


 突然発せられた謎の発言に、思わず耳を疑う。


「キミは自己紹介の時、名前しか言わなかっただろう。だから、クラスメイトとして、もっとキミのことを知りたいと思ってな。お節介、だったか?」

「い、いえ、そんなことは……」

「なら教えてくれ。古賀祐樹こがゆうきという人間のことを」

「俺の名前、覚えててくれたんですね……」

「当然だ。不本意だが、私みたいな顔立ちの整っている者が他人に名前を聞き返した時には、『仕方ないよね』的なノリで少し傷つけることになる。だから、一度聞いたら顔と名前を一致させて、二度と間違えない努力をしている」


 この人、理知的に見えて意外と努力家なのかもしれない。

 


「さて、私は今まで誰にも言ったことがない秘密をキミに打ち明けた。キミも何か私に打ち明けてみたまえ」

「秘密、ですか……」


 そんなたいそうなものはない。けれど、この霧月葵という人間なら俺の話を真剣に聞いてくれそうな気がした。


「俺はかなりディープなオタクで、霧月さんみたいな二次元の美少女をこよなく愛する人間……ですね」

「そうか。キミはオタクだったのか。すまない、私はそのオタクとやらがよく分からないのだが、皆キミみたいに孤独を好むものなのか?」

「いや、オタクってのは基本的にアニメとかゲームの話になるとすごく饒舌なんですよ。けど、基本的に一般人とは反りが合わないので、一人でいることが多いんです」

「なるほど……。好きで一人でいるわけではない、と」

「そういうことです」

「なら、今度私にキミの一押しのアニメとやらを紹介してくれ。もうすぐ次の授業が始まるから戻らなければ」

「そうですね……」

「あ、そうそう」

「何ですか?」

「今日はキミのことを知れて、とても楽しかった。なんだかキミといると、素の自分になれるというか、気兼ねなく話すことができる。ありがとな」

「役に立てたんなら本望ですよ」

「また、ここに来てもいいか?」

「俺なんかでよければいつでも相手しますよ」

「ふふっ。では、毎日来るとしよう。それじゃ」

 

 彼女はそれだけ言い残して去って行った。

 今日はちょっとだけ霧月葵という美少女とお近づきになれた気がする。


「さて、俺もそろそろ戻るか……」


 腰を上げたとき、授業開始五分前を告げるチャイムが鳴った。





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